
学問もゆっくりと熟成されて
今月の新刊は、「カタトニア」というタイトルで、年齢の高
い
先生方には、30年ほど前の精神病理学が隆盛を極めていた時代を思い出させるかもしれません。その当時、私どもも精神病理学の季刊誌を創刊させていただきました。アメリカの出版社や精神科医にこの雑誌を説明するに当たって、うまく説明できる言葉が見つかりませんでした。
もちろん、サイコパソロジーという英語はあるのですが、日本における精神病理学の独特な意味合いを説明できません。日本では当時、精神病理学が精神医学の学問の主流といってもいいほどでした。先生方にご専門はとお尋ねすると、精神病理学という答えが返ってきたものでした。アメリカでは、このことが良く分からないらしく、説明すると、それではそれはメディカルサイコロジーではないか、とよく言われたものです。
どうもアメリカでは、ドイツ流といいますか日本的といいますか記述的精神病理学よりも、マスターソン先生などによるボーダーラインなどの研究のほうが注目を集めていました。興味深いことに、マスターソン先生の著書を日本に最初にご紹介されたのは、精神病理学者の笠原嘉先生でした。ボーダーラインという言葉は、その当時は日本で全くなじみがなく、精神病と神経質の中間だから境界例なんだ、とか、精神分析学も精神病理学も注目する状態なのでその間ということで境界例なんだ、とか、今聞くととてもおかしな説明がたくさんありました。
そのような状況の中で、当社でマスターソン先生を日本にお呼し、ワークショップなどを開かせていただきました。沢山の先生方にご参加いただきました。ボーダーライン、境界例、境界性人格障害、境界型人格障害、境界型パーソナリティ障害、など言葉は代わってきましたが、ボーダーライン パーソナリティ ディスオーダー(BPD)の研究は進み、マスターソン先生ご来日から25年ほどたった今、ボーダーラインは、広く一般の人にも関心が持たれるようになってきました。インターネットがなかったため、ゆっくりとした研究の流れがあったのかもしれません。今では、ネット上で、BPDの情報はあふれています。
さて、今月刊行の「パーソナリティ障害」は、マスターソン先生の研究の集大成と言えるでしょう。本書はまた、当社にとっても思い出に残る本です。私どもととても仲の良かったBrunner/Mazel社のBernard Mazel氏が、この会社を辞めるに当たり、すばらしい伝説の編集長Suzi Tuckerが社を去りました。Brunner Mazel社は、Taylor&Francisに買い取られ、スージー タッカーは、ミルトンエリクソン研究所のゼイク氏と出版社を作りました。スージーは、長年マスターソン先生の本の編集を担当し、先生の信認もことのほか厚かったため、この本が、ゼイク&タッカー社から出版されることになったのは当然のことでした。
マスターソン先生―スージータッカー―星和書店のトリロジーの最後の本が、成田先生のすばらしいご翻訳により今月刊行となりました。皆様にお読みいただければ幸いです。 |