●統合失調症の認知機能とQuality of Life――非定型抗精神病薬が果たす役割とは――
佐伯吉規 仲谷誠 下田和孝
統合失調症は陽性症状および陰性症状のみならず,神経心理学的認知機能にまで障害を及ぼしていることが明らかとなってきており,これが統合失調症患者の社会機能障害に大きく関連していることも判明している。現在,統合失調症治療のアウトカムは精神病症状(symptom)を改善することだけではなく,むしろ患者自身のQuality of Life(QOL)の向上を第一に捉える動きが主流となりつつある。これまでの研究では,非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比して,これら神経心理学的認知機能やQOLが有意に改善するという報告が多い。しかしながら,研究デザイン上の問題や,例えば治療者サイドが「患者の生活機能が改善した」と評価しても,患者自らは「病前と比して生活技能が低下した」と苦悩するというように,客観的QOLと主観的QOLの間に乖離が生じるといった統合失調症患者特有のQOLに関連する問題がある。そのため,非定型抗精神病薬により「認知機能を改善しQOLを高める」という論調に懐疑的な意見があることも事実である。また,これら非定型抗精神病薬により認知機能が改善したとしても,それがQOLや社会機能の改善にどの程度寄与しているのかという点もまだ不明な点が多い。とはいえ,統合失調症の認知機能障害やQOLという症状評価軸が新たに加わったことは患者を長期的,多面的に診る上で重要であり,少なくとも非定型抗精神病薬はこれらの評価軸を生み出したことで1つの役割を果たしたといえよう。
Key words : schizophrenia, cognitive function, quality of life, atypical antipsychotics
●抗精神病薬による注目すべき有害事象――非定型抗精神病薬を中心に――
須貝拓朗 澤村一司 染矢俊幸
1950年代から我が国の統合失調症治療に抗精神病薬が用いられるようになりおよそ半世紀が経つ。抗精神病薬による治療が与えた恩恵には計り知れないものがあるが,一方でその背景にある様々な副作用は治療上ある程度仕方のないものとして見過ごされてきたことも事実である。近年薬物療法の主流となっている非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬と比較し,錐体外路症状などの副作用は少ないものの,体重増加,糖脂質代謝異常といった放置すれば糖尿病などの様々な生活習慣病をきたし得る副作用が問題となっている。また致死的な不整脈を惹起するQT延長や性機能異常を生じる高プロラクチン血症なども以前に増して関心がもたれるようになってきている。本稿では,非定型抗精神病薬を中心に注目すべき副作用をいくつか取り上げ,これまでの知見をもとに概説した。
Key words : atypical antipsychotics, weight gain, diabetes mellitus, QT prolongation, hyperprolactinemia
●今後に期待される抗精神病薬
三谷万里奈 村崎光邦
Chlorpromazineやhaloperidolなどの第1世代抗精神病薬が登場し,統合失調症治療に大きな進展をもたらした。その後,第1世代抗精神病薬に特徴のdopamine系の受容体完全遮断から生じる錐体外路症状を初めとする諸々の有害事象から服薬コンプライアンスに支障をきたし,第1世代抗精神病薬が基礎になり改良が加えられて,第2世代抗精神病薬が出現した。日本ではrisperidone,olanzapine,perospirone,quetiapineの4剤が次々と承認され,更なる統合失調症治療に進展をもたらしている。今後続いて,risperidoneの持続性注射製剤(depot),olanzapineの筋注製剤,clozapine,新しいSDA(blonanserin,perospironeの代謝産物SM―13496,lurasidone,risperidoneの活性代謝産物paliperidone),dopamine部分作動薬aripiprazole,またglutamate系への作用薬,neuropeptideの話題がある。
Key words : development of new antipsychotics, new SDAs, clozapine, dopamine partial agonist