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展望
●精神科臨床試験の動向
樋口輝彦
 新規向精神薬の開発には膨大な時間と費用がかかることはよく知られている。その要因としては,ドラッグ・ラグの問題,治験環境の整備の遅れ,被験者を募ることの困難さ,治験に関わる医師のインセンティブの問題など,多くの課題が存在することが明らかにされている。これに加えて,特に向精神薬の治験の成功率が低いことも関係する。1回の治験の成績が思わしくない場合には,さらに数年がかりの治験を組まなければならず,それだけで膨大な時間と費用を要するのである。それが,薬としての有効性を持っていなければそれまでであるが,すでに海外で市販され,臨床に用いられている薬が治験の失敗のために導入できないのは問題である。最近,「治験の質」を高めるための工夫が論じられるようになり,これが効率の良い薬の開発につながることが期待される。本稿では,治験の質を高める方法を中心に向精神薬開発環境の整備について論じた。
Key words :drug lag, global study, interrater reliability, interview quality, rater bias

特集 臨床開発の最近の動向
●本邦における国際共同治験の現状と課題――抗うつ薬開発の最近の動向――
中林哲夫  中村治雅  岡本長久
 治療環境の向上のためには,臨床での治療戦略の確立と並び,新規治療薬の開発も重要である。近年の精神神経疾患領域における欧米での新薬開発は活発である。本邦ではドラッグ・ラグは社会問題となっているが,海外と同時開発を行う方法の1つとして国際共同治験が提唱され,その実施数も増加しており,医薬品開発の方法として定着しつつある。本稿では,欧米では標準治療薬とは異なり新たな作用機序を有する化合物の臨床開発に突入しているうつ病領域に焦点を当て,新規治療薬の開発状況,臨床試験の実施状況,そして症例集積性について調査することで,本邦における国際共同治験の現状と課題について検討したので報告する。
Key words :multi―regional clinical trial, major depressive disorder, antidepressant, drug development delay, sample size

●医師主導治験による医薬品開発
八木優子  小林史明
 平成15年7月,改正薬事法が施行され医師主導治験が実施可能となった。医師主導治験の実施主体となる自ら治験を実施する者(医師・歯科医師)は,企業治験の治験依頼者と同格に位置づけられており,薬事法,薬事法施行規則,医薬品の臨床試験の実施の基準(Good Clinical Practice:GCP)を遵守した多岐の業務を実施しなければならない。そこで,同年,日本医師会は治験促進センターを設置し,治験推進研究事業に採択された研究課題(医師主導治験)について,治験の準備段階から承認取得後までを支援している。治験促進センターが医師主導治験を支援した経験を踏まえ,医師主導治験の流れおよび医師主導治験を計画する前の段階で整理が必要な点をまとめた。
Key words :investigator―initiated clinical trials, clinical development, regulatory approval, MHLW's Large Scale Clinical Trial Network Project (MHLW's grant)

●長期アウトカム(effectiveness)試験
三宅誕実  宮本聖也
 向精神薬の臨床開発の基盤となる無作為化比較試験は,その規模と目的に応じて様々にデザインされる。試験薬の短期間の有効性(efficacy)と安全性(忍容性)に関する情報を迅速に得るために実施されるefficacy試験は,その薬剤にとって理想的な環境下で行われることが多い。そのため一定の条件下における薬剤の純粋な実力を量るのには好都合であるが,得られたデータが日常臨床にすぐに適用できるとは限らない。近年は,対象患者の選択や併用薬などの制限を緩和し,実際の臨床現場における総合的な治療効果(有用性:effectiveness)を示す評価項目を用いた,より長期のアウトカム(effectiveness)試験が次々に実施され,精神科治療学に大きなインパクトを与えてきた。と同時に,efficacy試験のメタ解析の結論が,effectiveness試験の結果と一致しないこともあり,新規薬剤の優越性に関して現在も議論が続いている。今後は,両方のタイプの臨床試験から得られるエビデンスを科学的に吟味しながら,相補的に情報を統合していく慎重な姿勢が必要と考える。本稿では,近年の精神科領域の代表的なeffectiveness試験を紹介しながら,その意義と今後の課題を考察した。
Key words :effectiveness trials, efficacy trials, long―term outcome, practical clinical trials, pragmatic trials

