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展望
●添付文書にみる致死性の副作用・有害事象;因果関係評価を含めて
清水直容
 医薬品使用はQOL上昇を含め,生命の不老長寿達成が目的・使命である。補充療法以外では疾患の原因により望ましくない有害事象も生体への異物として起こり得る。それを皆無にでき得るかの知識には臨床薬理学が必要で,医薬品作用の理解である薬力学と薬物動態学が基本である。医薬品使用に際しては,病態を基本とした正しい診断が先決であるが,次いで,医薬品の添付文書が憲法となる。そこには,製品名に始まり組成,効能効果,用法用量に続き,有害事象関連で赤枠の禁忌,警告があり,次いで慎重投与,そして本題の副作用;有害事象・有害反応記載となる。国内外の頻度に続き,ブルー枠の重大な副作用欄が展望である。抗精神病薬としては,効能の分類では従来型「定型」;統合失調症・分裂病治療薬「ニューロレプチック医薬品」,と躁うつ病治療薬「サイケデリック薬」,さらに,うつ治療薬の分類があり,他の分類に,従来型「定型」と非定型「セロトニン,ドパミン拮抗,ノルアドレナリン,ヒスタミンまでの受容体遮断作用も含む」関連である。医薬品使用中に自殺しました,死亡しましたという報告をどのように判断なさいますか?
Key words : adverse event, causality evaluation, clinical pharmacology, suicide, psychotherapy

特集 添付文書に警告される向精神薬の副作用
●向精神薬による重症薬疹 : Stevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)ならびに薬剤性過敏症症候群(DIHS)――早期診断と早期対応のポイント――
末木博彦
 薬疹の多くは原因薬剤の中止により速やかに軽快するが,まれに生命を脅かしたり,失明を含む高度の視力障害,慢性呼吸器障害など重篤な後遺症を残す重症薬疹がある。精神科医が留意すべき重症薬疹には中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis : TEN), Stevens-Johnson症候群(SJS), 薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome : DIHS)がある。向精神薬であるcarbamazepineはSJSとDIHSの原因薬剤として最も多く報告されており,TENの原因薬剤は広範囲に及ぶものの,3疾患において抗けいれん薬は最も注意を要する薬剤である。精神科医は重篤な転帰をとりうる重症薬疹について熟知し,皮膚科など関連科と連携して対処する必要がある。特にSJS/TENは一刻を争って早期に診断し,迅速に最大限の治療を行うことが法律的にも求められている。すなわち被疑薬が抗けいれん薬であっても速やかな中止・変更,関連科への速やかな併診・転医がポイントである。
Key words : Stevens-Johnson syndrome (SJS), toxic epidermal necrolysis (TEN), drug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS), severe cutaneous adverse reaction, drug eruption

●睡眠薬使用時の夜間異常行動について
西田慎吾  井上雄一
 近年,睡眠薬を服用後に,夜間異常行動が出現した症例報告が増加している。この現象に対する警鐘として2007年3月に出されたFDAの勧告を受け,本邦でも2007年6月に睡眠薬の添付文書の改訂が行われた。我々は,睡眠薬による夜間異常行動について,特に夜間異常行動の発現時間に注目し,覚醒から入眠までの時間帯に出現し,睡眠薬の高用量使用時や他剤・アルコール併用時,急激な減量・中止時に出現しやすい睡眠薬の副作用に伴う夜間異常行動と,就寝中に出現し,常用量の睡眠薬でも誘発されうる睡眠関連食行動障害(SRED)などの睡眠時随伴症に伴う夜間異常行動に分類し,現時点における知見と対応に関するポイントをまとめた。現状ではまだ,睡眠薬による夜間異常行動出現のメカニズムは解明されていないが,これらを想定した上で,睡眠薬の使用法に細心の注意を払い,患者に対する十分な指導を行うことで,睡眠薬による夜間異常行動の出現を防止することが可能であろう。
Key words : hypnotic, side effect, sleep-related eating disorder (SRED), parasomnia, somnambulism

