■Tandospirone

■原著論文
●痴呆患者の攻撃性に対するtandospironeの有用性と改訂長谷川式簡易知能評価スケール及びBehave―ADとの関連性の検討
山根秀夫 増井晃 山田尚登 大川匡子
痴呆患者の攻撃性に対するtandospironeの有用性と改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS―R)及びBehave―AD(Behavioral Pathology in Alzheimer's Disease)との関連について検討した。平均年齢が77.58±4.83(mean±S.D.)歳の攻撃性を有する痴呆患者12例にtandospironeを投与した。有効であった7例について検討したところ,幻覚妄想が顕著でなく,身体または言語的攻撃を呈し,HDS―Rが16.42±1.51点(mean±S.D.)と,無効例の9.20±1.92(mean±S.D.)点に比すると有意に高値との特徴が認められた。今回の結果により,痴呆患者の攻撃性にtandospironeが有効かつ安全性の高い薬物であるとともにBehave―AD,HDS―Rがtandospirone有効例の簡易的な指標となる可能性が示唆された。
Key words: tandospirone, dementia, HDS―R, behave―AD, aggressive behavior

●強迫性障害に対するtandospironeの使用経験
佐々木幸哉 井上猛 傳田健三 小山司
Fluvoxamineによる治療で十分な反応が得られなかった強迫性障害(OCD)の6症例(男女比:1:1,平均年齢:24.7歳,平均罹病期間:4.7年)に対して,azapirone系の抗不安薬であるtandospironeによる増強療法を試みた。  Fluvoxamine 200mg/dayによる維持療法が行われていた6症例に対して,tandospirone 30〜60mg/dayの併用を2〜8週間行った(tandospironeの平均服用量:46.1mg/day,平均服用期間:38.5日)。Tandospirone併用前後の強迫症状と抑うつ症状を自己記入式Yale―Brown Obsessive―Compulsive ScaleとBeck Depression Inventoryを用いて評価したが,いずれの尺度においても有意な改善は認められなかった。Fluvoxamineによる治療に抵抗性のOCD症例に対するtandospironeを用いた増強療法の効果は否定的であると考えられた。
Key words: fluvoxamine,tandospirone,obsessive―compulsive disorder,augmentation therapy

■症例報告
●Tourette症候群に対するtandospironeとpimozideの併用療法
岡田俊
音声チックと運動チックに加え,汚言症と強迫行為を伴うTourette症候群の9歳男児に,pimozideによる治療を試みたが,pimozideを増量すると眠気や全身倦怠感を訴えたために減量を余儀なくされ,pimozide単独での治療が困難であった。そこでpimo‐zideに加えtandospironeを投与したところ,強迫症状の改善は部分的な改善にとどまったが,チック症状と汚言症に著明な改善が認められた。Pimozideなどの抗精神病薬はTourette症候群の治療に有用であるが,遅発性ジスキネジアなどの錐体外路系副作用を発現する可能性を伴う。Tandospironeの投与によりpimozideの投与量をおさえ,かつ,症状改善を図ることができれば,両薬剤の併用治療がTourette症候群の有効な治療法として期待しうる。今後は両者の併用治療の有用性と安全性について詳細な検討を要すると考えられる。
Key words: Tourette's syndrome, tandospirone, pimozide, augmentation therapy, serotonin

●Tandospironeと選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)との併用の試み
稲永和豊 西彰五郎
選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRIs)とともにアザピロン誘導体buspironeの併用が欧米で試みられ,SSRIsに対して反応しない大うつ病に有効であるとの報告が見られる。わが国においてはアザピロン誘導体tandospironeが開発され,5―HT1A受容体に選択的なアゴニストとして作用することが明らかにされた。著者らはtandospironeをSSRIsによって治療中の大うつ病に併用して,SSRIsの効果を増強する可能性があるか否かを検討した。本報告ではその中の4例を示した。増強作用についての可能性は示唆されたが,今後の検討が必要であると考えられた。両者の併用は安全性の面からは問題がなかった。また併用によっておこる脳内機序について考察を加え,SSRIsとtandospironeの併用が治療抵抗性うつ病において有効である可能性を示した。
Key words: SSRIs, major depression, tandospirone, 5―HT1A agonist

