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展望
●新規抗てんかん薬に対する期待と留意点――主として部分発作治療の観点から――
山内俊雄
 わが国では、久しく新しい抗てんかん薬が市場に現れず、抗てんかん薬に関しては後進国のそしりを免れなかったが、2006年以降相次いで、gabapentin、topiramate、lamotrigineなどの新規抗てんかん薬が使えるようになり、2010年に承認されたlevetiracetamを含めると、4剤が使用可能となる。そこで、これらの新規抗てんかん薬を中心に、発作抑制効果、副作用(有害事象)について、従来型の抗てんかん薬との比較、ならびに新規抗てんかん薬同士での比較という視点からこれまでの報告を基に文献的な検討を行い、新規抗てんかん薬に期待することについて考察した。新規抗てんかん薬はわが国では、部分発作に対する付加投与のみが許されているという制約はあるものの、従来薬で抑制困難な発作を抑制する可能性とともに、今後はさらに重篤度の軽い対象にも使用する道が開けている。副作用については、従来型の抗てんかん薬ではあまり問題にされなかった服用者の自覚的な症状、特に頭の働きや精神面に与える影響など、精神活動に対する抗てんかん薬の影響が有害事象として重要視されるようになってきた。そのことが服用する者のwillingnessにつながり、結果として服薬の継続に結びつくadheranceに関係するものとして重要であることを述べ、てんかん治療におけるQOLの意義について強調した。
Key words : new antiepileptic drug, efficacy, adverse event, retention rate, adherence

特集 新規抗てんかん薬levetiracetamのすべて
●Levetiracetam―新規抗てんかん薬への期待
八木和一
 Levetiracetamは本邦で2010年7月に承認され、最も新しく上市される予定の抗てんかん薬である。本剤は今までの抗てんかん薬と異なり、神経細胞内のシナプス小胞にあるsynaptic vesicle 2A(SV2A)に結合して作用する特異な抗てんかん薬である。臨床治験結果からは他の抗てんかん薬の血中濃度には影響を与えず、相乗的に発作抑制効果を持つ可能性のある薬剤である。副作用は少なく、最も多く見られるものは傾眠、浮動性めまいなどである。小児や高齢者にも使用しうる特徴を持ち、今後抗てんかん薬として部分てんかんのみならず全般てんかん、その他の特殊てんかん症候群にも使用しうる広い有効発作スペクトルを持つ抗てんかん薬として期待される。
Key words : levetiracetam, effectiveness, tolerability, spectrum, characteristic

●Levetiracetamの薬理作用――そしててんかん原性抑制への期待――
笹 征史
 てんかんは繰り返し起こる身体的あるいは精神的発作であり、不均一な症候群である。多くの発作は薬物によりコントロールされ、近年さらに新しい抗てんかん薬が使用可能となったものの、なお20~30%の患者ではいずれの抗てんかん薬も無効であるとされている。このため抗てんかん薬は併用されることも多い。この場合は作用メカニズムの異なる薬物を使用するように推奨されている。したがってこれまでの抗てんかん薬の作用メカニズムとは異なった新薬が待たれるところである。Levetiracetam(LEV)はこのような期待に応える抗てんかん薬であり、さらに抗てんかん原性作用も期待される薬物として登場した。「LEVは実験動物において電撃けいれんおよびけいれん薬(pentylentetrazole)によるけいれんには無効であるが、キンドリングけいれんおよび遺伝性てんかんモデル動物のけいれん(聴原性けいれんマウス、SER)および欠神発作(GAERS、WAG/Rij、SER)に有効である」というこれまでの抗てんかん薬とは全く異なる抗てんかんプロフィールを示す。その作用メカニズムは(1)前シナプス内のシナプス小胞膜に存在するSV2Aと結合することにより神経伝達物質の放出を調節することで抗てんかんを示す。また、(2)N型Ca2+チャネルの抑制、(3)Ca2+貯蔵からのCa2+の遊離抑制、(4)GABAAとglycine受容体のアロステリック抑制の解除、(5)過同期化の抑制、などの特徴的な作用メカニズムが抗てんかん作用に寄与する。さらには遺伝性てんかんモデル動物において、LEVを発作発現前の幼児期に連続投与することにより生育に伴う発作の発現が抑制されることも報告されており、今後さらなる抗てんかん原性薬の研究が期待される。
Key words : antiepileptic drug, levetiracetam, antiepileptogenic drug, SV2A, hypersynchronization

