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星和書店
今月の新刊 next
臨床家がなぜ研究をするのか

双極うつ病

包括的なガイド

リフ・S・エル-マラーク、S・ナシア・ガミー 著
田島 治、佐藤美奈子 訳


A5判 並製 312頁
ISBN978-4-7911-0836-7〔2013〕
定価 3,675 円(本体 3,500 円)

うつ病が治らず長引くことがある。なぜなのか? 見逃されていた診断「双極うつ病」について、臨床家が知りたい情報をコンパクトに提供する。

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精神科治療学
定価 3,024
月刊 精神科治療学 第28巻2号

特集: おとなのADHD臨床Ⅰ

成人期のADHDはどのようなものか?近年、成人してから職場や大学等で不適応が表面化し、ADHDを疑って自ら精神科を受診するケースが増えている。一方、昨年、児童期ADHDの適応薬(atomoxetine)が、成人期以降に使用開始することを認可された。今後、ますます一般精神科医も成人期のADHDに対応する場面が増えるが、まだ十分コンセンサスが得られた障害とはいえず、また診断基準も途上で、過剰診断・過少診断のおそれもある。確かな知識と見識で成人例に潜むADHDを着実に見極め、的確な診断と治療をするために必読の特集。
JANコード:4910156070238

臨床精神薬理
定価 3,045
月刊 臨床精神薬理 第16巻3号

特集: 思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の薬物療法

思春期・成人期における自閉症スペクトラム障害の薬物療法の特集。 歴史と進歩を踏まえ、薬物療法の留意点と最新のエビデンスを紹介。 さらに抑うつ・気分変動や不安障害、精神病症状、ADHD、知的障害などの併存障害を含めた見立てとその対応について第一線の研究者が解説する。
ISBN:978-4-7911-5185-1

今月のコラム
今月のコラム
ベストマンズスピーチ
千葉大学 社会精神保健教育研究センター 小堀修

大学院生の結婚式で、スピーチを依頼された。

しかも、披露宴のキックオフとなる、主賓スピーチ。ゲストの数は80人を超えるらしい。国際学会の口演よりも、遥かに緊張する。スピーチする場面を想像(曝露)するだけで、手足が震え、冷や汗をかく。認知再構成をできないものか。

どうやら「主賓スピーチ」という硬い言葉が、圧迫感を与えるらしい (余談だが、スーパービジョンといわず、コンサルテーションと表現したら、バイジーの緊張もほぐれるだろうか)。そこで、主賓スピーチに対応する表現を、英語で探すことにした。

欧米の結婚式において、新郎側で挨拶する者のことを、ベストマン、と呼ぶ。新郎側のスピーチは、従って、ベストマンズスピーチとなる。ほう、そういうことか。では、何がベストなのだろうか。

答えは、5世紀、ゲルマン系ゴート族までさかのぼる。

彼らが結婚するときは、男性が、同じ村の女性にプロポーズしていた。しかし、村にいる女性の人数が、男性の人数よりも少ないことがあった。すると男たちは、隣の村に行き、女性を誘拐してきて、結婚式を挙げていた。この誘拐の手助けをすること、そして、結婚式の最中に、隣村の男たちから新郎を守ることにおいて、最もふさわしい男が、ベストマンとして選ばれていた。

なるほど、興味深い。緊張がほぐれてきた私は、対処行動を開始することができた。結婚式の文例集を、ヤホー、ではなく、インターネットで検索して読みまくった。

すると、たくさんの文例のなかにも、共通性が見えてくる。 いわゆる、典型的なフレーズが見つかった。ちなみに3番目のフレーズは、イギリスのことわざらしい。

結婚生活が始まる。
 結婚生活が続いていく。
 喜びは2倍になり、悲しみは半分になる。

これらのフレーズを読んでいると、引っかかりを感じた。違和感? それは何だろうかと「もの想い」していると、あることに気づいた。

人間以外が、主語になっている。2人の生活が、結婚生活という構成概念、潜在変数に乗っ取られている、そんな気がした。微修正して、「ふたり」を主語にすると、こうなる。

2人が、結婚生活を始める。
 2人が、結婚生活を続けていく。
 2人で、喜びを2倍に、悲しみを半分にする。

何だか、結婚に対する「決意」のようなものが、にじみ出てくる。ちょっとしたさじ加減だが、フレーズの持つ色彩が変化し、立ち現れる情景が入れ替わる。

書籍の翻訳という作業も、主語を入れ替えるなど、小さなさじ加減で、書き手の描こうとする世界が変わってしまう (心理尺度の翻訳をすれば、実際に、その差が数値に表れてしまう)。だから、自分でオリジナルの文章を書くよりも、神経が衰弱する仕事だ。「これと同じ数字、どこにあったっけ?」とカードを探すように、同じ意味合いのコトバを探しては、違うカードをめくってしまう。

翻訳について、塩野七生*は次のように書いている。

「生前の福田恆存から、私は次のことを教えられた。言語を使って成される表現は、意味を伝えるだけではなく音声も伝えるものであり、言い換えれば、意味は精神を、語品もふくめた音声は肉体生理を伝えることである、と。福田先生は、翻訳もこの概念で成されねばならない、と言われた」

耳の痛い話である。だが、2000年も読み継がれているカエサルのガリア戦記ではないし、最近の学術書の翻訳なのだから、気楽にやってよくね?

…という言い訳が、私にとって有力な見方であり、有力な味方でもある。

*ローマ人の物語 (5) ユリウス・カエサル-ルビコン以後

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