詳細目次ページに戻る

展望
●長期予後を見据えた薬物療法――統合失調症の再発・再燃を少なくする工夫――
伊豫雅臣
 統合失調症の再発予防や良好な長期予後を確保するには継続的な服薬が重要である。本稿では,長期予後を見据えた薬物療法を行い,統合失調症の再発・再燃を少なくする工夫について述べた。統合失調症の服薬コンプライアンスは約40%と低く,医師の処方した薬剤の服用を遵守するという考え方から,患者とともに治療方針を決定していくことを重視したアドヒアランスという考え方に変わってきている。一方,抗精神病薬は第二世代抗精神病薬が次々と登場してきている。抗精神病薬の単剤化に加え,これら薬剤の受容体プロフィールに留意しながら,それぞれの患者に適した薬剤を選択していくことが重要である。錐体外路症状は,遅発性ジスキネジアやドパミン過感受性精神病の重要な予測因子であるので,抗精神病薬の用量に留意することは重要であろう。さらに早期再発徴候を捉えて介入することも有効であり,近年,情報技術を用いた方法が報告され(ITAREPS),我々もその方法に訪問看護を加えたCIPERSを開発している。
Key words : schizophrenia, antipsychotics, dopamine supersensitivity psychosis, ITAREPS, CIPERS

特集 長期予後を見据えた薬物療法――統合失調症の再発・再燃を少なくする工夫――
●剤形選択から考える統合失調症患者の服薬アドヒアランス向上
堀 輝  中村 純
 統合失調症患者を治療するにあたって,服薬アドヒアランスを保つことは重要であると以前から指摘されていたのにもかかわらず,相変わらずノンアドヒアランス患者は多い。近年,新規抗精神病薬が次々と上市され,液剤,口腔内崩壊錠,持効性注射剤,徐放錠など剤形も様々なものが選択できるようになった。本稿では,risperidone液剤,aripiprazole液剤,olanzapine口腔内崩壊錠,risperidone持効性注射剤,paliperidone徐放錠といった,現在本邦で上市されている抗精神病薬の剤形の特性を中心にアドヒアランスについてまとめた。疾患の特性を考慮した時,服薬アドヒアランスを向上させることは困難な課題であるが,統合失調症の薬物治療においては,患者自身が治療に参加することの1つの方法として薬物選択や剤形選択があげられ,各々の患者や薬剤の特性を生かしながら長期にわたり継続的な薬物治療を行う必要がある。
Key words : adherence, oral solution, orally-disintegrating tablet, long acting injection, extended release

●治療抵抗性統合失調症に対するclozapine使用の現状と問題点
渡邊治夫  澤 温  谷水知美  寺脇 聡  橋本保彦
 Clozapineは本邦では2009年7月に上市され,当院は同年12月にクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)登録医療機関となった。2011年5月時点で当院のclozapine導入症例は20例を超え,その中には,治療抵抗性が改善し退院可能となった症例もみられている。Clozapineは副作用のリスクを伴うが治療抵抗性統合失調症患者を改善させる可能性があり,長期予後を見据えた際にも有用である。しかし,厳格なCPMS規定等により臨床上,患者と医師がclozapineを使用しづらい場面も経験した。本邦におけるclozapine使用経験はまだ浅く,今後データを蓄積し,安全使用について十分に配慮すべきではあるが,反面,実際にclozapineを使用している患者と医師の意見をCPMS規定等に反映させることやclozapine導入時期について検討することも今後の重要な課題と考える。
Key words : Clozapine Patient Monitoring Service(CPMS), treatment-resistant schizophrenia, algorithm, Positive and Negative Syndrome Scale (PANSS)

