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展望
●Clozapineの国内臨床試験の総括
石郷岡 純
 統合失調症治療薬の「最後の切り札」といわれるclozapineの,わが国における臨床試験成績を概観した。わが国でclozapineの治験が開始されたのは1968年のことであったが,海外における無顆粒球症発現の報告を受け,長い間開発が中断していた。1996年より再開された後も紆余曲折を経たが,ようやく2009年4月に承認に至った。本薬の治験では多くの実施上の制限があるため厳密な検証試験こそ行えなかったが,その成績はおおむね海外と類似した成績を再現しているものと考えられた。また安全性を確保するためのClozaril Patient Monitoring Serviceの有用性も臨床試験の中で検証され,本薬剤を安全に使用していくための体制も構築できた。今後は安全性確保を第一に行いながら,この薬剤を必要としている多くの患者に適用を広げていくことになろう。
Key words :clozapine, second generation antipsychotics, treatment―resistant schizophrenia, Clozaril Patient Monitoring Service, agranulocytosis

特集 Clozapineへの期待
●治療抵抗性統合失調症の歴史的変遷
稲垣 中
 Clozapineは治療抵抗性統合失調症に対する有効性についてコンセンサスが成立している唯一の薬剤であるが,無顆粒球症のリスクがあるために,海外ではその使用は厳密に定義された治療抵抗性統合失調症患者に限定されている。2009年4月にようやくわが国でもclozapineの製造・販売が承認され,近く,臨床現場に導入される見込みであるが,わが国でも海外と同様に投与対象が厳密に定義された治療抵抗性統合失調症患者に限定される見通しである。本稿では治療抵抗性統合失調症の診断基準について,歴史的見地より考察を加えた。
Key words :clozapine, treatment―resistant schizophrenia, treatment―intolerant schizophrenia, treatment―nonresponsive schizophrenia

●Clozapineの薬理―非定型とはなにか―
黒木俊秀  田中徹平  中原辰雄
 1988年に治療抵抗性統合失調症に対する非定型抗精神病薬clozapineの有効性が実証されて以来,過去20年間余りの抗精神病薬の開発研究は常にclozapineを基準として展開されてきた。従来の抗精神病薬と異なり,dopamine―D2受容体遮断作用が弱い点でclozapineはまさに「非定型」であり,その作用部位をめぐって無数の仮説が登場した。Serotonin(5―HT)2A受容体とD2受容体の相互作用を重視するserotonin―dopamine仮説と,そのアンチテーゼであるD2受容体の急速解離(fast―off)仮説は,その代表的なものである。最近では,clozapineの活性代謝物N―desmethylclozapineが,muscarinic acetylcholine M1受容体に部分アゴニストとして作用することが注目された。しかしながら,今もなおclozapineの作用機序の全容は明らかになっていない。Clozapineは,治療抵抗性統合失調症にとくに有効であることから,他の抗精神病薬にはない薬理作用を有する可能性は残されているが,特異的作用部位という発想そのものを創薬研究において再考すべきなのかもしれない。
Key words :clozapine, treatment―resistant schizophrenia, atypical antipsychotics, dopamine, serotonin, N―desmethylclozapine

●わが国におけるclozapineの適応,使用方法
大下隆司
 Clozapineは治療抵抗性統合失調症に対する有効性の一方で,重篤な副作用である無顆粒球症などのリスクを有する。諸外国では,白血球数及び好中球数の確認後clozapine処方を決定する“No Blood,No Drug”が大原則となっている。わが国ではそれに加え,より安全性に配慮した枠組みが設けられた。その主な内容は,(1)clozapineを使用する適格な医療従事者,医療機関及び保険薬局,患者をクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)に登録する。(2)登録審査を第三者委員会が行う。(3)患者または代諾者に文書で説明し,同意を得る。(4)原則,投与開始18週間は入院管理で行う。(5)白血球数及び好中球数,血糖値及びHbA1Cのモニタリングを行う。(6)CPMSセンターを設置し,モニタリングの確実な実施及び処方判断,白血球及び好中球減少により中止した患者の再投与防止を支援する。(7)クロザピン適正使用ガイダンスが日本臨床精神神経薬理学会によって策定されている。
Key words :clozapine, treatment, treatment―resistant schizophrenia, Clozaril Patient Monitoring Service(CPMS), guideline

