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展望
●アルツハイマー病を治療するということ
本間 昭
 2011年に新たなアルツハイマー病治療薬が3つ発売になり,従来の治療薬と併せて選択肢が4つになった。すべて対症療法薬であり,基本的には認知症の進行抑制が共通の薬効になる。4つの治療薬の特長の詳細はここでは触れないが,治療薬の意義について,進行抑制,ADLの保持,介護時間に対する影響,BPSDに対する効果の4点をあげ,donepezilを例にして具体的に解説した。また,ADを含めた認知症治療の目標について「生活を支える」という視点を持ちつつ,関係者間で目標およびイメージを共有することが治療薬の疾患の治療に対する貢献度および満足度を上げるために重要であることを述べた。
Key words :Alzheimer's disease, dementia, disease management, anti―dementia drugs

特集 Memantineのすべて
●ガイドライン 認知症疾患治療ガイドライン2010年版における薬物治療の位置付け
和田健二  中島健二
 1999年にdonepezilがわが国に導入され,認知症は「診断の時代」から「治療の時代」になった。そして2011年にはgalantamine,rivastigmine,memantineがわが国においても使用できるようになった。これまで「痴呆疾患治療ガイドライン2002」が刊行されていたが,日本神経学会が中心となり関連6学会が合同で改訂作業を進め,2010年秋に「認知症疾患治療ガイドライン2010」が発行された。クリニカルクエスチョン形式が採用されたため全面的な改訂となった。改訂作業中はdonepezilしか使用できない状況であったが,海外のエビデンスを基にgalantamine,rivastigmine,memantineについても推奨度を記載し,また,保険適用外の血管性認知症,レビー小体型認知症などの疾患についても推奨度を記載している。
Key words :Alzheimer's disease, dementia with Lewy bodies, vascular dementia, cholinesterase inhibitor, NMDA receptor antagonist

●Memantine hydrochloride開発の経緯
今埜博道
 Memantine hydrochloride(以下memantine)は,世界で唯一のNMDA受容体拮抗薬としてのアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)治療薬である。Memantineは,グルタミン酸により惹起される神経細胞傷害並びに長期増強(long term potentiation:LTP)形成障害を抑制,もしくはアミロイドベータとグルタミン酸の相互的な作用により惹起される神経細胞傷害を抑制することにより,記憶・学習障害などのADの症状を抑制すると考えられている。国内外で実施された臨床試験においては,memantineのAD患者の認知機能障害に対する効果や,認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)などに対する効果が報告されている。また,海外で実施された臨床試験においては,donepezil hydrochlorideで治療中のAD患者に対するmemantine追加投与による認知機能障害およびBPSDなどに対する効果,並びにコリンエステラーゼ阻害薬とmemantineを長期的に併用したときの効果なども報告されている。Memantineは2011年1月に本邦においても承認され,臨床用量での安全性が高い薬剤であることから,今後,本邦においても幅広く使用され,多くの有用な治療成績が報告されることを期待する。
Key words :memantine, Alzheimer's disease, NMDA antagonist, BPSD, combination therapy

●作用機序からみたmemantineのアルツハイマー型認知症治療の意義
下濱 俊
 MemantineはMg2+と類似した作用機序を有しながら,膜電位依存性の程度が異なることにより,グルタミン酸濃度が持続的に上昇した状態において機能を果たせないMg2+の代わりにNMDA受容体チャネルを阻害し,LTP形成障害や神経細胞傷害を抑制すると考えられる。記憶・学習形成シグナル到達時にはMg2+と同様にNMDA受容体から速やかに解離し,正常なLTP形成および記憶・学習機能に影響しない。Memantineは生理的な記憶・学習機能には影響せずに,病態特異的にADの症状を抑制することが期待されるNMDA受容体チャネル拮抗薬である。コリンエステラーゼ阻害薬とは作用点が異なることから,コリンエステラーゼ阻害薬からmemantineへの切替え,およびコリンエステラーゼ阻害薬とmemantineの併用も含め,ADにおける薬物治療の幅が拡がることが期待される。
Key words :memantine, NMDA receptor, Mg2+, LTP, neuroprotection