●向精神薬適応拡大の現況と今後の課題
久住一郎  池田正行  小山 司
 向精神薬の適応外使用は,臨床現場で主に経験的な根拠で日常的に行われているが,多くの問題点を内包している。その解決の一手段としての適応拡大に関する開発は,欧米と比較して,わが国では遅々として進んでいない。様々な事情で適応拡大に消極的な製薬企業の主導による治験に頼るだけでは現状を打破することはできず,今後,関係学会の主導による二課長通知を活用した公知申請や医師主導型治験を積極的に進めていく必要がある。しかしながら,これらの方法にも多くの問題点があり,システムの改善や支援体制の強化など医療職・製薬企業・国が一体化した取り組みが必要である。また,支払基金による保険適応の認定にも,大いに改善の余地が残されていると考えられる。
Key words :psychotropic drug, off―label use, supplemental approval, investigator―initiated clinical trial, 2 section chief's notification

●MATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリーの開発――統合失調症治療への導入を目指して――
佐藤 拓  兼田康宏  住吉チカ  住吉太幹  曽良一郎
 認知機能障害は統合失調症の中核症状の1つとされ,その改善に向けた治療法の開発が望まれている。これまで,統合失調症患者の認知機能を包括的に評価し,かつ国際標準となりうるテストバッテリーが存在せず,認知機能障害の改善を目的とした治療薬などの開発を妨げる要因の1つとなっていた。こうした中,米国立精神保健研究所(NIMH)主導のもと,MATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)が近年開発され,統合失調症の認知機能を評価する標準的なテストバッテリーとして米国食品医薬品局(FDA)にも認められている。本論文ではMCCB最終版の開発に至るまでの過程ならびに同バッテリーの特徴を紹介した。また,本邦へのMCCB導入に関して,グローバル治験への参加の必要性などの背景を踏まえ,その過程と意義について論じた。
Key words :cognition function, schizophrenia, MATRICS Consensus Cognitive Battery (MCCB), functional outcome

●機能画像研究の臨床開発応用
舘野 周  大久保善朗
 Positron Emission Tomography(PET)は標識化合物の種類により受容体,トランスポーター,合成能等のモノアミン神経系機能評価やアミロイド,P糖タンパクなどを計測できる。特異結合部位での受容体密度を反映するとされる結合能(BP)を指標にして「受容体占有率(%)=(服薬前BP-服薬後BP)/(服薬前BP)×100」を求めることで,抗精神病薬や抗うつ薬の薬効,至適用量,薬理学的特性,脳内動態の経時的変化,脳内移行性などの評価が行われている。これらの知見,特に受容体占有率に基づく至適用量設定は,我が国でも薬剤開発のPhase IやPhase II試験に利用されるようになっている。今後はマイクロドーズ臨床試験などへの利用も期待されている。本稿では,PETの臨床開発への利用と今後の可能性についてこれまでの知見を踏まえて述べたい。
Key words :Positron Emission Tomography, psychotropic drug, clinical development

原著論文
●統合失調症患者への非定型抗精神病薬治療と糖尿病のリスク:メタ分析
奥村泰之  三澤史斉  中林哲夫  伊藤弘人
 日本人の統合失調症患者において,olanzapineとquetiapineは,他の抗精神病薬と比べ,糖尿病のリスクが高いかを検討することを目的とした。統合失調症患者に対し,暴露群としてolanzapineまたはquetiapine,非暴露群として他の抗精神病薬を取りあげ,糖尿病のリスクを比較している2001~2009年の研究を,医中誌およびMEDLINEを用いて検索し,メタ分析により統合した。分析の結果,olanzapineとquetiapineは,他の抗精神病薬と比べ,糖尿病のリスクについて差がみられなかった(k=6,g=-0.07,95%CI=-0.32 to 0.19)。前向きにデータを収集している研究が少ないことなど,方法論上の限界があることが示された。各薬剤間の糖尿病のリスクを十分に比較検討した上で,添付文書上の注意喚起の設定についても,その妥当性を再評価していく必要があると考える。
Key words :schizophrenia, diabetes, systematic review, second―generation antipsychotics

