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■特集 成人の発達障害を支援するII

●おとなの発達障害の人との付き合い方
本田秀夫
 おとなの発達障害の人たちとの付き合い方について述べた。ADHDの人たちに対しては,(1)低値安定,たまに高パフォーマンス,(2)日頃の地道な努力より土壇場での一発勝負,(3)姿勢より仕事の内容,(4)「衝動性」の地雷を踏まない,(5)不注意症状の防止,(6)時間を守らせたいときはタイムキーパー役が張り付く,の6点が,ASの人たちに対しては,(1)先に本人の言い分を聞く,(2)命令でなく提案する,(3)言行一致を心がける,(4)感情的にならない,(5)具体的なデータを視覚呈示する,(6)目に見えにくいものを言語で構造化する,(7)こだわりはうまく利用する,の7点が,それぞれ重要である。二次障害では過剰なノルマ化傾向と対人不信に最も留意が必要であり,対応は「訓練型」よりも「癒し型」に比重を置く。
キーワード:おとなの発達障害,注意欠如・多動症,自閉スペクトラム,二次障害

●大人の発達障害と犯罪,触法行為
安藤久美子,岡田幸之
 発達障害と犯罪,触法行為の関係については,一般人口と比較しても,他害行為に至る頻度が高いといったデータはなく,むしろ,彼らの実直で相手の言葉を信じやすい特性などが利用されて,詐欺や強制わいせつの被害者となることも少なくない。本稿ではそうした背景を踏まえ,まずは発達障害を持つ人の被害者としての側面を冒頭に紹介した。
 また,不幸にも加害者となってしまったケースをみても,その多くは,被害的な立場におかれたことが影響していたり,いくつかの条件が重なった結果,触法行為に至っており,発達障害の特性もまた,触法行為と特異的に結びつくものではない。支援にあたってはこうした両面を正しく理解した上で,まずは出来事と障害特性の関係を丁寧に整理していくことが重要であろう。
キーワード:発達障害,ASD,障害特性,犯罪,責任能力

●大人の発達障害の就労問題,職業生活上の支援
梅永雄二
 発達障害者の就労上の課題は,仕事そのものの問題よりも日常生活や対人関係(コミュニケーションも含む)などで生じる問題のウェイトが大きい。よって,日常生活の支援については,職場におけるジョブコーチ同様基本的生活を直接支援するライフスキルサポーターといった生活上の支援者の存在が望まれる。また,対人関係等の問題については,仕事そのものを指導する狭義のジョブコーチ的支援ではなく,発達障害本人の特性を把握し,企業における職務のジョブマッチングや同僚上司に対する特性説明など,企業と発達障害当事者の間を調整するジョブコーディネーターのような役割が必要となる。
キーワード:ハードスキル,ソフトスキル,ライフスキル,ライフスキルカウンセラー,ライフスキルサポーター,援助つき自立

●修学と就労支援─学生相談とクリニックの連携─
福田真也
 大学生の発達障害について,大学/学生相談室と精神科医療機関/クリニックの両者が連携して診断,告知,修学,学生生活,そして就労に至るまで支援した事例をあげ,両者の役割と機能,分担,連携のポイントを述べた。入学後はまずどのように相談に繋げるか,クリニックを受診して診断し告知するかが課題になる。修学支援では学生相談室がコーディネーターとして機能し学内支援体制を構築することが望ましい。就労においては障害の程度や受容,家族の協力など様々な要因があり,障害者就労か一般の就労のどちらを選ぶかが課題となるが,両者が連携して支援を行うことが役立つ。しかし現状では多くの課題があり,それぞれの役割と機能を理解して連携することが今後,重要になると思う。
キーワード:学生相談,発達障害,大学生,就労支援,クリニック

●発達障害のある人の相談支援の実際──福祉支援の立場から──
石橋悦子
 この数年,発達障害に関わる支援制度やサービス内容についての整備が徐々に進んできていると言える。東京都発達障害者支援センターでも,相談から具体的な支援に繋がり生活改善が進んでいく事例は,以前に比べると確実に増えている。しかし一方で,発達障害の医学的診断や福祉等の支援を受けるための障害認定を受けても,本人の希望する支援の受け手や居場所がなく,地域にいながらも孤立した生活が長期化しやすい人が多くみられる。
 筆者らは福祉の立場での相談機関であり,「相談に来た人にとって,生活をより良くしていくための相談」が求められる。そこには,一定の対応マニュアルがあるわけでもなく,多くの場合,利用できる支援制度の説明や医療機関など他の支援機関等を案内して済むというものでもない。障害の特性と二次的に積み重ねられた社会化困難という観点から,本人たちの社会における生きにくさを個別的にとらえ,家庭や社会において安心・安定した生活を目指す相談や具体的な支援のあり方について試行・検討中であり,その経過を報告する。
キーワード:成人,発達障害,相談,居場所支援