●国内外で実施されたmemantine hydrochloride臨床試験のレビュー
中村 祐
 中等度~高度アルツハイマー型認知症(AD)におけるmemantine hydrochlorideの有効性を評価した主要な5臨床試験についてレビューする。本邦では後期第Ⅱ相試験(IE2101 二重盲検期)および第Ⅲ相試験(IE3501)の2試験が,海外では,MRZ90001―9605二重盲検期,MEM―MD―02およびMEM―MD―01の3試験が主要な試験として行われた。認知機能を評価するSIBに関しては,memantine 20mg/日投与24週後のスコア変化量において,国内外5試験中4試験(国内では2試験中2試験)でプラセボ群(P群)とmemantine 20mg/日群(M群)の間に有意差が認められた。また,国内第Ⅲ相試験(IE3501)ではBehave―ADにおいてP群とM群の間に有意差が認められ,donepezil併用試験であるMEM―MD―02試験ではNPIおよびBGPにおいてP群とM群の間に有意差が認められていることから,memantineは単独投与においても,また,donepezilとの併用投与においてもBPSDに対する有効性が期待される。Memantineは安全性が高く,漸増法も用いることなどにより一層副作用を減らすことが可能である。
Key words :Alzheimer's dementia, memantine, BPSD, donepezil

●Memantine長期投与の安全性と長期的使用の意義
片山禎夫
 アルツハイマー病におけるグルタミン酸による神経細胞の過興奮とその結果引き起こされる神経細胞死を抑制するNMDA受容体拮抗薬がmemantineである。臨床的には,自己内在的不安と焦燥感の軽減と神経細胞死の抑制効果が期待される。有効性をたかめる生活,ストレスのかからないケア環境のうえに,memantine単独長期投与ばかりでなく,アセチルコリン分解酵素との併用療法により,アルツハイマー病による症状が単独投与より改善し,改善時間もより長くなる。1年から5年という長期に至っても,安全性は確認され,中には,落ち着きのなさが軽減し,3年間ほとんど進行が消失する症例も現れた。ただ,睡眠薬,抗精神病薬などの併用には十分注意が必要である。
Key words :safety, tolerability, long―term effect, combination therapy

●MemantineのBPSDに対する効果
工藤 喬
 BPSDは認知症の行動・心理症状を差し,治療・介護の大きな障害となるため,その対策は重要である。BPSDの薬物療法には抗精神病薬などを中心に従来使用されてきたが,適応外使用などの問題がある。認知症治療薬であるmemantineのBPSDに対する効果については,興奮/攻撃性に対する効果を中心に肯定的な報告が散見されている。そのメカニズムについては,memantineのタウ蛋白リン酸への効果で説明がされている。
Key words :memantine, BPSD, tau

●NMDA受容体拮抗剤登場後のアルツハイマー型認知症の臨床
北村 伸
 Memantineの使用が可能になり,アルツハイマー型認知症の薬物治療は大きく変化した。Memantineは中等度および高度のアルツハイマー型認知症の第一選択薬の1つであり,単独投与でも効果が期待できる。そして,コリンエステラーゼ阻害薬とは薬理作用が異なり,memantineは,コリンエステラーゼ阻害薬との併用が可能である。海外の臨床試験では,donepezil単独投与よりもmemantineを併用した方が,認知機能,日常生活動作,全般症状,行動心理症状により大きい改善のあることが示されている。よって,これからのアルツハイマー型認知症薬物治療において,常にmemantineの併用を考慮しておくべきである。主治医は,memantineと3種類のコリンエステラーゼ阻害薬が使用できるようになったことで,薬の切り替えや併用をする場面もあることから,少なくとも6ヵ月に1回は認知機能の評価を行い,患者と介護者から生活の様子を聞き取って症状の変化をよく把握しておかなくてはいけない。
Key words :Alzheimer's disease, memantine, treatment

