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展望
●抗うつ薬の効果反応予測─早期反応の観点から
中島振一郎
 臨床現場において抗うつ薬の変更は日常的に行われている。しかし,抗うつ薬が反応しないことを判定し次の抗うつ薬へ変更すべき時期は未だ不明である。抗うつ薬に対する治療反応を予測する因子には,抗うつ薬への早期転帰がある。これに基づき,早期に改善を認めないうつ病患者に対して抗うつ薬を変更することは治療選択肢の1つかもしれない。
Key words : major depressive disorder, antidepressant, prediction, early nonresponse, switching

特集 抗うつ効果の予測と最適な薬物選択─実用的マーカーの探索─
●遺伝子マーカーによる個別化治療の可能性と課題
加藤正樹
 目の前で苦しんでいる患者に対して,臨床家はこれまでの経験に基づいた主観的なさじ加減で治療薬を選択し効果不十分,副作用などのリスクを負いながら投与するのが一般的であり,今後,個々の症例に対して適切な治療を判断できる指標が求められている。治療反応性の個人差の背景として,遺伝子背景の相違による影響が考えられ,それぞれの患者で異なる遺伝子多型に基づく適切な治療薬の使いわけを目指したアプローチがあり,これらの仮説に基づいた研究を薬理遺伝(pharmacogenetics:PGx)研究という。客観的評価指標,バイオマーカーがほとんど存在しないうつ病治療において,遺伝子を臨床で使用可能な個別化治療マーカーにしたいという研究家は熱意をもってあらゆる視点から研究を継続している。本稿では,PGx研究の現状と課題を概説し,遺伝子マーカーの臨床での有用性がイメージできる研究に触れ,PGxの可能性についても展望したい。
Key words : pharmacogenetics, depression, predictor, individualized treatment, polymorphism

●気質が気分障害の臨床的特徴と治療反応性に与える影響について──循環気質と発揚気質に焦点を当てて──
三原一雄  甲田宗良  中村明文  近藤 毅
 気質に基づく双極スペクトラムの概念が提唱されて以来,気質と気分障害の臨床的特徴との関連が注目を浴びている。循環気質を有する反復性うつ病では,発症年齢が低く精神病症状を呈しやすく,双極性障害の家族歴が多い。うつ状態を呈した児童思春期症例では,循環気質高感受性群でうつ病から双極性障害と診断が変更される症例が多く,より双極性障害を示唆する臨床的特徴を有している。発揚気質を有する双極性うつ病では抗うつ薬による躁転のリスクが高い。双極スペクトラムの寛解率はlithium(Li)で高く,SSRIはその低下と関連している。双極Ⅳ型2例と双極Ⅱ1/2型2例がquetiapineで寛解に至った報告や,双極Ⅳ型2例がvalproic acid(VPA),Liが有効であった報告がある。よって,循環気質および発揚気質を有するうつ状態の症例は双極性障害と関連が深く,Li,VPAあるいは気分安定作用を有する非定型抗精神病薬が効果的である可能性が示唆されている。
Key words : soft bipolarity, temperament, cyclothymia, hyperthymia, therapeutic response

●抗うつ薬の副作用をどう予測するか?──向精神薬の副作用予測研究を踏まえて──
田尻美寿々  鈴木雄太郎
 うつ病治療において,抗うつ薬は大きな役割を占めるものの,SSRIなどの抗うつ薬使用で出現する嘔気や性機能障害などの副作用は,いまだに患者のアドヒアランスを低下させる大きな問題である。統合失調症治療において抗精神病薬を選択する場合,それぞれの抗精神病薬の副作用profileの違いを考慮して薬剤選択を行っているが,抗うつ薬の副作用profileについては抗精神病薬ほど明らかな薬剤間差は存在しないものの,副作用profileを考慮することは重要である。本稿では,抗うつ薬の副作用における薬剤間差や副作用を予測する遺伝的要因,非遺伝的要因についてこれまでの知見を概説する。また,最近では抗うつ薬によるQT延長が注目されているが,この副作用は患者が自覚症状としてとらえることはないが,場合によっては致死性不整脈を引き起こすことがあるため,治療者側が十分に注意を払うべきである。しかし,薬剤間差を含めて詳細は明らかでないため,当施設で行っている研究の一部を紹介しながら抗うつ薬によるQT延長について考えてみたい。
Key words : antidepressant, predictor, side effect, SSRI, QT prolongation

●臨床症状による抗うつ薬の治療反応予測
櫻井 準  内田裕之
 日常の診療で評価できる臨床症状に焦点を当て,抗うつ薬による治療反応の早期予測についてまとめる。従来,抗うつ薬の効果発現は2〜3週以上かかると考えられてきたが(遅発性仮説),近年のメタ解析などは,抗うつ薬の効果が1〜2週で現れることを示している(早発性仮説)。ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)やモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)の総点が2週で20%改善すると,最終的に反応や寛解へ至りやすい。一方2週でMADRS総点が20%改善しなかった患者は,抗うつ薬を変薬することでより良好な予後をたどった。STAR*D試験の再解析研究では,2週後までの中核症状の改善や,開始時における主観的評価の高さが,有意に寛解を予測した。自己記入式の簡易抑うつ症状尺度(QIDS-SR16)は簡便で利用価値が高く,臨床的に有用なツールである。
Key words : major depressive disorder, antidepressant, early prediction, clinical symptom, remission

