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■特集 職場に戻るためのメンタルヘルス

第1章 総論
●職場復帰の現状と課題
玉井光
 メンタルヘルス関連休業者の復職に関する産業保健の現状と課題を概括した。企業のメンタルヘルス対策は総論的な体制整備から,各論的な個別対策へと移行しつつある。その中で各企業が対策に困難を極めているのが休業者の復職方法である。休業者の復職に際して,リハビリテーションが必要であるという認識は共有化されつつある。現在施行されているリハビリ方法は,就業前リハビリテーションと就業リハビリテーションの2種類である。前者は職場復帰準備には有効であるが,職場環境から離れたリハビリに終始するため,現実の職場での適応力を予測しがたい。今後は就業リハビリが主体になると予想されるが,就業規則の未整備,リハビリ中の身分の不安定,社内支援体制の未整備,事業所へのリハビリに関する専門的な助言・指導の不足などが課題と考えられた。

キーワード:復職,リハビリテーション,復職支援,メンタルヘルス,休業
●職場復帰支援の課題
秋山剛
 職場復帰支援については,「具体的な援助」「職場復帰準備性の評価」「精神科医と関係者の円滑な連携」「気質による個人差」「多層的な援助システム」の5つが,現在の重要な課題である。具体的な援助として,職場復帰援助プログラム,集団認知療法,患者への指導について述べた。職場復帰準備性の評価については,判断の基本,主治医の診断書,評価ツールについて報告した。精神科医と関係者の円滑な連携については,産業健康管理との連携,職場ストレスの検討,合同面接,リハビリ出社,上司への指導について説明した。気質による個人差については,気質が,対人関係に関する職場ストレスに非常に大きな影響を及ぼす。職場復帰支援については,多層的な援助システムが必要であり,精神医療関係者の努力が求められている。
キーワード:職場復帰支援,職場復帰援助プログラム,集団認知療法,職場復帰準備性,気質

●職場復帰支援プログラムの考え方
渡部真弓 田中克俊
 精神疾患により休業した労働者の職場復帰支援には,安全(健康)配慮義務の面からも,特に心理的負荷に対する脆弱性が認められる労働者に対する健康管理上の配慮には,より細かな観察と臨機応変な対応が必要であり,円滑な職場復帰を果たすためには適切な支援を行うことが必要である。  そのため,職場復帰支援に関するルール作りの手引きとして,平成16 年10 月に厚生労働省より発表された「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参考にしながら職場復帰支援プログラムやルールを策定し,そのルールに則った形で,労働者,管理監督者,主治医との連携を図りながら職場復帰支援に取り組むことが重要である。
キーワード:職場復帰支援,休職,うつ病,復職,精神障害者

第2章 各立場からの復職への工夫
●精神科担当の嘱託産業医の立場から
中川一廣
 精神疾患の復職審査は,精神疾患特有の問題,精神症状の改善と業務遂行能力との間の乖離,産業医と主治医の立場と遵守する法律の相違,結果が労働者の生活に直結等の理由で,産業医にとって重要かつ困難な業務である。厳しい経営環境の中でその業務を合理的に行うには,主治医の復職可能という診断書をそのまま受理するのではなく,疑問なことは主治医に質問し主治医の考えを理解することが必要で,精神疾患の改善の程度と発症前の職場の評価や適応(精神疾患発症の誘因の有無とその程度,発症前の業務負荷の程度,職場での役割等)が参考になる。  今後復職審査業務を円滑に行うためには,復職事例を通じて,産業医と主治医が互いの立場を尊重し,職場適応に必要な医学的情報を交換して,理解しあうことが重要である。
キーワード:復職審査,産業医,主治医

●主治医との連携,職場との連携 ―― 1つひとつの事例を大切に――
千葉陽子
 郵政公社は大きな変革の渦中にあり,精神科疾患で長期病休を取る職員は増加している。
 大きな組織故の柔軟性の欠如のために職場復帰が難航するケースも少なくないが,当社の事情を理解して復帰支援をしていただけるよう,事例の1つひとつを通じて地域の精神科臨床医との連携を深める努力をしている。
 また職場が復帰支援の主体としての自覚を持つためには,健康管理スタッフと職場の連携は不可欠である。1人の病休職員が職場の支援によって円滑に復帰できたとき,職場はそのサポート力を確実に増していく。
キーワード:主治医への手紙,復職支援委員会,職場主体の復帰支援

