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展望
●自殺予防とうつ病の治療
吉村玲児  中村  純
 ここ数年,わが国の自殺者数は連続して3万人を超えており,その大部分がうつ病に罹患していたと考えられている。その対策の一環として,現在厚生労働科学特別事業である自殺予防地域介入研究とうつによる自殺未遂者の再発防止研究が進行中である。うつ病の薬物療法に関しては,SSRIやSNRIがファーストラインの薬物として用いられているが,血中MHPG濃度動態によりその反応性予測が行える可能性もある。重症例,難治例に対しては,三環系抗うつ薬,rTMS,ECTあるいは抗うつ薬と非定型抗精神病薬の併用なども必要となることもある。いずれにせよ,うつ病の治療では社会適応なども考慮した真の寛解状態を達成する必要がある。また,初回エピソードであれば少なくとも半年間の維持療法を行う必要があり,早すぎる薬物の減量や中止は控えるべきである。現在のところ,新規抗うつ薬の自殺行動におよぼす影響に関しての結論ははっきりとは出ていないが,新規抗うつ薬を投与する際には,自殺関連行動出現の可能性も十分に認識した上で,リスクとベネフィットを考慮した投与が行われるべきである。
Key words :depression, suicide, prevention, selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)

特集 自殺防止を目指した薬物療法
●わが国における自殺の現状と課題
川上憲人
 わが国の自殺は,1998年に年間3万人超えと急増して以来,高水準で推移しており予断を許さない状況が続いている。現在増加しているのは中高年男性の自殺であり,これは高齢者の自殺が多く,若年の自殺が増加中という世界的な傾向とは大きく異なっている。国(厚生労働省)は,自殺予防のために,「自殺予防のための提言」(2002年),「地域におけるうつ対策マニュアル」(2004年)を作成し,地域におけるうつ対策を推進している。国内外の自殺予防対策の成功事例からは,地域住民への心の健康に関する啓発と同時に,一般医(プライマリケア医)が受診患者のうつ病を診断し適切な治療に結びつけることが重要であることが知られている。一般医の自殺予防における役割は大きい。
Key words :suicide, middle―aged, depression, primary care

●精神疾患における自殺とその予防
張  賢徳
 心理学的剖検法を用いた実証的な地域調査研究から,自殺者の約90%が自殺時に精神障害を有する状態であったことが判明している。この事実は,「精神障害の早期発見と適切な治療が自殺予防にとって重要である」という考えを生み出す大きな推進力となった。しかし,実際の臨床精神医学の現場では,すべての自殺を予防することは不可能である。自殺危険群の把握と適切な治療が求められるわけだが,いずれにおいても完璧な方法は今のところ存在しない。自殺の危険因子を認識し,それらを少しでも減らすような地道な治療を行うしかない。本稿では,主な精神障害における自殺の危険因子と,自殺予防についての基本的な考え方について概観する。
Key words :suicide, suicide prevention, mental disorders

●救命救急医療の立場からみた自殺企図の現状と課題
伊藤敬雄
 救命救急医療は,自殺企図者が身体的初期治療を受ける場である。自殺企図の症状機制とその精神力動の究明をおろそかにすれば,治療は混乱し治療関係も不毛となる。しかし,救命救急医療の場ではその各種制約ゆえに,精神科医は自殺企図者に対して十分な診察なしに診断を付記する場合が多い。特に,生命に危険性が少ない自殺企図者に対して,治療介入前から「人格障害の診断」というレッテルを貼ってしまう。適応障害,人格障害と診断された者は,他の診断群と比較して受療率は低く,再自殺率は高い。両疾患群への適切な評価と積極的な精神的アプローチが必要である。一方,気分障害圏と統合失調症圏は,既遂の可能性の高い自殺企図手段を選択する場合が他群に比して高い。この両疾患群への適切な治療介入方法と,重篤な身体疾患治療と並行して精神科治療を行える環境整備が重要である。なお,自殺企図手段としては向精神薬の過量服薬が極めて多い。致死量に至らない服薬自殺や,自殺念慮に乏しい服薬自殺を安易に処理してはならない。また,抗不安薬が極めて多い過量服薬状況から考えると,服薬管理と服薬指導,かつ危険性に関する啓発活動が重要である。さらに,SSRIなどの新規抗うつ薬の過量服薬が増えてきており,今後,新規抗うつ薬による自殺衝動に注意を要する。救命救急医療の場は,自殺企図者に対する事後対策の第一歩の場であり,「地域の精神保健医療につなぐ橋渡し役」である。精神科医の介入によって,自殺企図者の再自殺予防の見地からは自殺企図とは判断しがたい症例も含めて,その背景因子把握と精神症状評価をしたうえで,向精神薬管理と服薬指導を行うとともに,長期計画の必要性にたってケースマネジメントを行うことが救急医療の場において重要となる。
Key words :attempted suicide, emergency room, psychiatric consultation, suicide prevention, managing

