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展望
●統合失調症と抗精神病薬療法の50年
八木剛平  田辺 英  渡邊衡一郎
 伝統的な発病論的治療観を離れて,疾病回復論と生体防御論の視点から見ると,抗精神病薬の原型chlorpromazine開発の背景にあった「侵襲後振動反応」の概念は,20世紀に提出された最良の生体反応モデルとして統合失調症の生物学的理解に有用である。Chlorpromazine(低力価)型とhaloperidol(高力価)型の「旧世代」抗精神病薬は,心理社会的治療の発展と連動して,20世紀後半の先進国で脱医療化・地域化を促進した。しかしこれらドーパミンD2受容体遮断薬の多種大量投与(ドーパミン「拮抗」療法)は,遅発性ジスキネジア・悪性症候群・二次性陰性症状の頻発を招いた。旧世代薬の薬理・生物学的研究は,統合失調症の発病・回復におけるドーパミン系ストレス緩衝システムの関与を強く示唆している。D2受容体親和性を保ちつつ,その選択性・拮抗性を緩和した「新世代(非定型)」の抗精神病薬は,仮説的な脳内「過程」や「脆弱性」に対してではなく,“resilience”メカニズムの補強に向けて処方されるべきである。
Key words :schizophrenia, chlorpromazine type, haloperidol type, atypicals, resilience

特集 抗精神病薬の歴史的動向
●定型抗精神病薬の位置付けと今後
大森哲郎
 Clozapineという錐体外路症状(EPS)を出さないユニークな薬剤が1970年代に発見されて非定型抗精神病薬と呼ばれたのを契機に,それ以外の抗精神病薬が定型抗精神病薬と呼ばれるようになった。1990年代以降に導入された新規非定型薬は,定型薬と比べてEPSが少ないことが強調されているが,多様な薬物を含む定型薬と,同じく多様な薬物を含む新規非定型薬を単純に2分割するのは行き過ぎた図式化である。定型―非定型は連続的なスペクトラムとみたほうがよい。EPSか代謝性副作用か,どちらを優先的に回避するかは相対的な問題であろう。EPSが出やすい臨床特性の薬理学的基盤であるドパミン受容体阻害能の高さは,一部の症例では治療反応を引き出す条件となるかもしれない。万能の薬物がない以上,少なくとも第二選択には定型薬を含め,治療選択肢は幅広く確保しておくのが賢明である。
Key words :schizophrenia, antipsychotic drugs

●Clozapineの役割と今後――Clozapineは過去の薬剤なのか,それとも未来の薬剤か――
大下隆司
 統合失調症治療の主役として抗精神病薬が登場し半世紀が経過したが,海外で重要な役割を果たしているclozapineがわが国にはない。海外では無顆粒球症の発現で一時販売停止となったが,現在では治療抵抗性統合失調症治療薬として世界90ヵ国以上で承認され,最終選択薬として位置付けられている。Clozapineから非定型抗精神病薬や治療抵抗性統合失調症などの概念が生まれ,その後の多くの新薬誕生への契機となった。Clozapineの誕生から40年以上経過したが,その治療抵抗性統合失調症への作用機序が解明されない限り抗精神病薬としての役割を終えることはなく,その研究は治療抵抗性だけでなく統合失調症そのものの病態解明に繋がると考えられる。わが国では統合失調症患者における入院率,自殺率,多剤・大量療法の問題などclozapineにかける期待は大きい。対象患者の多くが精神科病院で治療されているため,安全に使うために血液モニタリングシステムと医療機関連携の整備が不可欠となる。
Key words :clozapine, atypical antipsychotics, treatment―resistant schizophrenia, agranulocytosis, Clozaril Patient Monitoring Service

●Risperidone誕生の経緯と治療学上の意義
石郷岡 純
 Risperidone(RIS)の誕生に至るまでの背景に存在した薬理学的思想と,市場に出たあとに臨床薬理学の領域に起こった変化の間に存在する,不連続性について述べた。RISはamphetamine精神病やLSD精神病のアンタゴニストとして誕生したのであり,神経遮断薬として合成された化合物であった。しかし,その発売後は,「非定型性」という新しい臨床精神薬理学的概念を生み出し,治療ツールとしての抗精神病薬があるべき姿を探るためのプロトタイプとなるといった,誕生前とは全く異なった性格を与えられるようになった。RISの誕生前後に生じた評価の変化は,今後の新薬を開発していく上でも大いに参考とすべき事例である。
Key words :risperidone, neuroleptic drug, antipsychotic drug, pharmacology, clinical pharmacology

