和気隆三,和気浩三,渡邉博幸:太陽と風と緑―グリーンホスピタルの理念と実践―.精神科治療学,40(10);1099-1104,2025.


p.1100掲載の図1〜3、p.1101掲載の図4〜6

図1 病棟から直接自由に出入りできる庭園

図1 病棟から直接自由に出入りできる庭園

中庭には,渡り廊下,病棟の1階はもちろん,2階からも直接自由に降りることができる。自由な行き来ができるように病棟のローカルルールは極力少なくしている。初めて入院した方が「きれい」と言って立ち止まったり,座ってくつろいでいる他患に『出られるんですか』と聞いたりする。この庭を見て『精神科病院に対する不安,恐怖,不信が薄れた』と述べる人もいる。庭には,まるで公園のように,たくさんの椅子やテーブルが配置され,患者同士,患者と家族,患者とスタッフが景色を見ながらおしゃべりができる。

図2 庭の中央にあるイメージツリーのケヤキの木

図2 庭の中央にあるイメージツリーのケヤキの木

庭の中央には,病院のイメージツリーの樹齢50年になる,高さ25mの大きなケヤキの木。葉が生い茂った木陰に沢山の種類の小動物や木々が身を寄せている。この木を眺めて,「ああ,生きている」と叫んだ高齢の患者がいた。

図3 けやきの木の下に自生している桑の実

図3 けやきの木の下に自生している桑の実

撮影時はちょうど桑の実が色づき始めたところ。この他にもたくさんの花が咲き,実が成っている。ある女性患者が,看護師に連れられて初めて庭に出た時に,眼の前に色々な花が咲いているのを見て,涙をためて「ああ,きれい!!生きていてよかった!!」と大きな声で言われたことは忘れられない。

図4 中庭の様々な緑を眺める窓がある病院保護室(座っているのは筆頭筆者)

図4 中庭の様々な緑を眺める窓がある病院保護室(座っているのは筆頭筆者)

病院保護室から望む庭の景色。暗い保護室のイメージを払底する美しい庭の木々をゆっくりと眺めることができるような窓の配置がなされている。保護室にいても自然の美しさや生命力を感じ取れるような工夫が施されている。自らを大事にできなくなってしまった患者の居場所が,さらに自分の人生を悔やみ,自暴自棄にするようなものであってはならない。かけがえのない大事な命であることを思い起こしてもらうためには,保護室こそ,居心地良くすごしてもらうよう設計し,『あなたを大事にします』という気持ちが伝わるような環境になるような工夫をしている。

図5 庭を一巡できる散策路

図5 庭を一巡できる散策路

病棟からみて右側から,竹,桜,紅葉の織りなす影の中を進んでいくといつの間にか散策路ができている。患者たちが長年歩いてきた軌跡が,自然の散歩道となっていて,今日もたくさんの患者が散策している。一人で黙々とうつむきがちに歩く人,数名でおしゃべりしながらの患者たち。杖を使って看護スタッフが寄り添いながらゆっくり歩いている人。その両脇にたくさんの木々が季節ごとに彩りを添え,蝶がひらひら舞い,蜂が忙しなく飛び交う。

図6 病院敷地内にある農園土手のブドウ棚

図6 病院敷地内にある農園土手のブドウ棚

初夏の農園を取り囲む土手の1面に,若い青い実をたわわにつけたブドウが誇らしげに風に揺れている。これ以外にもたくさんの果物が競い合うように生えている。写真左に写っているのはゴルフカートで,畑を行き来するための移動手段となっている。


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