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展望
●日本における緩和医療の現状と展望
小早川 誠  林 優美  岡村 仁
 2006年に成立したがん対策基本法により、緩和ケアの領域でも全国的な研修会が開催され、緩和ケアに対する関心も高まってきている。ホスピス・緩和ケア病床を有する病院、緩和ケアチームともにその数は増加してきたが、今その質が問われている。全国的な研究・調査により、緩和ケアに関しての患者や家族のニーズも明らかになりつつある。在宅療養へのニーズは高いが、そのニーズに十分応えられるだけの体制は整備されていない。これまでは各地域において独自の方法で在宅療養のための連携が行われてきた。ようやくOPTIMなどモデル地域を設定した研究も進行し、結果次第では全国展開できる可能性がある。全国的遺族調査や学生教育などの研究プロジェクトも展開されている。
Key words : palliative care, hospice, history, education, research

特集 緩和医療における精神科薬物療法
●がん患者の精神症状とそのスクリーニング
横尾実乃里  清水 研
 がん患者においては、その治療経過の中でさまざまな精神症状が出現するが、その中でも適応障害やうつ病といった抑うつはQOLの低下を招き、自殺のリスクとなりうる。このような精神症状は適切な治療がなされれば改善が可能であるものの見過ごされやすく、適切な時期に適切なスクリーニングを行い精神科治療へつなぐ必要があるとされている。本稿では、がん患者の抑うつに対するスクリーニングツールの特徴や有用性について概説する。
Key words : cancer, screening, emotional distress, reliability, validity

●症状緩和のためのコミュニケーションスキル
木下寛也
 近年、緩和ケアチームを中心に精神科医ががん医療に関与を求められる機会が増している。そこで、がん患者およびその患者と関わる際のコミュニケーションの基本について、がん告知に関するコミュニケーション法「SHAREプロトコール」を参考に示した。コミュニケーションの目的としては、1)患者・家族との関係性の構築、2)患者の包括的症状評価、3)診断・治療の説明を中心に解説した。評価においては、今後さらに問題になる高齢がん患者に関する認知機能の評価、認知障害患者における疼痛の評価の例を呈示した。また、がん患者の家族へのコミュニケーションについては、1)患者の代弁者としての家族、2)家族自身の問題に焦点を当てる、3)家族間の問題に焦点を当てるなどについて解説するとともに、終末期の問題については、わが国における「望ましい死」の概念を呈示した。
Key words : communication, patient distress, family member distress, comprehensive assessment

●疼痛に対する対応と薬物療法の実際――スピリチュアルペインへの対応も含めて――
金井 貴夫  西村 勝治
 疼痛には、身体的、心理社会的、スピリチュアルな側面があり、包括的にマネジメントすることが必要となる。適切に疼痛をコントロールするためには、その病態生理を正しく理解し、評価することが重要である。機能的脳画像研究が示唆するように、「感情」と「注意」が疼痛閾値を変動させることに注目することは、評価の他、治療・ケアにおいても有用である。疼痛治療においては、薬物療法を施行する前に非薬物療法の可能性を検討することが前提であり、薬物療法では薬物動態学・薬物動力学に基づいた臨床薬理学の知識が求められる。スピリチュアルペインに対するケアは、身体的苦痛を軽減する上でも不可欠であり、その方法論として、支持的精神療法が基本となり、さらに実存的精神療法が有用であると思われる。
Key words : palliative medicine, pharmacotherapy, pain, spiritual pain, neuropathic pain

●がん患者における不眠
木村元紀  松島英介
 がん患者は、がんそのもの、また治療や社会的な状況から睡眠障害に悩まされることが多い。しかし、これまであまり注視されてこなかった。本稿では、がん患者の睡眠障害についての概論を述べる。
Key words : sleep disorder, patients with cancer