●統合失調症の再発や再燃を防ぐ薬物療法を支援する心理社会的治療
内野俊郎
 統合失調症の再燃・再発の最大の要因となる維持療法からの脱落を防ぐには,心理社会的なアプローチを実施することが有用である。代表的なものとしては家族心理教育,当事者への心理教育,認知行動療法があり,さらにはそれらを包括的に実施することでアドヒアランスの改善をもたらすことが期待される。家族心理教育は標準的な手法が確立しつつあり,当事者への心理教育は他の心理社会的アプローチを実施するための基本的な手法として日常臨床での実施が望まれる。また,強いevidenceを持つ認知行動療法についても日常診療に生かせる工夫は多く,医師以外の専門職や家族の協力を得ることでより実際的となることが期待される。近年はいくつかの心理社会的な手法を組み合わせてより包括的なアプローチとして提供されることが多くなりつつあり,それらはアドヒアランスの向上に最も重要な患者-治療者関係にも寄与することが期待される。
Key words : schizophrenia, adherence, psychoeducation, family support, cognitive behavioral therapy

●統合失調症における代謝関連副作用と長期予後
佐藤 靖  古郡規雄
 現在,統合失調症の治療の中心は,薬物による長期間にわたる維持療法である。第2世代抗精神病薬(非定型薬)の導入後,抗精神病薬の副作用として,パーキンソニズムやアカシジアなど錐体外路系副作用に加えて,肥満,糖尿病,脂質代謝異常などの代謝関連副作用が大きく問題にされるようになった。副作用の出現や出現への懸念は,服薬アドヒアランスを下げ,精神疾患そのものの再発や再燃のリスクを高めるだけでなく,代謝性疾患は,心血管疾患のリスクを高め,死亡率上昇,ADL低下の原因となる。従来の抗精神病薬と比較して,非定型薬で代謝関連副作用のリスクが高いとされているが,非定型薬の中でも,clozapineやolanzapineなどがさらにリスクが高いとされている。代謝関連副作用の予防や早期発見は,薬剤を処方する立場にある精神科医が当然配慮すべき責務であり,日常臨床の中で,定期的な身体計測や採血検査,生活習慣の聴取,生活指導などを行う必要がある。
Key words : second generation antipsychotics(SGA), diabetes mellitus, metabolic syndrome, clozapine, olanzapine

●統合失調症における循環器系副作用と長期予後
渡邉純蔵  鈴木雄太郎  染矢俊幸
 統合失調症における薬物療法に関連した循環器系副作用として,頻脈,徐脈,起立性低血圧,心室細動に至る致死性不整脈,心筋炎,静脈血栓塞栓症等が知られている。これら循環器系副作用は,統合失調症患者の生命予後に大きな影響を与えていると考えられる。また,第一世代抗精神病薬のみならず第二世代抗精神病薬も同様に循環器系副作用の危険因子であると報告されている。こうした副作用の発現を予防するため,各薬剤のプロフィールを考慮に入れ,また,患者個人の危険因子を検討した上での薬剤選択,用量設定が必要である。患者個人に危険因子が存在する場合には,標準12誘導心電図はもとより,必要に応じて,ホルター心電図,心エコー,下肢静脈エコーの施行や,心電図モニタによる監視が推奨される。
Key words : antipsychotic agents, cardiovascular diseases, long-term prognosis

●統合失調症における錐体外路症状と長期予後との関連
森 和彦  堀口 淳
 錐体外路症状(extrapyramidal side effects:EPS)はノンアドヒアランスを介して統合失調症の精神症状再燃につながると考えられる。抗精神病薬の有効性,再燃に関してはolanzapine,risperidoneは有用性が高く,aripiprazole,clozapine,olanzapine,quetiapineはEPSは少なく,総合的にはolanzapine,低用量のrisperidoneもしくはpaliperidone徐放剤が有用であり,EPSが少ないことだけでは再燃予防効果にはつながらないことが示唆された。EPSの治療薬である抗コリン性抗パーキンソン薬(抗コリン薬)は,作動記憶を障害しアドヒアランスと関連するとされ,抗コリン薬は必要に応じて少量から開始し,常にその必要性について再評価することが必要である。
Key words : schizophrenia, extrapyramidal side effects, relapse, adherence, antipsychotics

