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展望
●精神科領域における臨床試験についての考察
竹内正弘  竹内円雅
 急速な基礎科学の進歩に伴い,革新的な医薬品の開発が進められてきている。しかしながら,それらの医薬品も従来の臨床試験デザイン・評価項目で有効性が検証されているため,第3相試験での成功確率は50%にすぎない。米国食品医薬品局では,この問題の打開策として,2004年にcritical path initiativeを発表し,臨床試験の方法論について研究を開始した。本稿では,精神科領域での臨床試験の特徴(評価項目,データのばらつき,期待する有効性,欠測値と統計解析法)について考察する。また,アルツハイマー病の新薬開発方法を例に挙げ,臨床試験デザイン,サロゲートマーカーについて米国での取り組みを紹介し,今後の精神科領域における臨床試験の方法論について考察する。
Key words :Critical path initiatives, adaptive design, disease―modifying effect, randomized withdrawal design, surrogate marker

特集 寛解をめざしたうつ病治療
●寛解,回復を目指したうつ病の治療――うつ病の寛解,回復の概念,定義――
中村 純  石郷岡純
 社会におけるストレスの増加,新規抗うつ薬,DSM分類(米国精神医学会)の導入などさまざまな要因により,気分障害,特にうつ病性障害(うつ病)が増加している。うつ病は,反応,寛解,回復,再燃,再発などの過程をとる慢性疾患と考えられるようになってきている。うつ病の長期過程に関する用語の定義と,薬物服用を維持するためのアドヒアランスとコンプライアンスの概念の違いについて解説した。うつ病の治療も統合失調症と同様に完全寛解だけでなく回復を目指した,再発をさせない長期的な治療戦略が必要である。そのためには副作用の少ない効果的な薬物選択だけでなく,薬物服用のアドヒアランスを高めるための精神療法やQOLを含めた自覚的評価と他覚的評価の両者を十分行うことが重要と考えられる。
Key words :depression, long―term treatment, adherence, remission, pharmacotherapy

●様々なうつ病治療における寛解率の違い
高橋一志  石郷岡純
 現在のうつ病治療の目標は寛解である。ここでは,日常臨床で使用されることの多いうつ病治療7種類,1)薬物単剤治療,2)精神療法,3)薬物治療と精神療法の併用,4)薬剤の切り替え,5)抗うつ薬の増強療法,6)抗うつ薬同士の併用,7)電気けいれん療法の寛解率を検討した。各々の治療方法における寛解率は期待していた程ではなく,不十分な値であることが認識された。寛解を目指すための手段を見つけていくために,更なる研究が必要である。
Key words :remission, interventions, response

●うつ病における寛解と再発,自殺
井上 猛  北川信樹  中川 伸  小山 司
 うつ病の治療では完全寛解が長期に続くこと,すなわち回復をめざすことは,長期的予後,再発率,社会適応,自殺に大きく影響し,重要である。不完全寛解あるいは残遺症状を伴った寛解は,うつ病の診断基準を満たさない程度も含めて再燃・再発を惹起しやすい。さらに,反復性うつ病では十分量の抗うつ薬治療による再発予防治療が必要であり,有効である。再発予防治療では急性期に用いた抗うつ薬の用量を継続するべきであるという意見が有力であり,減量の是非についてはわかっていない。再発のリスクが高い反復性うつ病患者では再発予防治療の期間は3年以上必要であり,過去のうつ病エピソードが多いほどより長期に,時には生涯にわたって再発予防治療を要する。さらに,抗うつ薬とlithiumはうつ病における自殺の長期的なリスクを減らすことがいくつかの研究で示唆されている。
Key words :remission, recovery, relapse, recurrence, suicide

●うつ病の寛解とQOL
稲田 健  馬場寛子  石郷岡純
 近年,慢性疾患の評価においては,症状の重篤度を評価することに加えて,生活の質(quality of life:QOL)についての評価が求められている。うつ病も高い有病率を有する慢性再発性疾患であり,日常生活に関する多くの支障や制限を生じ,QOLを著しく低下させる。うつ病により低下したQOLは,うつ病を寛解状態まで治療したとき,一般人口と同程度まで回復する。また,治療が寛解に至らなかった場合には,うつ病の再燃・再発,慢性化などの問題を生じ,QOLは改善せず,患者の満足度も回復しない。したがって,QOLの観点からもうつ病の治療においては寛解を目指す必要がある。本稿では,うつ病治療において問題となるQOLの構成要素,評価尺度について検討し,うつ病治療における寛解とQOLに関する先行研究を概観した。
Key words :depression, remission, recovery, health―related quality of life

●うつ病寛解と合併症
熊田貴之  大坪天平
 うつ病には様々な合併症が存在し,逆に様々な身体疾患にうつ病ないしは抑うつ状態が併発する。これらは,複雑に絡み合う相互関係の中にあり,それぞれが生命予後に関わる。うつ病があると,身体疾患の予後は悪化し,身体疾患があるとうつ病の寛解率が低下する。本稿では,これらの,相互作用に関して,うつ病による行動変化,視床下部―下垂体―副腎系を含む神経内分泌系,セロトニンを中心に総括した。さらに,うつ病と身体疾患(循環器疾患,糖尿病,喘息など)との関連について考察した。
Key words :depression, remission, complication, comorbidity, chronic disease

