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展望
●新規抗認知症薬の登場による認知症医療サービスの変革と期待
武田雅俊
2011年はアルツハイマー病治療薬3剤が新たに発売されたことにより,認知症診療において画期的な年となった。アルツハイマー病治療薬の選択肢は,診療の場における認知症診療の進め方を大きく変化させる可能性がある。現在の社会の高齢化を踏まえて,認知症患者に対する医療・介護・福祉がどのように変化していくかについて,社会システム,一般診療医,認知症専門医に分けて概説した。これからの認知症診療にあたっては,薬物療法の知識と共に今まで以上に非薬物療法が重要となり,また,認知症患者に対する早期診断,早期介入の必要性が言われるであろう。このような状況において臨床家に必要とされる事項についてまとめると共に,これらの新規薬剤を利用しながら,認知症患者に対する医療サービスの改善にどのような期待が込められているかを概説した。
Key words :super―aged society, diagnostic criteria of Alzheimer's disease, biological markers, acetylcholine esterase inhibitor, NMDA antagonist
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特集 新規抗認知症薬galantamineの薬理と臨床
●Galantamineの開発経緯
中村 祐
Galantamineは第3級アルカロイドで,1952年にコーカサス地方のマツユキソウの球茎から初めて単離された。その後,薬理試験の結果より可逆的かつ競合的なアセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加えて,ニコチン性アセチルコリン受容体に対するアロステリック増強作用を併せ持つことが示された。海外でアルツハイマー型認知症(AD)を適応症とした開発が開始され,galantamineは軽度および中等度のAD患者に対して有効であり,安全性プロファイルにも大きな問題がないことから,欧米各国で承認が取得された(スウェーデンで2000年3月,米国で2001年2月)。日本では2000年より第Ⅰ相試験が開始され,2006年より開始されたGAL―JPN―5試験(検証試験)では,ADAS―J cogにおいて16mg/日群および24mg/日群ともにプラセボ群に対する明確な優越性が検証され,レミニール®として2011年3月に発売されるに至った。
Key words :galantamine, Alzheimer, nicotine, acetylcholine, allosteric
●Galantamineの基礎薬理
下濱 俊
Galantamineは,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用だけでなく,アロステリック活性化リガンド(APL)作用によってニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)を活性化する薬剤である。APL作用はAChの作用と拮抗しないため,アルツハイマー病の中核症状である認知機能障害への有効性は長期にわたって持続する。またgalantamineは,APL作用を介して各種神経伝達物質の放出を促すことで,感情障害や行動障害などの症状改善が期待できる。そしてCSFバイオマーカーへの影響や,Aβおよびグルタミン酸毒性に対する神経細胞保護効果,ミクログリアのnAChRの活性化によるAβの除去促進効果など,disease―modifying effectを有することが示されており,これらの作用はgalantamineがアルツハイマー病の臨床において認知機能やADLをより長期にわたって維持することができる根拠になると考えられる。
Key words :galantamine, Alzheimer's disease, acetylcholinesterase inhibitor, nicotinic acetylcholine receptor, allosteric potentiating ligand
●新しい認知症診療とgalantamineの臨床効果
阿部康二
日本社会の超高齢化に伴って認知症患者数そのものと認知症患者と家族を取り巻く環境も急速に変化しており,認知症の早期診断法の確立と新規治療薬の開発が待たれていた。2011年に認知症新薬が3剤まとめて使用可能となり,日本における認知症診療にとっての新しい発展の年と位置付けられた。3剤とは,すなわち脳ACh分解阻害作用に加えてニコチン受容体の直接的刺激作用(APL)を持つgalantamineや,脳ACh分解阻害に加えて脳BCh(ブチルコリン)分解阻害作用を持つrivastigmine,さらにグルタミン酸のNMDA受容体拮抗薬であるmemantineである。このうちgalantamineについては,国内で行われた臨床第3相試験では認知機能ADAS J―Cogが用量依存性に改善され,また海外の大規模臨床試験において周辺症状(BPSD)の悪化を抑制し,特に異常行動や不安,脱抑制,焦燥,攻撃性といったBPSDの中でもいわゆる陽性症状により効果が見られた点が注目されている。急速に変わりつつある家族関係の中で新しい認知症治療薬の登場と共に新しい認知症診療が始まったといえる。
Key words :galantamine, dementia, APL, vascular dementia
●Galantamineの剤型に関するアンケート――認知症介護者の立場から――
柴田 勲