●説明文書を用いたインフォームド・コンセントが精神疾患患者における抗精神病薬の満足度および服薬態度に及ぼす影響について
種村繁人  亀井浩行  笹野 央  吉田 勉  金森亜矢  岸 太郎  北島剛司  成田智拓  内藤 宏  岩田仲生
 近年,精神科医療において薬物療法のインフォームド・コンセント(IC)のあり方が問題となっている。中でも第二世代抗精神病薬(SGA)は,統合失調症のみならず,患者の症状や状態により適応外使用が行われることは決して稀ではない。そこで,外来に受診したSGAを服薬している201名の精神疾患患者を対象に,SGAに関する説明文書を用いた説明が患者の服薬に対する満足度や服薬態度にどのような影響を及ぼすかについて調査を行った。その結果,多くの患者が十分なICを受けていない現状が明らかとなり,説明文書を用いたICは,患者の薬に対する満足度や服薬態度に悪影響を及ぼすことはなく,むしろ多くの患者に好意的に受け止められ,患者側からその必要性が求められた。特に適応外使用に対しては治療のリスクとベネフィットについて,また,副作用の早期発見や対処方法について十分な説明を行うことが重要であり,今後,ICにおいて求められる課題である。
Key words :informed consent, mental disorder, second―generation antipsychotics, medication attitude, satisfaction

●日本人及び白人大うつ病患者におけるmirtazapineとfluvoxamineの有効性及び安全性の比較
村崎光邦  J. H. Schoemaker  三宅和夫  J. Gailledreau  A. J. Heukels  H. P. Fennema  J. M. A. Sitsen
 日本人と白人大うつ病患者を対象として,mirtazapine(15~45mg/日)及びfluvoxamine(50~150mg/日)のフレキシブル投与による無作為化,二重盲検試験を実施し,ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HAMD17)の合計点の変化量を指標に,mirtazapineのfluvoxamineの有効性に対する非劣性を,非劣性マージン2ポイントとして示すことを目的とした。Mirtazapine群は199例(日本人96例,白人103例),fluvoxamine群は203例(日本人98例,白人105例)であり,mirtazapine群とfluvoxamine群の両群でHAMD17合計点はベースラインから臨床的に有意に減少した(それぞれ-14.3,-13.6)。両群間のHAMD17合計点の変化量の差は-0.7であり非劣性が示唆された。Mirtazapine群とfluvoxamine群のHAMD17合計点の差に統計的有意差はなく,効果の発現はfluvoxamineに比べmirtazapineで早かった{7日目:-1.97(p<0.001),14日目:-1.86(p=0.001)}。両薬剤とも忍容性は良好であり,mirtazapine群では傾眠が日本人に,fluvoxamine群では嘔気が日本人と白人双方に多く発現した。両薬剤は日本人と白人大うつ病患者に対して同様に有効で,安全性プロファイルは異なるものの忍容性は良好であり,民族間で類似していた。
Key words :mirtazapine, fluvoxamine, major depressive disorder, Japanese, Caucasians

●日本人小児期AD/HDに対するatomoxetine長期投与の有効性及び安全性:短期プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験及び長期継続投与非盲検試験(3年間)の併合解析(中間報告)
後藤太郎  多喜田保志  高橋道宏
 [目的]注意欠陥/多動性障害(AD/HD)を有する日本人の小児・青年を対象に,atomoxetine長期投与の有効性と安全性を検討する。[方法]AD/HDを有する日本人の6歳以上18歳未満の小児・青年を対象に,8週間の短期投与試験(プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験)に引き続き,非盲検下にてatomoxetineを最長3年間,長期継続投与した。初回投与量は0.5mg/kg/日(1日2回)として,維持用量は1.2~1.8mg/kg/日とした。解析には短期投与試験と長期継続投与試験のデータを併合し,atomoxetine投与期間中の有効性・安全性を評価した(N=241)。[結果]atomoxetineはAD/HD症状を長期にわたって改善した。ADHD RS―IV日本語版(医師用)総スコアのベースラインからの投与期間別平均変化量は-13.4(0~6ヵ月),-15.5(6ヵ月~1年),-17.5(1~2年),-20.7(2~3年)であった(全てp<0.001)。同様に,不注意サブスコア及び多動性/衝動性サブスコアにおいても全ての時点で統計学的に有意な減少がみられた(全てp<0.001)。副作用が発現した患者の投与期間別の頻度は62.7%(0~6ヵ月),47.1%(6ヵ月~1年),51.3%(1~2年),36.2%(2~3年)であった。頻度の高い副作用は頭痛,食欲減退,傾眠であった。短期投与試験において認められた脈拍数増加,収縮期・拡張期血圧の上昇が長期継続投与試験においても持続していた。長期継続投与時の体重と身長の平均パーセンタイルはベースライン値から減少したが,2年以上の投与例が少なかったため,2年以降の変動については明らかではなかった。[結論]AD/HDを有する日本人の小児・青年にatomoxetineを最長3年間にわたって長期投与した結果,長期継続投与により副作用の有症率が上昇することはなく,安全性プロファイルも過去に実施した臨床試験と大きな差はなかった。また,AD/HD症状は有意に改善した。
Key words :atomoxetine, attention―deficit/hyperactivity disorder (AD/HD), long―term efficacy, long―term safety, interim analysis

