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展望
●抗精神病薬の非定型性をもたらすもの
村崎光邦
 Chlorpromazineやhaloperidolなどの第一世代抗精神病薬は優れた抗精神病作用を発揮しながら,陰性症状への効果が十分でなく,なによりも抗dopamine作用による錐体外路症状を惹起するという定型抗精神病薬としての問題点を抱えていた。そこへclozapineが登場して,抗精神病作用と錐体外路症状を分離し,それが5―HT2A受容体拮抗作用によることが推定され,非定型と呼ばれた。その後,この非定型性を追究して多くの非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)が開発された。現在,非定型性をもたらす要因として,(1)5―HT2受容体拮抗作用,(2)fast dissociation仮説,(3)辺縁系DA系への部位選択性,(4)D2受容体部分作動作用,などが中心となっているが,5―HT2受容体拮抗作用の強さがどこまで関与するかが1つの論点となっている。また,統合失調症glutamate仮説に基づく新しい抗精神病薬も開発されつつあり,今日非定型と呼ばれているものこそが抗精神病薬の本道としての定型であるという日が来ることを確信したい。
Key words :atypical antipsychotics, 5―HT2 receptor antagonist, fast dissociation hypothesis, limbic selectivity, dopamine receptor partial agonist

特集 Blonanserinへの期待
●Blonanserin誕生の研究経緯と基礎薬理
久留宮聰  釆 輝昭
 BlonanserinはドパミンD2およびセロトニン5―HT2受容体に選択的で高い結合親和性を有し,その他の受容体(アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリンM1など既存の抗精神病薬の副作用との関連が示唆される受容体)に対する親和性は非常に低いことを特徴とする新規抗精神病薬である。Blonanserinは2008年1月に錠剤と散剤で製造販売が承認された。創薬研究開始は,4―phenyl―2―(1―piperazinyl)pyridine骨格の化合物の中に5―HT2受容体に対して高い親和性を有する化合物を見出したことに端を発する。その基本骨格を有する化合物の構造変換によって,強い抗精神病作用を確保するべくD2受容体親和性を高めるとともに,より副作用が少ない薬剤を目指してD2および5―HT2受容体以外の受容体に対する親和性は低い化合物を求めていった。最終的に選択されたblonanserinは5―HT2受容体よりもD2受容体に親和性が高く,既存の第二世代抗精神病薬とは異なるプロファイルを有している。Blonanserinは抗精神病作用を評価する動物モデル(陽性症状,陰性症状,認知障害)で強い効力を示し,副作用惹起作用とよく乖離していたことから,統合失調症治療における有用性が期待される。
Key words :blonanserin, second―generation antipsychotics, selective D2 and 5―HT2A receptor antagonist, schizophrenia

●わが国におけるblonanserinの臨床試験成績
石郷岡純
 シクロオクタピリジン骨格を持つ新しい抗精神病薬blonanserin(BNS)の,わが国における統合失調症に対する臨床試験結果の概略を紹介した。BNSはhaloperidol(HPD)とのランダム化二重盲検比較試験において非劣性が証明され,抗精神病作用を示すことが確認された。また,陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale:PANSS)では,陰性尺度スコアでHPDより有意に減少し,錐体外路症状の発現率も低いなど,非定型性を持つ第二世代抗精神病薬としての要件を備えていた。Risperidone(RIS)との比較試験でも有効性で非劣性が証明され,プロラクチン値の上昇,体重増加,食欲亢進,起立性低血圧が少ないなど,安全性の面でも優れた特徴を示した。一方,アカシジア,易興奮性はRISより多かった。長期試験でも有効性は維持され,体重,代謝系に及ぼす作用もなく,新たな重篤な副作用の出現は見られなかったことから,BNSは有効で長期に使用できる安全な第二世代抗精神病薬である可能性が強く示唆された。
Key words :blonanserin, second generation antipsychotics, schizophrenia, clinical trial

