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展望
●Escitalopramの上市――「アロステリック効果(allosteric multiplying effect)」と呼ばれる特徴的な作用をもつSSRI――
StuartA. Montgomery
 選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)の1つであり,「セロトニン受容体へのアロステリック効果(allosteric multiplying effect)」と呼ばれる特徴的な作用をもつescitalopramが日本で上市された。Escitalopramは欧州連合(EU)および米国(US)で最も広く用いられている抗うつ薬の1つであり,多くの報告により以下の特性をもつことが知られている。すなわち,escitalopramは,1)最も選択性の高いSSRIである,2)セロトニン・トランスポーターのアロステリック部位に結合し主要部位でのセロトニン再取込み阻害作用を強化する,3)うつ病の他,いくつかの不安障害患者に有効である,4)良好な安全性プロフィールをもち忍容性に優れる,5)高齢者を含む成人患者の再燃予防に効果がある,そして6)他の抗うつ薬との直接比較試験やメタアナリシスにより,臨床での効果が確認されている,などである。
Key words : escitalopram, SSRI, depression, antidepressant, allosteric

特集 新規抗うつ薬escitalopram
●Escitalopramの基礎データと臨床試験成績
古野 拓
 Escitalopramは,「うつ病・うつ状態」を適応として2011年4月に承認された,我が国で4番目の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である。Escitalopramは,他のSSRIと比較してセロトニントランスポーターへの選択性が高い薬剤であり,さらにセロトニントランスポーターの高親和性結合部位だけでなく,アロステリック結合部位に対する結合能を有することで,高親和性結合部位に結合したescitalopramの結合を安定化させ,セロトニン再取り込み阻害作用を持続させる作用もあると考えられている。うつ病を対象とした国内外の臨床試験では,急性期治療においてプラセボに対する優越性が検証され,長期投与による効果の持続および再燃・再発予防効果も認められている。また,忍容性が高く,薬物相互作用の影響も少ないと考えられることから,高齢者や薬剤治療中のうつ病患者に対しても使いやすい薬剤であると考える。
Key words : escitalopram, antidepressant, allosteric, preclinical pharmacology, clinical study results

●Escitalopramと他の抗うつ薬との有効性の比較
中林哲夫
 2011年4月に,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)であるescitalopramが承認され,うつ病の新たな治療選択肢の1つとして加わった。Escitalopramは,欧米では標準治療薬に位置付けられている抗うつ薬である。Escitalopramの臨床的位置付けを検討するためには,他の抗うつ薬との有効性の差異を把握する必要がある。本稿では,これまでに海外で実施された臨床試験の成績と最近のメタアナリシスの結果を紹介し,有効性についてescitalopramと国内既承認である第2世代抗うつ薬との比較を行ったので説明する。
Key words : escitalopram, antidepressant, SSRI, clinical study results, comparison of efficacy

●Escitalopramと他の抗うつ薬との安全性の比較
中林哲夫
 2011年4月に,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)であるescitalopramが承認され,うつ病の新たな治療選択肢の1つとして加わった。Escitalopramは,欧米では標準治療薬に位置付けられている抗うつ薬である。日常臨床においては,各薬剤のリスク・ベネフィットバランスを考慮して治療薬を選択することから,有効性のみならず他の抗うつ薬との安全性の差異を把握し,escitalopramの臨床的位置付けを検討する必要がある。本稿では,これまでに海外で実施された臨床試験成績およびメタ解析の結果を紹介し,escitalopramと国内既承認である第2世代抗うつ薬との安全性に関する比較を行ったので説明する。
Key words : escitalopram, antidepressant, SSRI, clinical study results, comparison of safety and tolerability

●Escitalopramの薬理学的特徴
木村真人
 Escitalopramは,「うつ病・うつ状態」を適応として2011年4月に承認された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり,他のSSRIと比較してセロトニントランスポーター(SERT)への選択性がきわめて高い薬剤である。Escitalopramはうつ病や不安障害に対して海外で広く臨床使用されている薬剤であり,多くの臨床試験でその高い有効性,安全性が報告されている。Citalopram等のSSRIやvenlafaxine等のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)との二重盲検比較試験成績をプールした解析において,escitalopramは他のSSRI/SNRIと比較して有意に高い有効性および安全性が示されている。Escitalopramの薬理学的特徴として,セロトニン選択性が高い,SERT占有率は他剤と同程度であり半減期は長い,アロステリック作用を有し濃度依存的に高親和性結合部位の薬剤の解離を遅延させている可能性があることが挙げられる。これらのユニークな薬理学的特徴を有するescitalopramは,本邦においてもうつ病治療の第一選択薬として期待される。
Key words : escitalopram, antidepressant, SSRI, pharmacological characteristics, allosteric

