●難治性うつ病に対する非薬物療法の展望:生物学的側面
本橋伸高
うつ病は休養と薬物療法を中心に治療が行われているが,治療に抵抗を示す例は少なくない。本稿では難治性うつ病に対する治療法を生物学的な側面から概観した。薬物治療抵抗性うつ病に対する治療法として現在最も推奨されるのは電気けいれん療法(ECT)である。しかし,ECTには麻酔を要するため,原則として入院が必要となるほか,健忘を中心とする副作用は克服できていない。この点,無麻酔で行われ,外来で実施可能な経頭蓋磁気刺激(TMS)が新たな選択肢となりうる。ただし,複数の適切な薬物治療に反応しない例については,適応となりにくい。また,TMSは高齢者では有効性が低下すると考えられる。ECTを超える治療法として迷走神経刺激(VNS)や深部脳刺激(DBS)が導入されつつある。これらは長期的に用いることで難治性うつ病を改善することが期待されている。しかし,どちらの治療法も手術を必要とするため,一般化するにはさらなる研究が必要と考えられる。
Key words :refractory depression, electroconvulsive therapy (ECT), transcranial magnetic stimulation (TMS), vagus nerve stimulation (VNS), deep brain stimulation(DBS)
■特集 新規抗てんかん薬lamotrigine ●Lamotrigineの作用機序と臨床薬理
岩佐博人 兼子 直
新規抗てんかん薬の1つであるlamotrigineについて,作用機序,臨床薬理学的特性などを中心に概説した。本剤は電位依存性ナトリウムチャネルの抑制による興奮性アミノ酸の遊離阻害によって,神経細胞の過剰興奮を抑制すると考えられている。経口摂取後,1〜2時間で血中濃度はピークに達する。半減期は18〜30時間程度と比較的長い。経口摂取後の生物学的利用率はほぼ100%である。本剤はグルクロン酸転移酵素によって代謝されるため,バルプロ酸など本剤の代謝メカニズムに影響を与える他の薬剤との併用に際しては,薬物動態が大きく変化することに注意が必要である。Lamotrigineは,てんかん発作への効果のみでなく,気分障害や行動障害等への有用性も指摘されており,作用機序や臨床効果においてユニークな特性をもっている。ただし,他の薬剤との併用においては,薬物動態の変動に留意しながら投与量を決定していく必要がある。
Key words :antiepileptic drugs, clinical pharmacology, lamotrigine, mechanisms of actions, pharmacotherapy
●Lamotrigineの成人てんかんに対する有効性
小出泰道 井上有史
Lamotrigine(ラミクタール(R))が2008年12月に本邦でも発売となった。海外では20年近い使用実績があるが,本邦でも1991年からの国内第U,V相試験,非盲検試験,長期投与試験などを経て,成人てんかんに対する有効性,安全性が確認されている。各国の抗てんかん治療に関するガイドラインやILAEのガイドラインでは,各種の成人てんかんに対して第一あるいは第二選択薬として推奨されており,中でも妊娠可能年齢の女性や高齢者への有用性の報告は注目に値する。2007年のStandard and New Antiepileptic Drug(SANAD)studyでは,lamotrigineが成人部分てんかんに対しcarbamazepineと同等の有効性とより高い忍容性を,成人全般てんかんに対しバルプロ酸よりも高い忍容性を示すことを報告しており,今後本邦においても経験を蓄積する必要がある。
Key words :lamotrigine, effectiveness, epilepsy, guidelines, SANAD study
●Lamotrigineの小児てんかんに対する有効性
飯沼一宇
Lamotrigine(LTG)は小児に対しても効能が認められ,2008年12月に保険適応になった新しい抗てんかん薬である。使用可能になってから日が浅いので,小児に対するLTGの効果について,治験の成績を紹介し,それを踏まえて有効性を検討した。欧米では主として部分てんかんや部分発作を持つてんかんに有用と位置づけられている。我が国の治験結果では,部分てんかんや部分発作を持つてんかんはもとより,難治全般てんかんであるLennox―Gastaut症候群に対しても有効性が認められた。発作型では,部分発作,強直発作,強直間代発作,非定型欠神発作に有効性が認められた。有害事象は,抗てんかん薬に共通した事象である眠気が最も多かった。欧米で問題となった皮膚障害も見られたが,初期投与量を少量にして徐々に増量させていくことで発現が抑えられることが報告されている。本剤の代謝を阻害する薬剤や逆に促進する薬剤があり,これらとの併用には注意を要する。
Key words :lamotrigine, effectiveness for childhood epilepsy, partial seizures, refractory epilepsy, adverse effects
●Lamotrigineの安全性と適正使用
八木和一
長い臨床試験を経て2008年12月に上市された新規抗てんかん薬lamotrigineについて,成人・小児試験で対象症例の3%以上にみられた副作用について再検討した。その結果,最も問題になる副作用が発疹であることから,海外での報告とその対処に関し検討した。Lamotrigineの使用について出された外国でのガイドラインに沿って行われた本邦での第V相試験結果から,本邦でもそのガイドラインが有効であることが明らかにされている。Lamotrigine使用にあたって安全性を期するためには,推奨される基準に従って投与することが重要と考えられた。
Key words :lamotrigine, side effects, drug eruption, safety
●日本のてんかん患者における精神症状の有症率とQOLへの影響――インターネットによるてんかん患者の意識調査――
大沼悌一
インターネットを利用しててんかん患者の精神症状の実態を調査し,それらの症状がQOLにどのような影響を及ぼしているかを検討した。対象は,てんかんと診断され,治療薬を継続服用中の成人てんかん患者200名で,インターネット上でGHQ―12,QOLIE―31―Pを含むアンケートを実施した。発作の状況は,1年以上前に発作があった患者が57%,1年以内に発作があった患者は37%であった。GHQ―12により「精神症状あり」と判定された患者は全体の46%,「精神症状なし」は54%であった。1年以上にわたり発作を経験していなくても,約40%の患者が精神症状を有していた。精神症状の有無別にQOLの項目別スコアを比較した結果,いずれの項目についても,「精神症状あり」のほうが「精神症状なし」よりもスコアが有意に低かった。特に「情緒的機能」の項目では,その差が顕著であった。てんかん治療にあたる臨床医は患者の発作頻度だけではなく,精神症状,特に感情障害に注意を払った診療を行うことが重要であることが示唆された。
Key words :epilepsy, internet research, comorbidity, psychiatric symptoms, QOL