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展望
●精神科薬物治療が睡眠に与える影響
福井直樹  染矢俊幸
 精神疾患に不眠は高頻度で認められ,その不眠が,精神疾患の再発・再燃のリスク因子になることや,直接,社会機能や認知機能の低下に関係することも知られている。また,身体的にも様々な影響があるとされ,とくにメタボリックシンドロームのリスクになることも報告されている。したがって,精神疾患に伴う不眠に適切に対応することが求められている。そのための精神科薬物治療の向上には,睡眠に関する研究のさらなる蓄積が必要である。実際の臨床では,①精神疾患そのものと関連する睡眠変化,②治療に用いられる向精神薬と関連する睡眠変化,この両者が複雑に絡み合った状態を観察していることになる。よって臨床研究においても,睡眠評価法として確立されている終夜睡眠ポリグラフィの利用に加え,診断,症状・副作用評価,用法・用量の設定,薬物血中濃度,併用薬など臨床精神薬理学の視点に立ったデータ収集と解析が重要である。
Key words : psychiatry, medication, sleep, polysomnography

特集 精神疾患における睡眠覚醒障害とその治療
●統合失調症における睡眠障害とその治療
小鳥居 望  内村直尚
 統合失調症において,睡眠障害は病期を問わず高頻度に生じる重要な症候である。ポリグラフ所見に関しては,徐波睡眠の減少という古典的な所見に加えて,近年スピンドルの減衰という重大な所見が加えられた。これらのエビデンスは,昨今明らかになっている統合失調症の分子機構の異常や脳形態異常と接点をもち,その点が線になりつつある。さらに,これらの神経生理学的変化は単に病態を反映するだけでなく,統合失調症の主要な要素にも反映されることが明らかとなってきた。具体的には,徐波睡眠の減少やスピンドルの減衰は認識機能障害と相関の関係にあり,統合失調症における記憶固定に極めて重要な役割を演じる。逆に言えば,これらの睡眠障害を治療することは,その中核症状の改善にも寄与する可能性があるため,統合失調症患者において重大な治療ターゲットといえる。この総説では,統合失調症の睡眠異常について紹介し,脳の形態異常や高次脳機能に関する知見との関連性,および薬物治療がもたらす可能性について概説する。
Key words : schizophrenia, sleep, spindle, slow wave sleep, antipsychotics

●うつ病における睡眠覚醒障害とその治療
亀井雄一
 うつ病では,様々な睡眠覚醒障害が高率に併存する。睡眠覚醒障害は,うつ病発症のリスクを高め,うつ症状に先行して出現し,患者のQOLや認知機能などの症状を悪化させ,治療反応性や長期予後などに大きな影響を与える。また,うつ病治療に用いられる薬剤によっても睡眠障害は惹起される。さらに,うつ病が寛解した後にも不眠症状が残遺することも多い。従来うつ病に伴う不眠症状は,うつ病を治療することによって不眠症状も改善すると言われていた。しかし,併存する睡眠覚醒障害を適切に診断・治療することにより,うつ病治療効果を向上させることが期待でき,不必要な睡眠導入薬などの使用も防ぐことができる。うつ病診療において,積極的な睡眠覚醒障害への対処が望まれる。
Key words : sleep-wake disorders, major depressive disorders, comorbidity, cognitive behavioral therapy

●双極性障害における睡眠障害と概日リズム障害の病態とその治療について
北川 寛  北市雄士  久住一郎
 双極性障害(BD)では躁病相・うつ病相だけでなく,寛解期においても睡眠障害と概日リズム障害を認める。特に寛解期に残存する睡眠障害や概日リズム障害が再発リスク,認知機能障害,Quality of Life(QOL)の低下,自殺のリスクと関連することから,BDの治療における睡眠障害・概日リズム障害の重要性が認識されつつある。本稿では,BDにおける睡眠障害・概日リズム障害について各病相別に概説した後,これらが認知機能や予後に及ぼす影響,その生物学的基盤,有効と思われる治療について紹介する。
Key words : bipolar disorder, sleep-wake disorder, sleep disorder, circadian rhythm disorder

●不安症における睡眠覚醒障害とその治療
山田 恒  本山美久仁  松永寿人
 不安症と睡眠覚醒障害の併存は臨床的に頻繁に認められ,両者は密接な関係を持ち,相互に影響し合う。個々の不安症によって睡眠覚醒障害の内容は様々であるが,不眠は,脳内の前頭前皮質と扁桃体との神経回路に影響し,不安への反応を増幅している可能性が示唆されており,見過ごしてはならない。また,不安症に併存しやすいうつ病の存在が睡眠覚醒障害に影響している可能性は常に考慮すべきである。これまではベンゾジアゼピン系薬剤が不眠に対して使用されてきたが,長期使用で依存,離脱,記憶および精神運動障害のリスクが上昇することにより,現在,使用は推奨されていない。不安症に伴う睡眠覚醒障害に対しては,不安症自体の治療を行うことと睡眠衛生指導および睡眠障害に対する認知行動療法が基本的には推奨される。不安症の治療に使用される抗うつ薬には,睡眠に対して悪影響を及ぼす場合があり注意が必要である。
Key words : anxiety disorder, sleep disorder, sleep related problem, insomnia