●抗うつ薬の反応性マーカー──血中脳由来神経栄養因子(BDNF)からの反応性・再発予測は可能か──
吉村玲児  中村 純
 脳由来神経栄養因子(BDNF)は,その主な受容体であるTrkB受容体に結合することにより,記憶・認知や遂行能力と深く関連している。本稿では,このBDNFの血中濃度が抗うつ薬反応と関連するか検討を行った。血中BDNFはうつ病ではstate markerとして有望であるが,感度・特異度に問題がある。残念ながら,血中BDNF単独では,反応性予測は困難であった。他のバイオマーカー,画像所見,遺伝情報や臨床症状などを組み合わせた研究を進める必要がある。
Key words : antidepressant, biomarker, brain-derived neurotrophic factor

●うつ病の炎症性仮説と抗うつ薬治療
高橋一志  鈴木枝里子  末木亮嗣  石郷岡 純
 サイトカインの一種であるインターフェロンの人への投与により高率にうつ症状が惹起されること、慢性の炎症性変化がその病態の背景として考えられている糖尿病、心血管障害、癌などにはうつ病の合併が多いこと、うつ病の存在が喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患の予後に悪影響を与えることなどの臨床的報告がなされるようになり、気分障害の発症に免疫系のシステム異常が関与する可能性が示唆されてきている。本稿では、インターフェロンの投与がモノアミンに対してどのような影響を与えているかを考察の中心として、神経免疫学的観点からうつ症状はどのように解釈出来るのか、抗うつ薬の治療効果はどのように説明出来るのかについてその概略を述べてみたい。
Key words : cytokine, depression, interferon, serotonin, dopamine

●fMRIを用いた抗うつ薬の治療反応予測について
菊地俊暁
 うつ病における抗うつ薬の治療反応を予測する因子としては,現段階ではうつ病の重症度や非定型性の有無,また不安障害の合併などの臨床的な特徴が報告されているが,バイオマーカーとして確立されたものは存在しない。近年になり,治療反応を予測するために脳機能画像を中心とした神経イメージングを活用する試みが行われてきた。機能的MRIによる治療反応の予測としては,良好な反応を予測する領域として前帯状回や前頭葉眼窩面などの報告があり,一方反応不良の予測には線条体領域などが報告されている。ただし一貫した結果が得られているわけではなく,研究の問題点や限界があることは否めない。それらの限界を補うためには課題や条件の設定,ならびに複数の方法を使用するといった方法が考えられる。患者にとって有益となる可能性があり,今後のさらなる発展が期待される分野である。
Key words : treatment response, prediction, antidepressants, fMRI, anterior cingulate cortex

原著論文
●精神科領域におけるmemantineの臨床的意義について──9症例の知見から──
深津孝英  山下功一  松平千秋  野口貴弘  加藤豊文  兼本浩祐
 コリンエステラーゼ阻害薬にない心理行動異常(BPSD)への効果が期待されるmemantineの臨床的意義について検討した。精神科でBPSDの治療を必要とした9症例〔68〜90歳,アルツハイマー型認知症(AD)5例,血管性認知症+AD 1例,レビー小体型認知症1例,特定不能の認知症2例〕でmemantine投与前と投与2ヵ月後のNeuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI-Q)または,NPI Nursing Home(NPI-NH),Mini-Mental State Examination(MMSE)を比較検討した。その結果,1例は肝機能障害により中止した。他の8例全例でNPIの総合点と介護負担度は軽減した。MMSEは5例で改善を認めた。9例中5例で医療保護入院を必要としたが全例退院となった。よってmemantineは,抗精神病薬に比べ副作用が少なく,BPSDおよび介護負担の軽減に寄与することが示唆された。
Key words : behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), Alzheimer's disease (AD), dementia with Lewy bodies (DLB), memantine

●抗うつ薬で誘発される性機能障害に関する検討
佐藤晋爾  高尾哲也  袖山紀子  朝田 隆
 抗うつ薬の副作用の1つに性機能障害があるが本邦での検討は少ない。今回,総合病院心療内科・精神科外来を受診した男性患者のうち,原病が寛解状態と考えられ,抗うつ薬内服開始後少なくとも1ヵ月以上経過しているものを対象とし,性機能障害の有無について検討した。その結果,全対象72例(平均年齢45.6歳)中,性機能障害を認めたのは10例(13.9%)だった。性機能障害の有無で診断,罹病期間,現処方の内服期間,imi-pramine換算量,身体疾患,喫煙の有無,飲酒歴に有意差を認めなかった。関与が疑われた薬剤はparoxetine 5例/19例(26.3%),amitriptyline 2例/7例(28.6%),sertraline 1例/5例(20%)だった。従来の報告と同様にparoxetineに性機能障害の出現頻度が高かったが,他剤にも関与が疑われるものがあり,今後のさらなる検討が必要と考えられた。
Key words : antidepressant, sexual dysfunction, paroxetine, SSRI

