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特集 
●海外データからみたpaliperidone徐放錠のプロフィール
村崎光邦
 本稿は、Paliperidone徐放錠(PAL-ER)のプロフィールを紹介した。PALはrisperidone(RIS)の主要なactive moietyで、同じserotonin-dopamine antagonist(SDA)であるが、その化合物特性はRISと大きく異なっている。PALのserotonin/dopamine比はRIS 7.1に比して1.5と小さい。さらに、dopamine D3受容体およびadrenalineα2A受容体に高い親和性を有している。また、その多くは肝チトクロームP450(CYP)で代謝を受けず腎から排泄されるためCYPを介した薬物相互作用の影響が低い。剤型的には、Osmotic controlled-Release Oral delivery System(OROS)を採用した徐放錠であり、安定した理想的な血中動態を得ることができる。臨床では、無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験、長期試験、再発抑制試験、実薬対照比較試験、治療不成功例を対象とした切り替え試験等が行われている。PAL-ERは初回より有効用量の投薬が可能であり漸増を必要としない。メタ解析の結果からRISやolanzapineとほぼ同等の有効性が認められている他に、社会的機能の改善ならびに治療満足度の向上が確認されている。有害事象プロフィールはRISに類似しているが、錐体外路症状、日中の眠気、体重増加のリスクはRISよりも低いと思われる。わが国において、PAL-ERの登場により統合失調症治療の第一選択薬物としての選択肢が広がることが期待される。
Key words : paliperidone extended-release, risperidone, schizophrenia, efficacy, safety

●Paliperidoneの薬物動態学的特徴
古郡華子  新岡丈典  古郡規雄
 Risperidoneの主要な活性代謝物paliperidoneはドパミンD2とセロトニン5-HT2A受容体の拮抗薬である。PaliperidoneはCYPによる代謝をほとんど受けず、腎からの排泄が中心である。したがって、CYPを介した遺伝子多型による影響や、競合的阻害による相互作用を受けにくい。OROSと呼ばれる浸透圧を利用した放出制御システムにより、paliperidone ER錠は速放錠と比較して24時間にわたり血漿濃度のピーク値とトラフ値の振幅が小さく、安定して放出制御されるため、1日1回投与を可能にしている。血中濃度が緩徐に立ち上がるので、起立性低血圧を予防するために初回投与量を調整する必要がなく、第1日目から有効用量を開始することができる。緩徐で継続的な薬物放出により血中濃度の変動が少なく、錐体外路系副作用の出現が緩和されることが予想され、臨床的に期待される薬剤である。
Key words : paliperidone, OROS, pharmacokinetics, metabolite, risperidone

●Paliperidone徐放錠の脳内動態特性
大久保善朗  荒川亮介
 Paliperidone徐放錠はrisperidoneの活性代謝物であるpaliperidoneを徐放錠化した新規抗精神病薬である。本稿では、海外と国内で行われたpaliperidone徐放錠に関するPET研究の結果に基づき、paliperidone徐放錠の脳内動態の特徴について論じた。海外の健康被験者を対象としたPET研究の結果からは、(1)paliperidone徐放錠はドーパミンD2受容体よりも5-HT2A受容体に対する親和性がより高く、セロトニン・ドーパミン拮抗薬としての特徴を持つことが確かめられた。われわれは、国内第二相臨床試験においてPETを用いて統合失調症患者を対象にpaliperidone徐放錠、反復投与後定常状態のD2受容体占有率を調べた。その結果、(2)paliperidone徐放錠の脳内作用には大脳辺縁系選択性を認めないこと、(3)risperidoneとpaliperidone徐放錠の等価用量比を脳内D2受容体への親和性比から求めると1対2であること、(4)錐体外路症状を回避しつつ抗精神病作用が期待される70~80%のD2受容体占有率に相当するpaliperidone徐放錠の至適用量は1日6~9mgで、1日3~12mgの臨床用量設定は至適用量を含んでいることから妥当と思われた。Paliperidone徐放錠は徐放錠剤化されたことによって、血中動態が一定に維持される特徴を持つ。海外および国内のシミュレーションから、(5)徐放錠化することによってpaliperidoneの脳内動態変動が6分の1に減少することが明らかになった。Paliperidone徐放錠の安定した脳内動態は副作用を回避しつつ安定した臨床効果が期待できるという観点から、急性期から維持期までの幅広い統合失調症患者の治療において望ましい特徴と考えられた。
Key words : paliperidone ER, Positron Emission Tomography(PET), dopamine D2 receptor