●気分障害における自殺と薬物療法のあり方
辻 敬一郎  田島  治
 自殺は世界的に社会問題として取り上げられており,わが国でも1998年以降,年間3万人以上が自殺によりその生命を絶っている。中でも気分障害により自殺する既遂者の割合が多いことから,気分障害,特にうつ病,うつ状態の早期発見,早期治療および再発予防が重要な課題となっている。本稿では自殺予防の観点から有用とされている薬物療法について,種々の報告をもとにまとめてみた。双極性障害ではlithiumの自殺予防効果を示した報告が多く見受けられた。単極性うつ病では,一般的にセロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)が第一選択とされているが,抗うつ薬特にSSRIが誘発する自殺関連事象出現の議論は未だ終決しておらず,自殺予防に有用な抗うつ薬については更なる追跡調査が必要であると思われた。
Key words :suicide, bipolar disorder, depression, mood stabilizer, antidepressant

●統合失調症における自殺と薬物療法
兼田康宏
 本小論においては,統合失調症の自殺防止を目指した薬物療法について論じた。まず,精神病の前駆期と発症後の最初の1年間は,自殺行為を最小限におさえるためにより集中的な介入の必要がある。次に,自殺の危険因子として抑うつと絶望感が重要であるが,特に慢性期の統合失調症においては絶望感に注目する必要がある。また,統合失調症の自殺に対する薬物選択としては,第二世代抗精神病薬,なかでもclozapineが第一選択薬であると考えられた。著者らによる日米比較国際研究の結果,自殺行為を伴う統合失調症に対し,米国ではclozapineの他にolanzapineとrisperidoneの人気が高く,clozapineが使用できない本邦では,risperidoneとolanzapineの他に第一世代抗精神病薬levomepromazineの人気が高かった。最後に,治療による病識の変化は,患者の良好な適応にも不適応にも進展する可能性があり,注意深いモニタリングが必要である。
Key words :antipsychotic agents, depressive disorder, hopelessness, schizophrenia, suicide

●パーソナリティ障害の薬物療法と自殺・過量服薬の危険性
林  直樹
 パーソナリティ障害患者の薬物療法には,衝動性や自己破壊性といったパーソナリティ特性を緩和することなどによって,患者の自殺を予防する効果があることが期待されている。従来の文献では,lithiumに疾患非特異的に自殺予防効果があることが認められている。また,SSRIに自殺企図をくりかえす患者の自殺予防効果があるとする報告が注目されている。他方,パーソナリティ障害の薬物療法では,投与される薬剤が過量服薬されて一種の自己破壊的行動もしくは自殺の手段とされるという危険がある。それゆえ,過量服薬された際に危険性が少ない薬剤の選択,患者の手持ちの薬剤の管理を丁寧にすること,薬物療法における精神療法的配慮といった過量服薬の危険への対策を講じる必要がある。薬物療法のプラス面(自殺予防に貢献しうるものであること)とマイナス面(薬剤が自殺の手段として用いられかねないこと)にどのように配慮したら安全にパーソナリティ障害の治療を進めることができるかという問題は,今後とも重要なテーマとして議論を深めてゆく必要がある。
Key words :personality disorders, pharmacotherapy, overdose, suicide attempt

●アルコール依存における自殺防止
松下幸生  樋口 進
 アルコール依存症やアルコール乱用者に自殺の多いことは,多くの疫学調査が明らかにしている。最近の調査では,依存症や乱用のみならず大量飲酒そのものも自殺のリスクを高めることが示唆されている。本稿では,アルコール依存・乱用と自殺の関係について,疫学調査や危険因子に関する調査を自殺既遂,自殺企図,希死念慮に分けて紹介し,自殺をほのめかすアルコール乱用者または依存症への対応について述べた。アルコール依存症で自殺のリスクが高いのは,うつ病の合併,人格障害の合併,離婚や別居などの負のライフイベントの存在,飲酒などがあげられる。うつ病を合併したアルコール依存症の治療にはSSRIや三環系抗うつ薬が有効であるが,依存症そのものに対する治療も重要である。自殺をほのめかす,または自殺企図したアルコール依存症に対しては,合併症の存在を見逃さないように注意して適切な治療環境の選択や薬物療法を開始することが重要である。
Key words :alcoholism, completed suicide, suicide attempt, suicide ideation, parasuicide

