いつも,ほめて,ニコニコ
渡部和成
私は,患者・家族心理教育を中心に据えた統合失調症治療の専門家として,統合失調症治療に関する本を星和書店から幸運にも4冊(「統合失調症から回復するコツ―何を心がけるべきか」(2009年),「統合失調症に負けない家族のコツ―読む家族教室」(2010年),「統合失調症からの回復を願う家族の10の鉄則」(2011年),「統合失調症患者を支えて生きる家族たち」(2012年))出版させてもらっています。その効果もあってのことでしょう,統合失調症の患者さんとご家族が,全国28都府県から入院や通院の別なく私の治療を求めて東京都西部の八王子市にある私が勤める病院(恩方病院)に来られています(注:2012年3月15日をもって恩方病院を退職。同年4月より北津島病院〔愛知県〕院長代行就任予定)。東京都周辺を始め,北は秋田県や宮城県,南は福岡県や大分県からという具合に,遠方から集まって来られています。
一般的には,遠方からの患者さんについては,入院治療し退院した後は患者さんの住居地の病院やクリニックを紹介して,そちらに通院してもらうことが多いのだろうと思いますが,私の場合,このようなケースは実は少ないのです。多くの退院した患者さんが,通院治療をするために遠方から私の元に来られています。
ある1週間の外来診察日(週2日)に私の元に来られた患者さんの住居地を調べたのですが,その結果は,病院のある八王子市が1/3,東京多摩地区が1/3,東京23区・関東地方・東北地方・中部地方が1/3となっていました。つまり,私の通院患者さん(9割が統合失調症の方で,その内の8割が私による入院治療を受けて退院した後通院している方)の2/3は,遠方から来られていることが分かりました。我ながら驚きでした。
以前は,お金も時間もかかりますし全国どこでも同じ薬をもらえるのですから,わざわざ遠方から来られなくても良いのではないかと思うこともありましたが,最近は,そうではなく,希望されるのならぜひ退院後は私の元に来て下さいと,患者さんとご家族に話をするようにしています。
その理由は,統合失調症治療の成果は,単なる薬物療法と病状をチェックするだけの診察では得られにくいと考えるからです。私は,薬物療法のキーポイントとして,薬が効くにはそのための素地が患者さんになければならないと考えています。つまり,患者さんに薬が効くための素地ができているかどうかで,同じ薬・同じ用量であっても効いたり効かなかったりする,つまり薬物療法の成否が決まるということです。また,病状をチェックするのみの診察(精神療法)では,患者さんにそのような素地はできないだろうと思っています。ですから,統合失調症治療では,患者さんと医師との共同作業で素地を作り出し維持していくという治療法が必要になってくると思います。
素地とは,言い換えればレジリエンス(抗病力,回復力,生きる力)です。すると,そのような共同作業をする治療法は,医師が患者さんのレジリエンスを高める指導を患者さんとご家族にしていくことだと言えます。レジリエンスが高まれば,患者さんは自分の症状を適切に表現でき薬について相談できるようになりますので,医師は,その表現を受け止め理解し,薬を適正なものにすることができますし,その薬はうまく効くようになります。私は,患者さんが患者心理教育を介して病状への対処法を身につけ安心でき周囲の人々に相談できるようになること(私が提唱する「教育‐対処‐相談モデル」)によって,レジリエンスが高まると考えています。具体的には,私は患者さんに「幻聴や妄想は,患者さんがそれらを現実と区別できそれらに振り回されなければ,あっても良い。うまくそれらに対処できれば大丈夫だ」と説明しています。レジリエンスが高まって病気をうまく管理できるようになれば,患者さんは希望と目標を持って人生を生きて行けるようになるだろうと思います。
私は,このようなことを意識しながら患者さんの診察を進めて行くようにしています。私は,診察の時はいつも,ニコニコして患者さんの話を聴き,病気に打ち克とうとしている患者さんが頑張っていることをほめて,患者さんを理解し相談に乗るようにしています。ほめてニコニコしていることは,患者さんの安心を高めるでしょうし,そのような医師の態度が,統合失調症治療では大事だろうと思っています。
ですから,「どうぞ遠方からでも私の外来診察を受けに来てください」と,患者さんと家族に話しています。
いつも,ほめて,ニコニコです。
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