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星和書店 こころのマガジン
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精神科草臨床に思う

強迫性障害です!

強迫性障害をもつ著者自身の半生を描いたコミックエッセイ

わかっているけどやめられない、「強迫性障害」。発症のきっかけ、精神科への通院と診断、漫画家として鮮やかなデビューを飾るも苦闘する日々。自身の悩みや症状、日常を赤裸々に描く。

みやざき明日香 著

本体価格 1,200 円 + 税

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精神科治療学

月刊 精神科治療学 第33巻2号

《今月の特集》

これだけは知っておきたい統合失調症 II

統合失調症の精神病理を解き明かす!
統合失調症の精神病理について2号にわたる冒険的特集の後編。
臨床上、最低限知っておきたい統合失調症の精神病理学について、
先達の知識を平易に解説。今号では特に統合失調症の概念や理論を取り上げた。
精神病理学に不慣れな精神科医でも今日の診断・治療に活かすことができる。
統合失調症に改めて光を当てるとともに、精神科臨床の醍醐味を味わえる特集。

本体価格 2,880 円 + 税

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臨床精神薬理

月刊 臨床精神薬理 第21巻3号

《今月の特集》

過剰診断・過小診断と薬物療法

精神科における過剰診断・過小診断と薬物療法について検証する特集!
DSM診断の普及とうつ病・双極性障害・ADHDの過剰診断・過小診断の関係、適応外使用や疾患啓発広告、処方薬依存症が医療に及ぼす影響を解説。また、抗認知症薬の適正使用ガイダンス、知的障害児・者への向精神薬処方の現状について紹介した。

本体価格 2,900 円 + 税

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今月のコラム

つらいことはみな、森の風が連れ去ってくれる

紀成道 

「つらいことはみな、森の風が連れ去ってくれる」。
 どこかの詩を引用しているわけではありません。精神科病院に入院していたある患者の方の声です。

写真家である私は、数年前に北海道苫小牧市の社会医療法人こぶし「植苗病院」を囲む森を訪れました。当時、週に一度開いていた森林療法に関心があり、見学を経て撮影取材をさせていただきました。
 病院は小高い丘の上にあり、周りの森がほどよく整備されて散策できるようになっています。歩き回ることで適度に疲れ、夜にぐっすり眠れるため生活のリズムが整います。草花の芽を探したり、大きなフキの葉を刈り取って遊んだり、木の実を拾って小箱に収めたり、雪のなか焚き火で暖をとったり。レクリエーションを通じて四季の移り変わりを楽しみます。自然に向き合いつつも、参加する当事者同士や医療スタッフ、外部のボランティアとコミュニケーションを深めることで、社会復帰への足掛かりとなるわけです。

私はこの病院を訪れるまで、精神科の患者の方と直に接することがなく、どう振る舞うべきか不安になっていました。しかし、いざ森に足を踏み入れると、患者とスタッフの見分けが本当につかず驚き、ただただ、立場から解放されて人と人との結びつきに純化されるのを経験しました。いわば森という場が、人間という関係性を前提とした生き物から動物のヒトに還元する力を持っているように感じたのです。霊長類であるヒトは、森の居心地がよいのが当たり前なのかもしれません。仕事など立場の違いで苦い経験を味わうこともある我々にとって、日本が持つ最大の資源・森林に「つらいことを連れ去ってくれる風」が流れているのはとても嬉しく思えます。
 私自身、この撮影の中で当事者への理解が深まりました。現代では、インターネットの普及によって、多くの知識が共有されてはいるものの、知らないことさえ知っていると勘違いしていることがなんと多いことか。私も精神医療の現場が重くて暗いものだという固定観念を抱いてしまっていたことに気づかされました。
 日本でも精神医療の地域化が叫ばれてしばらく経ちますが、当事者と地域に住む健常者の相互理解が生まれるよう、大きな自然が出会いの場として機能することを期待しています。私の知っているいくつかの病院では住宅地に囲まれつつも、適度な大きさの林が備えられているところがあり、両者が自然に交流できる環境となって、地方に限らず都会でも森林療法が浸透する可能性を感じています。

