●非定型抗精神病薬と力動的チーム医療
堀川公平
わが国における非定型抗精神病薬(以下,非定型薬)は,zotepineを含めれば計7種類となった。処方率は年々増加傾向にあるが,いまだに多剤併用,長期入院主体の精神科医療の実態は変わらない。一方,「力動的チーム医療」を実践する当院150床(救急病棟60床,急性期病棟60床,療養病棟30床)における統合失調症患者の非定型薬の処方状況は,外来522名で処方率88.1%,単剤化率62.8%,chlorpromazine(CPZ)換算値423.1mg(2009年3月末現在),入院68名で各々88.2%,82.3%,514.8mg,平均在院日数(他疾患も含む)は62.7日(2009年6月末現在)と,外来,入院ともに他施設に比し,処方率,単剤化率は高く,CPZ換算値は概ね低かった。これらの結果は,システム論を包含し,治療共同体想定下,患者の自主性や相互扶助の育成を目指す「力動的チーム医療」の非定型薬との親和性によるものと考えられる。
Key words :atypical―antipsychotics, psychodynamic team treatment, mono―pharmaco―therapy
●アドヒアランス改善のための薬剤師の役割
吉尾 隆
1955年から1964年までの臨床試験論文から抗精神病薬の多剤併用が単剤投与を凌駕する根拠はなく,その後の追試によってもこの結論に変わりはないとしたFreemanの総説以来,抗精神病薬は単剤で使用されることが国際的に推奨されてきた。しかし,我が国においては,現在も多剤併用大量処方が処方全体の約70%を占めていることが報告されている。2005年に行われた精神科臨床薬学研究会(以下PCP研究会)による処方調査の結果では,統合失調症の薬物治療に用いられる抗精神病薬の1日平均投与剤数は2.0剤,投与量は812.6mg,第2世代(非定型)抗精神病薬の処方割合は69.4%,単剤での処方率は21.8%(抗精神病薬全体では29.8%)であった。同様にPCP研究会による2006年,2007年,2008年の調査においても,大きな変化がないとの結果が出ている。そしてこれらの調査から,国内における統合失調症の薬物治療は依然,多剤併用大量処方であることが判明している。アドヒアランスを改善するには,薬物治療に対する適切な支援が必要となる。統合失調症患者のアドヒアランス改善に向けて,薬剤師が行う支援として特に重要なのが,薬物治療の評価,処方支援,処方設計などを行うための薬学的管理である。今後はさらに処方支援,処方設計といった薬剤師の専門性を活かした薬物治療の支援を積極的に行い,統合失調症における薬物治療の最適化を図り,アドヒアランスの改善に寄与していく必要がある。
Key words :schizophrenia, adherence, polypharmacy, pharmacist, second generation antipsychotics
■総説 ●化学的に見たdopamine,およびそのアゴニスト,アンタゴニストと受容体の相互作用
諸岡良彦 平井憲次 清水高子
Schizophreniaの主たる症因はdopamine伝達の異常亢進であるという仮説の下に,抗精神病薬としてdopamineアンタゴニストや部分アゴニストの投与で治療が行われている。神経伝達物質,およびそのアゴニスト,アンタゴニストと受容体の相互作用は鍵と鍵穴の関係とは遠く,限られた原子間の化学的相互作用であり,両者の主たる結合力はリガンド分子中のアミン部位(塩基点)と受容体(酸点)の酸・塩基反応である。リガンドの塩基点の塩基性の強弱に加えて,分子中にdopamineのアゴニストとして化学上の条件の有無を考えることにより,全ての抗精神病薬の薬理作用は統一して合理的に理解できる。第一世代の抗精神病薬はcatecholamineより強い塩基性を示す第三級アミンを作動点とする完全なアンタゴニストである。Aripiprazoleを含む全ての第二世代の抗精神病薬は,分子中に複数の塩基点を持ち,より強い塩基点はアンタゴニスト,弱い塩基点はアゴニストとして作用する部分アゴニストである。上記のような整理は,抗精神病薬の薬理作用に基づく統合失調症の仮説の展開においても重要であると思われる。
Key words :dopamine, dopamine agonist, antipsychotics, chemical interaction, molecular structure
●Olanzapine治療による統合失調症患者のQOLの変化――国内外の臨床試験から――
倉持素樹 丹治由佳 高橋道宏
統合失調症治療において,患者の社会復帰を促すためにも,精神症状を長期的にコントロールし,患者のquality of life(QOL)を改善・維持させることは重要である。さらには,患者が受けている治療に対する主観的評価を得ることも重要視されており,患者の主観的概念であるQOLを質問と回答をもって定量的に測定することを可能としたQOL測定尺度が臨床現場で用いられるようになってきている。これらの数々のQOL測定尺度を用いてolanzapineのQOLに対する有効性を検討した結果,olanzapine投与後に患者のQOLが改善されることが示された。Olanzapineによる治療後に患者のQOLが改善し,就労や就学,対人関係が良好になるという試験結果が得られていることは,統合失調症の治療方針の決定に際して,有用な情報となりうると考えられる。
Key words :schizophrenia, olanzapine, Quality of Life (QOL), social function, atypical antipsychotic
●Olanzapineにおけるremissionとrecovery
片桐秀晃 岡本美智子 高橋道宏
近年になり,統合失調症に対する薬物治療は大きな進展を遂げた。それに伴い,統合失調症治療の評価もベースラインからの症状の改善度といったあいまいなものでなく,重症度の診断に用いられる指標の絶対的閾値から症候学的な軽快を示す“remission”,さらには症候学的な軽快とともに機能障害の改善が得られかつ長期に良好な状態を維持できていることを示す“recovery”を視野に入れたものへと変化してきている。これまでに行われたolanzapineと他の抗精神病薬のremission率とrecovery率を比較検討した臨床試験では,olanzapineによる治療により有意に高いremission率とrecovery率が得られることが認められた。Remissionおよびrecoveryの定義にはさまざまな論議の余地があるが,統合失調症患者が症状の軽快とともに機能面でも良好な状態を維持し最終的に社会に復帰できるようになるためにも,remissionを治療の通過点とし,recoveryの達成が可能な治療薬の選択をすることが望ましいと考える。
Key words :schizophrenia, remission, recovery, olanzapine, quality of life (QOL)