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展望
●レストレスレッグス症候群の現状と治療
中村真樹  井上雄一
 レストレスレッグス症候群は有病率の高いcommon diseaseであるが,一般人口だけでなく医療従事者においても未だその認知度は低い。また,長期経過,RLSとPLMの関係など,未だ不明な点も多い。病態に関しては,発症原因から特発性と二次性に分類されるが,特発性RLSに関しては全ゲノム関連解析により,MEIS1,BTBD9,PTPRD,MAP2K5,LBOXCOR1などの多くの遺伝子が関与した疾患である可能性が示唆されている。鉄欠乏が二次性RLSの原因になるように,鉄代謝とドパミン受容体異常がその病態に強く関連している。最近では,鉄欠乏状態がGABA神経やドパミン神経上に存在するアデノシン受容体のアップレギュレーションを引き起こすことが報告されており,RLSとアデノシン受容体異常の関連も注目されている。また,延髄のセロトニントランスポーターの利用率とRLSの重症度に関連があるとされ,ドパミン再取込阻害薬を含め,これらの受容体に作用する薬剤が今後の治療薬として候補に上がる可能性がある。
Key words :dopamine agonist, augmentation, genome―wide association study (GWAS), adenosine receptor, serotonin transporter

特集 レストレスレッグス症候群の実態と新たな治療
●レストレスレッグス症候群の疫学と臨床的特徴
黒田健治  和田大和
 近年メディアによる睡眠障害の特集などによりレストレスレッグス症候群(Restless legs syndrome:RLS)の認知度は徐々に高まりつつあり,それに伴いより適正な診断,治療と有病率の推定が求められている。その有病率はおよそ5~15%程度と考えられてきたが,調査時期や方法によって有病率に大きな差異が見受けられる。そこで本稿では2002年に国際レストレスレッグス症候群研究グループが提唱した改定診断基準を用いて行われた最近の疫学調査を基に,特発性RLSおよび二次性RLSの有病率をまとめた。また,下肢不快感の訴え方の多様性やRLSがQOLに与える影響など,実際の臨床現場でみられる問題点についても実例を交えて概説した。RLSの有病率は決して低いとは言えないが,早期からの適切な診断・治療によりQOLの低下を防止しうるため,日常臨床の場面において症状を見逃さないことが重要であろう。
Key words :prevalence, restless legs syndrome mimics (RLS mimics), periodic limb movement disorder (PLMD), quality of life (QOL), International Restless Legs Syndrome Study Group (IRLSSG)

●レストレスレッグス症候群の病態生理
平田幸一
 RLSの病態生理は完全には明らかではない。鉄・ドパミン・遺伝的素因がRLS病態の主因であることは現在の定説である。中枢ドパミン系機能低下や鉄代謝異常が関連することは,臨床的にも鉄欠乏の改善とドパミン受容体アゴニストが知覚および運動の両症状を緩和するのに非常に効果的であることからも支持されている。現時点ではRLSでは,(1)A11領域と呼ばれる背後側視床下部ドパミン細胞群の機能障害による脊髄(脊髄は興奮性過剰状態にあると考えられている)への抑制系障害,(2)求心性知覚刺激の抑制障害,(3)脊髄交感神経系の抑制障害,(4)(1)と(3)による前角細胞から筋に至る興奮(PLMSの発症にも関連する),があると考えられている。
Key words :dopamine, iron, heredity, A11, disinhibition for spinal cord sympathetic nerve

●レストレスレッグス症候群の診断と重症度評価
水野創一  堀口 淳
 レストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome:以下RLS)の診断には,臨床症状の的確な把握が重要である。国際RLS研究班(International RLS Study Group:以下IRLSSG)による4項目の必須診断基準に照合し,完全に一致しない場合には補助的診断項目を参考に判断する。診断が困難な場合,下肢の異常感覚が皮膚表面ではなく深部で生じているか,その部位を動かすことによって症状が軽減するか,症状が下肢ではなく上肢や体幹に及ぶ場合は初発部位が下肢であったかどうかも重要なポイントである。RLSに関連した生理検査法に,終夜睡眠ポリグラフ検査,Suggested Immobilization Test,アクチグラフ検査などがあり,客観的な補助検査として有効である。RLSの重症度評価法には,国際RLS評価尺度(International RLS Rating Scale:以下IRLS)があり,簡便かつ正確な評価が可能である。
Key words :Restless Legs Syndrome, diagnostic criteria, severity, akathisia