●Levetiracetamの臨床効果――海外と日本――
寺田清人  井上有史
 Levetiracetam(LEV)がまもなく本邦でも発売となる予定である(2010年7月現在)。海外では1999年に米国で部分てんかんに対して承認されて以降、95ヵ国以上ですでに使用されている。これまでに海外で行われた臨床試験から成人の部分てんかんだけでなく、小児・高齢者の部分てんかん、特発性全般てんかんなどに対する有効性も示されている。また、効果発現の時期、長期的効果、血中濃度や用量・効果関係、他の抗てんかん薬との比較、発作の逆説的増加などの検討もすでになされている。本稿では、これらの海外からの報告とともに本邦にて行われた臨床試験を概説し、LEVの有用性について検討する。
Key words : levetiracetam, epilepsy, antiepileptic drug, double-blind study

●安全性からみたlevetiracetamの特徴
岩佐博人  兼子 直
 Levetiracetamを臨床的に有効に使用するために、その安全性について把握しておくことが重要である。有害事象としては眠気など中枢神経系の症状が最も頻度が高い。しかし、本剤の有害事象の多くは服用開始後4週間程度で出現し、概ね軽度な場合が多い。推奨血中濃度範囲内では、有害事象と服用量との相関がない場合が多い。代謝特性上、肝臓でのチトクロームP450による代謝は受けず腎から排泄されるため、他剤との相互作用も少ないが、腎機能障害が推定される場合には服用量の調整が必要である。また、本剤服用中に抑うつや不安症状などが認められる場合があり、精神医学的な既往歴のチェックや服用中の臨床症状の変化にも留意が重要である。全体的には患者のQOLを阻害するような有害事象や重篤な副作用は出現しにくく、作用機序や薬物動態学的な特性からも、新たな薬物療法の選択肢として本剤が加わる意義は大きい。
Key words : adverse events, levetiracetam, newly-developed antiepileptic drugs, safety profile, tolerability

●Levetiracetamの薬物動態
渡邊さつき  松浦雅人
 Levetiracetamは成人部分てんかんの部分発作に対する併用療法の適応で発売予定(2010年7月現在)の新規抗てんかん薬である。Levetiracetamを経口投与すると、血中濃度は用量依存性に直線的に増加し、投与1.3時間後に最大血中濃度となる。半減期は6~8時間で、1日2回の投与を行うと24~48時間で定常状態となる。海外では小児への投与量は成人の130~140%とし、高齢者では腎機能に応じて減量することが推奨されている。腎機能障害がある場合は、クレアチニンクリアランスを見ながら投与量を調節する。Levetiracetamは約6割が血中のカルボキシラーゼにより代謝されL057となり、尿中に排泄される。蛋白結合率が低く肝酵素による代謝を受けないため、薬物相互作用はほとんどない。これらの特徴からlevetiracetamは臨床的に使用しやすい薬剤であると考えられ、今後のてんかん治療への貢献が期待される。
Key words : levetiracetam, antiepileptic drug, pharmacokinetics, drug interaction

原著論文
●統合失調症の外来初発症例に対するolanzapine口腔内崩壊錠の導入――その有効性と安全性について――
窪田幸久
 本研究の目的は、統合失調症の初回発症患者を対象としたolanzapine口腔内崩壊錠による外来維持治療下での有効性と安全性を検討するものである。今回評価対象とした14症例は、外来患者のうち経過観察の後、ICD-10でF20と確定診断を下した初発統合失調症患者であった。評価開始時点では、興奮、幻覚・妄想といった急性転化を伴わない症例が主体で、意欲低下や疎通性不良、社会的な引きこもりが強いといった陰性症状を主訴とする症例群であり、12週にわたり以下の評価項目について検討した。精神症状についてはPANSSを主要評価に、副次評価としてDAI-10、Euro-QOL、GAF各評価も実施した。安全性については血液検査などの臨床検査、錐体外路症状についてはDIEPSSを用いた。結果、有効性に関しては、olanzapine口腔内崩壊錠導入後の4週後、8週後、12週後とPANSS評点については経時的に有意な改善を見た。また、開始後48週まで観察した治療継続性に関しては、14例中11例(78.6%)が中止脱落なく継続した。安全性の面からは、錐体外路症状は全例とも認めず、体重増加から1例が中止脱落となった。統合失調症の確定診断前、いわゆる前駆期、前駆症状とアットリスク精神状態における薬物治療のあり方についても考察を加えた。
Key words : schizophrenia, early intervention, olanzapine orally disintegrating tablets, first episode, at-risk mental state