原著論文
●Perospirone投与患者の1日投与量,血漿中未変化体と代謝物ID―15036濃度,血漿中抗dopamine(D)活性,抗serotonin(5―HT2A)活性の検討
元 圭史  諸川由実代  井上雄一  三宅誕実  関口 剛  秋本多香子  鈴木英伸  石関 圭  高木博敬  田中 綾  青葉安里
 Perospirone(PER)は,日本で開発され2001年に臨床に導入された新規抗精神病薬である。本薬剤は,in vitroにおける抗dopamine(D)活性,抗serotonin(5―HT2A)活性のIC50値がそれぞれ3.3nM,3.8nMでありSerotonin Dopamine Antagonist(SDA)に分類されるが,in vivoにおけるPERの薬理学的プロフィールについての報告は乏しい。我々は,統合失調症患者におけるPER1日投与量,血漿中未変化体および代謝物ID―15036濃度,血漿中抗D2活性,抗5―HT2A活性の検討を行った。対象は,聖マリアンナ医科大学神経精神科に通院中でDSM―IVにて統合失調症と診断された患者男性17名,女性15名の計32名である。方法は,PER単剤投与開始2週間後の朝10時に採血を行い,未変化体および活性代謝物ID―15036の血漿中濃度をHPLC法で測定した。また血漿中抗D2活性,抗5―HT2A活性の測定は,spiperone,ketanserinを用いたRadio Receptor Assay法を用いて測定した。その結果,平均1日投与量と血漿中未変化体濃度および血漿中ID15036濃度の間にそれぞれ正の相関を認めた。また,血漿中ID―15036濃度は未変化体濃度の平均約10倍であった。血漿中未変化体濃度および血漿中ID―15036濃度は血漿中抗D2活性および抗5―HT2A活性と有意な正の相関を認めた。平均血漿中S/D比は3.2と高く,抗serotonin作用が抗dopamine作用を上回っていた。このことより,PERはin vivoにおいても,抗serotonin作用が抗dopamine作用よりも優位となるSDAとしてのプロフィールを示し,in vitroにおけるプロフィールがin vivoにおいても保持されていることが明らかとなった。
Key words :antipsychotics, perospirone, schizophrenia, radiorecetor assay, serotonin/dopmine ratio

●第二世代抗精神病薬治療中に発症した糖尿病症例の長期経過
村下眞理  久住一郎  井上 猛  増井拓哉  小山 司
 第二世代抗精神病薬治療中に新規糖尿病を発症した6例の精神症状と糖尿病の長期経過を報告した。原因薬剤はolanzapine4例,quetiapine2例で,糖尿病発症からの観察期間は2年1ヵ月〜3年6ヵ月。糖尿病発症後は全例がolanzapine,quetiapineを中止し他剤に変更した。Olanzapine中止の4例は精神症状の悪化を認め,うち2例は入院加療を要した。Quetiapine中止の2例は精神症状の悪化はなかった。糖尿病は4例で改善し,2例で悪化した。糖尿病の予後は,精神症状と必ずしも平行に推移するものではなく,適切な減量,飲水・摂食をコントロールできた症例で良好であった。Olanzapine中止の2例では治療抵抗性,薬剤不耐性で代替薬がなく,olanzapine,quetiapineを使用せざるを得なかった。糖尿病内科と協力して,このような場合の経過観察プログラムを作成した。
Key words :second―generation antipsychotics, diabetes mellitus, prognosis