●レストレスレッグス症候群の治療
内村直尚
 レストレスレッグス症候群(RLS)は安静時もしくは夕方から夜間にかけて下肢に不快な耐えがたい感覚が生じ,脚を動かさずにはいられない衝動を呈するため,不眠や昼間のQOLの低下を認める。治療としては脚の不快な症状と不眠の改善が重要となる。非薬物療法としてはアルコールやカフェイン類を控え,また,マッサージ,適切な運動や規則的な就寝など生活改善を行う。薬物療法としては欧米ではドパミン作動薬,opioid,ベンゾジアゼピンおよび抗てんかん薬などが使用されている。本邦ではRLSに適応を持つ薬剤はドパミン作動薬のpramipexoleとGABA誘導体のgahapentin enacarbilの2剤のみである。また,本邦では抗てんかん薬のclonazepamの使用頻度が高いが,opioidは依存性などの問題でほとんど使われていない。今後本邦における治療アルゴリズムが確立されることに期待したい。
Key words :restless legs syndrome, treatment, gabapentin enacarbil, pramipexole, clonazepam

●レストレスレッグス症候群の新規治療薬gabapentin enacarbil(レグナイト錠®)の薬理プロファイル
兼子 直
 レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)は,下肢を中心とした不快感や痛みを伴う異常感覚,脚を動かしたいという欲求を中心症状とし,不眠などを高率に随伴する症候群である。2012年1月に承認された新規RLS治療薬であるgabapentin enacarbil(レグナイト錠®)は,従来のRLS治療薬(一部のドパミンアゴニスト)と比べて,長期連用時の症状増悪などが少ないと考えられる。Gabapentin enacarbilはgabapentinのプロドラッグであり,gabapentin enacarbilの体内吸収後に速やかに生成されるgabapentinが薬理活性代謝物である。Gabapentinは,電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットへの特異的結合によるカルシウム流入抑制を介して,興奮性神経伝達物質の遊離抑制を引き起こし,神経活動の異常を改善することが示唆されており,従来のRLS治療薬とは異なる作用メカニズムを有する。Gabapentin enacarbilは,RLSの改善を示すばかりではなく,RLSに随伴する不眠の改善作用も併せ持つことも報告されており,新たなRLS治療薬として大いに期待される。
Key words :restless legs syndrome, α2δ subunit of the voltage―dependent calcium channel, gabapentin enacarbil, insomnia

●新規レストレスレッグス症候群治療剤gabapentin enacarbilの薬物動態
丹羽俊朗  白川清治  野田康男  小嶋 孝
 新規レストレスレッグス症候群治療剤であるgabapentin enacarbilは,gabapentinの薬物動態上の欠点を克服する目的で創製されたgabapentinのプロドラッグである。健康成人における国内外の臨床試験において,gabapentin enacarbilはgabapentinに比べ経口吸収性が改善されており,gabapentin enacarbilを経口投与後のgabapentinとしての曝露量は非常に広い用量範囲で投与量にほぼ比例して増加する。また,絶食時に比べ食後投与の方がgabapentin enacarbil投与後のgabapentinの最高血中濃度(Cmax)および血中濃度―時間曲線下面積(AUC)は増加する。レストレスレッグス症候群患者における薬物動態は健康成人と大きな差はなく,顕著な性差および民族間差もない。一方,gabapentin enacarbilは主にgabapentinとして腎臓から尿中に排泄され,腎機能の低下に伴い血中gabapentin濃度の消失半減期は延長し,CmaxおよびAUCが増加する。また,gabapentin enacarbilは吸収,分布,代謝,排泄の各過程において他剤との薬物相互作用が臨床上問題となる可能性は低いと考えられている。
Key words :gabapentin enacarbil, pharmacokinetics, restless legs syndrome, prodrug

