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■展望
●医療現場からみた統合失調症治療の現状とあるべき姿
松原三郎
 新規抗精神病薬の登場は,入院外来を問わず統合失調症治療に大きな変化をもたらした。外来通院では少量の服用で再燃が予防され,服薬のコンプライアンスも上昇している。また,入院治療においては心理教育やSST(社会生活技能訓練)などを併用することが求められる。他方,長期在院患者への新規抗精神病薬の使用は50%程度にとどまっているが,これには,これまでの多剤高用量使用の弊害が影響し,同時に,行動障害を伴う患者への対応が不十分であったことも無視できない。新規抗精神病薬では鎮静的な効果が期待できないために,社会生活技能や行動制御も含め,セルフコントロールを促進する治療プログラムが必要となる。
Key words : atypical antipsychotic, schizophrenia, behavioural problems

■特集 医療現場からみた統合失調症の薬物療法
●統合失調症治療の急性期入院治療における薬物療法のありかた
木代眞樹
 現在わが国においては,4つの新規抗精神病薬が導入され,さらにrisperidone内用液やolanzapine口腔内崩壊錠といった急性期治療に有用性の高い剤型も上市されている。これらの新しい剤型は急性期治療の現場で,患者への心理的身体的な侵襲性の低い介入法として用いられ,またこれらの介入法を用いた場合,患者のADLやコミュニケーション能力が保たれ,患者とのラポール形成もしやすいため,心理社会的治療の早期からの導入が期待できる。しかし,これらの新規抗精神病薬の利点を生かすためには,単剤投与が必要不可欠であり,また心理社会的治療を円滑に行うためには,処方のあり方が単純で,その意図が他職種にも理解しやすいことが大切であり,薬物療法アルゴリズムにのっとった,EBMに基づいた薬剤選択を行うことが重要である。一方,clozapineを使うことができないわが国においては,治療抵抗性統合失調症には,olanzapineの高用量投与を推奨したい。
Key words : schizophrenia, pharmacotherapy, intervention of acute phase settings, novel antipsychotics, Texas Implementation of Medication Algorithms:

●慢性期において多剤・大量から単剤への切り替えがなぜ困難か
大下隆司
 わが国で初めて新規抗精神病薬が導入され10年が経過しようとしている。現在,新規抗精神病薬は4剤になっているが,諸外国に比べ処方箋率は低く,旧来薬中心の多剤・大量療法が続いている。最近は,旧来薬に新規抗精神病薬を重ねた処方も認められ問題となっている。その原因として医療法精神科特例や診療報酬など医療制度の問題も挙げられるが,精神科医の精神病観や人権意識,卒後教育など精神医学的問題がより大きく影響していると考える。明石土山病院の処方変遷から考えると,外来患者の約1割,入院患者の約2割は抗精神病薬に反応が悪くやむを得ず鎮静効果を狙って多剤・大量処方が用いられているが,8〜9割は単剤化が可能だと言える。精神科医が単剤化への強い意識を持ち,スイッチング技術,患者の状態を観察し精神症状を聴取する能力,医療スタッフとのコミュニケーション技術などを磨き,切り替えを実践して,その実績をフィードバックしていくことが重要だと考える。
Key words : difficulty switching, antipsychotics, high dose polypharmacy, rational monopharmacy, chronic schizophrenia:

●精神科薬物療法における看護の役割――急性期治療を中心に――
寺岡貴子 岩切真砂子
 看護は,病気を持った人がその人らしいよりよい生活ができることを目指し,生活の援助をしているだけではなく,患者が疾患や治療によって起こるさまざまな生活上の変化に適応し,よりよい生活のために自己決定できるように関わっている。薬物療法における看護では,与薬業務だけでなく,作用や副作用のモニタリング,患者が自分の疾患を理解し薬物療法を継続できるようなかかわり,多職種との連絡調整などさまざまな介入を行っている。看護師は薬物療法の援助において,患者の生活上の変化に目を配りながら,患者に起こっていることを判断し,さまざまな援助方法を組み合わせて介入し,患者が自分の病気との折り合いをつけつつ,自ら選択し責任を持って内服でき,地域での充実した生活ができるようになることを目指して援助を提供している。
Key words : psychiatric nursing, acute settings, pharmacotherapy, self―determination, advocacy