●日本人小児期及び青年期AD/HDに対するatomoxetineの最長4年間の長期継続投与非盲検試験における有効性及び安全性
後藤太郎  多喜田保志  高橋道宏
 目的:日本人の小児期及び青年期の注意欠陥/多動性障害(AD/HD)患者におけるatomoxetineの最長4年間の長期投与の有効性と安全性を検討する。方法:6歳以上18歳未満のAD/HD患者を対象とした8週間のプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験に引き続き、非盲検下にて最長約4年間の継続投与試験を実施した(N=241)。継続投与期間中に18歳を超えた患者(N=12)について、有効性及び安全性の部分集団解析を行った。結果:AtomoxetineによるAD/HD症状の改善作用は長期にわたって維持されており、不注意及び多動性・衝動性サブスコアも全観察時点で改善がみられた(p<0.001)。長期投与による副作用の有症率の増加は認められなかった。有症率が10%以上の副作用は、頭痛、食欲減退、傾眠、腹痛及び悪心であった。投与初期にみられた体重と身長の平均パーセンタイルのベースライン値からの減少は、おおよそ40ヵ月頃にベースライン値まで回復した。投与期間中に18歳を超えた症例において、18歳を超えた後も安全性・有効性に関するプロファイルに変化は見られなかった。結論:日本人の小児期及び青年期のAD/HD患者において、atomoxetineの最長約4年間にわたる長期投与によるAD/HD症状改善の維持および忍容性が認められた。
Key words : atomoxetine, attention-deficit/hyperactivity disorder (AD/HD), long-term efficacy, long-term safety

症例報告
●非鎮静系抗精神病薬aripiprazole、blonanserinの可能性――急性期、維持期における改善例を通じて見えてくるもの――
髙木 学  折田暁尚  五島 淳  児玉匡史  岡久祐子  高橋 茂  中島豊爾  内富庸介
 非定型抗精神病薬を鎮静の強弱により、risperidone(RIS)、olanzapine(OLZ)を鎮静系、aripiprazole(APZ)、blonanserin(BNS)を非鎮静系抗精神病薬に分類する報告がある。本稿では、鎮静系のRIS、OLZが継続できず、非鎮静系のAPZ、BNSが有効であった、難治の経過をたどっていた統合失調症4例について経過を報告し、APZ、BNSの使い分けについて考察した。入院の2症例は、BNSが陰性症状に有効であった1例と、APZが強迫症状を中心とした思路障害に著効した1例であった。外来の2症例は、APZまたはBNSに変更後の副作用の改善に加え、鎮静が少なくなったことで集中力が増し、社会性の向上に繋がった。鎮静系抗精神病薬が無効である難治例に対して、非鎮静系抗精神病薬APZ、BNSは、急性期、維持期の治療において期待できる可能性が示された。
Key words : aripiprazole, blonanserin, intractable, schizophrenia, sedation

総説
●統合失調症治療における抗精神病薬の切り替えストラテジー
山本暢朋  稲田俊也  藤井康男
 抗精神病薬の切り替えは日常的に行われているが、その意義や注意点、切り替えストラテジーなどについて触れた文献は少ないため、本稿ではこれらを論じた。切り替えの意義としては、精神症状や有害事象の改善に加えて、薬剤の整理・減量が期待できる側面もあげられる。しかし、切り替え前の薬剤による離脱症状などにより、その施行が中断するおそれもあるため、予想される問題点とその対応を把握しておく必要がある。切り替えストラテジーは複数存在するものの、いずれのストラテジーにもメリット・デメリットが存在する。各ストラテジーの優劣を検討した研究では、あるストラテジーが有利だとする報告と、ストラテジー間に差がないとする報告の双方がみられ、その結論を出すにはエビデンスが不足しているのが現状である。今後は、抗コリン薬やベンゾジアゼピン系薬剤も含めた切り替えストラテジーに関する実証的な研究の蓄積が望まれる。
Key words : switching, strategy, antipsychotics


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