●休職中のメンタルヘルス不全者の職場復帰支援 ――産業看護職の立場から――
吉田靖子
 昨今,急激な職場環境の変化により職場のストレスは増強し,メンタルヘルス不全者の増加が目立つ。社員が遅刻や欠勤を繰り返す等,勤怠状況が悪いまま3〜6カ月が経過すると病状は悪化してしまい,その結果休職期間も長くなる。職場復帰に要する労力は,休職者のみならず関係者(職場の上司・総務人事担当)においても多大である。
 専属産業医不在の中で産業看護職としてメンタルヘルス不全者の職場復帰支援にどのように関わるのが良いか模索中であるが,関連部署との連携により,ようやく「リハビリ勤務」が定着しつつあるので,報告する。
キーワード:メンタルヘルス不全,職場復帰支援,関連部署との連携,リハビリ勤務

●精神疾患による休職者の復職支援 ――精神保健福祉士としての役割――
富永真己
 保健医療と福祉にまたがる専門職である精神保健福祉士の,事業所内における役割と活動に関し,嘱託の精神保健専門職の一員として実務者の視点から考察した。業務の主体となるケースワークとして面接・カウンセリングがあり,復職の可否を判断する復職判定の参考を目的にするものや,復職後の休職以前の状態に体調や就業状況が戻り安定する過程で再休職を防ぐための支援を目的とするものがある。また,ケースワーク業務以外の精神疾患による休職者の復職支援の関連業務として,事業所内の各専門職や関係者が適切に機能するよう,社内の復職支援システムの体系化と整備,事業場外資源との連携や事業主への安全配慮義務への協力がある。それらの組織的な支援において,専門職としての中立性,倫理性と客観性を併せ持つことが精神保健福祉士に望まれる。
キーワード:復職支援,精神保健福祉士,ケースワーク業務

●職場内での復職支援プログラム
小泉典章
 今日,職場環境の急激な変化に伴い,精神疾患による長期療休者や休職者は年々増加している。療休者と休職者の増加は,復職への支援の必要性を意味し,そのための職場内における復職支援プログラムをまとめたので,それについて報告する。「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に準拠した,職場復帰の段階に即し,休職・療養の開始と休職・療養中のケア,主治医による復職可能の診断書,職場復帰の可否評価と支援プラン作成,復職リハビリテーションと最終的な復職の決定,復職後のフォローについて解説した。さらに,どういった場合に職場の配置転換が適切かについても考察した。ことに,うつ病などの精神疾患の際の,職場復帰支援の過程での自殺予防に関しては細心の注意を払わなくてはならない。
キーワード:うつ病の回復,職場復帰支援,職場の配置転換,EAP,リワークプログラム

●外部EAPとしての復職向け及び復職後支援
佐久間万夫
 日本の労働力人口が減少に向かう中で各社社員の休職中,復職後の支援は大きなテーマになっている。しかし旧来型施策では限界が露呈し,外部EAP への依頼が増えている。各企業のニーズに本当に応えていくには現場即応型のEAP がソリューションと実感する。
キーワード:5人衆,ホットライン,ノンメディカル系,認知療法

●精神保健福祉センターにおけるうつ病復職支援デイケア
菅原誠 大滝京子 坂井俊之 野津眞
 精神保健福祉センターによる新たなうつ病への対策として,都立中部総合精神保健福祉センターではデイケアに復職支援専門の「うつ病リターンワークコース」を新設した。これにより従来からの就労支援デイケア「ワークトレーニングコース」と合わせて,統合失調症のみならず,うつ病休職者および離職者に対して幅広い支援を行えるようになった。復職リハビリテーションを行っている施設は少なく,休職者にとって休職期間中に受けられる訓練や支援の選択肢が限られていること,公的機関として主治医,事業場双方から中立な立場で支援を行えることなど,精神保健福祉センターがうつ病復職支援を行う意義は大きいと考えられた。開始4カ月時点でのコースの現況を示し,支援を行う中で得られた,Δ追詑狄者への就労支援の必要性,∋業場毎の復職支援プログラムの必要性,D拘休職者の抱えている問題などについて考察した。
キーワード:復職リハビリテーション,就労支援,うつ病,精神保健福祉センター,デイケア