●無顆粒球症について――Clozapineの副作用とその対処――
猪口孝一
 Clozapine投与では最も重大な副作用として,無顆粒球症や好中球減少症を引き起こす可能性がある。本稿では無顆粒球症,好中球減少症の背景を解説し,対処法について概説する。無顆粒球症や好中球減少症を引き起こすと,細菌感染に対する防御作用を持つ好中球などの白血球数が大きく減少する。その結果,細菌,真菌などの病原微生物に対して易感染状態となるため,感染のリスクが非常に高まり,致死的な転帰を伴う場合がある。海外におけるclozapineの報告から無顆粒球症は0.3〜0.9%程度の投与患者に認められている。本邦においても,国内臨床試験の過程で無顆粒球症の副作用を発現した症例が77例中2例存在している。こうした背景から,clozapine使用にあたり無顆粒球症・好中球減少症の発見と回避のために,“No Blood,No Drug”(血液検査なくしてclozapine処方なし)という大原則とCPMS規定を遵守することが求められる。
Key words :clozapine, agranulocytosis, Hematological Monitoring

●Clozapineの副作用とその対処――糖尿病,心筋炎・心筋症を中心に――
久住一郎  小山 司
 Clozapineは治療抵抗性統合失調症に対して高い有効性を有する反面,血液学的副作用の他にも多くの副作用を来す可能性のある薬剤である。中でも,他の抗精神病薬よりも発現頻度が高いと言われる心筋炎・心筋症や糖尿病性ケトアシドーシスなどは死に至りうる重篤な副作用であるため,処方医は絶えず有益性と危険性のバランスを熟考しながら,十分な観察・モニタリングの下で安全に使用することが肝要である。Clozapineが上市されることを契機に,精神科医は薬物療法に際して,今まで以上に患者の身体的側面に細心の注意を払って,生命予後も含めた社会的予後を向上させていくことを改めて考慮しなければならないであろう。
Key words :clozapine, diabetes, monitoring, myocarditis, cardiomyopathy

●Clozapineはわが国の精神科医療に何をもたらすか
川上宏人
 この度,ついに日本国内でclozapineを使用することが可能となり,わが国の精神科医療はようやく「世界水準」に追いつくことができるようになった。Clozapineの効果と,それによるさまざまなメリットには大いに期待が持てるが,その一方で私たちに突きつけられた課題も少なくない。例えば,clozapineを安全かつ有効に使用するためには,精神科医と一般身体科の医師や医療機関がこれまで以上に連携を強めることが求められ,clozapineを扱うこと自体にも煩雑な手続きが必要とされるなど,一人一人の医師にかかる負担はかなり大きなものとなる。その一方で,clozapineを使おうとする試みがなされていく中で,多剤併用大量処方傾向にある現在の処方のあり方が変わり,退院をあきらめかけている治療抵抗性患者に対する処遇や地域ケアについての考え方にも変化が生じるのではないかという期待も持たれる。Clozapineを有効に活用するためには,抗精神病薬の単剤化・処方の単純化や,積極的にチーム医療を行おうとする姿勢が求められ,さらには現在の精神科患者における身体合併症治療の仕組みが大幅に見直されることも必要である。
Key words :clozapine, treatment―resistant schizophrenia, medical psychiatry, side effects, polypharmacy

原著論文
●Duloxetineの第1相臨床試験――単回投与試験(無作為化プラセボ対照単盲検試験),及び錠剤とカプセル剤の比較検討(クロスオーバー試験)――
高橋明比古  村崎光邦
 健康成人男性被験者にduloxetine腸溶性顆粒充填カプセル剤(10,20及び40mg)を単回経口投与し,その忍容性及び薬物動態を検討した(duloxetine群8名,placebo群2名)。Duloxetine投与群において,眠気,ぼーっとする感じ,頭痛,頭重感,胃部不快感等の症状が認められたが,いずれも処置を要さず,問題となる所見は認められなかった。また,臨床検査,生理学的検査,心理作業検査等に関しても,臨床的に問題となる異常変動は認められず,duloxetineの40mgまでの忍容性は良好であると考えられた。Duloxetineカプセル剤(10,20及び40mg)の単回投与時の薬物動態に関して,Cmax及びAUC0―48hrは投与量の増加に伴って増大し,Tmax及びt1/2(β)は投与量にかかわらずほぼ一定であった。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase 1 study, pharmacokinetics