●抑うつ・不安への対応と薬物療法の実際
堀川直史  島 美和子  松原 理  倉持 泉  樋渡豊彦  國保圭介  内田貴光  安田貴昭
 がん患者における抑うつと不安は重要な問題である。対応としては、DSM-Ⅳなどの多軸診断と包括的アプローチを正しく行うことが必須であり、薬物療法はその一部として行われる。がん患者の抑うつと不安に関する薬物療法の研究は少ないが、その結果と一般的な臨床精神薬理学の知見を合わせて考えると、現時点で適切と思われる薬物療法は次のようになる。大うつ病には、抗うつ薬、主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を処方する。抑うつ気分を伴う適応障害にもSSRIの使用を試みることができる。予測される生存期間が2、3週より短いときには、精神刺激薬の使用を考慮する。不安を伴う適応障害には、抗不安薬、睡眠薬を使用することができるが、trazodone、mirtazapine、SSRIなどもがん患者の不安に有効な可能性がある。特に注意すべき点は、薬物の副作用が強く現れる可能性があること、オピオイドの副作用の増強、主にSSRIにより一部のオピオイドの代謝が阻害されることなどである。
Key words : cancer, depression, anxiety, palliative care, pharmacotherapy

●せん妄への対応と薬物療法の実際
大西秀樹
 せん妄はがん医療の現場で進行・終末期患者を中心にしばし認められ、入院期間の延長、合併症、死亡率の増加とも関連している。また、患者にとって苦痛な症状でもあり、家族の苦痛の原因ともなっている。臨床現場では行動面での問題が取り上げられることが多いが、問題の本質は何らかの原因による脳の機能異常である。したがって、治療の中心は原因の同定と除去であり、これに加えて環境調整、薬物療法を同時に行なうことが必要である。せん妄の診断、原因の同定はその後の治療方針に大きく影響する。薬物療法は抗精神病薬が中心であるが、ベンゾジアゼピン系の薬物が追加になることも多い。原因の同定が行なえても除去ができない場合は予後不良の兆候でもあるため、症状の回復よりも苦痛の軽減が治療の中心となる。
Key words : delirium, cancer, pharmacological treatment

●がん患者の希死念慮と自殺
明智龍男
 がん治療の進歩に伴い、現在、がんの約半数は治癒が可能となり、「がん=死」というイメージは過去のものになりつつある。しかし、一方では、半数の患者にとっては依然としてがんは致死的疾患であることに変わりはなく、さらには長期生存患者にも身体的な機能障害、社会的な再適応の必要性など様々な問題がみられる。実際、がん医療の現場では、患者から、「早く死んでしまいたい」「早く逝かせて欲しい」「安楽死をして欲しい」などの言葉が聞かれることは決して稀ではない。また、時として自殺という悲痛な結末を迎える事例も経験される。それでは、実際にがん患者は一般人口に比して自殺が多いのであろうか。がん患者の自殺の背景にはどういった要因が関連しているのであろうか? また、このような患者をどのようにマネージメントしていけばよいのであろうか。本稿では、このようながん患者の希死念慮および自殺について概説した。
Key words : cancer, suicidal ideation, suicide, depression

原著論文
●Aripiprazole単剤による6ヵ月以上長期継続投与33例の有用性の検討
吉川憲人
 Aripiprazole単剤にて6ヵ月以上長期継続投与できた33例の有用性を検討した。33例のaripiprazole平均投与期間は18.5ヵ月であり、平均開始用量は12.1mg/日、平均最大投与量は21.6mg/日であった。33例中、具体的な就労・学業への復帰および就労への取り組みが17例(51.5%)、社会復帰プログラムに参加が7例(21.2%)、明らかな日常生活機能の改善が7例(21.2%)にみられ、合計31例(93.9%)において具体的な日常生活・社会生活機能の改善を確認した。また、14例(42.4%)において、前治療薬による副作用が消失もしくは軽減していた。さらに、aripiprazole投与後、幻覚・妄想のみならず表情変化欠如・自発的動きの減少・会話量の貧困・会話の内容・身だしなみと清潔度なども投与6ヵ月以内に57.6%~75.8%の範囲で明らかな改善を示していた。Aripiprazoleは、長期投与に至れば社会復帰や日常生活機能改善を目指す上で有用な薬剤と考えられた。
Key words : effectiveness, aripiprazole, monotherapy, schizophrenia, long-term, daily life function


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