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展望
●小児における向精神薬使用の現状と課題
市川宏伸
 小児の精神科医療においても,行動障害などを中心に向精神薬を使用せざるを得ないことがあった。小児を対象にした向精神薬は,長らくなかったため,成人への使用を勘案して,適応外処方されてきた。仮に不都合なことが生じれば,責任は処方を書いた医師に負わされていた。その背景には,「薬物治療への理解の乏しさ」,「小児を対象から外した新薬の治験」,などの事実があった。この状況は小児科薬一般についても同様であったため,是正をするべきとする動きが小児科の中で起きてきた。「小児治験を実施した際の市場独占権の延長」の法令化,医師主導治験の導入などにより,製薬企業も積極的な対応をするようになった。現在は,正式な治験を経て小児に適応が認められているのは,2種のADHD治験薬のみであるが,現在向精神薬,抗うつ薬,ADHD治療薬などで,新薬の治験が進行中あるいは治験が予定されている。
Key words : off-label-use, good clinical practice (GCP), clinical research coordinator (CRC), investigator initiated trials, ADHD therapeutics

特集 小児を対象とした向精神薬の臨床試験の現状と課題
●小児を対象とした向精神薬の適応外処方の現状とその課題
石崎優子
 近年小児の心の問題,精神疾患や発達障害の患者数が急速に増加している一方で,15歳未満の小児に対する向精神薬のほとんどが適応外である。しかし小児心身・精神領域を専門とする医師の90%以上は適応外使用を行っており,処方人数が月間10人以上にのぼる薬剤も複数にある。この適応外使用問題の解決に向けては小児に対する向精神薬の使用に関する情報の収集と,治験推進のための方策を立てる必要がある。本稿では,わが国における小児への向精神薬の適応外処方の現状と治験推進に向けての方策を述べる。
Key words : off-label use, psychotropic medication, children

●成人の臨床エビデンスを小児に外挿できるか
齊藤卓弥
 小児思春期の精神疾患への関心が高まるにつれて小児への向精神薬の処方は著しい増加を見せている。一方,小児に対して向精神薬の使用が増えるにもかかわらず,十分な研究や臨床試験が行われていないことは大きな問題である。小児において向精神薬の処方を行う際にも,可能な限り小児の臨床試験のエビデンスに基づき薬物選択を行う必要が,現状では小児のエビデンスが欠如している領域では,成人のエビデンスに基づいて小児の治療薬を選択する必要に迫られることがある。しかし,抗うつ薬をはじめ,年齢によって薬物への反応が異なることも明らかになってきている。さらに同じクラス・種類の薬物であっても小児では有効性や有害事象が大きく異なり,一貫性が認められず成人のエビデンスを外挿することができるかどうか薬物ごとに慎重に検討を行う必要がある。本稿では成人の向精神薬のエビデンスを小児に外挿する可能性とその問題点について概説する。
Key words : psychotropic medication, pediatric application, evidence-based medicine, clinical trial

●児童精神科に必要な診断・評価スケールの現状と課題
宇佐美政英  岩垂喜貴
 近年,子どもの不登校,発達障害,虐待などの問題に関する社会的注目が高まっており,児童精神科を受診する児童数も急増している。しかしながら,発達障害を中心とした子どもの精神医学的診断の不確定さに関する問題と,向精神薬による薬物療法の是非をめぐる問題が懸念されている。このような現状を踏まえて,本稿では我が国の児童精神科臨床の現状と,児童精神科領域における診断・評価ツールの必要性について,子どもの睡眠の質に関する評価スケールであるThe Japanese version of Children Sleep Habits Questionnaireと,子どもの生活機能に関する評価スケールであるQuestionnaire-Children Difficultiesの2つのスケールを用いたコミュニティ・サンプルの調査結果を示した。これらのコミュニティ・サンプルを対象とした評価スケールの結果から,子どもの精神症状や生活能力が年齢や性別によって流動的であることが明らかとなった。児童・思春期特有の精神障害,特に発達障害の診断概念の確立とともに,その臨床症状の推移を子どもの成長と共に評価することは,児童・思春期において診断学的にも治療論的にも極めて重要である。抑うつや不安,多動や固執などの精神症状の評価だけでなく,朝の身支度,学校生活,放課後の様子,などの子どもの生活機能についても定期的に評価すべきである。精神症状だけでなく,生活機能についてもスケールを用いて評価していくことは,子どもとその保護者に分かりやすく治療の意義を説明する助けとなり,その治療意欲の向上にも繋がるものと期待される。
Key words : child, psychiatry, questionnaires, assessment tool

