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展望
●児童青年期の双極性障害:臨床像と薬物療法の展望
十一元三
 早期発症の双極性障害について,成人発症例と比較しながら臨床像の特徴と薬物療法に焦点を当てて総論的に展望した。まず,早期発症例を児童期発症型と青年期発症型に二大別し,前者では成人例と大きな相違がみられることを述べた。次に,双極性障害の4病型とその基盤となる気分エピソードなど基本的診断概念は早期発症,成人発症を問わず同一であることを述べた後,両者の臨床像の相違について,周期性や各気分エピソードごとに整理して述べた。続いて,精神病症状や併存障害など早期発症例の診断を困難にする要因について解説した後,早期発症例の特徴を踏まえた薬物療法の基本的戦略について概説した。
Key words : bipolar disorder, early onset, diagnosis, comorbidity, pharmacotherapy

特集 児童青年期双極性障害に対する薬物療法
●児童青年期双極性障害に対する気分安定薬のリスク・ベネフィット
清田晃生
 双極性障害の治療において薬物療法は中心的役割を担うが,児童青年期を対象とした二重盲検比較試験は少ない。Lithiumは経験的にも双極性障害に一定の効果が期待できるが,その有効性は急性期治療でも予防効果でも十分高いとは言い難い。バルプロ酸は治療域が広く使用しやすい薬物であり,研究が進んでいる。しかしその有効性についてはlithium同様,まだ一定していない。双極性障害治療においてlithiumとバルプロ酸は第一選択薬となりうるが,重症度に応じて抗精神病薬や抗うつ薬などによる付加療法をしながら治療する必要があろう。Carbamazepineは十分な有効性を示唆する研究が見いだせず,またその誘導体であるoxcarbazepineについては否定的な報告もあり,当面は第二選択薬あるいは付加治療薬として考えるべきであろう。気分安定薬は致死性や催奇形性など重要な有害反応を生じるため,アドヒアランスを高める心理教育がリスク軽減には重要である。
Key words : mood stabilizer, bipolar disorder, efficacy, prophylaxis, adverse effects

●児童青年期双極性障害に対する抗うつ薬の使用とその影響
齊藤卓弥
 近年児童青年期の双極性障害への認識が高まるにつれて,双極性障害の治療においてもevidenceが蓄積されてきている。児童青年期の双極性障害の治療には,薬物療法,精神療法,教育的な介入を含めた包括的な治療が必要であることが明らかになってきた。最近,児童思春期の双極性障害の躁状態に対してプラセボを用いた二重盲検試験による薬物の有効性が海外で検証されるようになってきている。一方で,双極性障害のうつ病相については十分なevidenceに基づいた治療の蓄積がないことが大きな問題となっている。特に,児童青年期のうつ病相に抗うつ薬を用いることに対しては,さまざまな有害事象の出現と有効性が指摘され疑問の声があげられている。この論文では,児童青年期の双極性障害への抗うつ薬の使用およびその影響を論じる。
Key words : pediatric bipolar disorder, evidence based medicine (EBM), antidepressant, manic switching, bipolar depression

●児童青年期双極性障害に対する抗精神病薬の使用
須磨一剛  吉川  徹
 第二世代抗精神病薬は,近年海外において統合失調症だけでなく双極性障害に対しても,単剤または気分安定薬との併用として処方されることが多くなってきている。特に児童青年期では錐体外路症状などの副作用が出現しやすいため,また血中濃度モニターの負担が大きいこともあり,第二世代抗精神病薬が好まれる傾向にある。児童青年期双極性障害のうち,急性期-躁病/混合性エピソード,特に精神病症状,攻撃性,焦燥感を伴う場合においては,第二世代抗精神病薬が有効であり,気分安定薬単剤よりも,気分安定薬と第二世代抗精神病薬の併用がより有効であると考えられる。しかし,現在のところ児童青年期双極性障害に対する第二世代抗精神病薬の使用については,大規模な無作為化二重盲検比較試験が存在しない。第二世代抗精神病薬の児童青年期双極性障害に対する適応拡大のためには,副作用の検討を含め,今後さらに臨床試験に基づいた評価が求められる。
Key words : child and adolescent bipolar disorder, antipsychotics

