臨床心理士 のコラム
Vol.9 人生、ここにあり!
もうご覧になった方もいらっしゃるでしょうか? 7月23日から公開されている映画『人生、ここにあり!』を観て来ました♪ イタリアでは2008年に公開され、異例の大ヒットとなったそうですが、笑って泣ける、そして‘生きる’ことについて様々なメッセージを受け取ることのできる、味わい深い作品でした。
この映画の原題は『やればできるさ!』。舞台はバザリア法が公布された1980年代のミラノです。バザリア法とは、精神病院を閉鎖し、患者さんを地域で生活する中で支えようという世界初の法律で、この法律によって病院を出て、地域で暮らすことになった患者さんたちの実話を基に作られたのが、この作品です。
初めに画面に映るのは、デイケアと作業所の中間のような部屋。一応「協同組合180」という名前の組合組織ということになっています。そこでは手紙を封筒に入れ、宛名を書き、切手を貼るという作業を、みんなで分担してやっています。ものすごくまじめに住所を読みあげている人、やる気なさそうに窓の外をぼーーーっと眺めながらタバコを吸ってる人、切手を貼ってはいるけれどなんだか位置がめちゃくちゃな人……みんなバラバラです。そこへある日、熱血男登場! 他の労働組合で異端児扱いされ、異動させられたネッロがやってきます。
なにせ熱血男ですから、なんとなく作業している覇気のない様子を見て、仕事をする喜びを感じて欲しい! 組合を立て直そう!とみんなを集めて会議を開きます。とはいえ、そこにいるのは長年精神病院に入院していた患者さんたち。自分の意見を表明する機会が久しくなかった人たちです。挙手を求められても恐る恐る……周りをキョロキョロして、い、いいのかな……?という感じです。それでもポツリポツリと案が出て、なんとか‘床貼り’の仕事をみんなでしようじゃないか!と決まりました。
そうとくれば、今度は現場探しです。ネッロはいろんなツテをたどって床貼り作業をさせてくれるお客さんを探しますが、精神科に対する偏見があり、なかなか見つかりません。ネッロは自宅まで提供し、みんなに経験を積ませようとします。ある日やっと仕事が見つかり、みんな勇んで床貼り作業に取り組みますが、途中で木材が足りなくなってしまいました。なんとトラックで木材を運ぶ途中、仲間の2人が道に迷ってしまったのです。その上その2人は対人恐怖からか道を尋ねることもできず、頼みのネッロは葬儀に出席するため不在。どうしよう!……みんなが混乱する中、仲間の1人が作業の途中で出た廃材を持ってきます。そうか、これを組み合わせればなんとかなるかも?! そして出来上がったのは芸術的な寄木細工の床。これが評判を呼び、次々と依頼が舞い込みます。初めて手にする額の給料に、みんな大喜び! それぞれの特性を生かして役割も決まり、やりがいにあふれる日々にみんなの表情がどんどん変わっていきます。
そしてまた、この表情が! さすが俳優さんとはいえ、視線の動き、体の傾け方、発作の時の様子、話し方、すごくリアルでびっくりしました。パンフレットを見ると「オーディションに1年以上費やし、全員に数カ月間、精神保健施設などで研修を受けさせた上で最終選考を行った」と書いてあります。なるほど、それであんなに迫真の演技だったのですね。でもこの映画はリアルなだけではありません。コメディ分野で名を馳せてきたジュリオ・マンフレドニア監督が、随所に笑いを入れてくれています。精神科に対する偏見や、登場人物それぞれの人生模様など、見ているといろんな感情が湧いてきてちょっと苦しくなる場面もありましたが、笑いがそれを勇気や希望に変えてくれたように感じました。
映画の後半では、ネッロはもう一歩踏み込んで、薬を減らそう!という試みを始めます。薬を減らすことによって、今までぼんやりしていた感情がくっきり輪郭を持ってきて、それに伴って新たな出来事が……登場人物たちのあきらめ→期待→不安と揺れ動く気持ちに寄り添って観ていると、涙がこみ上げてきました。病院の中にいては起こらなかった出来事、その中には苦しいことも悲しいこともあるけど、それこそ人生! 人生、ここにあり!
これ以上お話してしまうとお楽しみが減ってしまうので、あとはぜひ、映画館に足を運んでみてくださいね。
最後に、私が好きだった登場人物は太っちょで愛嬌いっぱいのゴッフレード。いつも何か食べていて、誰かが落ち込んでいるとなんとかして慰めようとする優しい人です。その彼は「やったー!」と言いたい場面で両手を挙げて「エイドリアーン!!」と叫びます。ロッキーと似ても似つかぬ姿にクスクスクス……魅力溢れる登場人物ばかりなので、ぜひみなさんもお気に入りの誰かを見つけてください♪
(尾方 文)
『人生、ここにあり!』
2011年7月23日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
(c) 2008 RIZZOLI FILM
■公式HP■
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■配給・宣伝■
エスパース・サロウ
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