●Olanzapine:開発の経緯とその後の展開
高橋正史  藤井康男  高橋道宏
 Olanzapineはイーライリリーアンドカンパニー英国リサーチセンターで創製されたthienobenzodiazepine系の第二世代抗精神病薬である。我が国では統合失調症を適応症として2001年6月に上市され,現在では錠剤のほかに細粒剤,口腔内崩壊錠が販売されている。海外では双極性障害の急性躁病または混合性エピソードに対する適応が加えられ,また筋注製剤も統合失調症や双極性障害躁状態における精神運動興奮に対する適応で臨床に供されており,デポ製剤が現在開発中である。日本においてもhaloperidolとの比較試験のほか,統合失調症通院患者におけるQOLを含めた治療成果の検討など,15本の臨床試験が実施され,また市販後にも前治療薬からの切り替え方法の検討など様々な取り組みがなされた。現在,筋注製剤や双極性障害の躁状態及びうつ状態に対する臨床試験が日本でも進行中である。Olanzapineをはじめとする第二世代抗精神病薬と第一世代抗精神病薬との比較については,最近CATIE studyなどの大規模試験による再検証が行われつつある。Olanzapineは,治療の継続率の高さや精神症状悪化による入院の少なさなどの点で,ほかの第二世代抗精神病薬やperphenazineよりも優れていたが,体重増加や代謝への影響による中断率が高かった。これらの点についての更なる検討が今後も必要である。
Key words :olanzapine, second generation antipsychotics

●第二世代抗精神病薬誕生物語とその後の展開:Quetiapine
村崎光邦  Jeffrey M. Goldstein
 Quetiapine fumarate(以下,quetiapine)は,日本では2001年2月にrisperidoneに次いで登場した第二世代抗精神病薬であるが,脳内のD2受容体よりも5―HT2受容体に対する遮断作用が強く,かつD2受容体からの解離が速いため,錐体外路症状や高prolactin血症を発現しにくいという特性を有する。日本でのquetiapineの投与量は未だ十分量まで増量されているとは言えないが,十分量での有効性および安全性に優れることが認められており,実際,海外においては投与量が徐々に増加している。また,急性増悪時における急速増量法の有効性を示した報告も少なくない。Quetiapineは急性期から維持期に至るまで有用性の高い薬剤であるが,その適正な投与法については今後も検討していく必要があると考えられる。さらに,ユニークな受容体結合プロファイルにより,海外で承認されている双極性障害をはじめ,大うつ病などの種々の精神疾患に対しても作用する可能性があり,適応症の拡大が期待される。
Key words :quetiapine, receptor affinity, tolerability, dosing, acute phase

●第二世代抗精神病薬誕生物語とその後の展開:Perospirone
中村三孝
 Perospirone(商品名ルーラン)は大日本住友製薬で合成,開発されたセロトニン―ドパミン拮抗薬(SDA)タイプの第二世代抗精神病薬である。本剤は強い5―HT2およびDA2受容体拮抗作用を示すほか,5―HT1A受容体に対しても高い結合親和性があり,部分アゴニストとしての活性も有している。臨床的な特徴としては陽性症状や陰性症状に有効性があり,また錐体外路系副作用が定型抗精神病薬に比べ軽減されている。その他,不安・抑うつ症状や認知機能の改善も見られている。統合失調症の中核的な機能と関連するドパミン神経系とセロトニン神経系に作用する薬剤として開発されたperospironeは,第二世代抗精神病薬として患者の退院や社会参加を目指す治療の原動力となっている。今後はperospironeが持つ薬理特性を活かし,認知機能などの改善を通して社会的機能の向上を目指した治療に貢献できるものと期待している。
Key words :perospirone, serotonin―dopamine antagonist, second generation antipsychotics, serotonin1A partial agonist, cognitive function

