●今後期待されるアルツハイマー病治療薬
山西嘉晴 小倉博雄
アルツハイマー病(AD)の遺伝学的あるいは分子生物学的な基礎研究の成果からAD自体の進行を阻止しようとする疾患修飾薬による薬物療法の試みが進められている。AD患者脳で特徴的な沈着が見られる老人斑の主要構成成分であるアミロイド・β蛋白(Aβ)に関する研究から,病因として「アミロイド仮説」が提唱された。この仮説に基づいた創薬研究,すなわちAβの代謝に関与するβおよびγセクレターゼなどの酵素阻害薬およびADのワクチンあるいは抗体などの免疫療法などが研究開発され,臨床の場で検討が始められている。将来これらの中から真に臨床で有効な薬剤が出現し,実際の治療に寄与していくことを期待したい。
Key words :Alzheimer's disease, amyloid hypothesis, β―secrease inhibitor, γ―secretase inhibitor, AD immunotherapy
■原著論文 ●Olanzapineあるいはrisperidone単剤で入院治療を行った統合失調症患者の退院後の非再入院率と通院単剤治療継続率の検討
渡部和成
十分に心理教育を受け病識を獲得し退院した後,1年間追跡できた統合失調症患者32人をolanzapine(OLZ)またはrisperidone(RIS)単剤入院治療群の2群に分けた(OLZ群13人,RIS群19人)。2群で退院後の非再入院率,服薬中断率,通院単剤治療継続率を調べた。非再入院率はOLZ群(0.846)でRIS群(0.526)より高い傾向があり(P=0.0848),服薬中断率はOLZ群で有意に低かった(P=0.0252)。通院単剤治療継続率は,OLZ群(0.769)でRIS群(0.263)より明らかに高かった(P=0.0112)。本研究の結果から,統合失調症治療での有効性と有用性は,OLZがRISより高い可能性があり,退院後の通院治療での薬物有用性には副作用や忍容性の問題が大きく影響することが示唆された。なお,本研究は非無作為化オープン試験なので,結果の解釈には限界がある。
Key words :olanzapine, risperidone, the non―rehospitalization rate, the rate of continuation of outpatient―monotherapy, schizophrenia
●Olanzapine治療早期における統合失調症患者の急速な体重増加と1年間の経時的体重変化――製造販売後調査の追加解析より――
西馬信一 藤越慎治 渕上裕介 高垣範子 高橋道宏 八木剛平
著者らは,olanzapineの安全性調査を目的に実施した製造販売後調査で収集したデータを追加解析して,体重増加のパターンとその背景因子を検討した。投与開始後4週間で7%以上の急速な体重増加が認められた(Rapid weight gain:RWG)群と,体重増加が7%未満であった(Non―rapid weight gain:NRWG)群に分けると,評価対象1,250例のうち4.7%(59例)がRWG群,95.3%(1,191例)がNRWG群に分類された。NRWG群の体重変化は,4週時点で0.3±1.5kg,52週時点で1.6±5.6kgであるのに対し,RWG群の体重変化は,4週時点で5.5±1.9kg,52週時点で7.2±6.4kgと,いずれの時点においても有意に体重増加幅が大きく,投薬初期の急速な体重増加が約1年後の臨床的に重要な体重増加の予測因子であることが判明した。背景因子を比較すると,NRWG群と比較して,RWG群において有意に年齢が低く,女性が多く,罹病期間が短く,外来患者が多く,開始時BMIが低かった。また調査期間を通じて,RWG群は1日平均投与量が低く,体重増加による中止率が高く,最終全般改善度で「改善あり」が有意に多かった。これらの追加解析結果を先行研究の報告と比較し,治療効果との関連,RWGへの対応策,臨床的意義について考察した。
Key words :olanzapine, postmarketing study, early and rapid weight gain, predictive factors
●不安を併発したうつ病に対するsertraline50〜100mgの有効性
David V. Sheehan 中村 純 Souzana Deenitchina Evan Batzar Bruce Parsons
不安を併発した大うつ病性障害に対するsertralineの有効性について,日本の承認用量内(100mg/日以下)で検証するために,sertralineを可変用量で8週間投与した海外の2件のプラセボ対照二重盲検比較試験のデータを統合し再解析した。解析対象はsertralineの最大投与量が100mg/日以下の患者に限定し,薬剤投与前のHAM―D―17項目anxiety―somatizationの評価点が7点以上の場合を不安うつ病と定義した。主要評価項目は,HAM―D―17項目の合計評価点を用いて,評価点が50%以上低下した場合を反応群とした。その結果,対象外来患者397例のうち,不安うつ病の基準を満たしたのは122例(31%)であった。8週間後のHAM―D―17項目の合計評価点は,sertraline群がプラセボ群に比べて有意に低下していた(−14.7±8.3vs.−11.3±7.7;P<0.05)。HAM―D―17項目における反応率も,sertraline群がプラセボ群に比べて有意に高かった(79.3%vs.50.8%;p<0.05)。不安うつ病患者におけるsertralineの有効性は,全患者におけるHAM―D―17項目の合計評価点の減少および反応率と同等であった。今回,欧米のうつ病患者を対象として実施された臨床試験に関する既報について,sertralineの日本の承認用量内(100mg/日以下)にて再解析を行ったところ,sertralineは不安を併発したうつ病にも優れた効果を有し,その抑うつ症状の改善度は大うつ病性障害の全患者における改善度と同等であった。
Key words :anxiety depression, major depressive disorder, sertraline