●Duloxetineの第1相臨床試験――食事の影響試験――
高橋明比古  村崎光邦
 日本人健康成人男性被験者8例にduloxetine20mgを,空腹時又は食後の両条件下で単回経口投与(クロスオーバー法)し,バイオアベイラビリティを比較検討した。自他覚症状として,眠気,ぼーっとした感じ,頭痛・頭重感等があったが,いずれも処置を要さず,空腹,食後の両条件下とも臨床的に問題となる所見は認められなかった。また,生理学的検査,心電図,臨床検査についても,臨床的に問題となる異常変動は認められず,duloxetine20mgの忍容性について,空腹時及び食後の両条件下で特に問題はなかった。薬物動態について,Cmaxは食後投与で空腹時に比べ有意に高い値を示したが(p<0.05),Tmax,AUC0―48hr及びt1/2(β)には有意な食事の影響は認められなかった。未変化体の尿中排泄量及び尿中排泄率についても空腹時と食後投与との間で大きな差はみられなかった。したがって,duloxetineのバイオアベイラビリティに対する食事の影響の程度は小さいものと考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase 1 study, pharmacokinetics

●Duloxetineの第1相臨床試験――反復投与試験(20mg1日1回7日間)――
高橋明比古  村崎光邦
 健康成人男性被験者にduloxetine20mgを1日1回7日間食後反復投与し,忍容性及び薬物動態を検討した(duloxetine群6名,placebo群2名)。自他覚症状として眠気,頭痛,頭重感等の訴えがあったが,臨床上問題となる所見はみられなかった。また,臨床検査,心理作業検査等についても,duloxetineの影響は特に認められなかった。したがって,duloxetine20mgの忍容性は,特に問題はないと考えられた。薬物動態について,反復投与時の血漿中濃度シミュレーションでは,予測値と反復投与期間中の実測値は概ね一致したことから,反復投与期間中,血漿中のduloxetineの薬物動態に大きな変化はないものと考えられた。また,duloxetineの薬物動態は投与7日目には定常状態に達していると考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase 1 study, pharmacokinetics

●Duloxetineの第1相臨床試験――反復投与試験(40mg1日1回7日間)――
高橋明比古  村崎光邦
 健康成人男性被験者にduloxetine40mgを1日1回7日間食後反復投与し,忍容性及び薬物動態を検討した(duloxetine群6名,placebo群2名)。中等度の有害事象がduloxetine投与群に2例4件(下痢,注意集中障害,倦怠感及び脱力感),placebo投与群に1例1件(頸部のつっぱり感)発現したが,いずれも処置をせず改善した。その他の有害事象は,すべて軽度であり,重篤な有害事象は発現しなかった。また,臨床検査,心理作業検査等についても,duloxetineの影響は特に認められなかった。したがって,duloxetine40mgの忍容性は,特に問題はないと考えられた。薬物動態について,反復投与時の血漿中濃度シミュレーションでは,予測値と反復投与期間中の実測値は概ね一致したことから,反復投与期間中,血漿中のduloxetineの薬物動態に大きな変化はないものと考えられた。また,duloxetineの薬物動態は7日目には定常状態に達していると考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase1study, pharmacokinetics

●Duloxetineの第1相臨床試験――反復投与試験(60mg1日1回7日間,無作為化プラセボ対照単盲検試験)――
熊谷雄治
 健康成人男性被験者にduloxetine60mgを食後1日1回7日間食後反復投与し,忍容性及び薬物動態を検討した(duloxetine群6名,placebo群2名)。みられた有害事象の程度は軽度又は中等度で,多くの有害事象は短期間のうちに消失し,臨床的に問題となる所見はみられなかった。胃腸障害等の症状が投与初期に認められたが,多くは投与中に消失したことから,duloxetine60mgの投与初期における忍容性は良好であると言いがたいものの,開始用量を低く設定する等の方策が有用であると考えられた。また,臨床検査,心理作業検査等でも臨床的に意味のある変動がみられず,duloxetine60mgの忍容性について,特に大きな問題はないと考えられた。薬物動態については,初回投与時のデータから行った反復投与シミュレーションで予測値と反復投与期間中の実測値が概ね一致したことから,反復投与期間中におけるduloxetineの薬物動態に大きな変化はないものと考えられた。また,duloxetineの薬物動態は7日目には定常状態に達していると考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase 1 study, pharmacokinetics

