シンプルで、心に報酬を
物事は、だんだんと複雑になっていくのが常です。治療法でもそうです。最初は、非常にわかりやすい内容で、とても治療効果もいいということで、それがいろいろな疾患に拡大適用されるようになります。そうすると、効かないこともでてくるわけです。それでなんだかんだという議論が出てきて、どんどん理論が複雑になっていきます。大会社も、政府組織も、複雑になりすぎて、外部からはどのようになっているか把握できないでしょうし、そのトップの方でも組織の内容を把握できていないのではないでしょうか。医療活動も、経済的なことが最重要課題となって、治療以外に複雑な処理が治療者に要求されるようになっています。医師も、教授も、現在は、いろいろ複雑な用事を抱えていて、やりたいこと、一番大事な事、ができない状況のようです。
先日、アンデスで治療をしている二人のアメリカの精神科医の記事を読みました。コネチカットとミシガン出身の精神科医が、純粋な(pure)精神科の治療をアンデスの地で行っているそうです。「精神科の治療なんてなかった国の人たちに治療をするというのは、すごくすばらしいことで、満足感があるんですよ。診療所で働いていると、純粋な精神医学を実践していると感じるのです。言い換えれば、苦しんでいる人たちが来て、治療を行う、ただそれだけです。なんら官僚的な階層もなく、アメリカでは要求されるさまざまな雑用は、ここにはないんです。治療者と患者がいるというだけなんです」「金銭的な報酬をうけるということもないんです。ですので、より純粋(purer)なんですね。私たちのことを必要としているし、私たちの援助をすごく評価してくれます。それは本当にすばらしい体験です。」とこの二人の精神科医は述べています。お二人は、永遠にこの地で医療活動をすると、抱負を述べています。
組織が大きいと、上に行けば行くほど、直接のフィードバックはなくなり、数字だけの管理になりがちです。数字だけ見ていても、満足感や報われたという感じは、生じてこないのではないでしょうか。
ところで、simpleという英語を日本語に訳そうとすると、とても難しいと思いました。簡単な、やさしい、と訳しても変ですし、純粋な、誠実な、というのもおかしいです。そういうのを含めた言葉なんですね。上記の精神科医が、rewardedという言葉を使っていますが、すごくよく感じはわかるのですが、訳すと、イメージがでてきません。日本語の「報われた」は、努力が報われて大成功した、という感じに使われて、利己的なイメージがあります。英語のほうは、純粋にすばらしいものを心に与えてもらった、というイメージですね。子どもたちがお手伝いができたら報酬としてお菓子やお金をあげるという場合、日本語では、報酬というように言いますが、英語ではtokenを使うことが多いのではないでしょうか。オペラントの実験で、ねずみに砂糖水を報酬として与え、条件反射を強化させる、というのもあります。
組織が大きくなると、だんだんrewardされづらくなるようです。
Be simpleにして、心へのrewardがある社会、目指したいものですね。
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