アルツハイマー型認知症(AD)は高齢者の患者が多く,長期の治療継続を必要とし,服薬継続は重要な課題となる。服薬を継続する上では,より服薬しやすい剤型が個々の患者に合わせて選択されることが重要である。AD患者を実際に介護している看護師に,ユーザー目線という観点からgalantamineの剤型に関するアンケート調査を行った。Galantamineの各剤型に対する評価は,使用頻度が高い剤型,普段から目に触れている剤型ほど評価も高くなるという結果であり,内用液のことを熟知しているほどgalantamine内用液の評価も高かった。本調査結果から,galantamine内用液のメリットが正しく理解されることで内用液は錠剤よりも介護者にとって有用性が高い剤型になりうることが示唆された。
Key words :galantamine, Alzheimer's disease, AChEI
●アルツハイマー型認知症における周辺症状に対する治療――CMAIによるgalantamineの周辺症状への可能性の検証――
村田一郎
当院において2011年3月30日~9月30日の間にアルツハイマー型認知症(AD)と診断されたgalantamine初回使用例とdonepezilからの切り替え例について,認知障害高齢者にみられる行動障害を評価するためのCohen―Mansfield Agitation Inventory(CMAI)を用いgalantamineの有用性を検討した。Galantamineの投薬前および投与後1ヵ月,投与後3ヵ月のデータをもとに解析した各群間比較では,galantamine使用例群とdonepezilからgalantamineへの切り替え例群において投与前と投与後3ヵ月で有意な改善を認めた。また,混合効果モデルを用い経時的変化をみた結果,galantamine初回使用例群とdonepezilからの切り替え例群ともにCMAIの攻撃性行動と非攻撃性行動のcriteriaにおいて有意に改善がみられ,初回使用と切り替えの両方においてgalantamineは攻撃性行動障害および非攻撃性行動障害への効果が認められた。
Key words :galantamine, CMAI, switching, donepezil
●Galantamineの臨床使用経験――投与後3ヵ月間,43症例の観察研究から――
藤田雅也 石塚卓也
新規アルツハイマー型認知症治療薬galantamineによる薬物治療を新たに開始したAD患者43症例について,認知機能およびADに伴う周辺症状(BPSD)に対する効果を中心に,臨床実地下において前向きに検討した。3ヵ月間の観察期間において,galantamineの投与によってADにおける認知機能障害は悪化を認めず維持され,BPSDは有意に改善した。現在までのところ,本邦において臨床下におけるgalantamineのエビデンスはほとんど存在しないが,今回の43症例の観察研究から,galantamineは忍容性が高く,ADの薬物治療における第一選択薬となりうることが示唆された。
Key words :galantamine, Alzheimer's disease(AD), AChEI, NPI, BPSD
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原著論文
●統合失調症薬物治療の変遷に関する調査研究――精神科病院入院患者を対象とした過去15年間の後方視的分析と考察――
梅田賢太 石丸智子 山内伸男 末丸克矢 荒木博陽 蓮井康弘 木村尚人
統合失調症薬物治療の長期変遷に関する研究はいくつかの報告に限られている。我々は,松山記念病院における1996年以降15年間の入院統合失調症患者の処方変遷を後方視的に分析し,いくつかの特徴を見出した。抗精神病薬平均投与量(chlorpromazine換算)は2001年からの10年間で33%減少した。単剤治療群の新規抗精神病薬投与量比率は,1996年の1.6%から2010年に89.2%に達した一方で,多剤併用群では依然として従来型抗精神病薬が多く用いられていた。抗精神病薬以外の薬剤併用率は,気分安定薬は20.3%増加し,抗パーキンソン薬は28.5%減少した。便秘薬,糖尿病用薬併用率はそれぞれ約1.5倍,2倍に増加した。結論として,新規抗精神病薬処方は一般的となったが,未だ従来型抗精神病薬も多用されていることが判明した。本研究は定量分析にとどまったが,今後は有効性,有害性,経済性などを加味した多角的な分析を行う必要がある。
Key words :schizophrenia, antipsychotics, combination therapy, prescribing trends, pharmacoepidemiology
●患者心理教育への参加経験がある統合失調症通院患者の認知機能に対するaripiprazoleの効果
渡部和成 兼田康宏
入院中または通院中に患者心理教育に参加した後,通院治療継続中の統合失調症患者30人(男性60.0%;平均年齢34.3歳)の認知機能をBACS―Jで調べ,aripiprazole(ARP)単剤療法の認知機能への効果を検討した。Composite scoreは,全体で平均-1.12と既報の統合失調症患者のスコアより有意に高かった。この30人のうち,ARP単剤で治療した患者群(ARP単剤群;14人)とARP以外の非定型抗精神病薬の単剤または多剤で治療した患者群(他剤群;14人)では,composite scoreは-0.84と-1.36で明らかな差はなかった(p=0.108)が,z―scoreは,ARP単剤群が他剤群と比べて,「言語性記憶と学習」で有意に高く(p=0.0386),「作動記憶」で高い傾向があった(p=0.0635)。これらの結果から,ARP単剤療法は,統合失調症患者の認知機能の一部に対し顕著な治療効果がある可能性が示唆された。
Key words :cognitive function, patient―psychoeducation, aripiprazole, schizophrenia
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