●精神科外来での診断と支援
今村 明
 成人期の神経発達症群を精神科外来で診ることが増えてきている。診断に関しては,他の神経発達症が併存する場合も多く,またそれ以外の併存症・続発症も認められるケースが多いため,主診断が何かを明確にする必要がある。告知に関しては,診断を伝えるだけではなく,ポジティブな面も含めて理解を促し,多職種での支援・治療にしっかりとつながっていくようにする。支援・治療に関しては,筆者は広義の認知行動療法的手法や,ASDが主診断であればTEACCHの手法,ADHDが主診断であればコーチングの手法などを参考にして行っている。また生活の安定化のために,家庭以外の居場所づくりや,就労支援などのやることづくりが,とても重要であると考えている。
キーワード:発達障害,神経発達症群,ASD,ADHD,成人期

●成人期発達障害専門デイケアの取り組み
五十嵐美紀  横井英樹  小峰洋子  花田亜沙美  川畑啓  加藤進昌
 昭和大学附属烏山病院では成人の自閉症スペクトラム障害への支援を2007年より行っている。発達障害に対しては心理社会的支援が欠かせないため,発達障害専門外来と同時にデイケアを開設した。デイケアではコミュニケーションプログラムや心理教育を提供しており,開設7年間で登録者数は300名を超え,卒業生も多くいる。開設以来ニーズの高さを実感しているが,成人に対してデイケアを実施している医療機関はわずかしかない。しかしデイケアに参加する成人をたくさん支援する中で,何らかの変化や成長が見られ,本人だけでなくご家族への支援も同様に重要であることを強く実感している。本稿では成人期発達障害デイケアの取り組みとともにその広がりを目指した試みについて報告する。
キーワード:発達障害,自閉症スペクトラム障害,デイケア,プログラム

●発達障害者支援センターと上手にコラボレーションする
加藤 潔
 全国の都道府県・政令指定都市に設置されている発達障害者支援センターは,各地域における発達障害児・者支援の中核を担っている機関である。その業務は多岐にわたっているが,間接支援に回ることが多いため,連携の取り方については意外につかみにくい存在かもしれない。そこで,発達障害者支援センターの機能と役割について,筆者が平成26年3月まで所属していた札幌市自閉症・発達障がい支援センターおがるでの取り組みを交えながら説明し,上手にコラボレーションするための提案をしていきたい。
キーワード:発達障害者支援センターの機能と役割,上手なコラボレーション,研修,機関コンサルテーション,個別調整会議

●発達障害×働く×強みを活かす─企業の立場から就労支援を実施する─
藤 恭子
 Kaienは,発達障害者が強み・特性を活かした仕事に就き,活躍することを応援する企業である。職業訓練では,職場にふさわしいコミュニケーション方法を習得することや,自分に向いている・向いていない仕事を見つけることを大きな目的としている。就労支援の際に,診断名は重視しておらず,その方の特性(強み・弱みともに)がどのように仕事において活かせるかを重視している。今後,サービスの質を向上させていくためには医療関係者との連携が不可欠であり,同時に就労支援でできることと,医療ができることの役割分担を進めていくことも必須である。
キーワード:発達障害,就労支援,職業訓練,福祉と医療の連携

●事例検討:統合失調症と発達障害との鑑別が困難であった事例
事例提示  初瀬記史
コメント1  桑原 斉
コメント2  大嶋正浩
 統合失調症と発達障害との鑑別に苦慮をしている思春期事例を報告する。症例は,それまでの発達歴に明らかな異常はなかったものの,10歳時に成績の低下,11歳で不登校,17歳で暴力や自殺企図などの問題行動を呈するなどの変局点がありながら教育・医療のフォローを受けていた。注意・集中,遂行機能,状況認知などの低下と,短絡的・被害的な認知パターンに陥りやすく衝動的な問題行動を呈し易い特徴を有する一方で,幻覚妄想,体験症状,自我障害,対人的相互作用の質的な障害,反復的・常同的な行動様式などを明らかに特定する事は困難であった。
キーワード:統合失調症,発達障害,児童思春期

●当事者・家族の声:発達障害当事者として考える,コミュニケーションの重要性
ウイ・クアン・ロン
 こなすべき課題さえこなしていれば教えてもらえるべき事が自ずと教えてもらえた学生時代とは違い,社会人になったら自ら出向いて教えてくれる人を探す必要に迫られる。故に雑談を交わし親交を深める事は,社会人として必要なスキルを修めるために非情に重要な事である。成人期における発達障害当事者の問題は,正にこのコミュニケーション能力不足による社会人としてのスキル不足。主に非言語的コミュニケーション能力の先天的な不足によるものである。
精神科臨床サービス 14:431-434,2014


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