●Haloperidolの静脈内投与と心臓突然死
川上宏人
Haloperidolは国内において静脈内投与が承認されている唯一の抗精神病薬であり,その非経口投与(静脈内・筋肉内投与)は精神科急性期の現場だけでなくせん妄の治療にも用いられている。Haloperidolは呼吸や血圧への影響が少ないため,その非経口投与は比較的安全と考えられてきたが,静脈内投与や高用量での使用によりQT延長やTorsades de Pointesを発生させた報告が多く見られたため,2007年に米国FDAはhaloperidolの静脈内投与に関しての警告を発している。本稿では,haloperidol静脈内投与とQT延長やTorsades de Pointesとの関連について検討し,近年の臨床現場においてhaloperidol非経口投与がどのような位置づけにあるのかについて考察した。
Key words : parenteral, haloperidol, sudden cardiac death, Torsades de Pointes, QT prolongation
●持効性注射製剤と統合失調症患者の死亡リスク
八重樫穂高
近年,統合失調症患者の死亡リスクについての大規模な検討が次々となされ,治療評価の重要なアウトカムの1つとして重視される流れが生まれてきている。本稿では統合失調症患者の持効性注射製剤(LAI:Long Acting Injectable Antipsychotics)に関連した死亡リスクについて検討した。大規模研究では抗精神病薬非投与群の高い死亡リスクが指摘されており,抗精神病薬の継続が死亡リスクを減少させるとすれば,LAIによって治療継続性を高めることが死亡リスク減少に繋がる可能性がある。現在,LAIと死亡リスクについての研究はほとんどなく,治療継続性の向上によるメリットと,LAIの特性が引き起こす可能性があるデメリットの両面について,死亡リスクに関する検討が求められる。また,LAIの使用ガイドラインや研修制度の整備,各種モニタリングのマニュアル化なども今後の課題である。
Key words : schizophrenia, mortality, long acting injection, depot, antipsychotics
●抗精神病薬によるQTc延長と突然死
堀 輝 村岡秀崇 中村 純
新規抗精神病薬がわが国でも次々に上市され,統合失調症薬物療法の選択肢は大きく広がった。新規抗精神病薬は安全性の高さが期待されているが,Rayらは,2009年にNew England Journal of Medicine誌に新規抗精神病薬は従来型抗精神病薬と比較して心臓突然死のリスクは変わらないと報告した。この報告は,安全性が高いと考えていた臨床医にとっては衝撃的な報告であった。その後も様々な報告や,各抗精神病薬によるQTc延長作用の違いなどが報告されている。しかし,実際にQTc延長や突然死のリスクは決して多い副作用ではないが,致死的な影響を及ぼすこともあるため見逃すことはできない。本稿では,抗精神病薬によるQTc延長,およびその危険因子,それぞれの抗精神病薬のQTc間隔に与える影響および必要な心電図のモニタリングの頻度についてまとめた。
Key words : antipsychotics, QT prolongation, sudden death, torsades de pointes, monitoring
●統合失調症患者におけるメタボリックシンドロームと心臓突然死
三澤史斉
統合失調症患者の生命予後は一般人口と比べて悪く,その死因の大部分は心血管系疾患によるものと言われている。その中で,メタボリックシンドロームは心血管系疾患および心血管系疾患死のリスクを上げるため,その対策は統合失調症治療においても非常に重要である。しかし,統合失調症患者は一般人口よりメタボリックシンドロームの有病率が高く,その理由として,運動不足,不健康な食生活,そして高い喫煙率といった生活習慣,抗精神病薬治療,さらには統合失調症の疾患自体の影響が考えられている。したがって,統合失調症患者の生活習慣を改善し,適切な抗精神病薬を選択し,そして適切なモニタリングおよび身体的治療を行うなどメタボリックシンドロームへ対応することによって,統合失調症患者の生命予後を上げていくように取り組んでいかなければならない。
Key words : schizophrenia, metabolic syndrome, cardiac sudden death, life style, antipsychotics