●統合失調症の臨床:陽性症状の推移に見られるrisperidoneの効果――Risperidone内用液の効果を検討する――
高柴哲次郎
 新規抗精神病薬の特徴として従来型の抗精神病薬よりも効果が高く,QoLを損なうような副作用が少ないため患者も受け入れやすいといったことが認識されるようになりつつある。新規抗精神病薬を積極的に評価する臨床現場では,新規抗精神病薬を処方することで,治療者―患者関係のあり方に変化が見られたり,精神科医自身の統合失調症に取り組む姿勢が変化したり,看護師や精神保健福祉士,薬剤師といった直接患者に関わるスタッフに個別ケアの認識が育まれたりといった変化が生じつつある。この小論では,筆者自身がrisperidoneを処方する中で,陽性症状をモニターしながらその効果を検討していくことの重要性に気づかされ,さらに抗精神病薬の効果により,幻聴や妄想などの軽減と共に初期症状(中安)が表面化し,日中の情緒的な不安定さから抜けきれない状態があることを確認した。またrisperidone内用液の眠前1回投与に切り替えることで,このような初期症状が軽減し消失していく過程を観察することができたのでここに報告し,risperidone内用液の効果について検討した。
Key words : schizophrenia, positive symptoms, early symptoms of schizophrenia, risperidone oral solution, monitoring of positive symptoms

●「真の」治療抵抗性統合失調症への対応と薬物療法のあり方――Clozapineは本当に必要か?――
川上宏人 藤井康男
 治療抵抗性統合失調症患者は,薬物療法が進歩している今日においても未だにある一定の割合を占めており,精神科医療に従事するものにとって悩みの種となっている。特に,我が国では治療抵抗性に対する切り札的な薬物であるclozapineを使用できないため,その薬物療法への取り組みは困難を極めたものとなる。一方で,治療抵抗性であると捉えられている集団の中には別な理由により治療がうまくいっていないものが少なからず含まれている。今回はそのような「見かけ上の」治療抵抗性への医療現場における対処法と,「真の」治療抵抗性に対する薬物治療のあり方について考察してみた。
Key words : treatment―resistant schizophrenia, clozapine, algorithm, polypharmacy

●医療現場において統合失調症の薬物療法を考えるとき,メディカル,コメディカルの協力関係のありかた
渡部和成
 筆者が行っている統合失調症での薬物療法と患者心理教育を組み合わせた治療法は,入院患者では早期退院と良好な長期予後をもたらし,通院患者では再入院せず社会復帰を維持させる効果がある。この患者心理教育は,メディカルとコメディカルの協力の下,患者が病識を獲得し,他の上手く回復する患者の症状管理・対処法を知り,その方法が自然に身に付く「患者自らが主体の治療の場」となっている。そして,薬物療法は,入院患者が早期に「自らが主体の治療」の重要性・有効性を認識でき,その「場」としての患者心理教育を上手く活用できるように,最初期から認知機能改善作用のある非定型抗精神病薬の処方を基本としている。治療の初期には,高用量の薬を要することもあるが,急性期症状が収束し患者心理教育の効果が現れたら,速やかに低用量にするようにしている。さらに,退院後の外来では,処方の単純化を心掛け,メディカルとコメディカルが協力して,患者心理教育への継続参加を促し,良好な服薬コンプライアンスとノーマライゼーションの実現を図っている。
Key words : pharmacotherapy, cooperation, medical and comedical staffs, schizophrenia

●<原著論文>単科精神病院でのrisperidone内用液の導入とその効果に関する検討
法橋明
 Risperidone内用液は,欧米では1995年から使用されており,本邦では2002年7月から処方が可能となった薬剤である。この内用液は本邦で初めての新規抗精神病薬液剤であり,導入からあまり日のたっていない薬剤である。今回,筆者は,単科精神病院でのrisperidone内用液の導入とそれに伴っておきた変化や効果に関する検討を行った。まず,当院の概要を述べ,当院でrisperidone内用液を導入するにあたり,苦慮した点を述べた。その後,2004年7月から10月までの,筆者のrisperidone内用液使用例57例を分析し,外来処方における変化,精神科デイケアにおける変化,精神科訪問看護での変化,社会復帰施設における変化などに前半でふれ,後半においては,急性期治療病棟での治療法の変化,療養病棟,一般病棟など慢性期病棟での治療法の変化などにふれた。最後に統合失調症以外の疾患への適応,応用などの可能性に関して考察した。結果として,risperidone内用液の導入により,単科精神病院における治療においても様々な治療的変化や効果が認められたので報告した。
Key words : risperidone, oral solution, day care, psychiatric emergency services, health visiting

