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星和書店
今月の新刊 next
精神科教授の談話室

精神科教授の談話室

細川 清 著

A5判 並製 232頁
ISBN978-4-7911-0841-1〔2013〕
定価 2,940 円(本体 2,800 円)

精神医学は他の科と違い、あいまいさ、矛盾、意外性、個別性を持ち、人間存在に関する哲学的な領域をもっている。科学的根拠を主眼として勉強する学問領域ではない。基礎的な杓子定規の考え方では精神科はやっていけない。本書は、東大独文科出身、異色の精神科教授が、独特の視点と経験から、精神医学から日常の些細な出来事まで、時には切れ味鋭く、時にはほのぼのと語る。人の精神生活に介入する者の教養として、是非聞いておきたい話が満載。

思春期・青年期版アンガーコントロールトレーニング

思春期・青年期版
アンガーコントロールトレーニング

怒りを上手に抑えるためのワークブック

野津春枝 著 安保寛明 監修

B5判 並製 160頁
ISBN978-4-7911-0842-8〔2013〕
定価 1,260 円(本体 1,200 円)

怒りの感情を制御するために。アンガーコントロールトレーニングは、クライエントが、自分の怒りの感情に気づき、怒って暴力をふるうことで不利益を被らないための方法をファシリテーターと共に学んでいく「怒り感情のマネジメント」の学習である。本書は、当社発行の『アンガーコントロールトレーニング』(ウィリアムズ他著)を基にして、思春期及び知的障害のあるクライエントに用いるために平易な表現を用い、イラストを各所にちりばめ、視覚的で具体的で実践的なワークブックとなっている。

人はなぜ依存症になるのか

人はなぜ依存症になるのか

自己治療としてのアディクション

エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ 著
松本俊彦 訳

A5判 上製 232
ISBN978-4-7911-0843-5〔2013〕
定価 2,520 円(本体 2,400 円)

依存症は、自らの苦痛を「自己治療」するための究極の選択なのか

今日最も関心を寄せられている障害のひとつ、依存症。その発症と一連の経過を説明する理論のなかで、特に注目すべきが本書の主題・自己治療仮説である。依存症者は、おそらく無意識のうちに自分たちの抱える困難や苦痛を一時的に緩和するのに役立つ物質を選択し、その結果、依存症に陥るという。生得的な脆弱性、心理的苦悩、ライフイベントを発達論的視点から統合的に捉えているこの理論的アプローチを知ることは、依存症者と依存症が果たしている役割を理解するうえで非常に有用である。

統合失調症の病態心理

統合失調症の病態心理

要説:状況意味失認-内因反応仮説

中安信夫 著

四六判 上製 256頁
ISBN978-4-7911-0844-2〔2013〕
定価 2,940 円(本体 2,800 円)

病的なものは、あくまでも病態心理としての「状況意味失認」であり、それが統合失調症における唯一の障害である。

30年前に著者が研究の場を生物学的精神医学から精神病理学に転じたのは、統合失調症の病態生理追究のための仮説を求めてのことであった。 統合失調症は、脳という臓器の障害に基づく身体疾患であるから、他の身体疾患と同様に病態生理が考えられなければならない。しかし精神機能、心の異常を呈するわけであるから、病態生理が即、精神症状を形成するものではない。その病態生理に応じて病態心理が形成され、その病態心理が精神症状として顕現すると考えられる。こうして著者は、統合失調症の病態心理を30年にわたり追究し、「状況意味失認」という病態心理に到達した。

  雑誌の最新号 next
精神科治療学
定価 3,024
月刊 精神科治療学 第28巻5号

特集:妊娠と出産を巡る精神科臨床
―何を理解し、どう関わるか?―I

精神疾患患者の妊娠や出産は増えており、向精神薬をいかに処方するかは悩ましい問題である。一方、産科医不足が言われる中、精神科医に求められる役割は重要さを増している。本特集 I では、向精神薬と母体や胎児、新生児への影響、授乳との兼ね合いなどについて、具体的対応を示した。また、いかに産科医をはじめ関連する多職種と連携するか、具体的実践例を多く示した。いまだガイドラインがなく、現場の実践を積み重ねている段階であるが、今後ますます一般の精神科医も対応する必要があり、必読の特集。
JANコード:4910156070535