●総合病院における復職に向けたリハビリテーション
岡崎渉 秋山剛 田島美幸
 精神疾患を有する企業社員の職場復帰は,産業精神保健分野における大きな問題になっている。NTT 東日本関東病院精神神経科では,会社を長期休務している企業社員を対象とした,職場復帰援助プログラムを実施している。プログラムの目的は,復職準備性の改善への援助,復職準備性への客観的評価を通して,職場に戻った際の再発の予防である。プログラムでは,リハビリテーション期にある参加者を,早く確実に安定期に移行できるように援助し,安定期に達したことを評価する基準を与える。また,\験茱螢坤爐硫善,∈邏版塾呂慮上,参加者同士の支え合いに対しての援助を行う。わが国においては,長期にわたり休務している企業社員への復職支援システムがまだ不十分なのが現状である。そのため,今後,様々な復職支援システムが,多層的に整えられることが,産業精神保健分野における重要な課題と考える。
キーワード:復職支援システム,職場復帰援助プログラム,作業療法,集団認知療法,評価表

●医療機関最前線のメンタルクリニックの復職支援に果たす役割
五十嵐良雄
 メンタルクリニックにおける現代的な役割として,通院する患者特性にあわせたサービス提供が重要である。若年層のうつ病が従来のメランコリー親和型と異なったものとなってきているとの指摘は多い。当院のデータからは若年層のうつ病が多く,うつ病で仕事を休職する率は3人に1人であるという現実をうけて,うつ病を対象とした復職支援デイケア(リワーク・カレッジ)を立ち上げた。リワーク・カレッジは,診察を通じてよりよく症状を改善させ生活リズムを取り戻した上で,デイケア施設のある虎ノ門まで通所することにより身体的・心理的負荷をかけて症状の安定度を観察し,復職段階では産業医や産業保健師と協力して職場における適切な処遇を作り出し,復職後は通院投薬ばかりではなく集団認知行動療法で再発を防ごうという医療モデルの復職リハビリテーションである。これらの経験をもととして,職場のメンタルヘルスに関するメンタルクリニックの役割を考察した。
キーワード:職場,メンタルヘルス,メンタルクリニック,復職支援,デイケア

●うつ病サラリーマンのための復職支援プログラム ――Back To Work キャリアサポートセミナー――
山口律子
 現在,障害者職業センターや医療機関,患者支援グループ等で,在職精神障害者のための職場復帰支援プログラムを行っている。  ここでは,民間の気分障害支援団体(MDA :Mood Disorders Association :うつ・気分障害協会)における職場復帰に向けた就労支援プログラム(Back To Work キャリアサポートセミナー:BTW )を紹介する。
キーワード:QWL,再発予防,ライフキャリア,メンター効果,家族心理教育

第3章 疾病別対応――復職と就労継続への支援
●うつ病の職場復帰支援について
尾崎紀夫
 うつ病に罹患し休務した勤労者を,十分に社会復帰できるように治療,援助することは,精神科臨床医と職場が直面している大きな課題である。臨床的には,心理社会的配慮として,認知行動療法的な視点での加療と再発予防上の心理教育的視点が重要である。また薬物療法においては,再発予防効果を考慮し職場復帰後も副作用に留意しながら向精神薬の維持治療が必須である。
 職場における配慮として,復帰に際しどの職場に戻るかという点に関しては,原則はもとの職場への復帰であるが,ケースによっては適切な配置転換も考慮する必要がある。職場復帰支援制度としてはリハビリテーション出勤があげられるが,その運用には就労者自身と事業者が本制度を十分に理解した上で実行に移す必要がある。また,段階的に就労負荷を増加させることで,再発に留意しながら本人の達成感を回復させる復職支援プログラムを活用しており,今後,その有用性の検証が待たれる。
キーワード:うつ病,職場復帰,産業精神衛生,リハビリテーション,治療