●高血糖による糖尿病ケトアシドーシス,糖尿病昏睡――Olanzapine, quetiapine, clozapine, aripiprazoleについて――
佐倉 宏
 以前から,統合失調症患者は一般人口に比べて糖尿病の発症率が高いと報告されてきたが,第二世代抗精神病薬が使われるようになってから,関連性が強く疑われる症例が数多く報告されるようになった。死亡例を含むケトアシドーシス昏睡の症例も相次いで報告され,厚生労働省より緊急安全性情報が出された。特に,olanzapine, quetiapine, clozapine, aripiprazoleは糖尿病があると禁忌または慎重投与(警告レベル)となっている。発症機序は不明な点が多いがさまざまな薬理作用と密接に結び付いている。糖尿病ケトアシドーシスや糖尿病昏睡は適切に治療しないと生命も危険となりうるが,普段から高血糖症状や血糖値をモニターし、高血糖が生じた場合でも早期に対応すれば重大な結果となることはほとんどない。ただし、精神疾患があると、口渇・多飲・多尿・体重減少などの自覚症状を訴えない可能性がある点が要注意である。
Key words : diabetic ketoacidosis, hyperglycemic hyperosmolar coma, side effect, atypical antipsychotic, diabetes mellitus

●向精神薬による無顆粒球症,白血球減少――特にclozapine,risperidone, blonanserin, mianserinについて――
中谷 綾  岡本真一郎
 向精神薬による無顆粒球症は死亡例の報告もある重篤な副作用である。Clozapineによる無顆粒球症は近年最も注目されているが,この他にも無顆粒球症が指摘されている向精神薬がいくつかあり,ここで紹介する。無顆粒球症に感染症を合併すると重篤な状態におちいり,直ちに適切な抗菌薬治療を行わなければ致死的となる。感染源の検索には全身状態の把握が重要であり,レントゲンやCTなどの画像検査も有用である。発熱性好中球減少症の治療として経口投与が不可能な場合は第4世代セフェムのcefepime(CPFM)や第3世代セフェムのceftazidine(CAZ),carbapenem系,または抗緑膿菌性penicillinを投与する。無顆粒球症を起こす薬剤を投与する際にはモニタリングを怠らずに行うことが肝心である。ときに致死的となる重篤な副作用であるため,この概念を深く理解し,血液内科医と連携して適切な検査,治療をすすめてもらいたい。
Key words : granurocytopenia, agranulocytosis, febrile neutropenia, blood dyscrasias, adverse effects

●抗うつ薬による自殺のリスクの増加
辻 敬一郎  田島 治
 1990年のfluoxetineによる自殺念慮発現の報告に端を発し,2003年のparoxetineの小児うつ病への投与禁忌措置に始まった抗うつ薬と自殺のリスクを巡る問題は,各国規制当局の詳細な調査により,全ての抗うつ薬が同等に,特に若年者において自殺のリスクを増加させるという結論に至った。本稿では,その結論に至った規制当局の一連の動向の経緯を概説した上で,様々な観点から行われた抗うつ薬と自殺のリスクを検証した種々の研究報告を紹介した。それらの研究結果を総括すると,全ての抗うつ薬は自殺完遂率を減少させるが,特に若年者や投与初期においては自殺関連事象の発現率を上昇させるということになり,各規制当局の警告に概ね準ずるものであった。しかし,抗うつ薬の種類別によるリスクの差異に対する見解は一致しておらず,更なる検討が必要であると思われた。
Key words : antidepressants, SSRI, suicide, suicidality, black-box warning

●抗精神病薬による遅発性錐体外路症状
山本暢朋  稲田俊也
 遅発性錐体外路症状は難治例が多いため,第2世代抗精神病薬の使用が主流となった現在でも,依然として抗精神病薬による治療上の大きな問題点となることがある。添付文書に記載されている遅発性錐体外路症状には,重大な副作用としてジスキネジアが挙げられているほか,急性・遅発性の記載はないが,ジストニアとアカシジアも挙げられているため,この3つについて,概略と治療法などを述べた。遅発性ジスキネジアについては,その治療アプローチについて各種ガイドライン・アルゴリズムでも言及されているが,頻度の少ない遅発性のジストニアやアカシジアの治療については,系統的な研究は乏しい。錐体外路症状への一般的対処方法としては,まずは第2世代抗精神病薬への切り替えや,可能であれば抗精神病薬の減量・中止を考慮することが重要である。今後は,遅発性錐体外路症状全般への系統的研究が行われ,そのエビデンスが蓄積されることが期待される。
Key words : tardive dyskinesia, tardive dystonia, tardive akathisia, second generation antipsychotics

