●児童精神科に必要な診断・評価スケールの現状と課題
宇佐美政英 岩垂喜貴
近年,子どもの不登校,発達障害,虐待などの問題に関する社会的注目が高まっており,児童精神科を受診する児童数も急増している。しかしながら,発達障害を中心とした子どもの精神医学的診断の不確定さに関する問題と,向精神薬による薬物療法の是非をめぐる問題が懸念されている。このような現状を踏まえて,本稿では我が国の児童精神科臨床の現状と,児童精神科領域における診断・評価ツールの必要性について,子どもの睡眠の質に関する評価スケールであるThe Japanese version of Children Sleep Habits Questionnaireと,子どもの生活機能に関する評価スケールであるQuestionnaire-Children Difficultiesの2つのスケールを用いたコミュニティ・サンプルの調査結果を示した。これらのコミュニティ・サンプルを対象とした評価スケールの結果から,子どもの精神症状や生活能力が年齢や性別によって流動的であることが明らかとなった。児童・思春期特有の精神障害,特に発達障害の診断概念の確立とともに,その臨床症状の推移を子どもの成長と共に評価することは,児童・思春期において診断学的にも治療論的にも極めて重要である。抑うつや不安,多動や固執などの精神症状の評価だけでなく,朝の身支度,学校生活,放課後の様子,などの子どもの生活機能についても定期的に評価すべきである。精神症状だけでなく,生活機能についてもスケールを用いて評価していくことは,子どもとその保護者に分かりやすく治療の意義を説明する助けとなり,その治療意欲の向上にも繋がるものと期待される。
Key words : child, psychiatry, questionnaires, assessment tool
●日本における適応外薬・未承認薬の現状と課題
伊藤 進 小西行彦
小児薬物療法における適応外薬・未承認薬の歴史と,それらの医薬品の現状を紹介し,新しい治験の枠組みとしての日本医師会治験促進センターの関与による「医師主導治験」およびこの問題解決のための現状と課題について総説した。この問題の解決は,厚生省科学研究費(現在,厚生労働省)による班会議が原動力になり,それを日本小児関連学会の薬事委員,日本小児科学会薬事委員および日本小児臨床薬理学会運営委員などの方々が協力して,行政により作られた会議(「小児薬物療法検討会議」・「未承認薬使用問題検討会議」→「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」)によりなされてきた。しかし,小児薬物療法に関係する方々が日本には多くの小児の適応外薬・未承認薬があり日常診療で常に使用していることを認識し,問題意識をもってこれらの医薬品を添付文書に反映させる努力を絶えず行うことが必須である。
Key words : pediatric drug therapy, pediatric clinical trials, literature-based application, doctor initiative clinical trials, ICH-E11 (Q&A)
●臨床試験で得られたエビデンスを実臨床に適用する際の留意点
岡田 俊
児童・青年期における薬物療法の有効性と安全性は成人と異なっており,成人のデータを外挿して治療にあたることは好ましくない。しかし,児童・青年のエビデンスは数が少なく,とりわけ日本では,児童・青年の臨床試験に対するインセンティブがなかったこともあって,その傾向は著しい。また,診断と評価の難しさは,児童・青年の向精神薬治療のエビデンスをさらに困難なものとしている。ただし,その状況は少しずつ変わりつつある。臨床エビデンスの蓄積にあたっては,通常の臨床試験だけでなく,長期にわたる発達への影響についても,考慮していく必要がある。このことは,合理的な治療決定だけでなく,適切なインフォームド・コンセント(またはアセント)を通して,患者ならびに患者家族の治療方針の決定への関与を可能にする意味でも重要といえる。
Key words : children and adolescents, clinical trial, clinical practice, evidence