●〈総説〉デポ薬は再発予防効果において経口薬を超えられるか――RIS-LAIの適正使用について考える――
金原信久  木村 大  伊豫雅臣
 抗精神病薬の再発予防効果について,経口抗精神病薬に対するデポ薬の優位性を決定づけるエビデンスはいまだ見当たらず,議論の渦中にある。これまでの再発予防効果に関する臨床比較試験を概観すると,試験デザインごとに様々なバイアスやlimitationがあるものの,アドヒアランスの確保についてはデポ薬が明らかに優れ,被験者の特性を絞り込むことによりデポ薬の優位性が確認できた。したがって,デポ薬の利点を最大限に活用するためには,その適正使用方法と対象を理解することが重要であり,risperidone持効性注射薬を例として具体的な使用方法を検討したい。
Key words : schizophrenia, relapse prevention, depot antipsychotics, oral antipsychotics, risperidone

原著論文
●医療用禁煙補助薬の費用効果分析
江面美祐紀  稲垣 中  山内慶太  鎌江伊三夫
 わが国では,禁煙補助薬の登場と診療報酬上にニコチン依存症管理料が設定され,禁煙治療に対する関心が高まっている。本研究は喫煙者が医師の指導のもと,vareniclineまたはニコチンパッチを使用して禁煙を試みた場合の直接医療費(禁煙介入費用と肺がん医療費)と,肺がんによる罹患および死亡リスクを比較・検討するために,30歳,40歳,50歳の男女を対象としたモデル分析を行った。その結果,いずれの性・年齢においてもvareniclineを使用した場合の生存年数はニコチンパッチを使用した場合より延長されていた。医療費に関しては,40歳および50歳男性ではvareniclineを使用した方が費用は少なく,30歳男性,30歳女性,40歳女性および50歳女性では生存年数1年延長あたりの医療費の増加はそれぞれ12,401円,271,254円,142,803円,93,102円と推計された。これらよりvareniclineはニコチンパッチと比較して費用効果的に優れていることが示唆された。
Key words : varenicline, nicotine patch, cost-effectiveness analysis, Markov model, lung cancer

●統合失調症重症急性期治療後の外来維持治療に関する研究
樽谷精一郎  伊藤寿彦  三澤史斉  稲垣 中  吉住 昭  大島紀人  村杉謙次  坂本 宏  岩永英之  藤井康男  塚田和美
 本邦における隔離,拘束を要する重症急性期統合失調症の薬物療法での,非定型抗精神病薬の有効性を検討する目的で,非定型抗精神病薬導入10年目である2005年の公的6病院精神科での入院治療と退院後経過について,服薬アドヒアランスの指標であるmedication possession ratio(MPR)を中心に診療録をもとに後方視的に調査した。MPR良好群とMPR不良群において退院後1年転帰を比較した際,MPR良好群については,外来継続日数および外来継続率が有意に高く,MPR不良群では再入院および治療中断する危険性が1.802倍高かった。一方,非定型抗精神病薬の導入率については2群に有意差がなかった。MPRに寄与する諸要因については,さらなる研究が必要である。
Key words : schizophrenia, acute-phase, atypical antipsychotics, medication possession ratio

症例報告
●Aripiprazoleによる高齢認知症患者のせん妄状態を伴う周辺症状に対する治療効果の検討
枝國典子  杉山克樹  重本 拓
 せん妄状態を呈して入院加療を行った8例の75歳以上の認知症患者に対して,aripiprazole 6mgで治療を開始し4週間投与した際の症状変化をDelirium Rating Scale-R-98日本語版(以下,DRS-R-98-J),PANSS-ECおよびPANSS-Positiveで評価した。(1)DRS-R-98-Jでは,日中の評価(10時)で,5日後よりスコアの有意な減少(p<0.05)を認め,夜間の評価(20時)では,2週間後よりスコアの有意な減少(p<0.01)を認めた。(2)PANSS-ECでは,2週間後よりスコアの有意な減少(p<0.05)を認め,PANSS-Positiveでは,1週間後よりスコアの有意な減少(p<0.05)を認めた。(3)安全性に関しては,1例でaripiprazoleの増量に伴い,食欲低下およびアカシジアを一過性に認めたが,これは減量と抗パーキンソン薬の短期間使用により消失した。また,全症例で治療開始2週間後よりプロラクチン値の低下(p<0.05)を認めた。これらの結果より,aripiprazoleは,高齢認知症患者のせん妄状態を伴う周辺症状に対して低用量で効果を認め,安全性の高い薬剤であることが示唆された。
Key words : elderly patients, dementia, delirium, aripiprazole