●青年期双極性障害と自閉症スペクトラム障害との併存,そしてその薬物療法
棟居俊夫
 自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder : ASD)と双極性障害(bipolar disorder : BD)は共に有病率が高く,遺伝要因の大きい代表的な精神疾患である。ASD児者は特に青年期以降にBDを発症することがある。両者の併存例の研究はなお少ないが,本稿ではまずASDにおける気分障害の従来の研究を概観した。ASDはうつ病やBDを併存する可能性があるが,うつ病はBDが否定されて初めて診断できる疾患のため,BDがうつ病よりも優先される。つまりBDを見逃さないことが,ASDの気分障害の研究に必要であることを述べた。最後に,ASDとBDの併存例に対する薬物療法の研究はほとんどない。したがって,BDの定型的な治療をすることになるが,その際の注意点について触れた。
Key words : bipolar disorder, autism spectrum disorder, comorbidity, adolescence, drug therapy

●児童青年期双極性障害に併存する注意欠陥/多動性障害に対する中枢神経刺激薬の使用
岡田 俊
 注意欠陥/多動性障害(AD/HD)は,児童青年期双極性障害にしばしば併存するが,臨床症状に類似点も多く,鑑別と併存の判断を巡っては議論がある。そのようななか,AD/HD児にmethylphenidate(MPH)を投与したところ躁病エピソード,あるいは精神病症状を伴う躁病エピソードが誘発されたという報告,中枢刺激薬の投与歴のある患者の方が双極性障害の発症年齢が早いという後方視的データが提出され,MPH投与の是非を巡りさまざまな検討が加えられてきた。しかし,前方視研究では,中枢刺激薬が双極性障害の誘因となったり,中枢刺激薬の投与が気分変動を増悪させるという仮説は支持されなかった。先行研究からは,双極性障害とAD/HDの併存例において,MPHの使用を避ける必要はなく,lithium,valproate,aripiprazoleといった気分安定化作用のある薬剤を投与し,正常気分を呈した後に中枢刺激薬を追加投与すれば,気分症状を悪化させることなくAD/HD症状を改善することが示されている。Atomoxetineについては一件の非盲検試験があるのみで,さらなるエビデンスの蓄積が求められる。
Key words : attention-deficit/hyperactivity disorder, bipolar disorder, mania, methylphenidate, atomoxetine

●児童青年期双極性障害における睡眠障害
堀内史枝  岡  靖哲  河邉憲太郎  上野修一
 児童青年期双極性障害における睡眠障害は,躁病エピソード・うつ病エピソードいずれにも関連する臨床症状として重要な所見である。睡眠の質・量の低下や睡眠覚醒リズムの問題は,日中の活動性・認知面・学習面への影響が大きく,特に児童期において発達に及ぼす影響を考慮すると,早期発見・早期介入が必要である。児童青年期における睡眠障害の薬物療法については,十分なコンセンサスが得られておらず,心理学的介入や認知行動療法が主として用いられる。認知行動療法的アプローチをする上で,夜間の睡眠状態に加えて日中の活動性も把握できる睡眠日誌は有用である。
Key words : pediatric bipolar disorder, sleep disturbance, sleep-wake log

