第1章 総論:住民の心の健康を支える地域精神保健 ●地域精神保健の歴史と現状
江畑敬介
米国の1人の精神障害者ビーアズ, C.は1908年に「A Mind That Found Itself」(『わが魂にあうまで』)を公刊し,精神衛生運動を開始した。精神障害者に対する処遇と治療を改善し精神疾患の予防を図る運動は,その後全米に広がり,さらに世界各国に普及し発展した。その精神衛生運動は,米国において1960年代に開花した地域精神医療の時代の底流となった。またわが国における精神障害者に対する処遇の歴史を見ると,(1)加持祈祷が中心の時代→(2)監護と治安に重点をおいた時代→(3)入院治療に重点をおいた時代→(4)精神障害者の人権に着目された時代→(5)福祉施策の対象としても位置付けられるようになった時代→(6)地域精神医療の時代への芽,として時代分類できるであろう。しかし時代的推移は一挙に完全に移行しているわけではなく,重層的に漸進的に移行している。
キーワード:ビーアズ,C.,精神衛生,精神保健,地域精神医療