■展望 ●統合失調症早期介入の基本概念と診断・治療における課題
鈴木道雄
統合失調症などの精神病性障害に対し,顕在発症予防を視野に入れた前駆期からの早期介入が試みられるようになっている。本稿では,早期介入の基本的概念である精神病未治療期間(DUP)および治療臨界期の意義と,その生物学的背景として想定されている進行性脳病態を示唆する脳構造画像研究の報告を概観した。また発症危険性の高まった状態(ARMS)を対象に展開されている,前駆期の診断および治療の国際的動向と問題点についてもまとめた。
Key words :schizophrenia, DUP, early detection, early intervention, progressive brain change
■特集 精神疾患の早期介入における薬物療法の意義 ●統合失調症の早期経過と介入のエビデンス
井藤佳恵 松本和紀 松岡洋夫
統合失調症をはじめとした精神病の早期段階を早期精神病という概念で捉えなおして早期介入を行う取り組みが,近年になってようやく現実性を帯びてきている。早期介入は,大きくは顕在発症後の介入と顕在発症前の介入とに分けられる。顕在発症後の介入としては,DUPを短縮するための啓発活動や早期発見サービス,地域における訪問型の介入アプローチ,認知行動療法や個別就労支援プログラムなどが試みられており,薬物療法としては非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬との比較なども行われている。顕在発症前の介入としては,低用量の非定型抗精神病薬,認知行動療法などによる介入が検討されている。早期精神病では想定される病態の程度や病期を適切に評価していくことが重要で,これに合わせた適切な介入方法が選択できるようなアプローチを開発していく必要がある。予防医学的な観点から,エビデンスに基づいた早期介入アプローチが発展していくことが期待される。
Key words :early intervention, early psychosis, at―risk mental state, schizophrenia
●子どもの双極性障害の臨床的特徴――双極T型を中心に――
十一元三
近年,我が国で注目され始めた若年発症の双極性障害,とりわけ双極T型障害に焦点を当て,精神医療における重要性が認識されるに至った経緯,精神医学的意義および実際の臨床と関連する事項について総説的に展望した。前半の総論では,児童期に古典的躁うつ病とはかなり異なる双極性の病像がみられることが1世紀以上前から気付かれ,断続的に議論されてきたこと,その病像を包含する双極性概念を想定することで,医学的により妥当な病態把握が期待されることを述べた。後半では,臨床像の特徴として,成人期における双極性の病像との異同,児童期における躁状態の鑑別,併存障害(特に児童精神疾患)の多さなど,若年発症の双極性障害の診断を困難にしていると考えられる要因を取り上げて解説した。その際,児童期双極性障害の診断には,主要な児童精神疾患に対する診断力が求められることを述べた。最後に,現時点で妥当と思われる診断の進め方の例を呈示した。
Key words :bipolar disorder, early onset―diagnosis, symptoms, clinical concept
●児童青年期の大うつ病性障害への早期介入
棟居俊夫
子どもや青年の病者であっても,言語的な方法で抑うつ症状を捉え,DSMなどの診断基準に基づいて診断することができる。子どもや青年の大うつ病性障害の研究は主に欧米において数多くなされてきたが,(軽)躁症状に言及されることが少なかった。臨床上,(軽)躁症状に注意し,大うつ病性障害と双極性障害とを鑑別することがとても重要だが,これには熟練を要する。また青年に多いと思われる非定型の特徴を有する場合は,双極性障害の範疇で考えることも重要である。子どもや青年の大うつ病性障害に有効であることが,無作為化比較試験にて,はっきり示されている薬剤はfluoxetineだけである。Sertralineやparoxetineも有効性が示されているが,その無作為化比較試験には欠点もある。またfluvoxamineの検討はなされていない。抗うつ薬はメランコリー型と考えられる大うつ病性障害にまず処方されるべきと考えられる。また支持的精神療法で病者や家族を支えることは必須である。
Key words :major depressive disorder, child, adolescent, early intervention, drug therapy
●注意欠陥/多動性障害の早期介入における薬物療法のリスクとベネフィット
岡田 俊
注意欠陥/多動性障害(AD/HD)については,早期にその存在に気づき,特性に応じた教育的支援や家庭生活における対応上の工夫,薬物療法や行動療法を含めた医療的介入を行うことが重要であることが繰り返し指摘されてきた。しかし,こと薬物療法に限れば,どの程度のケースにどの段階からどのような年齢まで介入を行えばよいのか,中枢神経系や身体的な発達の過程にある児童に薬物投与を行うことのリスクとベネフィットはどうか,将来の依存形成はあるのかなど,臨床上の判断を要する課題は多い。本稿では,海外文献をもとにAD/HDに対する早期介入のリスクとベネフィットについて考察した。これまでのエビデンスに基づけば,早期より薬物療法を含めた包括的な介入を行うことが二次障害の発生を防ぐと考えられる。また,治療への「反応」に留まるのではなく「寛解」を達成することが社会的機能の回復に繋がると想定される。一方,中枢刺激薬の投与は脳容積を減少させず細胞毒性の存在を示唆しない,成長抑制はみられるものの最終身長への影響はわずかである,早期からの中枢刺激薬の投与は,将来の薬物依存の発生を防ぐ,などのことが明らかになっている。すなわち,既に提出されたエビデンスからは薬物療法を含めた早期介入の妥当性が概ね支持される。しかし,早期介入と転帰との関連は長期の追跡研究によって十分に裏付けられているわけではなく,社会的背景による相違も考えられる。したがって,日本におけるAD/HDの長期転帰に関するエビデンスの構築が求められる。