一方で森林療法にも課題はいくつかあります。当然のことながら、すべての方に効果が望めるわけではなく、例えば、虫が苦手な方は自然の中でリラックスがしにくいのです。こうした方を無理に森に引っ張っていく必要もありませんが、自然に親しむにもそれなりの知識や技術があると「外に出てみようかな」という気にもなるものです。そこでこうしたプログラムを組めるコーディネーターが必要になるわけですが、医療従事者が必ずしも自然に詳しいとも限らないわけですし、外部の人材が近くにいるとも限りません。逆にいうと、周りに詳しい人材がいたとしても、その方に精神医療や当事者への理解がないことには、プログラムは組めません。
 そして、森も生き物なので定期的な手入れが必要となります。暗く鬱蒼とした森では、獣が突然現れる不安がつきまといます。森のどこにいても病院や住宅地など帰る場所の見える安心感がある、人の手が入った明るい森であるのが望ましいとされています。しかし森の整備は力仕事で人手が必要とされます。患者が手入れに参加することで、森林療法への主体性が生まれる効用も想像できますが、この行為自体を患者や関係者が労働と捉えられてしまうのを懸念して、病院側が組み込めないのが実情です。
 いくつか取材した中で、課題を乗り越えうまく継続されているのは、ソフト面とハード面の両立を欠かしていない場所でした。かなり属人的とも言えます。となりますと、エビデンスが得られにくく、一般体系化しにくいことにつながってしまいます。これが結局、最大の課題なのかもしれません。

私ですら現場を見ただけでも、院内にいる時と、森で遊んでいる時とで、表情の良さや、コミュニケーションのスムーズさに違いを感じ取ることができました。投薬の量が減ったという患者もいました。ある患者は、「病院のベッドで寝ていると天井ばかりでいやになってくる」と森林療法の時間に落ち葉の上に大の字に寝転がって気分転換をする方がいたほどです。

実は現在、取材させていただいた病院では森林療法そのものは実施されてはいません。しかし、裏庭を活用した農耕活動などで自然に親しんでいますし、長期入院患者の方々が地域に戻って生活できるような別のプログラムに力を入れています。
 そこで当時の森林療法の様子を『Touch the forest, touched by the forest.』(赤々舎刊)というタイトルで写真集にまとめました。表紙には退院した方と拾った本物の木の葉を入れ込んでいます。また、写真をレーザー光線で焼き付けた木の板で小規模な写真展を行えるようにもしています。自然の包容力、人間の可能性を感じ取っていただける作品だと自負しております。もしご関心ありましたら、お声かけいただけると幸いです。

紀成道(きの せいどう)

京都大学工学部物理工学科卒業。大学院在学中に、カメラマンや里山で農業を営む人々との出会いがきっかけとなり、現在写真家として活動している。「Touch the forest, touched by the forest.」が2016年の写真コンペ「フォト・プレミオ」で年度賞大賞受賞。2017年に上梓した写真集が米国のコンペ「Lucie Photo Book Prize」でファイナリストにノミネートされた。http://kinoseido.jp/work/

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今月のコラム

第4回

  UCLA精神科の不安障害クリニックで知った
現地の方の医療に対する考え方

沖田麻優子

今回は臨床現場でのお話に戻ってみたいと思います。私が在米中、最もお世話になったのが西海岸で最も大規模な精神科の医療施設として知られるUCLA Adult Psychiatryの不安障害(不安症)クリニックでした。現地でどのような治療や若手医師のトレーニングが行われているのか、そして患者さんはどのように治療について考え、取り組んでいるのか、ご紹介いたします。