●日本における適応外薬・未承認薬の現状と課題
伊藤 進  小西行彦
 小児薬物療法における適応外薬・未承認薬の歴史と,それらの医薬品の現状を紹介し,新しい治験の枠組みとしての日本医師会治験促進センターの関与による「医師主導治験」およびこの問題解決のための現状と課題について総説した。この問題の解決は,厚生省科学研究費(現在,厚生労働省)による班会議が原動力になり,それを日本小児関連学会の薬事委員,日本小児科学会薬事委員および日本小児臨床薬理学会運営委員などの方々が協力して,行政により作られた会議(「小児薬物療法検討会議」・「未承認薬使用問題検討会議」→「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」)によりなされてきた。しかし,小児薬物療法に関係する方々が日本には多くの小児の適応外薬・未承認薬があり日常診療で常に使用していることを認識し,問題意識をもってこれらの医薬品を添付文書に反映させる努力を絶えず行うことが必須である。
Key words : pediatric drug therapy, pediatric clinical trials, literature-based application, doctor initiative clinical trials, ICH-E11 (Q&A)

●臨床試験で得られたエビデンスを実臨床に適用する際の留意点
岡田 俊
 児童・青年期における薬物療法の有効性と安全性は成人と異なっており,成人のデータを外挿して治療にあたることは好ましくない。しかし,児童・青年のエビデンスは数が少なく,とりわけ日本では,児童・青年の臨床試験に対するインセンティブがなかったこともあって,その傾向は著しい。また,診断と評価の難しさは,児童・青年の向精神薬治療のエビデンスをさらに困難なものとしている。ただし,その状況は少しずつ変わりつつある。臨床エビデンスの蓄積にあたっては,通常の臨床試験だけでなく,長期にわたる発達への影響についても,考慮していく必要がある。このことは,合理的な治療決定だけでなく,適切なインフォームド・コンセント(またはアセント)を通して,患者ならびに患者家族の治療方針の決定への関与を可能にする意味でも重要といえる。
Key words : children and adolescents, clinical trial, clinical practice, evidence

原著論文
●急性期統合失調症入院患者70例に対するblonanserin(BNS)の治療有用性——急性期投与後から1年(364日)目の追跡調査——
堤 祐一郎  春日雄一郎  伊坂 洋子  二階堂亜砂子  高橋 理歩  辻 敬一郎  高橋 晋  稲田 健  大橋 優子   髙橋 杏子  津田 顕洋  中西 正人  渡部 和成
 我々は2011年9月にblonanserin(BNS)で治療開始された急性期統合失調症入院患者70例に対して,8週(56日)目までの臨床全般改善度,副作用,随伴事象,治療継続率,治療中断例数とその理由などを後方視的に調査検討し報告した。解析可能な61例の「あらゆる理由」による投与中止を除く治療継続率(Kaplan-Meier法)は75.4%(46/61例)であった。今回,我々は同一対象例で投与1年(364日)目までの治療継続率,臨床効果,安全性,随伴事象,BNS用量,併用薬,退院後の日常生活・社会活動状況などを後方視的に調査した。BNS投与364日目の「あらゆる理由」による投与中止を除く治療継続率は,転院等の27例を除く解析可能な症例(n=43)のみで算出すると41.9%(18/43例)であった。治療継続18例の社会活動状況は,パート勤務・アルバイト,家事に至る例があった。これらのことからBNSの治療継続率は他の第二世代抗精神病薬とほぼ同等の印象であり,急性期から維持期にかけて一貫して使用できる薬剤と考えられた。
Key words : blonanserin, schizophrenia, effectiveness, 1-year follow-up, discontinuation


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