●Mirtazapineの臨床薬理学的特徴
中神 卓 古郡規雄
Mirtazapineは経口投与後速やかにかつ十分に吸収される。経口での生体内利用率は約50%である。Mirtazapineは用量にして80mgまでは直線的な薬物動態を示す。半減期は成人の20時間から高齢者の40時間が範囲となる。食事は吸収の開始時点で若干の遅れの原因となるが,吸収の程度を変えることはない。Mirtazapineの薬物動態は性差や年齢に左右される。肝機能や腎機能の障害は,重篤な経口クリアランスの減少をもたらす。Mirtazapineの代謝は,主にCYP2D6と3A4によって行われる。Paroxetineなどの物質により,これら酵素の競合的阻害が起こり血漿濃度は若干増加する。一方,mirtazapineはほとんどCYP酵素の阻害作用を持たない。したがってこれら酵素によって代謝される併用薬の薬物動態は,mirtazapineによる影響はほとんどない。血漿濃度と効果の関係で確立したものはない。
Key words :pharmacokinetics, mirtazapine, cytochrome P450, drug interactions, steroselectively
●Mirtazapineに関する臨床エビデンス:系統的レビュー
渡辺範雄 大森一郎 古川壽亮
ある新薬が実際に臨床現場で使えるものであるためには,プラセボとの比較だけではなく他の既存薬剤と比較した場合の有効性や忍容性等の情報が必要である。Mirtazapineはこのたび我が国で臨床使用が可能となる新規の抗うつ薬で薬理作用も他の薬剤と異なるが,他の抗うつ薬と比較した有効性や忍容性に関する方法論的に優れた系統的レビューは存在していなかった。今回,我々はmirtazapineと他の抗うつ薬を比較した無作為割り付け比較試験(RCT)を同定して直接比較メタアナリシスを行い,mirtazapineの有効性や忍容性を明らかにした。さらに12の新規抗うつ薬について,それらを互いに比較した全てのRCTを同定し,薬剤間の直接比較・間接比較を統合したMultiple―Treatments meta―analysis(MTM)を行うことで各抗うつ薬にランク付けを行った。本稿では,この2つの研究を紹介することでmirtazapineの有効性と忍容性について考察を加えた。
Key words :mirtazapine, antidepressants, major depressive disorder, meta―analysis, systematic review
●Mirtazapineのうつ病治療における期待
中山和彦
MirtazapineはNoradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant(NaSSA)と呼ばれる新しい作用機序の抗うつ薬であり,セロトニン5‐HT2A,5‐HT2B,5‐HT2C,5‐HT3およびアドレナリンα2受容体に対して高い親和性を示し,アンタゴニストとして作用する。これらの薬理学的特性から鎮静系の抗うつ作用を示すだけでなく,ベンゾジアゼピン(BZP)系睡眠薬の欠点を補う睡眠改善作用および抗不安作用を併せ持っている。また,臨床試験成績からその効果の即効性が期待できる。このことからmirtazapineはうつ病薬物療法の第一選択薬としての可能性がある。さらには薬物抵抗性を示しやすい億劫感などの残遺症状に対する有用性が期待されている。
Key words :mirtazapine, NaSSA, antidepressant, depression
■新薬紹介 ●NaSSA:Mirtazapineの基礎と臨床
村崎光邦
NaSSAと呼称されるmirtazapineはα2 autoreceptorおよびα2 heteroreceptorの拮抗作用が強い上に,α1 adrenoceptorに作用しないことから,NA神経系ではNAの放出を促進し,縫線核の5―HT神経系でもNA系を介した5―HT放出を促進することが知られている。一方で,強力な5―HT2および5―HT3受容体拮抗作用を有することから,放出された5―HTは専ら5―HT1A受容体に作用するという,いわゆるnoradrenergic and specific serotonergic antidepressant(NaSSA)の命名のもとに新規抗うつ薬として登場した。また,histamine H1受容体にも強い拮抗作用を有している。臨床的には,優れた抗うつ作用とその速効性が目立ち,睡眠障害への優れた作用や抗不安作用も確認されている。また,長期にわたって効果が持続して再燃防止を果たすことが知られ,忍容性の高さから,高齢者や身体疾患を有するうつ病患者へも使いやすい。とくにSSRI特有の消化器症状がなく,性機能障害を改善させる作用さえあるとされる。海外でうつ病薬物療法の第一選択薬の中に入れられているように,わが国でもうつ病治療上の強力な武器になることが期待される。
Key words :antidepressant, mirtazapine, NaSSA, improvement of sleep―disturbance and sexual dysfunction
■原著論文 ●統合失調症入院治療における患者心理教育の効果と抗精神病薬処方の関係
渡部和成
統合失調症治療における患者心理教育の効果(5年後非再入院率で測定)と退院時抗精神病薬処方(非定型単剤,定型単剤,多剤併用の3群)との関係を調べた。5年非再入院率は,全体では心理教育参加患者で不参加患者より有意に高かったが,処方別では非定型単剤群のみにおいて全体と同様な結果が得られた。心理教育参加患者の割合は,非定型単剤群で高かった。多剤併用群(非定型薬が高頻度に併用されていた)では,参加・不参加によらず5年後非再入院率が高い傾向があった。3群すべてで入院中のトータル薬用量が大きい(重症度の高い可能性がある)患者の方が心理教育に参加していた。よって,退院後長期間の非再入院率を高めるという患者心理教育による効果を引き出すためには,入院薬物療法では非定型薬を単剤で処方することが望ましく,たとえ非定型薬を用いていても併用療法は避けた方がよいと考えられる。
Key words :psychoeducation, prescription of antipsychotics, schizophrenia
●定型抗精神病薬からolanzapineへの置換により退院が可能になったと思われる長期入院統合失調症患者の検討――認知機能の改善と症状ならびに社会生活適応度の改善の関係――
柴田 勲 丹羽真一
日本の精神科医療において,長期入院患者を退院に導くことは長年の課題である。今回,定型抗精神病薬からolanzapine(OLZ)への置換により退院が可能となった長期入院統合失調症患者4人の,認知機能(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)の改善と症状(Positive And Negative Syndrome Scale)ならびに社会生活適応度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill)の改善との関連について検討した。その結果,定型抗精神病薬からOLZへの変更により認知機能の改善効果は早期からみられ持続するが,臨床症状や社会生活適応度に反映されるには,より時間を要すると考えられた。よって,長期入院統合失調症患者ではOLZによる治療効果の判定に12ヵ月を要し,早期にみられるWCSTの成績の変化は治療効果の予測因子となる可能性があると考えられた。
Key words :schizophrenia, patients who have been hospitalized for a long time, typical antipsychotic, olanzapine, cognitive function