●治療が難航する症例に対するolanzapineの意義――3症例からの検討――
川上宏人
治療抵抗性統合失調症患者は常に一定の割合で存在しているが,治療がうまく行かない患者がすべて治療抵抗性であるというわけではなく,何らかの原因により治療効果の発現が妨げられている場合もある。特に,本邦では抗精神病薬を多剤併用する傾向があり,見かけ上の治療抵抗性を作り出したり,アドヒアランスの低下の原因となっている。そのため,近年では処方の単純化や単剤化が注目され,それにより症状に改善が得られたという報告も多くなっている。今回,olanzapineを使用して治療の改善を試みた3症例について報告する。3例ともこれまでは薬物療法がうまく行かず,治療抵抗性である可能性が考えられていた。1例目は患者の強い反対のため多剤併用大量処方から脱却できず,症状も不安定であったが,保護室への入院を契機に多剤併用から高用量のolanzapineへと一気に変更し,症状の改善に加えて下剤の減量と多飲水行動の安定が得られた症例。2例目は入院中の拒薬に対して持効性抗精神病薬を併用して,症状を改善させたのちolanzapineを継続して服薬習慣も確立し,副作用も軽減した症例。3例目は多剤併用からolanzapineへのswitchingを行うことで,副作用の軽減と部分的な症状の改善が得られたが,攻撃性や衝動性が改善せず,暴力が出現したためECTの併用を余儀なくされている症例である。いずれの症例も処方の変更に際しては何らかの抵抗があり,時には説得や相談など友好的な方法を用い,時には強硬な手段を用いてそれを乗り越えた。これら3つの症例についての関わり方の工夫について考察し,治療が困難な患者に対するolanzapineの効果とその限界について検討した。
Key words :treatment―resistant schizophrenia, olanzapine, switching
●Quetiapine単剤治療――利点と限界
渡邉博幸
Quetiapineは,第二世代抗精神病薬の中でも,特にA)錐体外路症状,性機能障害に関する副作用が少なく,B)眠気やふらつき,代謝性の副作用が問題になっているとはいえ,総じて忍容性が高いと言える。A)に関する評価は,開発当初からほぼ一貫して再現性があり,確立した特性と言ってよいであろう。一方で有効性に関しては,最近の大規模な臨床研究の結果から,長期の中止率(他剤への切り替えも含めて)が高いこと,他の抗精神病薬の併用に至ることが多いことなどがあげられている。このような特性から,多剤併用療法を減らすにあたって,quetiapine単剤治療にはどのような利点と限界があるのかを考察し,利点を最大限に生かし,限界を回避するためには,どのような臨床場面で選択するのが望ましいかを提案する。
Key words :quetiapine, monotherapy, polypharmacy, CATIE study