* * *

不安障害(不安症)クリニックでは、原則的に認知行動療法(以下CBT)が適応になる患者さんの治療と、CBTを終了した患者さんのフォローアップを行なっています。CBTをスタートする前に、患者さんに様々な質問項目に答えていただきながら、本当にこの治療法がふさわしいかどうかを評価します。そして、実際に進めていくことになった場合には毎週1回、計12-16 回のセッションの予定を組みます。CBT以外の、薬物療法がメインのクリニックでは、保険システムの関係もあって、多くの場合次回の診察は約2ヶ月後ですので、これは非常に例外的な形と言えます。しかし、CBTを行う上でとても大切なため、枠組みの設定やフォーミュレーションと同じく細心の注意を払い、主治医が丁寧に行います。
 (CBTは保険で受けられますが、加入している保険ごとにご本人の負担額が大きく違います。1回の受診費が無保険だと$350前後で、あとは保険会社がどのくらい負担してくれるかによります。CBTは全部で12-16回と決まっています)
 毎回の診察時には、研修医が45分程度のセッションを行います。診察室隣のミラールームでは指導医がその様子を観察しており、セッション後すぐに研修医はフィードバックを受けることが出来ます。

* * *

アメリカでの通院や医師に会うということに対する感覚は、日本のそれとはだいぶ異なるようです。2回目のコラムで私が妊娠中に産科外来の予約を取ることにかなり苦戦したエピソードをご紹介しましたが、病院で治療を受けるということのハードルが高めに設定されています。例えば、UCLAでは診察日当日のキャンセルを患者さんがする場合には、$300を負担してもらう ことになっていました。そういったこともあり、患者さんは診察の時間をより貴重なものとして捉えている印象を受けました。また医療費が高額で、保険会社から「この金額以上は保険の保障対象外」と請求書に明示されたりするためか、12-16回のセッションでなんとかして現状を変えたいと、かなり真剣に取り組む方が多いように思います。

* * *

UCLAの不安障害(不安症)クリニックでは、それぞれの疾患ごとに、ほぼ全員の患者さんがワークブックを使用しています。不安障害(不安症)と一口に言っても、扱う疾患や病態は様々ですが、研修医が一番初めに学ぶように指導されているのがMastery of Your Anxiety and Worryです。同クリニックでは、診断を超えて使用することができる統一プロトコールという考え方に則ってCBTを行っていますが、統一プロトコールを使いこなせるようになるためには、まずは基本的なCBTのスキルを、様々な疾患別に学んでおく必要があります。その基本のキが詰まっているのがMastery of Your Anxiety and Worryという位置づけでした。その理由は、いかなる疾患も、不安に無縁であるということはないから、あるいは、不安に無縁の人はいないから、ということが言えるでしょう。

 最近、私の周りでは、精神疾患を患っていない方もMastery of Your Anxiety and Worryの日本語版、『不安や心配を克服するためのプログラム:患者さん用ワークブック』を手に取ってくださっています。私が、心の健康のメンテナンスとして、健常な方にも特にオススメしたいのは第5章のリラクゼーション法です。
 少し疲れているな、眠りが浅いな、頭の中を色んな考えが巡っているな、といった時、自分でリラックスできるためのスキルを持っていただくと、日々の困り事の解決に役立ちます。

 アメリカで高いパフォーマンスを求められる仕事をされている方々のように、「メンタルケアのためのセラピストに定期的に会っていることがステータス」とまではなかなかいかないかもしれませんが、自分の中にこのようなちょっとしたスキルを育み、セルフケア上手になられることはとても良いことなのではないでしょうか。

沖田麻優子(おきた まゆこ)

 精神科医。医学博士。浜松医科大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院精神神経科にて後期研修後,渡米。ECFMG Certificate取得。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Division of Adult Psychiatryの気分障害クリニック,不安障害クリニック,ウィメンズライフセンターにて臨床に携わる。千葉大学大学院精神医学博士課程修了。2017年より,あしたの風クリニックに勤務。訳書:『不安や心配を克服するためのプログラム:患者さん用ワークブック』(伊豫雅臣監訳,沖田麻優子訳,星和書店刊)

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