■原著論文
●The UKU side effect rating scale(UKU副作用評価尺度)日本語版およびその作成経緯
千葉茂 高橋道宏
 向精神薬による副作用を評価する方法として,スカンジナビア精神薬理学会の臨床試験委員会(Udvalg for kliniske undersgelser,UKU)が1987年に作成したUKU副作用評価尺度が知られている。この評価尺度は,他の評価尺度と比較して,向精神薬による副作用の中でも出現頻度の高いものや臨床的に注意すべき症状がより包括的かつ体系的に取り上げられていることに特長がある。本評価尺度では,半構造化面接によって,3つの側面,すなわち,1)「副作用の分類と症状の評価」(精神系・神経系・自律神経系・その他の4領域に副作用症状を分類し,その重症度と薬剤との因果関係を評価する),2)「副作用の存在による患者の日常動作での支障の全般評価」,および3)副作用に対する「対応」,を評価する。現在わが国では向精神薬の副作用を包括的に評価する尺度が限られている現状を踏まえると,UKU副作用評価尺度の日本語版を導入することは意義深いと考えられる。本稿では,UKU副作用評価尺度日本語版とその作成経緯について紹介する。
Key words : psychiatry, psychotropic drugs, pharmacotherapy, side effects, side effect rating scale

■特集 Clozapine症例集
●わが国におけるclozapineの開発の経緯
村崎光邦
 Clozapineは1961年に合成され,翌1962年に臨床試験が開始されて,1969年オーストリアで承認されている。わが国でも1968年に開発がスタートし,承認申請にまで至っていた。1975年フィンランドに始まる無顆粒球症の発現と死亡例の報告によって世界各国で販売停止または開発中止され,わが国でも承認申請が取り下げられた。それでも多くの臨床試験で集積された成績の中で,治療抵抗性統合失調症への効果が特筆され,とくにアメリカで1988年Kaneらによってclozapineの再発見ともいうべき報告が出され,1989年FDAは一定条件下での使用を承認した。承認国は全世界に拡がり,80ヵ国を超えている。ところが,わが国では再開発への意志決定が遅れ,1995年前期第U相試験の実施に踏み切ったものの,治療実施の困難さから再び中断された。しかし,治療抵抗性症例への実績を踏まえて,医療関係者や患者・家族団体からの強い開発要望を受けて,ついに2000年最終的な再開発が決定されて,後期第U相試験が実施された。それでも30例の被験者を得るのに2年に及ぶ長い期間を要した。本編に続くclozapine症例集にみられるような強烈な効果と適切な対応のもとでの安全性が確立されて2004年承認申請がなされたが,可能な限りの客観的評価と血液モニタリングシステムの確立を含めた追加試験を実施することとなった。それと同時に学会と協力して「使用ガイドライン」や「認定制度」を策定することとなり,いずれも日本臨床精神神経薬理学会にて策定されている。
Key words : clozapine, treatment―resistance, certified system, practice gaideline, CPMS―J

●Clozapineが有効であった治療抵抗性統合失調症の1例
北市雄士 井上猛 小山司
 Clozapineは治療抵抗性統合失調症に有効であることが報告されている。今回我々は,種々の抗精神病薬でも幻覚・妄想などの症状が遷延している治療抵抗性統合失調症患者において,clozapineによる陽性症状並びに陰性症状の改善を経験したのでその詳細について報告した。
Key words : clozapine, treatment―resistant schizophrenia, atypical antipsychotic drug

●遅発性ジストニアに対してclozapineが著効した統合失調症の1例
田中輝明 長尾智美 久住一郎 村下真理 小山司
 遅発性ジストニアは,抗精神病薬の副作用として稀ではあるが多大な苦痛を伴い,QOLの著しい低下を招く。急性ジストニアに比べて予後不良とされ,治療に難渋する症例も少なくない。今回我々は,clozapine治験の導入によって長期にわたり持続していた遅発性ジストニアが消失し,社会復帰するまでに回復した1例を経験した。ドパミンD2受容体に対する結合親和性の低さが寄与している可能性が示唆され,clozapineは遅発性ジストニアを有する症例の治療に有用であると思われた。
Key words : clozapine, tardive dystonia, EPS, intolerance, atypical antipsychotics

●Clozapine投与により社会復帰に至った治療不耐性統合失調症の1例
田中輝明 松山哲晃 久住一郎 村下真理 小山司
 近年,第二世代抗精神病薬の登場に相俟って,統合失調症の治療ターゲットは精神病症状から心理社会的機能へと移りつつある。今回我々は,clozapine治験の導入によって社会復帰へと至った治療抵抗性統合失調症の1例を経験した。第二世代抗精神病薬では精神症状の改善が得られず,遅発性ジスキネジアなどの副作用も出現したが,clozapineは錐体外路症状を惹起することなく精神症状を改善し,社会復帰を可能にした。強迫症状が出現したが,現在まで長期にわたり就労を続けている。
Key words : clozapine, social outcome, intolerance, obsessive―compulsive symptoms, schizophrenia