●治療抵抗性を含む長期間治療に難渋した慢性統合失調症に対するblonanserinの有効性
佐々木竜二  内海久美子  齋藤利和
 Blonanserinは我が国で開発された非定型抗精神病薬であり,従来の抗精神病薬の中でも非常に強いドパミンD2受容体への結合親和性を持ち,強い抗精神病効果が期待される薬剤である。そのためblonanserinは治療抵抗性統合失調症患者にも優れた効果を発揮するとの報告も多い。今回我々は,このblonanserinを治療抵抗性を含む長期間治療に難渋した慢性統合失調症に対して使用したところ,いずれの症例に対しても,短期間で速やかに効果が発現し,忍容性も優れていたことから,服薬が継続され,効果発現後の病識の獲得や疾病教育の導入,アドヒアランス向上に大変有効であった。今後,blonanserinはその強い抗精神病効果と優れた忍容性により,統合失調症治療において,m-ECTと並ぶ最後の切り札としての役割を果たせる可能性が示唆された。
Key words : blonanserin, treatment-resistant schizophrenia, modified electroconvulsive therapy, adherence, switching

●むちゃ食い障害を伴った非定型うつ病にduloxetineが著効した1例
野呂浩史  本間美紀
 今回,我々は,paroxetineおよびfluvoxamineなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRIs)が無効であった,むちゃ食い障害(binge-eating disorder:BED)を伴う非定型うつ病に対して,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI)であるduloxetineが著効した33歳の女性例を経験した。症例には,不安・抑うつ発作が認められた。我々の検索した限りでは,同様の病態にduloxetineが著効した症例はBernardiらの報告(2010年)のみであった。Duloxetine 20mg/日を服用後2週目頃より,BEDおよび非定型うつ病が改善した。さらに,duloxetine を20mg/日→30mg/日→40mg/日と漸増させて服用したところ,服用後8週目において,BEDおよび非定型うつ病ともに寛解した。また,不安・抑うつ発作も消失した。Duloxetine服用後21週目で40mg/日を維持量としているが,諸症状の再燃,duloxetine服用に起因する有害事象や躁転は認められていない。また,症例の日常生活能力と社会性は改善し,安定した人間関係が維持されている。本症例の検討からduloxetineには,SSRIsが無効であったBEDを伴う非定型うつ病に対する早期の改善効果と,それらの効果の維持に対する有効性があることが示唆された。DuloxetineのBEDに対する作用機序には不明な点が多い。今後,BEDを伴う非定型うつ病の症例におけるduloxetineの有効性や服用方法について,さらなる症例の蓄積が必要であろう。
Key words : duloxetine, serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor (SNRI), binge-eating disorder, atypical depression, anxious-depressive fit

総説
●Duloxetineのうつ病に併存する不安症状に対する効果
並木千尋  岡本美智子  高橋道宏
 うつ病患者の多くには不安症状もみられる。不安症状を有するうつ病の患者では予後不良や治療に対する反応性が低いことがあるなどの,様々な問題点が指摘されている。したがって,うつ病治療に際し不安症状に対してのケアも重要な課題であると考えられる。2010年に本邦でうつ病およびうつ状態に対して承認されたduloxetineは,国内外の臨床試験においてうつ病の不安症状に対する有効性についてのエビデンスが蓄積されてきている。これらの臨床試験において,HAM-D17の項目10,HAM-D不安・身体症状サブスケール等を用いてうつ病の不安症状に対するduloxetineの有効性を評価した結果,duloxetineはうつ病の不安症状に対して有効であることが示されている。以上より,日常臨床においてもうつ病の不安症状に対しduloxetineを用いることは治療選択肢として有用であると考えられる。
Key words : depression, anxiety, duloxetine, serotonin noradrenaline reuptake inhibitor (SNRI)


本ホームページのすべてのコンテンツの引用・転載は、お断りいたします
Copyright(C)2008 Seiwa Shoten Co., Ltd. All rights reserved.