●Blonanserinの急性期患者への可能性
堤祐一郎
 大日本住友製薬株式会社で開発されたblonanserinはドパミンD2及びセロトニン5―HT2A受容体に高い親和性と選択性を持つ新規抗精神病薬であり,他のSGAと異なりセロトニン5―HT2A受容体よりドパミンD2受容体への親和性が高い。またアドレナリンα1,セロトニン5―HT2c,ヒスタミンH1,ムスカリンM1受容体親和性は著しく低い特徴を持つ。臨床薬理特性とこれまでの統合失調症患者慢性例への臨床試験結果などから,統合失調症患者の陽性症状及び陰性症状への有効性と,錐体外路系症状,起立性低血圧,眠気,体重増加などの副作用が少ない抗精神病薬であることが推測される。統合失調症急性期病態にはさまざまな病像の特徴があり,治療目標は前景症状への治療反応性のみならず「寛解状態」に設定すべきであり,そのための抗精神病薬の条件について触れる。従来の抗精神病薬での治療の実際と有用性の限界について,また欧米での急性期治療のアルゴリズムの特徴と最近実施された急性期臨床試験の結果について紹介するとともに,統合失調症急性期のさまざまな病態に対するblonanserinの薬理学的特性を生かした薬物療法の可能性について論ずる。
Key words :blonanserin, dopamine and serotonin antagonist, acute schizophrenia, algorithm, treatment goal

●ドパミン―セロトニン拮抗薬――新規統合失調症治療薬blonanserinの受容体結合特性――
村崎光邦  西川弘之  石橋 正
 新規統合失調症治療薬として導入されるblonanserinの特徴付けを行う目的で,その受容体結合親和性を既存薬(risperidone,olanzapine,perospirone,quetiapine,aripiprazole,haloperidol)と同一試験下で比較検討した。その結果,定型抗精神病薬のhaloperidolとは異なり,blonanserinは高いドパミンD2受容体結合親和性に加え,セロトニン5―HT2A受容体結合親和性を有していた。一方,既存の多くの非定型抗精神病薬がアドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリン性アセチルコリンM1受容体などに結合親和性を有するのに対し,blonanserinはこれらの受容体に対してほとんど結合親和性を示さず,極めてシンプルな受容体結合特性を有していた。従来の非定型抗精神病薬の多くはD2受容体よりも5―HT2A受容体に対して高い結合親和性を有し,セロトニン―ドパミン拮抗薬(Serotonin―Dopamine Antagonist:SDA)と称されるのに対し,blonanserinはD2受容体に対する親和性の方が高く,ドパミン―セロトニン拮抗薬(Dopamine―Serotonin Antagonist:DSA)と呼ぶべき特徴を持った新しいタイプの抗精神病薬と考えられた。さらに,副作用に関与する受容体への結合親和性が低いことから,副作用面においても安全性の高い薬剤であると期待された。また,種々の薬理試験データは,blonanserinがDSAというユニークな特徴を持ちながら,SDAと同様に十分な「非定型性」を有することを示している。このように,blonanserinは,その強力なD2受容体結合親和性に基づくD2受容体拮抗作用を発揮することにより,統合失調症の急性期治療に有用なだけでなく,その優れた効果と高い安全性により,今後,統合失調症治療のfirst―line drugとなることが期待される。
Key words :blonanserin, dopamine―serotonin antagonist, antipsychotic, schizophrenia, receptor binding

新薬紹介
●Blonanserinの基礎と臨床
村崎光邦
 Blonanserin(BNS)はわが国創製の抗精神病薬で,強力なドパミンD2受容体拮抗作用とその1/6のセロトニン5-HT2A受容体拮抗作用を有するdopamine-serotonin antagonist(DSA)とも呼ぶべきプロフィールを有する。Haloperidol(HPD)との比較試験は余裕の非劣性検証がなされ,陰性症状では有意差を示し,錐体外路症状(EPS)の誘発も有意に少なく,非定型性が証明された。Risperidone(RIS)との比較試験でもPANSS合計スコアの変化で非劣性が検証され,EPSも同程度で,プロラクチン値上昇の程度がRISと異なり正常方向への変動を示した。この試験の中で行われた認知機能障害への影響でも,言語性記憶の即時・遅延再生と,注意と処理速度に対して改善効果を有する可能性が示唆された。長期投与試験では,高い効果の持続と安全性が確認された。これらから,BNSは従来の第二世代抗精神病薬(SGA)とは一線を画してDSAと呼ぶべき新しいSGAで,幅広い臨床効果と安全性から,常にfirst-line drugとして活躍することが期待される。
Key words : blonanserin, dopamine-serotonin, antagonist(DSA), second generation antipsychotic, schizophrenia, first-line drug