原著論文
●岡山県精神科医療センタースーパー救急病棟における統合失調症治療――急性期,維持期の処方,予後調査から見えてきたもの――
髙木 学  吉村文太  耕野敏樹  池上陽子  大和真理子  五島 淳  小田幸治  橋本 望  竹中 央  高橋正幸  石津すぐる  来住由樹  児玉匡史  中島豊爾  氏家 寛
 2007年度,岡山県精神科医療センタースーパー救急病棟に入院した統合失調症患者211例の,急性期,維持期の薬物療法,入院中の患者・家族疾病教育,退院後の訪問,通所など治療介入効果を後方視的に検討した。急性期,risperidone(RIS),olanzapine(OLZ)は70%以上の有効度に対し,quetiapine(QTP),aripiprazole(APZ)は55%以下の有効度であり非定型抗精神病薬間で差が見られた。この差は初発例で小さくなり,再発例で大きくなった。急性期の薬物変更理由は効果不足が76%,維持期は副作用が44%と理由が変化した。結果,急性期にRIS,OLZが選択され,維持期はRISが減りAPZが増えた。気分調節薬の併用は56%と多かった。退院後1年で,再入院は31%,通院中断は3.8%と少なかった。治療継続には薬物療法に加え,入院中の疾病教育,作業療法,退院後の社会資源の活用が重要であり,本調査においては,結果65%の患者が社会性を保持していた。一方で,薬物療法の工夫,マンパワーは高い治療効果を生むが,悪性症候群4例,自殺2例から課題も窺えた。
Key words : schizophrenia, emergency unit, antipsychotics, intervention, prognosis

●統合失調症激越状態に対するrisperidone,olanzapine,quetiapine単回使用の効果
吉村直記  大坪天平  熊田貴之  鳥谷玲奈  佐野奈々  渡邉壮一郎  稲本淳子  三村 將  加藤進昌
 統合失調症急性期治療において,新規抗精神病薬は従来型抗精神病薬と比較して,効果は劣らず有害事象は少ないというエビデンスは多数あるにもかかわらず,未だに従来型抗精神病薬が使われる傾向にある。さらに,新規抗精神病薬同士の有用性を比較した試験は少ない。今回我々は,臨床で汎用されている新規抗精神病薬3剤(risperidone液剤2mg,olanzapine口腔内崩壊錠5mg,quetiapine錠剤200mg)を用いて,統合失調症激越状態に対する単回投与で,2時間以内の短時間のうちにどの程度鎮静効果が得られるかを比較検討した。その結果,3剤とも経時的に激越状態が改善する傾向を認めたが,特にrisperidone,quetiapineにおいて60分後,120分後に有意な改善を認めた。3群間比較では,120分後にquetiapineがolanzapineと比較してより強い鎮静効果を認めた。また,睡眠を伴う鎮静は全体の5.9%に認めたのみであった。他の重篤な有害事象は認められなかった。この結果,統合失調症激越状態の治療において,risperidone液剤2mgとquetiapine錠剤200mgは,有効で安全であるといえた。Olanzapine口腔内崩壊錠5mgは,激越状態の急速な改善に関しては用量不足の可能性が示唆されたが,安全性においては問題なかった。
Key words : schizophrenia, agitation, second generation antipsychotics, sedation, calmness

症例報告
●Risperidone持効性注射剤による単剤維持療法への切り替えを自ら選択した統合失調症通院患者の1例
渡部和成
 長期間risperidone内用液(ROS)単剤で通院治療中の患者が,3日間怠薬後の精神的不調を自覚した後,自らrisperidone持効性注射剤(RLAI)による単剤維持療法への切り替えを希望した例を報告する。患者は,以前ROS単剤での入院治療中,ただ1回の抗精神病薬の筋注を非難したエピソードがあった。今回,退院後消失していた幻聴が出現したことを重視し,患者にRLAIを紹介しメリットとデメリットを説明したところ,患者はRLAIによる治療への変更を希望し注射を受けた。注射を嫌っていた患者がRLAIを選んだ理由は,RLAI単剤治療により服薬確認のストレスやわずかな怠薬による病状不安定化の心配がなくなり,病からの回復につながる生活の質(QOL)の向上が期待できることであった。このようなケースが,今後統合失調症治療の維持療法で積極的にRLAIを使用する価値がある対象の1つとなると考えられる。
Key words : risperidone long-acting injection, maintenance therapy, outpatient, schizophrenia


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