●Perospirone投与患者における錐体外路症状および高prolactin血症の発現に関与する要因――血漿中濃度と血漿中抗D活性,血漿中抗5―HT2A活性を中心に――
関口 剛  秋本多香子  鈴木英伸  元 圭史  諸川由実代
 Perospirone(PER)は,1985年に我が国で開発され,2001年に臨床導入されたSerotonin―Dopamine Antagonist(SDA)である。SDAは従来型抗精神病薬と比較して,薬原性錐体外路症状(Extrapyramidal symptoms:EPS)や高prolactin(PRL)血症の発現は少ないとされている。本研究はPER単剤投与中の統合失調症または短期精神病性障害患者におけるEPS,高PRL血症の発現と,PER1日投与量,血漿中未変化体濃度,主要代謝物である血漿中ID―15036濃度,血漿中抗dopamine(D)活性,血漿中抗serotonin(5―HT2A)活性および血漿中抗5―HT2A活性/抗D活性(S/D)比の関係についてprospectiveに検討した。対象は,聖マリアンナ医科大学神経精神科に通院中でDSM―IV分類にて統合失調症または短期精神病性障害と診断された患者40名(男性20名,女性20名)である。方法は,抗精神病薬としてPERを単剤で投与し,投与量固定2週間後に,Drug―Induced Extrapyramidal Symptoms Scale(DIEPSS)を用いて,EPSの評価と採血を行った。血漿中未変化体濃度と血漿中ID―15036濃度はHPLC法にて測定し,血漿中抗D活性,血漿中抗5―HT2A活性はradioreceptor assay(RRA)法にて測定し,血漿PRL濃度は化学発光免疫法にて測定した。その結果1日平均投与量は0.48±0.29mg/kg/dayで,1日投与量と未変化体濃度と血漿中ID―15036濃度の総和(active moiety濃度)との間に有意な相関を認めた(ρ=0.41p<0.01)。Active moiety濃度を低濃度群と高濃度群に分け,S/D比を低S/D群と高S/D群に分けて4群間におけるDIEPSS total scoreを比較すると,高濃度・低S/D群は,低濃度・高S/D群と比較して有意に高値で,高濃度・高S/D群および低濃度・低S/D群と比較して高値傾向を示した(p<0.05,p<0.1,p<0.1)。血漿PRL濃度と相関を認めたものは,血漿中抗D2活性であった(ρ=0.47 p<0.05)。PER投与時におけるEPSの発現は主にactive moiety濃度に規定されているが,抗5―HT2A活性が抗D活性よりも優位であるとEPSの発現が抑制される可能性が考えられた。PERによる血漿PRL濃度の値はactive moiety濃度,S/D比に関係がなく,PRL分泌部位においては,5―HT2AニューロンとDニューロンの相互作用がなく血漿中抗D活性によって規定されていることを示唆した。
Key words :antipsychotics, perospirone, schizophrenia, extrapyramidal symptoms, hyperprolactinemia

●定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬単剤使用への切替えに対する検討――Subject Well―Beingを中心とした主観的評価――
山田浩樹  尾鷲登志美  高橋太郎  須佐由子  太田晴久  富岡 大  池澤 聡  大坪天平  中込和幸  上島国利
 わが国の統合失調症の薬物療法は,定型抗精神病薬多剤併用療法が主であったが,治療効果に対する自己評価の検討は十分ではなかった。本研究では,定型抗精神病薬内服中の慢性入院患者を,risperidone,olanzapine,quetiapineの各薬剤単剤へ切替えた。切替え前後で継時的に,主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版の日本語版SWNS―J,主観欠損症候群評価尺度,EuroQOL,Drug attitude inventory,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),薬原性錐体外路症状評価尺度を評価し,空腹時血糖,Body Mass Index(BMI),プロラクチン血中濃度の測定を行った。切替えによりPANSSでは下位尺度のすべてにおいて改善が認められ,SWNS―Jでも有意な改善が認められた。非定型抗精神病薬単剤への切替えは,患者自身のQOL向上に寄与する可能性が示唆された。
Key words :schizophrenia, atypical antipsychotics, Subjective Well―being, chronic inpatient, outcome study

●統合失調症に対するquetiapine fumarate(商品名:セロクエル®)の市販後臨床試験――陽性症状を有する統合失調症患者に対するquetiapine fumarateの有効性および安全性の検討――
上島国利  小山 司  村崎光邦
 「Positive and Negative Syndrome Scale(PANSS)の陽性尺度スコア項目で4点以上の項目が3つ以上」の統合失調症患者73例を対象としてquetiapineの陽性症状に対する作用を検討した。終了時におけるPANSS陽性尺度スコア(19.7±9.1)は開始時(25.7±5.1)と比較して有意(p<0.0001)に低下した。陰性尺度スコア,総合精神病理評価尺度スコア並びに総スコアも,quetiapine投与により有意に低下した。また,薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)総スコアはquetiapine投与により低下傾向を示し,開始時のプロラクチン値が高値であった36例中26例が終了時には基準値範囲内まで低下した。以上より,quetiapineは陽性症状を有する統合失調症患者に有用な薬剤であると考えられた。
Key words :schizophrenia, positive symptoms, quetiapine, atypical antipsychotic clinical study