●Duloxetineの第1相臨床試験――高齢者における薬物動態試験――
村崎光邦  高橋明比古
 健康な高齢者及び非高齢者の2群にduloxetine10mgを各々単回経口投与し,安全性及び薬物動態を比較検討した(高齢者群6名,非高齢者群6名)。有害事象は,高齢者群で5例,非高齢者群で5例認められ,群間で差はなかった。また,死亡及び重篤な有害事象はなかった。高齢者群で認められた有害事象は,いずれも「軽度」「中等度」で治療を要することなく回復しており,duloxetine10mg単回投与の安全性は高齢者と非高齢者の間で差はないと考えられた。薬物動態パラメータ及びin vitroにおける蛋白結合率について,両群の間で統計学的に有意な差は認められなかったが,血漿中濃度は高齢者群において若干高めに推移した。また,高齢者群では非高齢者群に比べ消失半減期が統計学的に有意ではないものの約1.6倍長かった。したがって,高齢者群に反復投与する場合には血漿中濃度が上昇する可能性があり,高齢者への投与については,用量調整は必要ないものの,注意喚起を行うことが必要であると考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, phase 1 study, pharmacokinetics

●Duloxetineのうつ病・うつ状態に対する臨床評価――Imipramineを対照薬とした二重盲検比較試験――
村崎光邦
 Duloxetineのうつ病・うつ状態に対する有効性,安全性及び有用性を確認するため,三環系抗うつ薬であるimipramineを対照とした二重盲検比較試験を行った(実施例数:duloxetine群88例,imipramine群88例)。Duloxetine群10〜30mg,imipramine群50〜150mgを6週間漸増投与し,最終全般改善度の改善率について,非劣性マージンを10%として非劣性検定を行った。その結果,主要解析対象集団Per Protocol Set(PPS)ではduloxetine群(60.5%)のimipramine群(60.3%)に対する非劣性は示されなかった(P=0.101)。しかし,副次解析対象集団Intention―To―Treat(ITT)では,duloxetine群(55.7%)のimipramine群(47.1%)に対する非劣性が示され(P=0.007),このITTの結果はPPSと比較して,臨床の場での有効性をより適切に反映していると考えられた。概括安全度における安全率は,duloxetine群で83.3%,imipramine群で66.7%となり,duloxetine群が有意に高かった(P=0.018)。また,有用度における有用率は,duloxetine群で56.0%,imipramine群で51.3%となり,投与群間に有意差は認められなかった(P=0.637)。以上,duloxetine10〜30mgは,PPSではimipramineとの非劣性は示されなかったが,ITTでは示されており,抗うつ効果を有すると考えられた。また,安全性についても,臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, imipramine, double―blind study

●Duloxetineのうつ病・うつ状態に対する臨床評価――Mianserinを対照薬とした二重盲検比較試験――
村崎光邦
 Duloxetineの精神科領域におけるうつ病・うつ状態に対する有効性,安全性及び有用性を確認するため,四環系抗うつ薬であるmianserinを対照とした二重盲検比較試験を行った(duloxetine群121例,mianserin群113例)。Duloxetine15又は30mg,mianserin30又は60mgを4週間投与したところ,主要解析対象集団Full Analysis Set(FAS)における最終全般改善度の改善率はduloxetine群61.6%,mianserin群68.9%であった。改善率を指標とし,非劣性マージンを10%とした非劣性検定の結果,主要解析対象集団FAS及び副次解析対象集団Per Protocol Set(PPS)において,duloxetine群のmianserin群に対する非劣性は検証できなかった(各々P=0.3897,0.2974)。安全性については,概括安全度における安全率はduloxetine群39.0%,mianserin群22.7%であり,duloxetine群の安全率が有意に高かった(P=0.0099)。また,有用性については,有用率はduloxetine群56.0%,mianserin群57.1%であり,群間差は認められなかった(P=0.8909)。以上より,うつ病・うつ状態の患者に対して,duloxetine15又は30mg投与は,mianserin30又は60mg投与に対する非劣性は検証できなかったが,安全性について,臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, mianserin, double―blind study

●Duloxetineのうつ病・うつ状態に対する臨床評価――Trazodoneを対照薬とした二重盲検比較試験――
筒井末春
 Duloxetineの内科・心療内科領域におけるうつ病・うつ状態に対する有効性,安全性及び有用性を確認するため,trazodoneを対照とした二重盲検比較試験を行った(実施例数:duloxetine群106例,trazodone群104例)。Duloxetine5又は15mg,trazodone75又は150mgを4週間投与し,最終全般改善度の改善率について,非劣性マージンを10%として非劣性検定を行った。その結果,主要解析対象集団Full Analysis Set(FAS)においてduloxetine群(49.0%)のtrazodone群(45.9%)に対する非劣性が検証されたものの(P=0.0421),副次解析対象集団Per Protocol Set(PPS)では非劣性は検証されなかった(P=0.3044)。安全性については,概括安全度における安全率はduloxetine群32.4%,trazodone群39.8%であり,群間差は認められなかった(P=0.3125)。また,有用性については,有用率はduloxetine群44.7%,trazodone群44.1%であり,群間差は認められなかった(P=1.0000)。以上より,うつ病・うつ状態の患者に対して,duloxetine5又は15mgは,trazodone75又は150mgと比較して有効性が劣らないことが示唆され,安全性について,臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, trazodone, double―blind study