●Aripiprazoleは第3世代抗精神病薬と言えるか
菊地哲朗
 1950年代にchlorpromazineやhaloperidolなどの定型抗精神病薬が登場した。その後,1990年代になってclozapine,risperidone,olanzapine,quetiapineが,2000年代になってziprasidoneなどの非定型抗精神病薬が上市された。定型および非定型抗精神病薬は,それぞれ第1世代および第2世代抗精神病薬とも呼ばれている。2002年にまず米国で登場したaripiprazoleは,カルボスチリルを骨格とする新規構造を有し,既存薬には認められない作用機序,すなわち,ドパミンD2受容体部分アゴニスト作用(パーシャルアゴニスト作用)を有する。最近になって「aripiprazoleは第3世代の抗精神病薬と言えるのではないか」という意見が多くなった。本稿では,aripiprazoleが第3世代抗精神病薬と言えるかどうかについて,現在の情報を整理し考察した。
Key words :aripiprazole, abilify, D2 receptor partial agonist, dopamine system stabilizer, third generation antipsychotic

●今後に期待される抗精神病薬開発の動向――Dopamineを越えて――
村崎光邦
 今日の抗精神病薬はすべてdopamine D2受容体遮断作用を有し,大なり小なり錐体外路症状が避けられず,陰性症状や認知機能障害への効果もまだまだ不十分である。こうした中で,phencyclidine精神病モデルから生まれたglutamate仮説の基礎的研究が進み,ここから新しい抗精神病薬の開発が急ピッチで進められている。まず,NMDA受容体のglycine結合部位作用薬は陰性症状に効果が認められるものの,用量などに問題があり,次のglycine transporter type1(Gly T1)阻害薬へ進んだ。天然アミノ酸でもあるsarcosineの成績が報告され,さらに新規のGly T1阻害薬が出を待っている。また,glutamate hyperfunction仮説からmetabotropic glutamate2/3受容体(mGlu2/3R)作動薬の成績が発表されるに及んで,がぜん注目を浴び,多くの候補が目白押しである。mGlu5Rのallosteric modulatorやGABAA interneuron α2 subunit作動薬もスタンバイし,glutamate系抗てんかん薬lamotrigineの抗精神病作用を含めて,今後この領域の動向から目が離せない。
Key words :glutamate hypothesis, glycine, Gly T1 inhibitor, mGlu2/3R agonist, mGlu R allosteric modulator, GABAA interneuron

原著論文
●統合失調症におけるolanzapineの前向き市販後特別調査の最終結果報告
西馬信一  高垣範子  盛谷美和  藤越慎治  高橋道宏  八木剛平
 Olanzapineの前向き市販後特別調査の最終集計解析結果を報告した。登録された4,014例のうち,有効性解析対象は2,557例(経過観察期間338.37±55.25日),安全性解析対象は3,753例(経過観察期間255.96±135.02日)であった。6ヵ月未満の中止または脱落は安全性解析対象症例の30.35%(1,139/3,753例)であり,12ヵ月未満の中止または脱落は安全性解析対象症例の43.88%(1,647/3,753例)であった。有効性解析対象の37.90%(958例)が中等度改善以上と評価され,他方で抗パーキンソン病薬の併用率が有意に低下したうえに,錐体外路症状の重症度分布が有意に改善したことから,これまで外国で報告されているolanzapineの有用性が確認された。安全性解析対象のうち副作用発症率は38.45%,その中で体重関連の副作用は9.14%(343例)で,最大体重変化量の平均は3.5kgであった。また,体重増加が中止の理由となった症例は2.58%(97例)であった。血糖関連の副作用は3.97%(149例)に発現し,9例は重篤と判断されたが,糖尿病性ケトアシドーシスなどの急性代謝障害は認められなかった。日本糖尿病学会の判定区分により開始時血糖値が「正常型」であり投与後に1回以上「糖尿病型」を示したのは3.96%(55/1,389例),開始時血糖値が「境界型」で,投与後に1回以上「糖尿病型」を示したのは17.11%(13/76例)と開始時血糖値が境界型である症例の方が糖尿病型へ移行した割合が高かった。また,開始時血糖値が「正常型」または「境界型」だった症例の中で糖尿病診断基準に合致したのは1.43%(21/1,465例)であった。血糖関連の重篤例および「糖尿病型」への移行例についてその背景を検討したところ,高脂血症または高血圧症の合併,BMIの肥満型,年齢の高い者,罹病期間の長い者,糖尿病のリスクファクターを持つ者が多かった。空腹時血糖の上昇については,投薬後の時期が特定せず,またBMI増加との相関が認められなかったことから,投薬後の期間の長短にかかわらず,また体重増加の有無にかかわらず,血糖値の定期的な監視が必要と考えられた。
Key words :olanzapine, postmarketing study, effectiveness, safety, monitoring