●統合失調症の治療ゴールとpaliperidone徐放錠への期待
丹羽真一
 統合失調症に対する治療では、精神症状だけでなく社会生活機能障害の改善も視野に入れ、患者の社会復帰を目標とした治療を行うことの重要性が指摘されている。統合失調症患者の社会復帰を促すためには、患者の機能障害を把握し、患者の自立度、治療に対する満足度、QOLを総合的に見つつ、周りからのサポート体制をつくり、具体的な目標を立てながら治療を行っていく必要がある。現在、統合失調症の治療は薬物療法が事実上中心となっているが、用いる治療薬の特性を適切に評価し、心理社会的治療にもしっかりと目を向け、薬物療法と心理社会的治療をうまく組み合わせることで精神症状や機能障害の改善効果が期待できる。また、治療に対する患者の満足度がQOLと相関することが指摘されていることから、患者のQOLの向上には患者自身の高い満足度が得られる治療法を選択することも重要である。
Key words : schizophrenia, QOL, social functioning, treatment goal

原著論文
●統合失調症患者を対象としたpaliperidone徐放錠のプラセボ対照二重盲検比較試験
平安良雄  富岡基康  飯泉美鈴  菊地寿行
 Paliperidone徐放錠であるPAL-ERの有効性及び安全性について、抗精神病薬として国内で初めてプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験にて検討した。急性症状を有する統合失調症患者321例をPAL-ER群(PAL-ER 6mg/日)、プラセボ群又はolanzapine(OLZ)群(OLZ 10mg/日)に3:3:1の割合で無作為に割り付け投与した。有効性解析対象集団は、PAL-ER群134例、プラセボ群138例及びOLZ群46例であった。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総スコアの最終評価時のベースラインからの変化量の平均値は、PAL-ER群-9.1、プラセボ群3.8であり、最小二乗平均値の投与群間差は-12.7と統計学的な有意差が認められた。また、いずれのPANSS下位評価尺度スコアのベースラインからの平均変化量においても、PAL-ER群はプラセボ群に比べて統計学的な有意差を示した。PAL-ERの安全性プロファイルは、他のPAL-ER試験での結果やrisperidoneで認められるリスクと大きく異なるものではなかった。PAL-ERは優れた治療効果を示し、さらに1日1回投与や初回投与時から有効用量を安全に投与できること等から、統合失調症薬物治療の有用な選択肢になると考えられる。
Key words : PAL-ER, osmotic controlled release oral delivery system, placebo-controlled double-blind study, schizophrenia

●統合失調症患者を対象としたpaliperidone徐放錠の長期投与試験
平安良雄  富岡基康  飯泉美鈴  菊地寿行
 Paliperidone徐放錠であるPAL-ERの長期投与時の安全性及び有効性について、48週間の長期投与試験にて検討した。先行する二重盲検比較試験に登録された321例のうち、選択基準を満たし継続投与を希望した221例、並びに本治験に新規に登録された7例の統合失調症患者に、PAL-ER 6mg 1日1回から投与開始し、3~12mgの範囲で長期投与した。最終投与量及び最頻投与量の被験者の割合はいずれも6mg/日が最も多かった。安全性では、何らかの有害事象が97.4%(222/228例)に認められ、重篤な有害事象が26例29件に発現したが、他のPAL-ER試験やrisperidoneで認められる安全性プロファイルと大きく異なるものではなかった。有効性については、陽性・陰性症状評価尺度総スコア等により、改善又は前治療薬の効果の維持が確認された。PAL-ERは長期投与時においても忍容性が高く、精神症状に対する優れた効果が示唆されたことから、統合失調症薬物治療の有用な選択肢になると考えられる。
Key words : PAL-ER, osmotic controlled release oral delivery system, schizophrenia