症例報告
●Blonanserinが効果的であった治療抵抗性統合失調症の1症例
高橋寿直  片山成仁
 Blonanserinは本邦で創薬された抗精神病薬である。本剤はドパミンD2受容体を強力に遮断する作用の他に,ドパミンD3受容体遮断作用を有している。このことから,治療抵抗性統合失調症患者の陽性症状に対して有効である可能性がある。今回,活発な幻聴と被害妄想に対し,risperidone(投与期間12週間以上,最大投与量10mg/日),sulpiride(投与期間20週間,最大投与量1200mg/日),quetiapine(投与期間236週間,最大投与量700mg/日),olanzapine(投与期間80週間,最大投与量30mg/日)での薬物療法,その後に計6回の修正型電気けいれん療法(m―ECT)の併用を行ったが効果が認められなかったため治療抵抗性の統合失調症であると考えられ,blonanserinを投与したところ効果的であった1症例を経験したため報告する。
Key words :schizophrenia, blonanserin, treatment―resistant, modified electroconvulsive therapy, second generation antipsychotics

●Blonanserinにより陽性症状の速やかな改善が得られた統合失調症の3例
中山静一
 Blonanserin投与により陽性症状が速やかに改善した統合失調症患者のうち,精神症状をPANSS,服薬観をDAI―10,錐体外路症状をDIEPSSによってそれぞれ評価し,さらに体重,随時血糖・HbA1Cの測定を行った3症例を報告した。症例1は発症10年が経過した時点で幻聴・被害妄想が強まり精神科初診に至った外来症例,症例2は発症10年以上経過し抑うつ状態改善後精神運動興奮を呈し医療保護入院となった症例,症例3は発症11年を経過し幻聴が増強して行動化の恐れが強まった外来症例であった。3症例ともPANSS陽性尺度のスコアにて速やかで明らかな改善を認めた。またPANSS総合精神病理評価尺度スコアで病識は不十分であるが,アドヒアランス向上がDAI―10スコア上昇で確認できた。これはblonanserinの速やかな陽性症状改善効果と有害事象の少なさによるところが大きいと思われた。
Key words :blonanserin, positive symptoms, Positive and Negative Syndrome Scale, adherence, Drug Attitude Inventory―10

●スーパー救急におけるaripiprazoleの使用経験
原田豪人  杉山 一  石郷岡 純
 統合失調症の急性増悪にてスーパー救急病棟に入院し,aripiprazoleの投与にて軽快,退院に至った3症例を報告した。症例1および症例2では入院時よりaripiprazoleの投与を行った。症例3では入院時は服薬が不可能であったため当初はhaloperidolの点滴を行い,服薬が可能となった時点でaripiprazoleの内服に切り替えた。3症例とも,敵意,攻撃性等の興奮状態を呈したため,これらの症状に対してaripiprazoleと併用して抗不安薬,気分安定薬の投与を行い,上記症状は軽快した。統合失調症の急性期治療においてaripiprazoleを適切に使用するためには,補助薬による適切な鎮静,十分な観察期間,注意深い観察が必要であり,従来の抗精神病薬の多剤併用・大量投与による鎮静主体の治療法とは異なる意識が必要であると考えられた。補助薬を一時的に併用する短期的なデメリットと鎮静作用の少ない薬剤を使用する長期的なメリットの比較は今後の検討課題と考えられた。
Key words :aripiprazole, psychiatric emergency unit