症例報告
●Donepezil hydrochloride投与で幻覚・妄想の顕著な改善がみられたアルツハイマー型認知症の1例
塩崎一昌  平安良雄
 [はじめに]認知症の行動・心理症状(BPSD)は,患者や家族のQOLに影響し,的確な治療が必要である。しかし,2005年のFDA報告以降,抗精神病薬による治療は慎重に行われている。今回我々は,精神病様の症状がdonepezilによって改善した症例を経験したので報告する。[症例]77歳,女性。認知記憶障害のため受診。長谷川式スケール13点,MMSE15点。「7階のベランダに人がいる……」という幻視と妄想と考えられる精神病症状を伴っていた。脳MRI検査では,中等度の脳萎縮と多発性脳梗塞がみられた。精神病症状は,quetiapineで若干改善,perospironeとcilostazolの併用により活発化したが,donepezilの追加投与によりほぼ消失した。その時点の長谷川式スケール14点,MMSE18点であった。[考察]血管性病変を伴ったアルツハイマー型認知症で,時にせん妄エピソードもみられた症例である。幻視症状を認めるが,錐体外路症状がないためレビー小体型認知症も否定的である。主要な幻覚や妄想は,追想可能で,一部は体系化しており,せん妄の症状とは考えられなかった。精神病症状が改善した時点で,認知機能に大きな変化はなく,コリン補充療法が精神病症状の改善に有効な場合があることを示唆する症例と考えている。
Key words :dementia, BPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia), hallucination, anti―psychotics, donepezil

●Amoxapineにより悪性症候群を呈した大うつ病性障害の1例
宮本 歩  三浦千絵  落合 直  本西正道  柳 雄二
 Amoxapineにより悪性症候群を呈した大うつ病性障害の1例を報告した。症例は44歳男性。Amoxapine75mg/日,brotizolam0.50mg/日,zolpidem10mg/日を8日間投与したところ,9日目に無動無言となり,高熱,筋強剛,血圧上昇,頻脈,流涎,嚥下障害がみられ,投薬をすべて中止し,輸液およびdantrolene sodiumの投与を行ったが,全身のけいれん発作および呼吸困難を認めたため,救命救急センターに搬送。5日間集中治療が実施され,悪性症候群から快復した。自験例を含めて,amoxapineによる悪性症候群の報告15例について検討したところ,以下の結果を得た。(1)年齢は42〜69(58.4±8.9)歳,(2)男性8例,女性7例,(3)amoxapineの投与量は25〜400(166.0±111.4)mg/日,(4)amoxapineの投与期間は10例(66.7%)が15日以内,(5)死亡例は3例(20%)であった。Amoxapineによる悪性症候群の報告は決して目新しいものではなく,頻度も高くはないが,日本においてamoxapineは今なお使用頻度の高い抗うつ薬であり,amoxapineによって重度の悪性症候群が惹起されることがあると今一度注意を喚起するために報告した。
Key words :amoxapine, major depressive disorder, neuroleptic malignant syndrome

紹介
●第二世代(非定型)抗精神病薬を投与する際の血糖モニタリングガイダンスの提案
村崎光邦  小山 司  渥美義仁  門脇 孝
 第二世代(非定型)抗精神病薬では体重増加・糖代謝異常といった代謝性の副作用が報告されており,統合失調症患者にこれらを投与する際には体重および血糖値等を定期的にモニタリングすることが必要である。既に国外では抗精神病薬の代謝性副作用をモニタリングするためのコンセンサスガイドラインが公表されていることから,これらを参考にするとともに日本人患者の特性を考慮して,非定型抗精神病薬の血糖モニタリングに関する国内のガイダンス案を作成した。本ガイダンス案は,(1)抗精神病薬を投与する際の一般的注意,(2)糖尿病を診断する際の基準値,(3)基準値に応じた血糖モニタリング方法の3部で構成される。血糖モニタリング方法は,糖尿病のリスクに応じて3段階の検査スケジュールを設定した。また,血糖モニタリングのなかで食事・運動療法は重要な位置を占めることから,ガイダンス案に加えて,食事と運動に関する体系的なプログラムを紹介する。
Key words :schizophrenia, second―generation (atypical) antipsychotics, monitoring, diabetes mellitus, glucose metabolism