●Duloxetineの大うつ病性障害に対する臨床評価――大うつ病性障害に対するオープンラベル試験――
筒井末春  樋口輝彦
 大うつ病性障害の患者50例を対象にduloxetine60mg/日(初期用量40mg/日)を投与し,短期投与(4週間),長期投与(最大52週間)の安全性及び有効性を検討した。その結果,短期投与及び長期投与時で有害事象が各々45例(90.0%),48例(96.0%)に発現したものの,その多くは投与初期に発現し,軽度又は中等度で回復した。また,長期投与による有害事象の発現頻度増加や特記すべき有害事象の発現はなく,短期・長期投与時の安全性について,臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。有効性については,短期投与及び長期投与時のHAM―D17合計評点の変化量(平均値±標準偏差)は,各々−8.8±6.9,−11.0±7.8であり,開始前と比較して短期投与及び長期投与終了時に,いずれも有意に減少した(P<0.0001)。また,投与開始1週以降の各観察週でも投与開始前と比較して有意に減少し(P0.0001),短期・長期投与において抗うつ効果が維持されることが示された。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, long―term study, depression

●Duloxetineの大うつ病性障害に対する臨床評価――大うつ病性障害に対する長期投与試験――
樋口輝彦
 大うつ病性障害の患者215例を対象に,duloxetine40〜60mg/日(初期用量20mg/日)を最大52週間投与し,長期投与の安全性及び有効性を検討した。その結果,有害事象は210例(97.7%)で発現したものの,いずれも軽度又は中等度であり,ほとんどが回復した。これらの有害事象は投与初期に多く発現し,長期投与による有害事象の発現頻度増加や特記すべき有害事象の発現はなく,長期投与時の安全性について,臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。有効性については,終了時までのHAM―D17合計評点の変化量(平均値±標準偏差)は,−12.6±8.4であり,開始前と比較して有意に減少した(P<0.0001)。さらに,投与開始1週以降の各観察週でも開始前と比較して有意に減少し(P<0.0001),長期間にわたり抗うつ効果が維持されることが示された。
Key words :duloxetine, SNRI, antidepressant, long―term study, major depression

●Duloxetineの大うつ病性障害に対する臨床評価――5mgに対する40mg,60mgの優越性試験――
樋口輝彦  村崎光邦  上島国利
 大うつ病性障害の患者に対するduloxetine40mg及び60mgの有効性及び安全性を確認するため,duloxetine5mgを対照とした二重盲検比較試験を行った(割付例数:duloxetine5mg群149例,40mg群152例,60mg群150例)。その結果,有効性の主要評価指標であるHAM―D17合計評点の終了時における変化量について,40mg群(−15.0±8.2)及び60mg群(−13.2±9.3)はいずれも5mg群(−14.2±7.8)との間に有意差はみられなかった(各々P=0.4338,0.2294)。しかし,HAM―D17合計評点の時間上の変化の傾き(HAM―D17合計評点の減少の早さ)において,40mg群は5mg群に比べ有意に大きく(P=0.0192),また,60mg群は5mg群に比べて数値的に大きかった(P=0.0725)。安全性に関しては,有害事象発現率は40mg群(95.3%)及び60mg群(96.6%)とも5mg群(88.1%)に比べ有意に高かった(各々P=0.0326,0.0073)が,多くは軽度又は中等度であり,転帰も回復又は軽快した。以上より,本治験の結果はduloxetine40〜60mgの有効性を否定するものではないことを示した。また,安全性については臨床的に問題となる所見は特にみられなかった。
Key words :duloxetine, SNRI, major depression, antidepressant, double―blind study