●Gabapentin enacarbilによるrestless legs syndrome治療
井上雄一
 Gabapentin Enacarbil(GE)は,gabapentinの薬物代謝過程の欠点を克服するために開発されたプロドラッグである。本剤は,gabapentin同様のGABA類似作用を有し,神経因性疼痛の抑制作用を有するが,これとともに重要な作用としてレストレスレッグ症候群(RLS)症状の抑制作用が注目されており,すでに米国ならびにわが国での臨床開発試験により,RLSに対する効果と安全性が確認されている。また,両国とも,本剤の保険適応用量は600mg/日に定められている。GEによるRLS治療は,ドパミン系薬剤に比べて周期性四肢運動の抑制効果は若干劣るものの,本症候群において重要な問題となる不眠の改善効果に優れているし,augmentationの生じる可能性は無い。GEは腎排泄性薬剤なので,中等症以上の腎障害を有する症例では使用すべきではない。しかしこれを除くと,本剤投与初期に生じる可能性のある眠気とふらつきに注意すれば,RLS治療の重要な選択肢になりうるものと期待され,特に疼痛性RLSでは好適な治療薬になりうるものと思われる。
Key words :restless legs syndrome, gabapentin enacarbil, efficacy, safety, augmentation

原著論文
●統合失調症維持期における至適用量域でのrisperidoneとolanzapineの2年間の有用性比較
武田俊彦  鷲田健二  森 秀徳  岡 沢郎  田中増郎
 今回我々は,統合失調症維持期におけるrisperidone(RIS)とolanzapine(OLZ)の至適用量域での有用性比較を行った。対象は,2004年1月1日から2007年12月31日までに慈圭病院を退院した統合失調症圏の全患者で,カルテを用いたヒストリカルコホート法にて退院時処方から2年間の処方継続率を調べた。結果,RIS 103名,OLZ 88名が解析対象となった。用量階層別の処方継続率から,RISは7mg以上で有用性が有意に低下した。一方OLZでは,2.5~30mgの全用量域で有用性の有意な低下は見られなかった。そこで,維持期での至適用量域はRIS 1~6mg,OLZ 2.5~30mgとした。入院による処方中止から導き出される(入院に関する)処方継続率は,OLZが有意に高い値を示したが,対象を至適用量域内に限定するとOLZの数値は依然高いものの有意性はなくなった。忍容性不足に関する処方継続率は,至適用量域内に限定するか否かにかかわらずRISが高い数値を示したが有意差は見られなかった。全ての理由に関する処方継続率は,OLZの入院による優位性を忍容性による劣勢が打ち消す形となり,OLZが数値的に高値だったが有意差はなかった。至適用量域内に限定すると,その差はさらに小さくなった。有効性不足とアドヒアランス不足に関する処方継続率は,いずれも至適用量域での補正を加えるか否かにかかわらず有意差は見られなかった。以上より,維持期に至適用量域内で治療できる症例に関しては,両薬剤の有用性は差があるとしても極めて小さいことが示唆された。また,RISは維持期の至適用量域が明らかなだけに,維持用量を見越した処方計画が急性期の段階から必要な薬剤だが,OLZはその点では寛容な薬剤と考えられた。
Key words :effectiveness, olanzapine, risperidone, schizophrenia, therapeutic window

●うつ状態に対するlamotrigineの急性効果の検討
藤原雅樹  児玉匡史  岡久祐子  髙木 学  水木 寛  酒本真次  松本洋輔  内富庸介
 Lamotrigineは新規の気分安定薬であるが,特にうつ病相の予防効果を有する薬剤として期待されている。我々は,lamotrigineのうつ状態への急性効果を調べるため,当院におけるlamotrigineの使用状況を調査した。対象は2008年12月上市後から2011年8月の間にうつ状態に対してlamotrigineが処方された全36例とし,診療録から後ろ向きに調査した。投与開始後8週間の改善度をClinical Global Impression―Improvement scale(CGI―I)を用いて評価した。Lamotrigineは双極性障害,単極性うつ病,その他の疾患において処方されており,うつ状態に対する急性効果を持つことが示唆された。また,双極Ⅰ型>双極Ⅱ型>単極性うつ病>その他の疾患の順で有効性の高い結果が得られた。Lamotrigineは双極性の強い疾患において,よりうつ状態に対する効果の高い可能性が示唆された。
Key words :lamotrigine, bipolar disorder, depression, mood stabilizer