●大うつ病を対象としたプラセボ対照ランダム化治療中止試験における独立データモニタリング委員会(IDMC)の活用
小山 司  吉野 英  竹内正弘  Martin Keller  新野伊知郎  濱浬啗
 これまで本邦ではうつ病を対象とした臨床試験において,プラセボ使用による自殺の危険性をはじめとした被験者に対する倫理的な懸念から,プラセボを使用せずに標準薬を用いて比較試験が実施されてきた。本試験計画時の調査によると,本邦の精神科医はプラセボを対照とした臨床試験の実施は困難とはしつつも,条件次第では実施可能と考えていた。このような状況のもと,選択的セロトニン再取り込み阻害薬のsertraline hydrochlorideの臨床試験では,プラセボが投与されるうつ病患者に対し不必要または不当な危険を可能な限り少なくし,かつ薬効評価が適切に行われる試験デザインとしてプラセボ対照のランダム化治療中止試験を選定した。また,被験者に対する危険性を最小限にする配慮をし,試験から得られたデータについて盲検性を維持したまま定期的に安全性を検討するために,独立データモニタリング委員会(IDMC)を設置した。その結果,試験期間中,5回のIDMC会議を開催したが,いずれの会議においても,両薬剤群ともに中止率・中止理由,有害事象,自殺関連の評価項目について,試験期間を通して被験者の安全性が危惧されることはなく,中止勧告をすることはなかった。
Key words :sertraline, major depressive disorder, placebo, IDMC, randomized withdrawal study

●常用薬としてのrisperidone液剤分包の患者評価と客観評価――抗精神病薬の剤形は服薬アドヒアランスにどう影響するか?――
岩田仲生  亀井浩行  山之内芳雄  内藤 宏
 統合失調症治療の長期予後において,薬物への治療遵守(アドヒアランス)の重要性が認識されている。本邦において世界に先駆けて上市された第二世代抗精神病薬risperidone液剤の分包品には,これまで頓用使用が主目的であった液剤を常用維持薬としての利用を広げる可能性があるのではと発想した。Risperidone散剤単剤で治療されている統合失調症患者24名に対し同用量の液剤分包処方を4週間行い,切り替え前後で客観評価としてBPRS,CGI,DIEPSSを,また患者の自己評価としてDAI―10および剤形への評価を測定した。BPRSではやや症状が軽減する程度であったがCGIでは有意に症状改善を認めた。剤形の評価としては液剤の方が散剤に比べて有意に「効き目の発現が早い」という理由で好意的に受け止められ,6割の患者は液剤を常用薬として引き続き選択した。液剤分包にはアドヒアランスを考慮した常用薬としての可能性が示唆された。
Key words :schizophrenia, adherence, risperidone oral solution

総説
●社会不安障害の治療薬としてのシグマ―1受容体アゴニストの役割
橋本謙二
 社会不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)の治療には,第一選択薬として,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が使用され,SSRIの1つであるfluvoxamineが,我が国におけるSADへの適応が認可されている唯一の薬剤である。一方,シグマ―1受容体は脳において様々な神経伝達系を制御していることが示唆されており,SSRIの中でfluvoxamineがシグマ―1受容体に対して最も高い親和性を有することが報告されている。本総説では,SADの治療薬におけるシグマ―1受容体の役割について概説する。
Key words :social anxiety disorder, sigma―1 receptor, SSRI, fluvoxamine

●今後に期待される抗精神病薬開発の動向
村崎光邦
 1952年のchlorpromazineを初めとする第一世代抗精神病薬の登場は,統合失調症の治療を進展させたが,効果と副作用を分離できない,いわゆる定型抗精神病薬の域を出られないでいた。そこへ,risperidoneを初めとする第二世代抗精神病薬が開発され,dopamine受容体部分作動薬aripiprazoleも加わり,第一世代の届かなかった陰性症状や認知機能障害への効果を示しながら,錐体外路症状が軽微という非定型性を示して統合失調症の治療をさらに大きく進展させた。そして,さらに新しいタイプの抗精神病薬の開発が着々と進められており,clozapine,serotonin―dopamine拮抗薬,dopamine受容体部分作動薬に加えて,NK3受容体拮抗薬,glycine type 1 transporter阻害薬,α7nicotinic acetylcholine受容体作動薬などの候補薬が目白押しにline―upされて,大きな期待がかけられている。
Key words :new types of SDA, NK3 receptor antagonist, Gly T1 inhibitor, α7nACh receptor agonist


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