●認知症における睡眠覚醒障害とその治療
水上勝義
 認知症は睡眠覚醒障害の発現率が高い。アルツハイマー病(AD)では,夜間の中途覚醒と日中の午睡の増加が多い。レビー小体型認知症(DLB)はAD以上に睡眠覚醒障害の頻度が高い。DLBは日中の過度の眠気や睡眠呼吸障害も多く,夜間不眠時の行動障害が強い。レム睡眠行動障害もDLBに特徴的である。ADやDLBの睡眠障害の生物学的要因としてサーカディアンリズムに関与している視索上核機能やメラトニンレベルの影響,さらにはアセチルコリン系やオレキシン系の機能低下などが考えられる。血管性認知症も高率に睡眠障害を認める。とくに大脳白質の変化が強い例や大脳皮質を巻き込む大血管の梗塞で睡眠障害が強い。認知症の睡眠障害に対する薬物療法のエビデンスは乏しい。このため日中の活動を高めるなどの非薬物療法が基本となる。薬物療法を行う際は個々の例でリスクとベネフィットを検討し,安全性を考慮して行うことが重要である。
Key words : dementia, sleep disturbance, therapy

●注意欠如・多動症における睡眠覚醒障害とその治療
岡田 俊
 本稿では,注意欠如・多動症(ADHD)において併発することの多い睡眠障害について,その病態と治療に関するエビデンスを概説した。ADHD患者では時計遺伝子の単一ヌクレオチド変異が見られ,睡眠障害とADHD症状との間に相関が見られるなど,病態上の結びつきが認められる。また,メラトニン分泌の遅延,ナルコレプシーとの併存も示唆される。ADHD治療薬であるmethylphenidateは,総睡眠時間の短縮,睡眠潜時の延長,睡眠効率の低下をもたらし,atomoxetineは睡眠潜時の短縮,総睡眠時間の延長がもたらされる。ADHDに併存する睡眠障害に対しては,melatonin,clonidine,L-テアニンの有効性が示されている。日中の過度な眠気は,ADHD様の症状をもたらしうるし,レストレスレッグスや睡眠関連呼吸障害についての除外診断を適切に行うことも大切である。
Key words : attention-deficit/hyperactivity disorder, sleep disorders, pharmacotherapy

●物質関連障害における睡眠覚醒障害とその治療
遠山朋海  樋口 進
 物質関連障害における睡眠覚醒障害は物質の種類,進行度,使用時期,重複障害を考慮しなければならないため複雑である。2002年の10ヵ国調査によると,日本では不眠に対して医療機関を受診する割合が8.0%と低く,飲酒する割合が30.3%で最も高かった。アルコール関連の睡眠障害は主に不眠であり,36〜72%に合併している。断酒または飲酒量低減の治療目標達成6ヵ月後でも33%に不眠が残存する。不眠症に対する認知行動療法は効果が長く続き,処方薬乱用防止の点からも第1選択である。しかし,認知行動療法の効果が現れるまでの数週間は薬物療法が補助となる。Gabapentin,trazodone,quetiapine,acamprosate,topiramateなどの潜在的有効性が検討されている。不眠と断酒継続の成否について,平均5ヵ月間の再飲酒率は不眠症合併群では59.6%,非合併群では29.6%であり,不眠は物質関連障害の再燃リスク因子である。
Key words : alcohol, cannabis, opioids, cocaine, insomnia due to drug or substance

原著論文
●成人部分てんかんに対する levetiracetam 長期単剤療法の有効性と安全性──多施設共同無作為化非盲検第3相試験──
兼子 直  吉田克己  越阪部 徹  中津智裕
 新たに又は最近てんかんと診断された部分発作を有する日本人成人患者にlevetiracetam(LEV)を単剤投与する多施設共同無作為化非盲検第3相試験の結果を解析し,LEV単剤療法の長期有効性と安全性を評価した。LEV 1,000〜2,000mg/日群の最終評価用量での1年間発作消失患者の割合は59.0%(36/61例),3,000mg/日群でも発作消失例が認められた(11.1%,1/9例)。有害事象発現率は全体(71例)で95.8%(68例),多くが軽〜中等度であった。LEVと因果関係が否定できない有害事象は全体で63.4%(45例)に発現し,主な事象は傾眠33.8%(24例),倦怠感5.6%(4例),浮動性めまい4.2%(3例)と既知のものであった。LEV単剤療法は,新たに又は最近てんかんと診断された日本人成人患者の部分発作に対し少なくとも1年間有効性が維持され,長期安全性も良好である可能性が示唆された。
Key words : levetiracetam, antiepileptic drug, epilepsy, monotherapy, partial seizure


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