症例報告
●Blonanserinの追加投与により早期改善を認めた難治性・反復性うつ病の3症例──1年後の経過と無効例を含めて──
青嶌和宏
 一般精神科外来でのうつ病治療は,限られた時間で問題点を抽出し,適切な薬物選択にて治療する場合が多く,抗うつ薬の増量や種類変更でも反応しない難治性うつ病では第2世代抗精神病薬を追加投与する「augmentation(増強療法)」を行うことがある。ドパミンD2/D3受容体およびセロトニン5-HT2A受容体選択性が高く,antagonistとして作用するblonanserinは,第2世代抗精神病薬の中ではうつ病治療のaugmentationに適している受容体結合プロフィールを有していると考えられる。今般,ワコウクリニックを受診したうつ病患者8例にblonanserinを追加投与し,反復傾向の強い3例で早期にうつ症状改善を経験したので報告する。また,追跡可能な患者は1年後の状態も観察したので,これらの臨床経験を踏まえ,難治性うつ病患者に対するblonanserinの効果・安全性を考察する。
Key words : blonanserin, treatment-resistant depression, augmentation, combination, atypical antipsychotic

●SSRI/SNRI投与後に賦活症状によるものと考えられる自殺念慮・自殺行動が出現した5症例の検討
笹田 徹  田中 究  菱本明豊
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)およびセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)服用後に,賦活症状が出現し,急激な自殺念慮・自殺行動に至った5症例を経験した。いずれの症例も初診時は前医にて「うつ病」と診断され,SSRIないしはSNRIを処方され,賦活症状が出現した後に当科を受診した。平均年齢は30.0±17.0歳,全例女性で,4名は20歳台(うち25歳未満3名)であった。抗うつ薬を服用後平均8.8日で賦活症状によるものと考えられる自殺念慮・自殺行動が出現した。投薬された抗うつ薬はsertraline 3名,paroxetine,fluvoxamine,milnacipran 各1名であった。自殺行動として自殺未遂4名(飛び降り3名,縊首1名),自殺念慮1名を認めた。いずれの症例も,抗うつ薬中止後に賦活症状および自殺念慮・自殺行動は速やかに消退した。当科受診後,5名のうち4名が診断を変更された。1名は大うつ病性障害と診断されていたが,Ghaemiらの提唱する双極スペクトラム障害と考えられた。SSRIやSNRIを投与する際には,適切な診断および精緻な経過観察が必要と考えられた。
Key words : activation syndrome, antidepressant, SSRI, SNRI, suicidal behavior

●超音波診断装置を用いた持効性抗精神病薬注射剤を中臀筋に確実に投与するための工夫:注射部位反応の2症例,血液の逆流1症例を通して
酒巻咲子  趙 岳人  安原由子  元木一志  高瀬憲作  阿部裕子  宮崎賢三  谷岡哲也
 非定型LAI(持効性抗精神病薬注射剤)の登場により,従来の定型LAIを含むLAI治療の有用性が見直され,服薬中断による再燃・再発の防止,病状安定によるQOL向上効果が期待されている。しかし,筋肉注射には薬物による副反応と手技不良による血管や神経の損傷という課題がある。本報告では超音波診断法を用いて症例を観察した。症例1は定型LAI投与部位で表皮から約15.0mmの筋膜下に硬結が確認された。症例2は非定型LAI投与部位周囲で硬結が確認された。症例3は注射針刺入時に血液の逆流がみられた症例で,臀部筋肉注射部位付近の表皮から39.5mmの部位に動脈性の拍動が確認された。注射部位の正確な特定と皮下脂肪厚の正確なアセスメントは,血管創傷と注射部位反応の予防のために重要である。予防策として,同一部位への刺入回避,刺入深度と角度の考慮も重要であり,超音波診断法,注射手技のセミナーや実技指導を行うのも一法であると考えられた。
Key words : ultrasonography, long acting injection, gluteal medius muscle, injection site reactions, blood solution back-flow

総説
●Clozapineのより具体的な適応症例:治療抵抗性統合失調症の評価に際して
金原信久  鈴木智崇  伊豫雅臣
 Clozapineが「治療抵抗性統合失調症」患者への有効な治療法として本邦でも認知され,その臨床経験は確実に増えてきている。血液モニタリングを駆使し重篤な副作用に注意すれば,各患者の治療全体へのメリットは大きい。しかし実臨床で患者が呈する臨床像は,非常に多彩であり,経過と共に病像も変化する。また患者や家族が持つclozapine治療へのイメージも様々である。そのためclozapineの導入に際し,多面的な評価や患者・家族側への説明にも十分な配慮が必要である。一方で肝心の「治療抵抗性統合失調症」の診断基準は操作的で,ある側面への偏重も指摘される。非常に複雑かつ変化の大きい統合失調症症状全体を丁寧に観察し,最も大きな治療効果を引き出すには,現在の診断基準の問題点と効果が期待される症状ドメインに精通しておくことが極めて重要である。
Key words : clozapine, deficit syndrome, dopamine supersensitivity psychosis, schizophrenia, treatment-resistant


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