●ジェイゾロフト®錠の使用実態下における安全性と有効性 第一報――使用成績調査およびパニック障害に関する特定使用成績調査の結果より――
大森哲郎  平松恵己  浅見優子  森政美香  山下夏野  朴沢博之  寺山英之  長谷川均
 ジェイゾロフト®錠の使用実態下における安全性および有効性に関する情報の検出または確認することを目的として,使用成績調査およびパニック障害に関する特定使用成績調査を実施した。現在調査は進行中であるが,本報告では速やかに適正使用の推進を図る目的で,第一報として16週目までの結果を統合し解析した。調査完了症例3,060例のうち,安全性解析対象は3,003例,有効性解析対象は2,729例であった。副作用発現症例率は11.79%であった。主な副作用は悪心,下痢,傾眠等,従来報告されているものと同様であり,現時点で安全性に関する特記すべき事項は認められなかった。有効率はうつ病・うつ状態で85.4%,パニック障害で89.1%であり,いずれの適応症においても本剤の有効性が示された。本解析結果から,本剤の使用実態下における安全性および有効性が確認された。
Key words :sertraline, major depressive disorder, panic disorder, safety and effectiveness, post marketing surveillance

●軽度および中等度アルツハイマー型認知症患者を対象としたrivastigmineパッチの国内第IIb/III相試験における事後の追加解析結果――ADAS―J cog,DAD,MENFIS,BEHAVE―AD,および改訂クリクトン尺度の下位項目別の探索的追加解析――
中村 祐  今井幸充  繁田雅弘  白波瀬徹  金 孝成  藤井章史  森 丈治  本間 昭
 Rivastigmineパッチはコリンエステラーゼ阻害作用を有する経皮吸収型のアルツハイマー型認知症(AD)治療薬であり,本邦においては2011年に承認,上市された。859名の日本人AD患者を対象とした国内第IIb/III相試験において,本剤の有効性および安全性が示された。本稿においては,本剤の更なる有効性の特徴を明らかにする目的で,本試験における主要評価項目であるADAS―J cog,もう1つの主要評価項目CIBIC plus― Jの下位尺度であるDAD,MENFIS,BEHAVE―ADおよび介護者による患者の印象評価である改訂クリクトン尺度,それぞれの下位項目に関して,プラセボ群とrivastigmineパッチ18mg群における投与後24週時におけるベースラインからの変化量を比較する探索的な追加解析を行った。追加解析の結果,ADAS―J cogの「単語再生」,DADの「外出」「服用」,MENFISの「気力の障害」,改訂クリクトン尺度の「会話能力」「着衣と服装」の各下位項目において,rivastigmineパッチ18mg群はプラセボ群と比べて,有意な悪化の抑制を示した。また,ADAS―J cogの「単語再認」などの項目ではrivastigmineパッチ18mg群でスコアの改善を示し,DADの下位項目の中の手段的ADL(IADL)関連の項目を含め,各評価尺度の下位項目の多くにおいて,rivastigmineパッチ18mg群ではプラセボ群に比べてスコア悪化の程度が小さい傾向を示した。本追加解析の結果からrivastigmineパッチは記憶,見当識などの認知機能に加えて,ADL,特にIADLおよび介護者とのコミュニケーションなどに対する有効性が示唆された。
Key words :Alzheimer's disease, cholinesterase inhibitor, clinical phase II/III trial, rivastigmine patch, activities of daily living (ADL)

症例報告
●Aripiprazoleの上乗せ投与によりblonanserin投与中に生じた高プロラクチン血症および女性化乳房が改善した統合失調症の1例
松田康裕  藤村洋太  池淵恵美  南光進一郎
 Aripiprazole(APZ)は,その副作用として他の抗精神病薬に比べ高プロラクチン(PRL)血症を来たしにくいとされている。今回我々はblonanserin投与中に生じた高PRL血症とそれによる女性化乳房に対してAPZの上乗せ投与を行い,PRL値の改善および女性化乳房が軽快した症例を経験したので報告する。抗精神病薬による高PRL血症の出現頻度は比較的高いが,実際の臨床現場では月経異常や勃起障害などの性機能障害を自発的に訴えるケースは決して多くない。そのため抗精神病薬を服用している患者に高PRL血症および性機能障害についての十分な説明と積極的な問診を行うことは服薬アドヒアランスの向上につながり,結果として性機能障害の早期発見が病気の再発予防の一助となる可能性があると考えられた。また,高PRL血症による性機能障害の対処法としてAPZの使用は有用であると考えられた。
Key words :aripiprazole, blonanserin, hyperprolactinemia, gynaecomastia, switching


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