●Clozapine治療中に顆粒球減少症と脳波異常を呈した1症例
三浦伸義 伊藤千裕 松村亜紀子 藤山恵 大野高志 松岡洋夫
 Clozapine(CLZ)臨床試験後期第U相において,東北大学病院でエントリーした1症例について報告する。CLZ使用により精神症状の改善を認めたが,CLZ使用4週間後に顆粒球減少症が発現したために臨床試験は中止となった。しかし定期的な血液モニタリングを用いたことで,CLZ中止後の顆粒球減少症の改善を確認し,モニタリングシステムの構築の重要性が示唆された。また,本症例ではCLZによる脳波異常を呈した。CLZ使用中は定期的な脳波モニタリングが必要であると考えられる。
Key words : clozapine, treatment―resistant schizophrenia, agranulocytosis, blood monitoring system, EEG abnormality

●Clozapineによる治療が社会機能の改善をもたらした1例
新垣浩 岩間久行 西川徹
 生活全般が病的体験に支配され,種々の抗精神病薬による治療や電気けいれん療法でも改善が得られず入退院をくり返していた治療抵抗性の統合失調症者が,clozapine単剤治療にて精神科デイケアに参加できるまでに回復した。その回復過程は「症状は消えないが,病が和らぐ」と表現できると思われた。治療初期に出現した重度の起立性低血圧に対してどのように対応したかについても言及した。
Key words : clozapine, treatment―resistant schizophrenia, social function, hypotension

●好中球減少によりclozapine治験は中断したものの治験からもたらされた症状の改善は維持された症例
内田勝久 武井教使 鈴木勝昭 関根吉統 森則夫
 31歳,女性。Clozapineの治験前は,重篤な陽性症状のため自室で終日臥床した生活が続いていた。治験を開始し,治療抵抗性を示した陽性症状の軽快に伴い,それまでの社会的に引き籠った状態が著明に改善されたが,好中球減少が認められたため治験は中止となった。その後はolanzapineにて治療を継続。以後,治験中止後3年を経過した後も活動性が維持され,デイケア等に通うことができていた。Clozapineは一時的な使用であっても,十分にその有効性が認められ,いったん改善がもたらされるとその効果が持続することが示唆された。
Key words : clozapine, schizophrenia, treatment―resistant, neutrophil, quality of life(QOL)

●Clozapineによって症状が顕著に改善した一方で著明な体重増加が生じた統合失調症の1例
村竹辰之 澤村一司 高橋誠 染矢俊幸
 7年以上の長期にわたり精神科病院に入院していた31歳男性,統合失調症解体型の患者がclozapine600mg/日を服用したところ,自宅生活を継続できるようになるまで改善した。一方,退院後に著明な体重増加がみられ,治験開始時に比し25.9%増(BMI34.6)にまで至ったため,食事療法に取り組んだ。現在のBMIは32程度であり,今後も注意深い経過観察が必要である。
Key words : clozapine, body weight, metabolic syndrome

●Clozapineへの切り替えによっても精神症状の改善が得られなかった治療抵抗性統合失調症の1例
澤村一司 村竹辰之 染矢俊幸
 今回我々は治療抵抗性の統合失調症患者に対してclozapine単剤療法を行った。その結果,筋強剛,口唇,舌の不随意運動などの副作用はやや軽減したが,精神症状の改善は認められなかった。Clozapineの有効治療濃度域は350〜1,300ng/mlであると報告されているが,本症例は血中濃度が1,926.5ng/mlまで達したが効果が認められず,clozapineに対して反応性不良であると考えられた。
Key words : clozapine, response, treatment―resistant, predictors, markers

●Clozapineによって緊張病性亜昏迷の再発が防止された統合失調症の1例
高橋誠 村竹辰之 染矢俊幸
 緊張病性昏迷では栄養状態の悪化などにより入院が不可避となることがある。我々は亜昏迷により入退院を繰り返していた,治療抵抗性の統合失調症患者に対しclozapineを使用した。本症例ではclozapineが持続性の幻覚妄想に対し一定の効果を示した。自宅退院後,幻覚妄想が再び増悪したものの亜昏迷を呈することはなくなり,再入院に至ることなく長期間安定している。Clozapineは昏迷を呈しやすい症例に有用である考えられた。
Key words : schizophrenia, clozapine, catatonic stupor, malignant syndrome, D2 receptor block