症例報告
●精神症状悪化による入院を契機に多剤大量投与例からaripiprazole内用液への切り替えを行うことにより精神症状の改善とアドヒアランスの向上をみた破瓜型統合失調症の1例
岩本 敬  松田芳人  中岡清人
 精神症状に対する長年の治療の結果として多剤大量投与がなされ,それにより生じた副作用から服薬不規則に陥り治療に難渋していた破瓜型統合失調症患者に対し,精神症状悪化による入院を契機にaripiprazole(以下,APZ)内用液への急速切り替えを行った。その結果,精神症状は改善し退院に至り,その後アドヒアランスの向上をみた1例を経験したので報告する。症例は48歳の男性,罹病期間は約18年。APZ投与前はrisperidone 12mg/日,chlorpromazine 300mg/日,perospirone 24mg/日,およびbiperiden 4mg/日が処方されていた。今回,精神運動興奮を伴う精神症状悪化による入院を契機に前薬の処方を中止し,APZ内用液24ml/日の投与を開始した。また,APZの作用する受容体と前薬の作用する受容体の違いを考慮し,急速な一時的鎮静と前薬中止に伴う離脱症状回避のためにolanzapine 10mg/日とlevomepromazine 25mg/日を短期間の使用を前提に併用投与した。処方変更10日後に空腹時血糖が207mg/dlとなったため,olanzapineの投与を中止したところ,空腹時血糖は正常化した。APZを主薬とした処方に変更後,精神症状は改善し,60日後に退院,外来に移行した。APZ投与開始以降,錐体外路症状やその他の副作用の出現もなく,自身の生活向上のために料理を習うなど自発的な行動をとるようになり,アドヒアランスも良好となった。併用薬剤の選択にはさらに検討が必要であるが,APZがアドヒアランスを向上させ社会適応を進める手段となりえる可能性が示唆された。
Key words : aripiprazole, adherence, switching, polypharmacy

●Risperidone持効性注射剤の有効性に差異をみたアドヒアランス不良の統合失調症の2症例
竹林佑人  稲見理絵  鈴木利人  新井平伊
 2009年6月,本邦で初の非定型抗精神病薬の持効性注射剤であるrisperidone持効性注射剤risperidone long-acting injection(以下RLAI)が発売され,統合失調症の長期的な治療戦略における有効性が期待されている。今回,筆者らはアドヒアランスの低さから再燃,入退院を繰り返しRLAIを導入した統合失調症の2症例を経験し,RLAIの有効性や問題点について検討した。症例1はRLAIを導入し,精神症状とアドヒアランスの改善が得られたが,症例2はRLAIを導入するもアドヒアランスの改善は得られずに退院後,早期に再燃した。2症例の差異として,(1)RLAI導入前の経口risperidoneの有効性と至適用量の確認,(2)錐体外路症状の程度,(3)病態水準を含めた患者のアドヒアランス,(4)家族の協力体制が挙げられた。これらを解決,改善していくことがRLAIの円滑な導入に重要で,これらはRLAIの適応症例を見分けるポイントとなる可能性が考えられた。
Key words : adherence, risperidone long-acting injection (RLAI), schizophrenia

資料
●統合失調症患者が示したaripiprazole内用液の「のみ心地」に関する検討
長友慶子  松尾寿栄  三好良英  安部博史  船橋英樹  蛯原功介  尾薗和彦  荒木竜二  津山陽子  牧田昌平  河野次郎  井上雅文  米良誠剛  谷口 浩  石田 康
 Aripiprazole内用液(ARP-OS)内服中の統合失調症患者51症例に対し,「のみ心地」に関する無記名式質問紙調査を行い,服薬アドヒアランスについて検討した。対象はICD-10で統合失調症圏と診断されARP-OSを内服している患者群とし,疾患,年齢,性別,受療形態は問わず,ARP-OSに切り替えて4~8週後に各主治医が患者に質問紙調査を実施した。「薬に対する構えの調査票・修正版」(Drug Attitude Inventory-10 Questionnaire:DAI-10)10項目の質問では,ARP-OS内服開始時と4~8週後で統計学的な有意差は認めなかった。独自に作成した10項目の質問紙調査では,約6割の患者からARP-OSを肯定する回答が得られた。臨床全般改善度では統計学的に有意な改善が認められた。以上より,ARP-OSが服薬アドヒアランスおよび患者のQOLにも寄与する可能性が示唆された。
Key words : aripiprazole, oral solution, questionnaire survey, schizophrenia, adherence


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