●Donepezil服用後にパーキンソニズムが悪化したレビー小体型認知症の1例
常山暢人  渡部雄一郎  澤村一司  染矢俊幸
 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)は,認知機能の動揺,繰り返す幻視,特発性のパーキンソニズムを中核的特徴とする変性疾患である。DLBではアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezil(DPZ)の有効性が示唆されており,適応外ではあるが比較的広く用いられている。しかし臨床現場においてDPZの副作用としてパーキンソニズムは消化器症状ほど十分には認識されていない。今回われわれは,パーキンソニズムがDPZ中止により一旦は軽減したものの再投与により悪化したDLBの1例を経験した。DPZがコリン神経伝達を増強することで黒質線条体経路におけるドパミン神経伝達の減弱が生じ,パーキンソニズムが悪化したと推察される。DLBに対してDPZを投与する際には,パーキンソニズムを惹起あるいは悪化させる可能性に留意して注意深く観察することが必要である。
Key words :dementia with Lewy bodies, donepezil, parkinsonism

●少量のaripiprazoleの追加投与にて残存した陰性症状が改善した2症例――統合失調症の薬物療法の可能性を再考する――
立花憲一郎  鈴木 滋
 陽性症状が改善した後,陰性症状が長期間にわたり残存し,患者の社会復帰を阻害し,Quality of Life(QOL)も低下している症例が少なくないことは多くの臨床家の認めるところであろう。Aripiprazole(ARP)はD2ブロッカーであると同時に部分的なドパミンアゴニストであり,中脳皮質系において低下しているドパミン活性を高める作用が期待されている。その一方で,ARPはある一群の統合失調症に対して陽性症状に対する効果が不十分で,中には悪化させる症例も認められる。今回,risperidone(RIS)とolanzapine(OLZ)にて陽性症状が改善し,陰性症状が残存した統合失調症圏の患者2例に少量のARPを追加投与したところ,陰性症状の改善を認めたため,統合失調症に対する非定型抗精神病薬併用療法の新たな可能性について報告する。
Key words :risperidone, olanzapine, aripiprazole, schizophrenia, combination drug therapy

短報
●認知症における不穏興奮状態に対して少量のblonanserin投与が有効であった1例
青木岳也  土屋直隆
 Blonanserinは第二世代抗精神病薬に特徴的な性質を有している薬物であるが,既存の第二世代抗精神病薬とは異なる作用プロファイルを有しており,眠気や起立性低血圧,過鎮静などの有害事象を惹起しにくい。今回,認知症患者における不穏興奮状態に少量のblonanserin投与が有効であった症例を報告する。症例は87歳の女性であり,blonanserinの使用により比較的速やかに不穏興奮状態は抑制され,かつ過鎮静やふらつき,転倒などの有害事象も認めなかった。高齢者医療の現場において十分量の抗精神病薬を処方することは困難であるが,blonanserinは既存の抗精神病薬と同等の作用が得られ,かつこれらの有害事象の発現が少ないという特徴から,認知症やせん妄などの疾患を中心とした高齢者医療の場において有用な薬物となることが期待される。
Key words :blonanserin, BPSD, delirium, dementia

総説
●Sulpirideの抗うつ作用についての文献的考察
貴志素子  貴志 豊
 Sulpirideの抗うつ作用の神経科学的作用機序について文献的考察を行った。SulpirideはドパミンD2受容体の拮抗薬で,低用量では側坐核あるいは前頭葉の自己受容体に作用し,抗うつ作用を発揮すると考えられている。しかし,これらの仮説の根拠となっている動物実験の多くは,抗精神病薬を評価する実験モデルを使用したものであり,sulpirideの投与量は比較的高用量である。低用量を用い,抗うつ作用を検討した最近の行動実験は,生理学的,生化学的,あるいは組織学的検討を欠いており,十分な仮説検証となっていない。本稿では,血液脳関門の透過性の悪いsulpirideが,低用量で脳内に到達しているのかという問題点を指摘した。また,間脳下垂体は血液脳関門を欠いた組織で,低用量sulpirideが容易に作用し,ドパミンD2受容体を介してプロラクチンを上昇させる。プロラクチンには抗ストレス作用があり,間脳下垂体が,抗うつ作用を発揮する低用量sulpirideの標的組織である可能性についても論じた。
Key words :sulpiride, antidepressant, dopamine, blood brain barrier, prolactin


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