原著論文
●救命救急センターにおけるせん妄に対するaripiprazoleの有効性と安全性の検討─抗精神病薬を投与したせん妄患者41名を対象とした後方視的研究─
加藤晃司  山田桂吾  前原瑞樹  赤間史明  齊藤 舞  木本啓太郎  木本幸佑  佐藤麗子  市村 篤  松本英夫
 [目的]せん妄は軽度の意識障害を背景に,精神症状として気分障害,精神運動興奮,幻覚,認知機能障害など,多彩な病像を伴う意識変容を呈する病態である。本研究の目的は,当院救命救急センターE―ICU/E―HCUでのせん妄に対するAPZの有効性と安全性について検討することである。[方法]当院救命救急センターに入院となりせん妄と診断され抗精神病薬を投与された41名の患者(連続サンプル)を対象としている。治療評価スケールとしてMemorial Delirium Assessment Scale (MDAS)日本語版を使用した。[結果]MDASは18.4±3.3から4.4±3.1に減少した(P<0.05)。副作用は傾眠がAPZ群において有意に少なかった(p=0.045)。[結論]救命救急センターE―ICU/E―HCUにおけるせん妄に対してAPZは有効であり,安全性も高い可能性がある。
Key words : aripiprazole, delirium, intensive care unit, emergency medical care center, liaison psychiatry

●糖代謝異常のみられない統合失調症患者を対象としたaripiprazoleの糖代謝能に及ぼす影響
石郷岡 純  宇都宮一典  小山 司  田中 逸  中込和幸
 本試験では,aripiprazoleの糖代謝に及ぼす影響を,糖尿病およびその既往がない統合失調症患者を対象に検討した。101例の被験者にaripiprazoleが6~24mg/日の用量で52週間投与された。投与開始後,空腹時血糖値が126mg/dL以上,随時血糖値が200mg/dL以上またはHbA1c(JDS値)が6.1%以上を示す被験者は認められなかった。空腹時血糖値が110mg/dL以上または随時血糖値が140mg/dL以上を示す被験者は6例認められたが,いずれも一時的な変化であり,他の糖代謝に関連する臨床検査値等に影響はなく,試験薬との関連性はないと考えられた。空腹時血糖,HbA1cおよびグリコアルブミンの平均値は,52週間の投与期間を通して変化しなかった。本試験の結果から,52週間の長期投与においてもaripiprazoleは統合失調症患者の糖代謝に影響を及ぼさないと考えられる。
Key words : aripiprazole, dopamine partial agonist, schizophrenia, post-marketing study, glucose metabolism

●診療報酬明細データを用いた新規抗精神病薬単剤治療における治療アウトカムの比較
岩田仲生  大西弘二  井上幸恵
 株式会社日本医療データセンターから提供を受けた診療報酬明細書を用いて,現在統合失調症治療で汎用されている新規抗精神病薬である3剤[aripiprazole(APZ),olanzapine(OLZ),risperidone(RIS)]を対象に,処方継続率,医療費等の集計を行った。分析対象は,過去1年間に統合失調症による治療がなく,かつ3ヵ月間の追跡が可能であった,上記3薬剤いずれかによる単剤治療を開始した25歳以上50歳未満の統合失調症患者1,515名(APZ群452名,OLZ群540名,RIS群523名)とし,評価期間は治療開始月から6ヵ月間とした。治療継続期間は,APZ群で3(2.59-3.41)ヵ月,OLZ群で3(2.67-3.33)ヵ月,RIS群で2(1.71-2.29)ヵ月[中央値(95%信頼区間)]であり,APZ群の治療継続期間は,RIS群に比べて有意に長かった(APZ群vs. OLZ群:p=0.253,APZ群vs. RIS群:p=0.003,OLZ群vs. RIS群:p=0.061)。総医療費に関してもAPZ群が最も少なく,RIS群との比較において統計学的に有意な差が認められた(p=0.001)。本調査結果から,APZは良好なアドヒアランスを支援する選択肢の1つとして期待される。
Key words : aripiprazole, antipsychotics, schizophrenia, treatment adherence, healthcare resources

●統合失調症入院患者に対する抗精神病薬処方の最近10年間の変化――東アジアにおける国際共同処方調査(REAP)の結果から――
中野和歌子  正宗弥生  黒木俊秀  吉村玲児  藤井千太  秋山 剛  Yang Shu-yu  中村 純  新福尚隆  佐藤創一郎  Tan Chay-Hoon  館農 勝  中込和幸
 2001年,2004年,2008年と3回にわたり施行された,東アジアの6つの国・地域(中国,香港,日本,韓国,シンガポール,台湾)における処方調査の結果から,抗精神病薬の処方について比較検討を行った。全体の抗精神病薬の平均投与量(chlorpromazine換算)は2001年に比べ2004年および2008年は有意に減少していた。Risperidoneが処方数全体,単剤処方別にも最も多く処方されていた。多剤併用率は2001年の47.4%から2004年の39.0%と有意に減少していたが,2008年には44.0%と有意に増加しており,その内訳として第二世代抗精神病薬同士の併用が増加していた。日本の平均投与量および多剤併用率は双方とも減少していた。抗精神病薬それぞれの薬理作用を活かし,適切な使用を今後も検討することが必要である。
Key words : antipsychotic drugs, East Asia, polypharmacy, schizophrenia, international collaboration study


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