臨床精神薬理
定価 3,045
月刊 臨床精神薬理 第16巻6号

特集: ベンゾジアゼピンと処方薬依存を巡る問題

わが国では諸外国に比べ、不眠や不安にベンゾジアゼピンが突出して用いられている。常用量依存に悩む当事者の声は大きく、医師が処方する向精神薬が依存の原因の2位になるなど、医師の意識の低さも問題になっている。ベンゾジアゼピンと処方薬依存を巡る問題について、救命救急や依存症専門病院等、第一線の方々による解説とともに対処法を紹介。
ISBN:978-4-7911-5188-2


今月のコラム


今月のコラム
TPPと医療――個人的な見解と双極うつ病を巡る問題まで
杏林大学保健学部教授  田島 治

短期間で株価の上昇と円安を成し遂げたアベノミクスの勢いに、消費税増税に反対する声やTPP反対論の影が薄くなっています。新聞では東京都が医療特区の構想を打ち出し、日本の医師免許を持たない外国人医師による診療、わが国では認可されていない海外の先端医療を行うことなどが報じられています。しかし、実際のところはTPP断固阻止を唱える農業団体の関係者や、混合診療の導入によって国民皆保険制度が崩壊すると、導入阻止を主張する医師会の関係者、その他直接導入によって影響がすぐに及ぶ関係者以外は、その実態がなんなのか、どんなメリットやデメリットがあるのかは、多くの一般の日本人にはよく分からないというのが正直なところです。ネット上には子どもにも分かる解説でおなじみの池上彰氏のTPP問題の解説も紹介されていますが、それでも本当のところは導入されてみないと分かりません。

TPPとは

TPPのフルスペルをすぐに言える人は少ないでしょう。これは環太平洋戦略的経済連携協定の略語で、今から8年前に始まったものです。現在、中国を除いた太平洋に面する11カ国で加盟や交渉が行われており、日本も交渉参加を表明しましたが、最終妥結までの残された時間は限られているのが実情です。これは原則として加盟国の関税を撤廃し、輸出を促進するとともに、物以外の保健や金融、医療などの非関税障壁も撤廃し、加盟国の経済を活性化しようというものです。当然のことながら多くの補助金や関税によって守られている日本の米や農業が、価格競争力を高めない限り崩壊するリスクがあるのは予想されることです。たまたま最近ボストンに滞在し、韓国系の安売りのスーパーで買い物をしましたが、そこで売られている米やその他の食料品の価格のあまりの安さに驚きました。こうしたカリフォルニアの高品質の安い米が、日本にそのまま輸入される事態に短期間で対応がはたして可能なのか危惧されます。とはいえ日本の農業を担う人々の平均年齢は66歳と高齢化しており、何もしなくても後継者不足により崩壊するリスクはあります。

医療とTPP

医療に関しても医療保険の自由化や混合診療、すなわち健康保険の診療と高額の自費診療の組み合わせが自由化されれば、なし崩し的に国民皆保険制度が崩壊する危険はあります。同じ北米でもカナダは国民皆保険で、知り合いの米国人はカナダの薬局に薬の買出しに出掛けていました。薬価制度のないアメリカでは、薬や医療の価格は需給関係で決まります。ボストンのマサチューセッツ総合病院を訪れたときも、ガン医療で国際的に有名なテキサスのMDアンダーソン・ガンセンターを訪れたときも、患者中心の落ち着いた雰囲気の建物や内装、多くのボランティアが働く病院内の様々なサービスなど、日本の病院には見られない優れた設備やサービスが存在するのに感心したのも事実です。友人に付き添ってMDアンダーソンを訪れたときに、そうした感想を述べたところ、すべて金次第と言われたのが記憶に残っています。そうした市場原理主義のアメリカの医療制度の問題を、コミカルにドキュメンタリータッチで紹介したマイケル・ムーア監督の2007年公開の映画「シッコ」を見た方も多いかもしれません。そこで対比されたのは、経済苦境に悩みながらもアメリカと対立する社会主義国家キューバの医療制度でしたが、キューバの医師団は世界のあちこちに出稼ぎに行っているのも事実です。

TPPでは農業などの関税問題だけがクローズアップされていますが、実は医療や保険、金融など、国によって制度や規制が異なるため外国の企業が参入しにくい、あるいはできない領域の問題、すなわち非関税障壁の方がもっと重要です。TPPにいったん参加すると原則として離脱は困難で、しかも一度自由化や規制緩和が行われた条件は、あとから取り消すことが出来ません。協定結果は国内法よりも優位とされるため、外資の訴訟により莫大な賠償金を請求されたり、法律の改正を行わざるを得なくなったりする可能性もあります。