Key words :attention―deficit/hyperactivity disorder, methylphenidate, social functioning, neurotoxicity, growth delay, substance abuse
●PTSD発症二次予防のための薬物療法と早期介入
廣常秀人 明石加代 藤井千太 大澤智子 吉田哲彦 関山隆史 加藤 寛
トラウマ関連障害(特にPTSD)の二次予防としての薬物療法と心理社会的介入について述べた。二次予防としての両者の併用については,まだ確立されたものがなく,特に薬物については,臨床で活用できる治療法はない。現存のPTSD薬物療法については,多くの精神薬理学者が,精神療法などの心理社会的治療法の強力な「補助療法」と位置づけていることを強調した。
Key words :Posttraumatic Stress Disorder (PTSD), pharmacotherapy, early intervention, psychological first aid, acute trauma, psychosocialtherapy
■特集 新規抗てんかん薬topiramate ●Topiramateの開発の経緯と将来の展望
八木和一
2007年に上市された抗てんかん薬topiramateの前期第二相試験と後期第二相試験の結果を比較すると,前期試験では100mg/日から600mg/日に用量増加につれて効果も増加する傾向がみられたが,後期試験で多施設での症例数が多くなると200mg/日,400mg/日,600mg/日とほぼ同等の効果を示し前期試験との差がみられ,少数例数では治療効果の予測が困難なことがわかった。また前期試験の途中で新たに高用量の600mg/日が追加される試験が行われたが,これも開発経過を遅らせる一つの要因になったように思われ,試験計画は実施する前に十分に検討してから行われるべきと考えた。試験対象がほとんど部分てんかんに偏ったことから,今後日本では全般てんかんについての試験が行われるべきである。最後に新規抗てんかん薬が次々に承認されることから,今後の抗てんかん薬使用について私案を示した。
Key words :topiramate, early phase II study, late phase II study, study plan, drug selection
●部分発作治療におけるtopiramateの使い方
兼子 直 吉田秀一 小田桐 元 太田智佳子 松岡貴志
難治部分発作に対して他の抗てんかん薬(AED)と併用して使用されるtopiramate(TPM)の特徴,使用方法を中心に論じた。TPMは主に腎から排泄されるが,一部はCYP2C19により代謝されるため,CYP2C19の基質となっているAEDと相互作用する可能性がある。部分発作抑制効果が高く,難治てんかんであるレノックス・ガストー症候群,乳児重症ミオクロニーてんかんなどにも有効である。使用に際しては2週ごとに50mg/dayでの漸増が望ましく,消化器系副作用,体重減少,稀ではあるが腎結石,乏汗症,あるいは抑うつ症状悪化などの中枢神経系への作用にも留意する必要があり,目標用量は200mg程度に設定することが望ましい。
Key words :topiramate, partial seizure, drug combination, mechanisms of action, clinical profile of topiramate in the treatment of partial seizures
●Topiramateの臨床応用――成人症例を中心として――
兼本浩祐 佐藤美恵子 加藤裕子 田所ゆかり 大島智弘 川崎 淳
Topiramateの薬剤プロファイルを短く総括した上で,自験例70例の紹介,さらに印象的な4症例(単剤投与成功例,発作の伝播の仕方が変更されたと考えられた例,抑うつ・いらいら・胃腸症状が前景に出現した例,難治の発作後精神病が抑制できた症例)の紹介を通して,topiramateの使用方法を考えた。
Key words :topiramate, case presentations, aberrant propagation, weight loss, depressive state
■原著論文 ●新規抗うつ薬mirtazapineのうつ病及びうつ状態の患者を対象とした長期投与試験
木下利彦
Mirtazapine(以下MIR)は,ノルアドレナリン作動性/特異的セロトニン作動性抗うつ薬(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant:NaSSA)という新たな分類に属する唯一の薬剤である。今回,MIRの長期投与における安全性及び有効性を,プラセボを対照とした二重盲検比較試験(短期投与試験)において,投与終了時(6週後)のCGI改善度で有効性が認められた患者を対象に,52週間の長期投与オープンラベル試験で検討した。登録被験者数は109例で,うち107例が有効性解析対象となり,72例が52週間投与を完了した。有効性解析対象症例のハミルトンうつ病評価尺度(HAM―D)合計スコア(17項目)の平均値は,投与8週後から52週後までうつ病の寛解の目安とされる7以下で安定推移し,症状悪化による中止例は8.4%(9/107例)と低率であった。また,52週間投与完了症例のHAM―D寛解率は84.7%(61/72例)と高率であった。副作用の発現率は79.8%(87/109例)であった。発現率が10%以上の副作用は,傾眠,口渇,体重増加及び倦怠感で,体重増加の発現率は,短期投与試験と比べ約2倍であったが,その他の事象の発現率に顕著な違いは認められなかった。また,重症度別では約90%が軽度の副作用であった。長期投与により特異的に発現する事象,重症度が悪化する事象はなく,有害事象発現による中止例は5.5%(6/109例)と低率であった。以上の結果から,MIRの効果は52週間の長期にわたり維持されるとともに,長期投与時の忍容性も良好であることから,MIRはうつ病の長期治療に有用な薬剤と考えられた。
Key words :new antidepressant, NaSSA, mirtazapine, depression, long―term study
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