原著論文
●日本人健康成人男子におけるblonanserinとerythromycinとの薬物相互作用の検討
松本和也  安本和善  中村 洋  寺澤佳克
 新規の第二世代抗精神病薬blonanserin(BNS)は肝代謝酵素のCYP3A4で代謝される。CYP3A4酵素阻害作用を示すerythromycin(EM)の併用投与がBNSの薬物動態及び安全性に及ぼす影響を検討するために,日本人健康成人男子12例を対象としてクロスオーバー法で薬物相互作用試験を実施した。BNS/EM併用投与では,血漿中未変化体濃度のCmax及びAUClastがBNS単独投与より上昇し(それぞれ2.37倍,2.65倍),EMの併用投与がBNSの薬物動態に影響すると考えられた。一方,BNS/EM併用投与で発現した有害事象はBNS単独投与と同様であり,EMの併用による安全性への影響は認められなかった。しかしながら,臨床現場で患者にEMを併用投与する時には,患者の容態を十分に観察しながら,場合に応じて本剤の投与量を減量するなど,用量に注意しながら投与する必要があると考えられた。
Key words :blonanserin, erythromycin, pharmacokinetics, drug―drug interaction, cross―over study

●日本人健康成人男子におけるblonanserinとグレープフルーツジュースとの相互作用の検討
松本和也  安本和善  中村 洋  寺澤佳克
 新規の第二世代抗精神病薬blonanserin(BNS)は肝代謝酵素のCYP3A4で代謝される。CYP3A4酵素阻害作用を有することが知られているグレープフルーツジュース(GFJ)の併用がBNSの薬物動態及び安全性に及ぼす影響を検討するために,日本人健康成人男子12例を対象としてクロスオーバー法で相互作用試験を実施した。BNS/GFJ併用時では,血漿中未変化体濃度のCmax及びAUClastがBNS単独投与時より上昇し(それぞれ1.77倍,1.82倍),GFJの併用がBNSの薬物動態に影響すると考えられた。一方,BNS/GFJ併用時に発現した有害事象はBNS単独投与時と同様であり,GFJの併用による安全性への影響は認められなかった。しかしながら,臨床使用において患者がBNS投与時にGFJを飲用する際には,十分な注意が必要であると考えられた。
Key words :blonanserin, grapefruit juice, pharmacokinetics, interaction, cross―over study

●統合失調症入院患者におけるメタボリックシンドローム有病率の検討
松田幸彦  梅原慈美  渡邊彩見  伊藤美都志  西尾由香  江渕光代  川村知美  山岡 昭  中尾夏喜  和田 誠  松田拓也  高坂要一郎
 当院入院中の統合失調症患者におけるメタボリックシンドローム(MetS)有病率について検討した。対象者108人中(男性46人,女性62人)MetS該当者は18人(16.7%)(男性8人,女性10人)と日本人一般の有病率より約2倍高率であった。その平均年齢は66.1歳,平均BMIは25.1kg/m2であった。非MetS該当者と比較してMetS該当者は,腹囲,BMI,中性脂肪,HDL―コレステロール,収縮期・拡張期血圧,空腹時血糖,インスリン抵抗性のすべてにおいて有意差(p<0.01)が見られた。開放環境におけるMetS有病率は(有意差はなかったが)閉鎖環境の2倍以上であった。MetS基準の腹囲に加えて,脂質と血圧の診断基準を満たしたMetS該当者が12人と最も多く,血糖と脂質と血圧のすべての基準該当者が5人,血糖と脂質の基準該当者が1人であった。抗精神病薬の種類とMetSとの関連性は認めなかった。今回の統合失調症患者におけるMetS要因の検討から,脂質異常や血圧異常によるMetS発生が多いことが示唆された。
Key words :Japanese, schizophrenia, metabolic syndrome, obesity, insulin resistance