症例報告
●Paliperidone徐放錠による急性期から維持期までの長期治療が有用であった妄想型統合失調症の1例
吉岡隆興  髙坂要一郎
 保護室入院を要する激しい精神症状を呈した妄想型統合失調症において、paliperidone徐放錠(PAL-ER)により幻覚妄想や支離滅裂状態の速やかな改善が認められ、早期退院を迎え一人暮らしが可能となり、維持期においてさらなる精神症状と情緒面、意欲の改善を得た1例を経験した。PAL-ERによりプロラクチン値が41.25~55.22ng/mlを示したが、これに伴う関連事象は認められず、その他の有害事象はなかった。本結果に若干の考察を加えて、統合失調症治療におけるPAL-ERの位置付けについて検討したい。
Key words : paliperidone extended release, placebo-controlled double-blind study, long-term open study, efficacy, social functioning

●Paliperidone-ERにおいて再入院が抑止された統合失調症の1例――プラセボを対照とした二重盲検比較試験――
宮島英一  平良直樹  近藤 毅
 我々は、paliperidone-ERの統合失調症を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験に参加し、本試験および本試験後に継続する長期投与試験において、登録した患者の再入院が比較的長期にわたり抑止され続けた1例を経験したので報告する。本症例は過去に入院歴、各種抗精神病薬の投与経験をもつ59歳の女性の患者である。職場での暴言や独語が顕著に認められたため、長男に連れられて当院を外来受診した。幻覚・妄想といった陽性症状の中核的症状が見られたため医療保護入院し、olanzapineを主剤とする抗精神病薬の薬物治療に良好な反応を示し一定の落ち着きを取り戻した。しかしながら体重増加、臨床検査値異常などが見られたため、paliperidone-ERの治験に参加し、結果的に症状の安定といくつかの臨床検査値異常の改善が得られた。また、患者は当院において過去26年間にわたって受診歴があり、26回の入院歴をもつ。毎回の入院では薬物に比較的良好に反応することから服薬の継続性に再燃の原因があると考えられた。Paliperidone-ERの治験期間中、再燃・再入院は認められていない。
Key words : paliperidone, extended release, relapse prevention, schizophrenia, placebo controlled double blind

●Paliperidone徐放錠の有効性と安全性の検討――当院の治験結果から――
西山浩介
 当院では、2006年7月11日~2007年8月10日の間、paliperidone徐放錠(PAL-ER)の統合失調症患者を対象としたプラゼボ対照二重盲検比較試験を実施し、8名が参加した。そのうち7名がPAL-ERの安全性を検証する長期試験に移行した。当院での治験結果に基づき、PAL-ERの有効性と安全性について検討する。PAL-ERのプラセボ対照二重盲検試験では、PAL-ER群はPANSS総スコアで平均22点低下し、全般改善度では中等度~著明改善した。プラセボ群はPANSS総スコアで平均8点増加し、1名を除き軽度~中等度の悪化をきたした。プラセボ群のうち、2名は悪化のため治験中止となった。有効性に関してはプラセボに対し優越性が示唆された。また、安全性については長期試験を含め、特に重大な副作用は認めず、忍容性が高く、安全性に優れているとの印象を得た。当院で実施した特徴的な治験症例も紹介する。
Key words : paliperidone-ER, OROS, stability of plasma levels, risperidone long-acting injection

●Paliperidone徐放錠により意欲や自発性の顕著な改善が認められた解体型統合失調症の1例
菊田恵義
 Paliperidone徐放錠のプラセボ対照二重盲検比較試験に参加した解体型統合失調症の1例における本薬の有効性、安全性を報告する。患者の罹病期間は27年で、既存の定型および非定型抗精神病薬では効果不十分で長期にわたり入院を余儀なくされていた。今回、治験開始早期から陽性症状尺度、陰性症状尺度および総合精神病理尺度の全般的な改善が認められ、paliperidone徐放錠の有効性が確認された。中でも患者の意欲と疎通性が著しく改善し、退院へとつながった。主な副作用はプロラクチン値の上昇と体重増加であった。したがって、本症例よりpaliperidone徐放錠は精神症状の改善のみならず、心理社会的機能の改善をも促す可能性があることが示唆され、経口抗精神病薬の第一選択薬として急性期治療から慢性期の維持療法まで一貫した処方が可能になることが示された。
Key words : paliperidone extended release, disorganized schizophrenia, placebo-controlled double-blind study, weight gain