●合併症を有する認知症に対する治療戦略
冨田尚希  荒井啓行
 認知症の合併症として対応が求められることが多いものとして「生活習慣病」と「精神症状(認知症の周辺症状)」について取り上げる。生活習慣病のコントロール中に認知症を発症した場合,もともと治療していた生活習慣病が従来通りの管理方法では十分に管理できなくなる可能性が高い。高血圧と糖尿病は生活習慣病の中でも特に高齢期に問題となることが多く,認知症との合併もよく経験する。高血圧・糖尿病ともに診療ガイドラインが存在するが,認知症を合併した場合にどのように管理していくべきかの具体的な記載は必ずしも十分とはいえない。問題となる点としては,(1)認知症を発症する前までと同じ管理目標を置くことが適切でなくなることがある,(2)治療内容を遵守することが困難になる,の2点が挙げられる。本稿では,高齢者で有病割合の高い高血圧と糖尿病について,それぞれの疾患のガイドラインの記載を踏まえ,その管理中に認知症が発症した場合に生じ得る問題とその対策について検討する。
Key words :dementia, diabetes mellitus, hypertension, adherence

原著論文
●外来通院患者へのaripiprazole投与101例におけるoutcomeの検討――2年以上の長期経過観察結果から――
須賀良一
 2008年4月3日~12月29日に当院筆者の外来を受診し,aripiprazole投与による通院治療を開始した18歳以上65歳未満の101例について2010年12月31日までの経過観察を行った。現在,統合失調症薬物療法において薬剤選択の基準はないため,筆者は安全性が高いaripiprazoleをすべての症例において第一選択薬とした。結果,2年以上の継続投与は77例(76.2%)であった。中止した24例の中止理由は,副作用出現10例,転医・来院せず5例,症状改善せず4例,病識欠如3例,症状悪化1例,症状改善し服薬中止1例であった。また,他の抗精神病薬併用は8例(7.9%)で,benzodiazepine系薬物が約80%,sodium valproateが約20%であった。2年以上の「長期に持続した症状寛解」は60例(59.4%),「回復」が39例(38.6%),「就労レベル」に至ったのが41例(40.6%),「就労+就労可能レベル」が58例(57.4%)であった。統合失調症の治療ゴールは長期の寛解,回復であり,結果からaripiprazoleは統合失調症への通院治療における有用な第一選択薬と考えられた。
Key words :aripiprazole, outcome, remission, recovery, working level, outpatients

症例報告
●Remission,recoveryを目指す治療におけるaripiprazoleの有効性――統合失調症5症例の臨床的検討――
片上哲也  織田裕行  木下利彦
 統合失調症治療における最終目標は社会復帰である。それには病期に合った薬物療法や心理社会療法が適切に行われなければならない。今回は,主観的に「寛解」の病期にあると判断した統合失調症の5症例に対して,前薬を減量または中止し後薬(aripiprazole)を主剤とした処方に切り替えた。前薬時と後薬時の状態を陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),remission score,Quality of Life Scale(QLS)の3種類の評価尺度を用いて評価・比較・検討したところ,全ての評価尺度において改善がみられた。その中でも陰性症状の改善が特に目立った。Aripiprazoleは,陽性症状はもとより陰性症状の改善に寄与するなど寛解や回復を目指す治療における有効性が示唆された。しかし,QLSにおいて社会参加の程度が問われる項目の改善度が低いなど,症状の改善だけではうまくいかない統合失調症治療の問題点も浮き彫りとなった。
Key words :schizophrenia, remission, aripiprazole, PANSS, QLS

●3年以上の継続的な食事指導によるolanzapine投与中の統合失調症患者に対する
体重コントロールの取り組み――大幅な体重増加から回復した1症例――
小原恵彦
 Olanzapine投与によって良好な精神症状改善効果を認めながらも大幅な体重増加を来たした初発の統合失調症患者について,olanzapineを中断することなく3年以上投与を継続し,患者の食欲,実際の食物摂取状況を詳細に追跡することで,精神症状を悪化させることなく体重減少に成功した症例を経験した。Olanzapine投与中の患者が体重増加を来たした場合,患者の食物や飲料の摂取状況に変化があったかどうかを確認することで,体重増加の根本原因を患者と共有することができ,長期的な食事指導継続の一助となりうると考えられた。
Key words :weight gain, olanzapine, schizophrenia, dietary instruction


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