●うつ病における寛解を目指した治療戦略
越野好文
 うつ病治療のゴールは完全寛解,そして完全な回復である。うつ病の寛解を目指すための戦術としては,治療ゴールの設定,患者教育,最初の治療薬の選択方法,適切な用量の決定,その薬物での治療期間,反応の乏しいときの薬物の切り替え,あるいは抗うつ薬の併用療法や抗うつ薬以外の薬物による増強療法,アドヒアランスの確保,精神療法との併用などが問題となる。しかしこれらの戦術もまだ十分なエビデンスは得られていない。近年,治療抵抗性うつ病に対して,SSRIに非定型抗精神病薬を付加する増強療法への関心が高まっているが,通常のうつ病治療における有用性はまだ確立されていない。うつ病の治療戦略として,単剤治療と併用治療,選択的抗うつ薬療法と複数の神経伝達物質に関係する抗うつ薬療法,副作用の少ない治療と副作用を含め積極的に抗うつ薬を活用する治療がある。これらの戦術,戦略を考慮して,うつ病の寛解を目指した戦略としてまとめ上げたものはまだない。
Key words :augmentation therapy, combination therapy, depression, remission, switching, titration

原著論文
●Blonanserinの薬理学的特徴と臨床的位置付け
村崎光邦
 第二世代抗精神病薬は優れた効果と安全性から統合失調症治療薬の一次選択薬として重用されてはいるものの,陰性症状や認知機能障害への改善作用がなお不十分であると共に,体重増加や耐糖能異常あるいは高プロラクチン血症などの懸念が完全に払拭できていない。これらのリスクを軽減すべく新薬の開発が期待される中で,「blonanserin(BNS)」の誕生が間近い。本剤はドパミンD2及びセロトニン5―HT2A受容体に対して遮断作用が強く,前者は後者の約6倍強い,いわゆるドパミン―セロトニン拮抗薬(Dopamine―Serotonin―Antagonists:DSA)ともいうべき特徴を持ち,また他の脳内受容体への親和性が低いという薬理学的プロフィールを有している。わが国では,risperidone及びhaloperidolのそれぞれを対照とした二重盲検比較試験により,効果面で両剤との非劣性が検証された。また,安全面では錐体外路症状だけでなく,体重増加,起立性低血圧,高プロラクチン血症等の副作用も少ないことが確認され,高い安全性を有する薬剤であると考えられた。BNSはDSAという特徴を持ちながら「非定型性」を十分に示しており,バランスのとれた治療有用性の高い統合失調症治療薬としてfirst―line drugとしての期待が大きい。
Key words :blonanserin, dopamine―serotonin antagonist, schizophrenia, atypical antipsychotic, first―line drug

●精神運動興奮を有する日本人の統合失調症患者にolanzapine速効型筋注製剤を投与した時の薬物動態の検討――Olanzapine速効型筋注製剤第Ib相臨床試験――
小野久江  田中和芳  西村裕美子  大久保哲子  中田哲誌  首藤大典  晶 通明  植仲和典  藤越慎治  高橋道宏
 Olanzapine速効型筋注製剤は,非定型抗精神病薬の速効型筋注製剤であり,海外では既に使用されているが,日本では未だ治験段階の薬剤である。今回我々は,本剤の予想臨床推奨用量である10mg単回投与時の薬物動態,ならび有効性および安全性を検討した。対象は,DSM―IV―TR診断基準で統合失調症の診断基準に合致し,抗精神病薬の筋注が必要となる程度の十分な精神運動興奮を有する入院患者10例とした。その結果,olanzapineは速やかに吸収され,投与後約30分以内に最高血漿中濃度に達した後,体内への分布により約2時間で血漿中olanzapine濃度は急速に低下し,その後は単指数的に低下することが示された。有効性の各評価項目はベースラインより有意な変化を認め,安全性に関しても臨床的に問題となる事象は生じなかった。
Key words :olanzapine, intra―muscular formulation, pharmacokinetics, schizophrenia, agitation

総説
●統合失調症患者の社会復帰とアドヒアランス向上
樋口輝彦
 統合失調症治療の最終的な目標は患者の社会復帰にある。これを実現するためには,社会復帰のための受け皿の整備が重要であり,地域の中で障害を持つ人と持たない人が共生していくノーマライゼーションの考え方の定着も必要である。患者自身の社会復帰へのスキル獲得も重要であり,SSTに積極的に取り組む施設が増えてきている。医療者側の視点も,幻覚・妄想などの精神病症状だけではなく,陰性症状や認知機能障害による生活のしづらさを改善し,患者の活動性をいかに高めるかという方向に大きくシフトしてきている。社会復帰のためには,特に維持期における再発を防止することが重要であり,現在では,治療の成功率を高めるためには患者自身が主体的に治療に関わるアドヒアランスの向上が絶対に必要であるという考え方が主流になっている。アドヒアランスを高めるためには時間をかけた疾患教育が重要であるが,薬物療法においても服薬回数,副作用,剤形などの面におけるきめの細かい工夫が求められる。
Key words :schizophrenia, social rehabilitation, prevention of relapse, drug therapy, adherence


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