総説
●どうしてaripiprazole上乗せにより精神症状が増悪することがあるのか?――脱分極性遮断(depolarization block)を中心に――
濱村貴史  原田俊樹  児玉匡史
 Aripiprazoleはドパミン部分作動薬として初めて臨床応用された抗精神病薬であるが,抗精神病薬治療中の統合失調症患者にaripiprazoleを上乗せした際に精神症状が増悪する症例が報告され議論を呼んでいる。本稿ではその機序を今までに報告された基礎研究に基づき考察した。Aripiprazoleを上乗せ時に生じる精神症状増悪の機序は,(1)前シナプスD2受容体の問題;D2自己受容体刺激による脱分極性遮断(depolarization block)の破綻,(2)後シナプスD2受容体の問題;<1>後シナプスD2受容体にsupersensitivityが生じている場合,<2>抗精神病作用を得るため後シナプスD2受容体が80%以上の遮断を必要とする場合,の3つに分けられる。Aripiprazoleの用量を上げ,後シナプスD2受容体を十分に遮断することで病状改善が見られる場合には(1)が,用量を上げても改善が見られない場合,悪化する場合には(2)が考えられる。よって精神症状増悪時の対応としてはまずaripiprazoleの増量を試みる。それでも改善が見られない場合には他の選択(すなわちaripiprazole中止,他の抗精神病薬との併用・切り替えなど)を検討することが肝要である。
Key words :aripiprazole, exacerbation, schizophrenia, depolarization block

●海外における統合失調症治療の最新の知見――寛解とアドヒアランスを中心に――
尾崎紀夫
 統合失調症は従来,進行性で転帰不良の疾患と考えられてきた。しかし,長期経過を観察した研究から,寛解に至る症例も少なくないことが明らかとなり,寛解に対する定義や判定基準の確立が望まれていた。2005年にAndreasenらにより,寛解(remission)の定義,判定方法が提唱された。陽性症状,陰性症状および思考障害における特に重要な8項目すべてが軽度である状態が6ヵ月以上維持されている場合を寛解とするもので,統合失調症の診療,治療法の開発などに大きな影響を及ぼすものと考えられる。寛解の達成,維持は,患者や家族にとって重大な問題であり,また統合失調症治療の最終目標である患者の社会復帰を果たすうえでもきわめて重要である。寛解を達成,維持するには再発を予防することが必要になるが,そのための大きな鍵の1つがアドヒアランスの向上である。心理教育,副作用対策とともに,薬物療法におけるさまざまな工夫が求められよう。
Key words :schizophrenia, remission, adherence, prevention of relapse, antipsychotics

●Fluvoxamineの臨床用法用量に関する考察――Fluvoxamineの脳内セロトニントランスポーター占有率および薬物動態シミュレーションからの提案――
菊池高光  鈴木 尚  平岡秀一  芝崎茂樹
 Fluvoxamineなどの抗うつ薬は,投与初期の有害事象を回避するため低用量から投与を開始し,臨床用量まで漸増する用法が用いられている。うつ病の薬物療法の原則は十分量の抗うつ薬を十分期間用いることとされており,不十分な用量での治療継続はうつ病の遷延化につながると考えられている。しかし,薬物応答や症状の程度の個人差が大きく,症状改善の程度を客観的・定量的に把握しにくい疾患特徴から,抗うつ薬の臨床用量は主観的判断に頼らざるを得ない状況にあった。近年,PETなどの画像診断による各種受容体およびトランスポーターに対する抗うつ薬の結合が定量的に評価され,抗うつ薬の脳内セロトニントランスポーター占有率と臨床効果との関係が議論されている。これらを踏まえ,本稿では脳内セロトニントランスポーター占有率を客観的指標としたfluvoxamineの抗うつ効果発現のための臨床用法用量について考察した。
Key words :fluvoxamine, SSRI, serotonin transporter, occupancy, simulation


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