●幻覚に左右された暴力により隔離を繰り返した患者に対するclozapineの奏効例
東間正人 宮津健次 越野好文
 幻聴に命じられ,家族および病棟スタッフと他の患者に暴力を振るい,隔離を繰り返した患者に対して,clozapine治療を行い,外来治療への切り替えに成功した。陽性症状のみならず,日常生活の活動性も徐々に改善した。また,clozapine投与後に白血球数が減少し,頻回に検査を施行しているが,投与中止基準である3,000/mm3以上は維持している。この点に対して若干の考察を加える。
Key words : clozapine, violence, long―term hospitalization

●イレウスによりclozapine投与が中止となった1例
東間正人 宮津健次 越野好文
 幻聴,「首がひきつる」異常体感および注察妄想を主症状とし,従来型および新規抗精神病薬に対して,治療抵抗性のみならず,アカシジアおよび構音障害などの副作用による不耐性を示した統合失調症妄想型の患者に対して,clozapine治療を導入した。幻聴および異常体感は残存するも軽減し,日常生活の活動性も改善したが,虫垂炎とその後イレウスにより,治療が中止となった。仮に虫垂炎は偶発事象としても,その後のイレウスはclozapineの抗コリン作用が関連した可能性が高いと判断した。
Key words : schizophrenia, clozapine, ileus, anticholinergic effect

●Clozapine投与により長期の電気けいれん療法から解放された1例
宮津健次 岡敬 越野好文
 26年間,chlorpromazine換算で最高2,800mg/日の抗精神病薬を使用し,病歴後半には電気けいれん療法も併用したが,結果としてGAFが10〜30点で推移した治療抵抗性統合失調症患者が,clozapineにより電気けいれん療法から解放され,GAFが40点まで改善し,BPRSは60点から47点,PANSSは合計107点から84点までの改善が得られた症例を報告した。
Key words : schizophrenia, clozapine, electro―convulsive therapy, clinical effectiveness, psychopharmacological algorithm

●Clozapine投与中に自殺念慮と頻回に好中球減少を認めた1例
長澤達也 宮津健次 越野好文
 Clozapineは統合失調症および分裂感情障害患者における自殺リスク軽減に有効性が証明されている。本例は様々な薬物療法および電気けいれん療法でも精神症状の改善は乏しく,自殺企図を繰り返し,clozapineの治験が導入された治療抵抗性患者である。Clozapine投与により軽度の精神症状の改善を認めたが,頻回に好中球が減少し,その後自殺念慮が再燃した。顆粒球減少症を呈し治験中止となったが,clozapine投与中でも自殺の危険に十分な注意が必要と思われた。
Key words : clozapine, suicidal idea, neutrocytepenia

●Clozapineにより左室駆出率低下をきたした1例
宮津健次 花岡昭 越野好文
 治療抵抗性統合失調症患者にclozapine投与中,2週後から心電図上非特異的なT波の変化を認め,5週後に心エコー上左室駆出率低下のため,投与中止した症例を報告した。感冒様症状,心不全徴候,血液所見の炎症所見,好酸球増多やCPKの変動もなく,理学的,身体的所見に乏しい中で重篤化する以前に異常を発見できたのは心電図,心エコー検査が有用であった証明であり,本剤投与中は定期的な循環器検査が必要である。
Key words : schizophrenia, clozapine, electrocardiogram, echocardiogram, left ventricular ejection fraction

●ClozapineによりQOLが改善した統合失調症の1例
織田裕行 中平暁子 木下利彦
 症例は統合失調症解体型の患者である。罹病期間は22年と長く,その間にさまざまな薬物療法を行ったが反応性に乏しかったため,長期間にわたる入院を余儀なくされていた。Clozapineによる治療を開始したところ,陰性症状を中心にBPRSで75から55(投与8週目)まで改善が認められた。投与開始10週後に好中球減少が出現したためやむなく中止となったが,本症例の治療経過のなかで最も奏効した薬剤と考えられた。
Key words : clozapine, schizophrenia, negative symptom, disorganized type, brief psychiatric rating scale(BPRS)

●Clozapineによる治療開始後2年を経て顆粒球減少症を認めた1例
康純 岡田光弘 岡本洋平 堤淳 米田博
 憑依妄想を主症状として,病像再燃期には妄想に基づく興奮と暴力行為をくり返し,薬物反応性が悪かったため,clozapineの臨床治験に踏み切った症例である。Clozapine投与により妄想体験は軽減した。さらにそれまで家庭内では暴飲暴食することが多く,肝機能障害などの成人病予備状態であったのが,生活習慣は改善し,体重も20kg以上減少した。軽度の顆粒球減少がくり返されたが,clozapineの減量により精神症状は再燃することなく顆粒球数もコントロールできている。
Key words : schizophrenia, delusion of possession, clozapine, neutropenia