日本も成長戦略の一環として日本の優れた医療機器やシステムを輸出しようとしています。医薬品も莫大な利益を生む成長産業の一つとなっていますが、はたして医療を成長産業として市場原理で捉えることが、多くの人にとって望ましいことなのでしょうか。亡くなった父親は、田舎で小規模の有床診療所を戦地から復員後開設しました。国民皆保険制度は昭和36年から実施されましたが、昭和20年代後半や30年代初めには、保険のない農家の人などは病気をしてもなかなか医者にかかれないのが実態でした。重症になった農家の患者さんが、大八車に布団を敷いて、寝かされて連れて来られる姿をよく目にしたものです。手術や治療を受けた後も治療費が払えず、秋の収穫の時期に米で物納する農家も多かったため、家の大きな米びつには、色々な農家から治療費代わりに持ってこられた様々な品質の米が入っていたのを覚えています。国民皆保険となってからは、昼夜を問わず診療や往診に追われていた父親の姿が目に浮かびます。いつでもどこでも自由にかかれる日本の医療は世界では稀なものですが、これがいつまで維持できるかは時間の問題です。

アメリカ型の国民皆保険を目指すオバマ大統領の医療改革は始まったばかりですが、自由を第一とするアメリカ人からは、社会主義的と批判や抵抗も強いようです。安心して普通の医療が受けられるためには、わが国ではヨーロッパと同じような、ある意味で社会主義的な医療制度の存続が望まれるのではないでしょうか。

市場原理の医薬品開発と双極性障害の急増を巡る問題

ピューリッツァー賞も受賞したジャーナリストであるウィッタカーの著書『心の病の流行』には、アメリカ型の診断と医療によって、うつ病や双極性障害と診断される人が過去20年間に急増し、使われる向精神薬も著しく増加した一方で、無期限にこうした薬を服用しているにもかかわらず、公的な扶助を受けざるを得なくなった精神障害者の数も激増していることが指摘されています。毎年クリスマスカードを送ってくれるアリゾナ大学の教授の娘さんは、小さい頃から利発で将来を期待されていました。ところが大学に入って恋愛問題で悩んでうつ状態となり、自殺未遂を図って精神科に入院したことを知って驚きました。写真で見る限り素敵な大人の女性へと成長していましたが、実はその後入退院を反復するうちに双極性障害へと診断が変更され、生涯にわたる服薬と医療の継続を伝えられていることを知りました。日本でもうつ病患者が100万人まで急増しましたが、アメリカ同様、長期に不安定なまま治らない人も増え、新たな気分安定薬の発売や非定型抗精神病薬の適応拡大もあいまって、双極性障害のブームが起こっています。これは本当にクレペリンのいう躁うつ病の現代版なのでしょうか。SSRIなどの新規抗うつ薬の幅広い使用による、副産物の可能性はないのでしょうか。賛否両論が渦巻いています。

筆者はアメリカの若手精神科医として注目されていますナシア・ガミーとエル-マラークの編集による『双極うつ病包括的なガイド』を翻訳し、2月末に星和書店より上梓しました。この問題に関する、世界の双極性障害の専門家の意見、すなわち主流派の意見をまとめたものです。今日のうつ病を考える上で欠かすことの出来ない、「双極性」という問題を考える一つの手がかりとなる本として是非お勧めしたいと思います。

最後になりますが、アメリカ精神医学会による精神障害の診断と統計による手引の第五版(DSM-5)が、まもなく登場する予定です。それを前にしてアメリカ精神保健研究所(NIMH)の所長であるトーマス・インセルは、今後NIMHの研究には独自の研究用の診断基準を用い、DSM-5を用いないことを発表し大きな波紋を呼んでいます。精神医学のバイブルと呼ばれ、今日の精神障害者急増の背景となったDSMの最新版の登場を目前にしての大ニュースです。まさに終わりの始まりともいえる現象かも知れません。

田島治先生の本、好評発売中

双極うつ病―包括的なガイド
(リフ・S・エル-マラーク、S・ナシア・ガミー編、田島治、佐藤美奈子訳)
抗うつ薬の真実―抗うつ薬を飲む人、出す人へのメッセージ
(田島治 著)
不安とうつの脳と心のメカニズム―感情と認知のニューロサイエンス
(Dan J. Stein著 田島治、荒井まゆみ訳)
抗うつ薬の時代―うつ病治療薬の光と影
(デーヴィッド・ヒーリー著、林建郎、田島治訳)
こころのくすり 最新事情
(田島治 著)

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