●Paliperidone徐放錠が有用であった初発統合失調症の1例
松永千秋
 20歳で発症し初回入院した統合失調症患者にpaliperidone徐放錠を投与したところ、良好な治療結果を得ることができた。前薬であるaripiprazole投与時には錐体外路症状のために用量設定が困難で、うつ状態、躁状態、躁うつ混合状態を呈したが、paliperidone徐放錠に変更後は病的体験が速やかに改善し、情動も安定した。有効用量におけるpaliperidone徐放錠の副作用は、錐体外路症状が少ないとされるaripiprazoleよりも明らかに軽度であった。また、薬物相互作用が少ないことから、精神病後抑うつ障害に対して幅広い薬物選択を可能にする薬剤であると考えられた。
Key words : drug interaction, tolerability, extrapyramidal symptom, akathisia, post-psychotic depression

●被害関係妄想と不安・抑うつにpaliperidone徐放錠が奏効した初発統合失調症の1例
山之内芳雄
 本症例は、現実には基づいてはいるものの病的な幻聴体験や被害関係妄想を呈し、病的体験と現実の境界が不明瞭な不安や抑うつを訴えた。本例に対してpaliperidone徐放錠は速やかで安定した効果発現を示し、長期治療におけるメリットを窺い知る機会を得た。また、本症例を介してプラセボ対照比較試験の体制が整備されていたことを基盤として、適切な説明と同意に加えて患者や家族の理解が何より大切であることを実感した。
Key words : paliperidone extended-release, efficacy, safety, placebo-controlled trial, schizophrenia

原著論文
●Aripiprazoleからblonanserinへの切り替え:統合失調症5症例に関する臨床的検討
三條克巳  酒井明夫  佐賀雄大  吉岡靖史  冨沢秀光  佐藤瑠美子  菅原教史  小泉範高  工藤 薫  菊地志保  大塚耕太郎  武内克也
 いくつかの第2世代抗精神病薬が投与されたものの陽性症状や副作用によって日常生活を制限されていた統合失調症例に対して、blonanserinへの切り替えが試みられた5症例を報告した。5症例ではいずれも、早期にわが国に導入された第2世代抗精神病薬がまず使用され、その後にaripiprazole、そしてblonanserinの順で切り替えられていた。切り替えが行われる際には、前薬に関する治療効果と有害事象の比較検討、その総合的評価と新たに投与しようとする薬剤への期待などが主たる要因となるが、5例中4例においてblonanserinは症状改善に優れ、錐体外路症状などの副作用も著明ではなく高い忍容性を示した。今後blonanserinは統合失調症の治療アルゴリズムにおいて重要な役割を果たしていくことが想定された。
Key words : blonanserin, aripiprazole, schizophrenia, case report, SGAs

資料
●早期統合失調症の診断と治療の現状について――神奈川県下におけるアンケート調査の結果より――
宮本聖也  松本英夫
 統合失調症を顕在発症前の早期段階から診断し、予防的に介入する臨床研究が近年急速に進展し、その介入の是非や介入方法をめぐる議論が活発になっている。2009年7月に、第3回早期統合失調症学術講演会が開催され、「神奈川県下の早期統合失調症の現状」というテーマでパネルディスカッションが行われた。これに先立って、神奈川県下の精神科医を対象に、早期統合失調症の診断と治療に対する考え方について、事前にアンケート調査を行った。その結果、約7割の精神科医が前駆期から何らかの介入を開始しており、抗精神病薬を用いた薬物療法を主軸に精神療法や家族への心理教育を併用していた。また若年発症例に対しても、同様の治療戦略がとられていたが、抗精神病薬の薬剤選択にあたっては、副作用面が特に留意されている現状が明らかになった。しかし現時点では、早期統合失調症に対する抗精神病薬の有用性については不明な点が多く、今後の臨床研究の進展が求められる。
Key words : schizophrenia, early intervention, prodrome, at risk mental state, pharmacotherapy


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