●Clozapine治療中に心嚢液貯留を来した統合失調症の1例
江村成就
 長期間にわたり種々の治療を行うものの反応性に乏しく,保護室解除に難渋していた統合失調症の1例に対して,clozapine投与を行った。病識や批判力が見られることはなかったが,精神運動興奮が収まり外泊に至った症例である。長期投与導入にあたり行った心エコー検査で心嚢液の貯留を認め治験中止となった。Clozapineの副作用として心筋炎や心筋症が報告されており,いずれの診断にも至らなかったものの治験継続は好ましくないと判断した。循環器系の副作用への注意を喚起するものと考える。
Key words : clozapine, schizophrenia, side effect, pericardial effusion

●衝動性と問題行動がclozapineにより改善された解体型統合失調症の1例
黒木俊秀 堀川英喜 神庭重信
 著者らは,予測が困難な衝動行為,および食便や暴力などの問題行動が頻発するために,処遇が困難であった解体型統合失調症の症例に対してclozapine投与を行った。症例には,それまで新規の抗精神病薬も投与されたが,無効であった。Clozapine投与後,衝動性や問題行動が軽減するとともに,疎通性も良くなり,看護が容易となった。Clozapineが,他の抗精神病薬が無効な治療抵抗性統合失調症に対する“最後の切り札”であることが確認された。
Key words : schizophrenia, treatment―resistant, disorganized type, impulsiveness, bizarre behavior

●Clozapineにより著明な改善をみたものの体重増加を認めた1例
小嶋秀幹 中野英樹 寺尾岳 中村純
 統合失調症(破瓜型)の33歳(治験開始時)男性。17歳の発症以後,幻覚妄想,思考滅裂,精神運動興奮が激しく薬剤抵抗性のため長期入院を続けていた。Clozapine600mg/日の投与後,精神症状は著明に改善し,自宅への退院,デイケア通所が可能となったが,clozapineの投与後,体重増加が著しく,投与前56kgだった体重が最大93kgまで増加(+60%)した。糖尿病は出現していないが,clozapineの投与に際しては,今後も定期的に血糖値等を検査しながら慎重に経過を見ていく必要がある。
Key words : clozapine, schizophrenia, weight gain

●Clozapineにより頑固な体感幻覚が軽減した統合失調症の1例
小嶋秀幹 岩川美紀 寺尾岳 中村純
 統合失調症(妄想型)の38歳(治験開始時)男性。23歳の発症以後,頑固な体感幻覚が持続し,幻聴,それに伴う自傷行為が激しく薬剤抵抗性のため長期入院を続けていた。Clozapine450mg/日の投与後,上記症状は軽快し,病的体験に基づく衝動的な自傷行為が消失した。副作用は,排尿遅延,便秘,アカシジアが出現したがいずれも軽度で,投薬の継続に支障はなかった。
Key words : clozapine, schizophrenia, cenesthopathy, impulsive act, akathisia

●Clozapineが無効であったため,ECTへ切り替えた薬物治療抵抗性の慢性解体型統合失調症の1例
清水栄司 今井逸雄 藤崎美久 篠田直之 半田聡 中里道子 渡邊博幸 米澤洋介 木村章 橋本謙二 伊豫雅臣
 14歳時発症し,24歳時から長期入院,さらに27歳から解体した言動のため,長期保護室隔離を要するようになった30歳の慢性解体型の治療抵抗性統合失調症の女性例に対して,clozapineの投与を7ヵ月間にわたって,最大1日量600mg/日,400mg/日以上の投与量を20週間継続したが,精神症状の改善を認めなかった。その後,本症例は,電気けいれん療法(ECT)への切り替えにより,著効を示した。わが国でも,clozapineが市販されるようになれば,薬物治療アルゴリズムの中で,ECTより先に難治性統合失調症の治療選択の第一段階として利用され,さらに,clozapineの無効例には,clozapineを維持したまま,ECTを行うという治療選択が議論されていくであろう。
Key words : clozapine, schizophrenia, disorganized type, ECT, medication algorithm

●Clozapineのtherapeutic window(有効血中濃度域)の存在が示された治療抵抗性統合失調症の1例
井貫正彦 中里道子 野々村司 熊切力 西澤馨 清水栄司 伊豫雅臣
 症例は57歳,女性。19歳で発症した統合失調症で,治療抵抗性の基準を満たしたためclozapine(CLZ)の治験に参加した。26週間のCLZ投与(最終投与量は350mg/日)が奏効し,特に陰性症状が大きく改善した。またtherapeutic window(有効血中濃度域)の存在が示された。重篤な有害事象は認めなかった。その後,継続投与試験に移行したが,検査に非協力的で,血液モニタリングの実施が困難と判断されたため,2週間で中止となった。
Key words : clozapine, schizophrenia, treatment―resistant, therapeutic window