●躁うつ病 ――うつ病との相違点を中心に――
広瀬徹也 橋本光則
 気分障害の復職支援ではうつ病について述べられることがほとんどであるが,躁うつ病の躁状態が軽率な行動や攻撃的態度・行為によって職場にもたらす精神的,経済的損失は相当なものであり,それが躁うつ病を病む勤労者の復職を困難にしている事実を忘れてはならない。また,躁状態,うつ状態と対照的な状態を繰り返すと,どれが本来の状態かが周囲には分からなくなり,彼等を戸惑わせ,信用をなくす一因となる。
 病相を繰り返す頻度が高いことも復職を難しくするので,気分安定薬の長期間にわたる適正な使用によって再発を可及的に防ぎ,たとえあってもmood swing 程度の気分変動に留まることを目標にしていく。再発防止には初期兆候の発見に家族,特に配偶者の協力は不可欠であり,彼らを病院外の主治医とみなし,その意見を尊重するよう患者,家族に説く必要がある。復職を困難にする集中力低下にはリワーク・プログラムが役立つ。
キーワード:躁状態,攻撃性,信用失墜,気分安定薬,配偶者

●復職と就労継続への支援 ――統合失調症――
岩田俊 中澤正夫
 持続的にかかわっている自験例をもとに,就労継続を援助するうえでの問題点と,復職の際の留意点を述べる。
 統合失調症はいろいろな治り方をするし,患者の復職・就労過程は多岐にわたる。臨床医は,病後早期から一般就労に耐えられる人もいることを前提に,就労における精神科リハビリテーションを模索しなければならない。そのうえでもっとも重要なことは,目の前の課題の成否よりも,長期的な観点から患者が「この時期」にどのような対処技能を身につけることが人生を豊かにする機会になるのかを,ともに考えて援助することだと考えられる。
 最近の傾向としては,障害受容を前提にジョブコーチや「障害者枠」での就労が定式化されている。もちろん,こうした就労コースの確立は重要なことであるが,現在のわが国の普及状況では,日常臨床に応えるにはとても間に合わないことが,本テーマが与えられた背景であろう。
キーワード:統合失調症,復職,精神科リハビリテーション,就労支援

●アルコール依存症者に対する職場復帰支援
廣尚典
 アルコール依存症の労働者が復職し,職場再適応していく過程で,精神科主治医に求められる支援のあり方をまとめた。
 主治医は,当該労働者本人に対して,断酒継続のための働きかけを行うと同時に,本人の承諾のもとに,職場内の産業保健スタッフ等と連携を保ち,職場において留意されるべき事項,就業面で配慮が望ましい点などについて,具体的な情報交換を行うべきである。
 労働者の復職支援には,職場環境の調整をはじめとして,臨床の場では困難な側面があり,アルコール依存症例においても,円滑な復職,職場再適応を実現するために,臨床と産業保健との継続的な連携が重要である。特に他の精神疾患等の併存がみられる場合には,その必要性が高いといえる。
キーワード:アルコール依存症,職場復帰,メンタルヘルス,職場再適応,産業保健

●適応障害患者の職場復帰
亀山知道
 職場適応障害の3症例を呈示し,職場復帰に当たっての要点を述べた。適応障害は,初期の段階での確実な診断と適切な対処が重要な疾患であること,そのために,治療者は患者の職場のストレス状況を正確に把握するだけでなく,早期発見のため職場の管理者教育にも力を注ぐ必要があること,さらに,治療者は職場環境の調整に積極的に踏み込む必要があることを述べた。また,症状が遷延し,こじれた症例では,2次的に対人関係がぎくしゃくし,悪循環になっていることが多いので,悪循環を良循環に変えるような働きかけが重要であることを指摘した。
キーワード:適応障害,職場復帰,メンタルヘルス


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