●Duloxetineの大うつ病性障害に対する臨床評価――Placebo及びparoxetineを対照薬とした二重盲検比較試験――
樋口輝彦  村崎光邦  上島国利
 Duloxetineの大うつ病性障害に対する有効性及び安全性を確認するため,placebo及びparoxetineを対照とした二重盲検比較試験を行った(割付例数:duloxetine40mg群91例,duloxetine60mg群84例,placebo群156例,paroxetine群164例)。その結果,割付後6週までのHAM―D17合計評点の変化量について,duloxetine40mg群とduloxetine60mg群の併合群(duloxetine併合群)(−10.2±6.1)のplacebo群(−8.3±5.8)に対する優越性が示された(P=0.0051)。また,duloxetine併合群がparoxetine群(−9.4±6.9)より数値で優っていた。有害事象発現率は,duloxetine併合群(87.4%),duloxetine40mg群(87.9%),duloxetine60mg群(86.9%),paroxetine群(87.2%)のいずれの群においても同程度であり,有害事象の程度や種類についても同様であった。また,みられた有害事象のほとんどが軽度又は中等度で,転帰も回復又は軽快しており,臨床的に特に問題となる所見はみられなかった。以上より,duloxetine40〜60mgは,臨床的に有用な抗うつ薬であると考えられた。
Key words :duloxetine, SNRI, paroxetine, placebo, double―blind study

●統合失調症患者の治療アドヒアランス向上のために知っておきたいこと――現在受けている薬物療法の主観的評価とrisperidoneの持効性注射剤(LAI)への期待――
柴田 勲  丹羽真一
 統合失調症患者の服薬アドヒアランスの低下が実際の症状の悪化に及ぼす影響を調べるために,川口病院に入院となった患者の入院前の服薬状況について調査したところ,73.9%の患者に入院前の服薬アドヒアランスの低下がみられた。それをうけて服薬アドヒアランスの向上を考える上で,現在患者が受けている薬物療法に対する満足度ならびに受容度をDrug Attitude Inventory short form(DAI10)を用いて調査したところ非定型抗精神病薬の単剤療法が最も高く,次いで多剤併用療法,定型抗精神病薬の単剤投与の順であった。しかし,服薬アドヒアランスは予想以上に低いと考えられている。そこで,持効性注射剤(LAI)の受容度について,その理由も含めて調査したところ,約半数の46.7%の患者がLAIを希望し,主な希望理由は「楽そうだから」が79.1%であった。そのような状況において,非定型抗精神病薬であるrisperidoneのLAIが承認されたことで治療アドヒアランスの向上と多剤併用療法からの脱却が期待される。今後risperidoneのLAIが実際に導入された後に患者のアドヒアランスや薬物療法がどのような経過をたどるのかをみていくことは非常に興味深いことであると考えられた。
Key words :schizophrenia, adherence, patient satisfaction, long acting injection

症例報告
●高齢者に多い精神症状とfluvoxamineの臨床効果
古瀬 勉
 高齢者の精神症状は身体・心理・環境的要因の影響を受けて特有の症状を示すことが多い。その代表的な精神症状としてうつ病,妄想,認知症,せん妄が挙げられる。今回認知症との並存が疑われた老人性うつ病,精神病性うつ病,物取られ妄想からせん妄に伸展したアルツハイマー病,重症肺炎を伴うせん妄に対して,シグマ受容体アゴニスト作用を持つfluvoxamineを投与し,不安障害や睡眠障害について即効性の臨床効果が得られたので報告する。
Key words :fluvoxamine, sigma receptor agonist, psychotic major depression, dementia, delirium

●低用量のaripiprazole投与後に重度の錐体外路症状(EPS)が出現し,quetiapineへの切り替え後にEPSが軽減した統合失調症の3症例
森 清  高橋義人  山本 晋  野口真紀子  安田素次
 Aripiprazole(APZ)は,ドパミンD2受容体部分作動薬というユニークな作用機序を有する抗精神病薬として,2006年にわが国で上市された非定型抗精神病薬である。従来の第二世代抗精神病薬と比較して錐体外路症状(EPS)はもちろん,糖・脂質代謝異常や高プロラクチン血症などが少なく,安全性の高い抗精神病薬として広く臨床に取り入れられつつある。事実,APZの副作用報告は欧米,わが国を含め少ない。今回われわれは,低用量のAPZによって筋強剛をはじめとしたEPSが出現し,quetiapine(QTP)への切り替えを余儀なくされた3症例を経験した。低用量のAPZであっても重度のEPS出現のリスクがあること,またEPS出現の際にはQTPへの切り替えが一つの選択肢になりうることを報告した。
Key words :aripiprazole, quetiapine, extrapyramidal symptom, muscle rigidity


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