●Clozapineにより無顆粒球症を呈し,G―CSF製剤により回復した1例
原口正 渡邉博幸 浅香琢也 橋本佐 佐藤康一 清水栄司 小松尚也 伊豫雅臣
 Clozapine(CLZ)は治療抵抗性統合失調症に対して高い有効性を示すことが知られているが,致死的な副作用として無顆粒球症の問題が常に強調されている。諸外国においてはCLZの使用は治療抵抗性統合失調症あるいは治療不耐性統合失調症に適応を限って推奨され,定期的な血液モニタリングが義務付けられている。本邦での初回の治験(1970年代後半から1980年代初頭)でも,同様の安全性の問題により,開発を断念した経緯がある。今回(2001年から2004年),新たに安全性を中心として治験が行われ,我々は治験中にCLZによって惹起された無顆粒球症を経験した。本症例は本邦におけるCLZ誘発性無顆粒球症に顆粒球コロニー刺激因子(G―CSF)製剤を用い,回復した初めての症例である。
Key words : clozapine agranurocytosis G―CSF granulocyte―colony stimulating factor schizophrenia

●Clozapine治療中に感染症の治療薬を併用したために白血球減少を認めた症例
榎本哲郎 伊藤寿彦 亀井雄一 塚田和美
 本症例は電気けいれん療法(ECT)が症状改善を望める唯一の手段であるが,ECTで治療した後の維持療法として適切な薬剤が無いため頻繁に入退院を繰り返している。ECTから解放される可能性に期待して,clozapine治療を試みたが治療効果が発現する前に感染症を合併し,その治療薬の併用によって白血球減少症を惹起し,clozapine治療中止となった。
Key words : schizophrenia, clozapine, antibiotics, leukopenia, electroconvulsive therapy

●Clozapineが無効だった統合失調症の1例
亀井雄一
 症例は35歳の男性,統合失調症の入院患者である。発症から22年を経過しているが,持続的に幻覚・妄想状態,精神運動興奮,支離滅裂などが続いている。Clozapineを投与し,600mg/日を2週間継続したが,状態に変化が認められないため無効例と判断した。無効であった要因として,厳しい基準をもってしても治療抵抗性統合失調症と診断し得たこと,発症が早く経過が長いこと,血中濃度が上昇しにくかったことなどが考えられた。
Key words : clozapine, treatment―resistant shcizophrenia, clinical effectiveness, plasma concentration

●Clozapineが水中毒に有効だった1例
榎本哲郎 安井玲子 伊藤寿彦 亀井雄一 塚田和美
 1日の尿量が20lを越える水中毒を合併した慢性統合失調症患者にclozapineを使用した。投与後,精神症状の改善とともに多飲水も認められなくなった。Clozapine治療前は,その多飲水のため,入院,さらに拘束などの行動制限が必要なこともあったが,現在は外来に通院している。
Key words : clozapine, polydipsia, schizophrenia, water intoxication, refractory patient

●Clozapineでけいれん発作が発現した1例
亀井雄一
 症例は,29歳の女性,統合失調症の入院患者である。錐体外路系症状のために抗精神病薬の増量ができず,耐容性不良患者としてclozapineの治験に参加した。Clozapineの1日投与量が300mgの時点でけいれん発作が出現した。この時の血中濃度は865.4ng/mlと高値を示していた。けいれん発作は用量依存性に出現しやすくなるために,clozapineの血中濃度と脳波検査を頻繁にモニタリングしながら,投与量を決定する必要があると考えられた。
Key words : clozapine, side effect, epileptic seizure, plasma concentration

●Clozapineにより衝動行為が減り,家庭での生活が可能となった症例―治療抵抗性と服薬遵守について―
榎本哲郎 伊藤寿彦 亀井雄一 塚田和美
 Clozapineの服用により精神症状は軽改したが,病識が不確実であるため,退院後,ときどきclozapine服用を怠ることがあり,入院中のBPRSより退院後の点数が増加した。このような症例においては1〜2週間に一度,家族の同伴のもとで定期的に受診し,服薬遵守できるよう支持的な精神療法も行うこと,および家族を交えての心理社会的アプローチがコンプライアンスの低下を防ぎ,症状の改善と安定,維持に不可欠であると考えた。
Key words : clozapine, schizophrenia, compliance, refractory patient

