Publication of this month
|
|
日本で出版社の多くが東京にあるように、アメリカでは東海岸、それもニューヨークに多くの出版社があります。西海岸に活動の中心をおく出版社は、とても少ないです。
本書の出版社New Harbinger Publicationsは、サンフランシスコの対岸オークランド市にあります。カリフォルニア バークレイ大学のすぐ近くです。
New Harbinger Publicationsは、社長さんが臨床心理士ということもあって、多くの心理学的な自助本を出版しています。毎年フランクフルトで開かれるブックフェアやアメリカで開かれるBook Expo America にブースを出されているので、当社とも毎年顔を合わせて情報交換をしています。世界一の規模のブックフェアといわれるフランクフルト・ブックフェアは、毎年フランクフルトで行われますが、Book Expo Americaは、ニューヨーク、ワシントンDC,ロスアンジェルス、など大きな都市で毎年場所を変えて開かれます。この二つのブックフェアには、世界中の主な出版社が参加し、その出版社の人たちも集まり、大変にぎやかで、出版社にとって大変貴重な機会を与えてくれます。日本で行われるブックフェアは、国際と名乗っていますが、アメリカやヨーロッパの出版社は、ブースを出しておらず、その出版社の人たちも現れないので、何ともローカルなブックフェアになっています。世界一の都市「東京」といっても、ことブックフェアのグローバル化から見れば、イタリアの小さな町ボローニャで開かれるブックフェアや、北京のブックフェアと比べても、はるかにさびしいものです。規模だけは大きいのですが、出展しているのが、出版社というより、印刷業や広告業、IT機器メーカーなどで、世界のブックフェアと比べると、え、これがブックフェアなの、と驚かれる内容です。
New Harbinger Publicationsの出版物で当社が最初に出版したのはStop Walking on Eggshells(境界性人格障害=BPD)です。この本がベストセラーになっているということもあるでしょうが、その後も連絡を取り合って互いに協力し合っています。
さて、「うつ病の再発・再燃を防ぐためのステップガイド」ですが、認知行動療法の理論に基づいて書かれています。うつ病について書かれている本は、現在巷にあふれていますが、再発防止に重点を置いた本は、あまりないでしょう。大野先生がお訳しになった「うつと不安の認知療法練習帳」の著者パデスキーは、「うつ病の再発・再燃を防ぐためのステップガイド」について次のように言っています。
「本書は、1度以上うつを経験した人にとって、暗いトンネルの先に光輝く出口になるであろう。最新の研究や情報に基づいているが、だからと言って難解な記述ではなく、明快で理解しやすい。うつ病の繰り返しという悲劇のメリーゴーラウンドを断ち切るための方法が、どの章でもわかりやすいステップ学習として説明されている。」
年一回刊 治療の聲
第9巻1号
治療の聲は、1998年4月に創刊第1号が出版されました。それから11年たち、9巻1号が出版になりました。この間、11年。ということは、残念ながら出版されない年もあったということです。ここのところ毎年、○○巻1号が出版されていますが、2号は出ていません。なら1号としなくてもいいようですが、出る可能性も残っているということです。
「治療の聲は、大声でしょうか、小声でしょうか。・・・・・小声の、低音の治療の声をこそ静かに聴きたいと思っている読者もきっと少なくないと私は信じます。・・・・・・・・・・
治療の聲はもっとひっそりと語り始めようとしています。その声に耳を傾け、また、ともに語ろうという読者が必ずおられることを信じ、静かな声がしずかなままで、やがて大きな広がりをもつようになることを心からお祈りします」と中井久夫先生が創刊号に寄せてのなかで書かれています。
本誌は、まだまだ小声のままで、大きな広がりをもつにいたっていません。ご投稿が増えれば、2号が出版できる可能性が見えてきます。ぜひみなさまご投稿をお願いします。
今月の特集名が面白いです。「夜、寝ている時に起こる異常行動」というのですが、夜が付いているのがみそのようです。寝ている時間で、明るい時間のほうが暗い時間より長いという人も多いかもしれません。午前5時は、夜でしょうか。なんてことを編集部で雑談しました。臨床場面であまり先生方が出会わない病態についての特集です。患者さん当人は気づいていることが少なく、治療者が疑ってかからないとなかなか判明しないことが多いと思います。ぜひ参考にしていただきたい特集です。
Changeを拒む価値あるもの
顔見りゃ苦労を忘れるような、人がありゃこそ、苦労する
今は、未曽有の不況だそうです。不況というと、すぐ対策となるんですね。今までに何度も何度も同じことの繰り返しのような気がします。もともと進む方向が間違っていたのかもしれません。行き詰って崩壊すると、それ経済対策というカンフル剤を打って問題を目立たなくさせ、表面上をつくろってきました。今までやってきたことがまちがっていますよ、今の状態はよくないですよ、といってくれている病的サインを、経済対策という注射で隠してきたというような気がします。熱が出て体の不調を訴えているのに、熱さましで熱を下げて仕事をするとか、風邪の症状が出ているのに薬を飲んで休まない、とかいうようなものではないでしょうか。だんだん隠れていた悪い部分が肥大化して、もう小手先の経済対策ではどうにもならないというところに来てしまったと訴えているのかもしれません。