●新規抗精神病薬quetiapineの薬理作用メカニズムについて――D2以外の受容体に対する作用を中心に――
竹内 崇  西川 徹
 新規抗精神病薬quetiapineは,定型抗精神病薬に比べて,同等の陽性症状改善作用とより優れた陰性症状改善作用を示し,認知機能障害および抑うつや不安などの気分症状に対する治療作用も有している。さらに,副作用面での特徴として錐体外路症状の発現が少ないことや血中プロラクチン値を上昇させないことが挙げられる。これら臨床特性はquetiapineが有する薬理プロファイル(5―HT2A,5―HT1A,α1,α2受容体などに対する親和性がD2受容体に対する親和性と比較して相対的に高いことやquetiapine代謝物のNA再取り込み阻害作用など)が寄与していると考えられる。本稿では,quetiapineのD2以外の受容体への作用を中心に,それらがどのように臨床特性に関与しているのかについて考察する。
Key words :quetiapine, schizophrenia, atypical antipsychotics, pharmacological mechanizm

●Risperidone内用液1mg/mLの使用成績調査――Risperidone内用液の安全性と服薬アドヒアランスの確保に向けて――
伊豫雅臣  小川嘉正  橋元佐代子  宮越久孝  伏見史久  今村恭子
 Risperidone内用液1mg/mLを投与した急性増悪期統合失調症患者の有効性・安全性に関する特定使用成績調査を行ったのでその概要を報告する。本剤内用液単独療法が行われた急性増悪期統合失調症患者1,205例が登録された。調査票を回収できた1,196例を対象とし,うち1,160例を安全性集計対象症例,1,000例を有効集計対象症例とした。安全性集計対象症例1,160例のうち,副作用の発現症例は185例(15.95%)で,アカシジア29例(2.50%),パーキンソニズム23例(1.98%),便秘20例(1.72%),傾眠19例(1.64%),錐体外路障害,振戦,各17例(1.47%)などが認められた。また,Agitation症状評価項目を用いて評価した有効性に関しては,前治療薬の有無にかかわらず,内用液単剤投与開始30〜90分時点で症状の改善がみられ,1ヵ月後にはさらなる症状の改善がみられた。さらには,70%以上の患者が本剤内用液の服用後にその効果を実感していた。また,多数の患者において,本剤内用液が錠剤や細粒剤と比較して「水なしで飲めて便利」「飲んだことを思い出させる印象的な形」等,本剤内用液の剤形に対しても肯定的な印象を持っていた。服用後の効果実感を得た患者群では治療継続率も高いことから,本剤内用液が有する効果・剤形は服薬アドヒアランスの向上に寄与すると考えられる。
Key words :adherence, risperidone, drug use surveillance

総説
●てんかん患者のQOL研究ならびにQOLへのlamotrigineの影響
久保田英幹  八木和一
 てんかん患者のQOLについては,一般人口や他の慢性疾患を有する集団と比較した研究が行われており,これらの研究から,てんかん患者では健康な人に比較して身体・精神のQOLだけでなく社会的な面からもQOLが低下しており,他の慢性疾患患者との比較では精神的QOLが低いことが特徴的と考えられる。QOLに影響を与える因子には,発作コントロールの状態のほか,抗てんかん薬の副作用や抑うつ,スティグマなどの心理社会的要因などがある。しかし,医師と患者の間には治療上最も重要と考える項目,薬剤の副作用,精神症状の認識に差異が存在し,てんかん患者のQOL向上のためにはこれらの点に注意を払う必要がある。Lamotrigineは欧米で約15年の使用実績のある新規抗てんかん薬で,現在の治療に付加することにより併用薬を減量し,副作用を軽減することや,発作頻度の減少,発作重症度の軽減,精神症状の改善などが報告され,てんかん患者のQOL向上に貢献する薬剤であると考えられる。
Key words :epilepsy, quality of life, lamotrigine, psychiatric symptoms, cognitive function


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