●Clozapineにより介護される人から介護する人になった症例
榎本哲郎 伊藤寿彦 亀井雄一 塚田和美
 本症例は他の抗精神病薬でアカシジアが出現した耐容性不良であり,幻覚妄想,精神運動興奮など精神症状が慢性に持続していた。Clozapineの投与により多剤併用大量投与を脱し,精神症状の改善に伴い車イス生活になった母親の介護をし,かつ家事もこなせるようになった。単剤で治療する利点を痛感した。
Key words : clozapine, schizophrenia, polypharmacy, antipsychotics, monotherapy

●解体症状に対してclozapineが治療効果を示した症例
伊藤寿彦 平川幸治 望月智子
 思考および行動の解体が進行し,また薬物不耐性があり治療に苦慮していた症例に対するclozapineの治療経過を報告した。精神症状の「概念の統合障害」,「興奮」などにclozapineが少量で治療効果を得ていた。しかし,上気道炎を契機に悪性症候群をきたし,早期の治療で速やかに改善したものの,引き続いて白血球減少をきたし治験は終了となった。
Key words : clozapine, conceptual disorganization, neuroleptic malignant syndrome, agraneulocytosis

●Clozapine治療により単身生活が可能となった治療抵抗性統合失調症の1例
久住一郎 高橋義人 小山司
 18歳時に発症し,幻聴,幻視,体感幻覚や関係妄想などの陽性症状が種々の抗精神病薬治療や電気けいれん療法でも奏効しなかった妄想型統合失調症例に対して,clozapine治療を試みた。Clozapine治療開始3ヵ月後にはBPRS総得点は50点から25点に減少したが,退院後の行動拡大やデイケア通所,様々な環境的負荷に伴い,体感幻覚や関係妄想が悪化し,その都度用量調整が必要であった。しかし,clozapine導入後9年間は一度も入院はなく,最近約2年間はヘルパーの援助を受けながらも単身生活を送るまでに至っている。しかし,現在もかなり重篤な認知機能障害が残存していることから,本症例のような認知機能障害が中核的病態を占める統合失調症では,しばしば従来の薬物療法に治療抵抗性となりやすく,clozapineが有用である可能性が示唆された。
Key words : treatment―resistant, schizophrenia, clozapine, cognitive function

●持続的な幻聴,体系的な妄想に左右されて二度の腹部刺傷を行った後,clozapine導入により就労可能となった妄想型統合失調症の1例
久住一郎 高橋義人 高田秀樹 小山司
 18歳時に発症し,持続的な幻聴と体系的な妄想を認めながら,精神症状の存在を否定して,二度の腹部刺傷を企図した治療抵抗性統合失調症例が,clozapine治療によって,治療の動機付けが増し,9年間にわたって家業の手伝いを安定して継続するに至った。Clozapine治療134週目にサブイレウスを呈したため,以後は減量を余儀なくされたが,病的体験は現在も持続しているものの,それらの陽性症状に左右されずに社会適応性が保たれている。当初,精神科治療に拒否的であったにもかかわらず,clozapine治験を通じて,本人自身も治療効果を十分に認識するに至っており,現在の安定した経過に寄与していると考えられる。
Key words : treatment―resistant, schizophrenia, clozapine, suicide behavior

●Clozapine抵抗性の体感幻覚統合失調症の1例
新垣浩 小林一広 岩間久行 西川徹
 体感幻覚で発症し陰性症状が重なって難治化していた統合失調症者に対してclozapineを投与し,幻覚への効果は部分的であったが生活機能の改善が得られた。しかし,5年の経過で症状が徐々に増悪し,clozapineの増量にも反応は乏しかった。Clozapine抵抗性の統合失調症に対する併用療法の可能性についても言及した。
Key words : clozapine, treatment―resistant schizophrenia, cenestopathic(cenesthetic)hallucination

●Clozapineにて遅発性ジストニアが消失した統合失調症の1例
小嶋秀幹 桝田岳二 中村純
 統合失調症(破瓜型)の21歳女性。遅発性ジストニアが出現するため定型抗精神病薬による治療継続が困難であった。Clozapineに切り替えたところ,遅発性ジストニアは消失し,幻覚妄想症状の改善も得られた。しかし,以前から認めていた強迫症状がclozapine投与中に悪化し,clozapine単剤での治療は継続できなかった。その後,olanzapineへ置換したが,少量でジストニアが再発した。Quetiapineでは,最大量(750mg)投与してもジストニアは出現しなかったが,精神症状に効果が得られなかった。
Key words : clozapine, schizophrenia, tardive dystonia, compulsion, atypical antipsychotics