歴史が浅く、いろいろな国からの人たちで成り立ち、固有の文化の少ないアメリカに世界中が影響を受け、そのthe bigger the stronger, the mightier the better(より大きければより強く、より強大であればよりよい)というアメリカ流のやり方を理想としてきたのではないでしょうか。
古い歴史を持ち、素晴らしい文化をもった日本。その固有の文化がどんどん変化させられ、アメリカ流のビジネスが日本を闊歩してきました。町の魚屋さんが消え、八百屋さんが消え、スーパーマーケットが増えてきました。おいしい食堂が消え、ファミリーレストランが乱立してきました。人々は、それが正しいと信じ、マスコミもそれを後押しします。ところが、歴史に根差した変わりたくない部分が、変わりたくないと悲鳴を上げだしたようです。頑固に変わりたくないという、変わってはいけない大事なものがあるんだ、と言っているかのようです。
例えば肝臓だって、過度な仕事をすれば、過量にお酒を飲めば、やめてくれ、そんな状態にはたえられない、元のような静かな状態になってくれ、どんなに薬を与えられてももう限界だ、と悲鳴をあげますよね。最初に肝臓が小さな文句を言った時、すぐその声に気がつけば、問題にならないで済むことも多いのでしょう。栄養剤や痛み止めなどで、症状を取ってしまうと、よくなるどころか悪くなるということもありえるでしょう。
国の経済状態でも、今までに何度となく症状をだしてきました。そのたびに、政府がお金をばらまき、国民総生産なる数字のバロメーターをあげることで、経済成長一点張りの政策をとってきたわけです。日本だけでなく、世界の多くで見られる現象です。企業でも毎年数字を伸ばしていくなんて言うのは、考えても無理なことではないでしょうか。有限の世界なんですから。そんなに急いでも、どこかでぶつかってしまいます。
いろいろな無理が表面化し、でてきた大量リストラ、失業、などなど。こんな状態を夢見て今までみんな努力してきたのでしょうか。何かが間違っていたのではないでしょうか。こんなに努力して、こんなことになってしまって、この30年、文句も言わずひたすら企業戦士として働いてきた団塊の世代の胸中はどうなんでしょうか。
アメリカは、オバマ大統領も変化を訴えて当選しましたが、変化という言葉がよく使われます。アメリカは、新しい国。古い歴史をもつヨーロッパや日本のように、変えることのできない守ろうとする大事なものはまだ少ないのかも知れません。多くの人種のあつまりであるアメリカでは、日本のようにみんなが共有する考え方とか行動様式とかは際立っていないのかもしれません。だから、いろいろな選択肢を次はこれ、次はこれ、とチェンジしていって、何かを見つけようとしているのではないでしょうか。しかしなかなかみんなで共有できるものが出てこない。だからマネーに重点が置かれるのかとも思います。
アメリカの精神科領域での歴史においても、変化はよく言われます。一時は、短時間で症状を変化させるという戦略的なブリーフセラピーが流行りました。このように考えてくると、アメリカに精神病理学がないといわれているのも、よくわかります。精神病理学は、古い歴史を持つドイツ、イギリス、日本などで意味を持つのかもしれません。アメリカでは、日本の精神病理学を説明しようとすると、メディカル・サイコロジーという英語が一番アメリカ人に分かってもらえる英語のようです。
先日、ある先生にお聞きしたことですが、イギリスのガイドラインでは、軽いうつ病の場合、最初の数週間は薬物を投与せず、精神療法的な治療をおこなう、となっているということです。軽い気分障害の場合は、すぐに薬で症状を取ってしまうことはよくない、と考えられているようです。症状を薬で処理してしまうと、本質がかくされ、病気が遷延化すると考えられているのでしょうか。
日本では、軽い気分障害についていろいろ論文があり、精神病理学的な意見も多々聞かれますが、いざ治療となると、最初から薬物投与となっているようです。これは、精神科にたくさんの患者さんがこられ、治療スタッフが少なく治療費も安いという日本の医療状況にもよるのでしょう。
当社の「臨床精神薬理」の昨年の12月号でもレジリエンスの特集をしました。レジリエンス(自己治癒力)は、医学の問題だけでなく、日本の社会、経済状況にとっても、重要な概念だと思うのですが。症状が出た時に、自分で治ろうとする力を大事にすることが、社会においてもいえるのではないでしょうか。病理をしっかりと考えることなく経済対策だとばかりにお金をばらまくことの繰り返しは、問題をどんどん遷延化させているのではないでしょうか。
京都の町やロンドンは、かたくなに変化を拒んでいるような気がします。変化したら固有の、今までの、大事なものがなくなってしまう、と。効率が悪いかもしれないし、手間がかかるかもしれないし、扱うのに頑固で手がやけるかもしれない。しかし、壊してしまったら2度と戻ってこない、壊してしまうと必ずや後悔するものが、そこにはあるような気がします。
|