●うつ病に対するtandospirone併用療法の有効性
張賢徳
抗うつ薬による治療に抵抗性の大うつ病に,tandospirone併用が奏効した3例を報告した。5―HT1A受容体部分アゴニストであるtandospironeは理論的に抗不安作用と抗うつ作用の両方を有する。海外で先行して使用されている同じazapirone化合物buspironeでは,プラセボとのRCT(Rondomized―Controlled Trial)で大うつ病への有効性が1990年に報告されている。しかし,buspironeに関するその後の文献を概観すると,単独使用よりも抗うつ薬との併用による抗うつ効果の報告が多い。国内でも,抗うつ薬とtandospironeの併用による抗うつ効果が報告され始めている。Tandospironeの作用特性から,抗うつ薬の作用を増大させる機序が想定されるので,tandospironeの併用は抗うつ薬の強化療法augmentation therapyと呼べる。  今回報告した3例に共通する特徴は,抗うつ薬抵抗性,メランコリー型で重症,不安が強いタイプである。Tandospirone併用による効果発現は3例とも早かった。これらの特徴はbuspironeに関する報告にも一致する所見である。tandospirone併用が奏効するうつ病の一群が確かに存在すると思われるので,今後どのようなタイプのうつ病に奏効するかを検討していく価値があると考える。
Key words: tandospirone, 5―HT1A partial agonist, depression, augmentation therapy

■Fluvoxamine

■原著論文
●Fluvoxamineの拒食期から過食期への移行期におけるGHQ(General Health Questionnaire)と食行動に対する影響
高宮静男 米永千香 川本朋 白川敬子 山本欣哉 佐藤倫明 奥野昌宏 針谷秀和 植本雅治
拒食期から過食期への移行期における7名の患者に2週間にわたってfluvoxamine50mg投与した。投与前,2週間後に体重,GHQ(General Health Questionnaire)得点,無茶喰いの回数,食べることを抑制できない感覚について検討した。体重増加率は鈍った。GHQの得点は34点から13点まで有意に低下した(p<0.01)。無茶喰いの回数は7例とも減少した。食べることを抑制できない感覚は6例で減少し1例で消失した。その後の経過を服薬の有無にかかわらず2年間にわたり追跡した。オープン試験の制約はあるが,拒食期から過食期への移行期における治療戦略の拡大が期待できる結果であった。
Key words: fluvoxamine, GHQ, the shift term from anorexia to binge eating, eating disorder,eating behavior

■症例報告
●摂食障害の治療におけるfluvoxamineの使用経験
後藤恵
投薬に同意を得られた摂食障害患者にfluvoxamineを処方し効果があったと考えられる症例について,通院で短期に軽快した5例(ANP3例 ANP/BNP2例)と長期間の罹病歴のある6例(ANP4例 ANP/BNP2例)を報告する。治療にあたっては薬物療法に加え精神療法・認知行動療法・家族療法・集団療法などを併用した。  投薬を含む治療により改善された点は,1)過食―嘔吐の減少・嘔吐せずに食事ができるなど食行動の変化,2)感情の受容・表出や抑うつ気分の改善,3)認知障害の気づき,4)自己主張ができるなど対人関係の質的向上,5)社会的適応の拡大などであった。  過食の衝動が減少し過食―嘔吐など食行動の異常が改善されることもあったが,食行動の変化がほとんどないままに,感情面の変化や認知障害の改善が認められ治療的に進展した症例もあった。したがって,fluvoxamineの効果を判定するには,これらの変化を総合的に評価することが大切である。食行動異常の変化にのみ目を向けているとさほどの改善は認められないこともあり,有用性を見落とす危険があると考えられる。
Key words: eating behaviour abnormalities, emotional expression, cognitive distortions, interpersonal relationship, cognitive behavioral therapy

●アルコール・薬物依存症と摂食障害の合併した症例に対するfluvoxamineの使用経験
後藤恵
アルコール・薬物依存症と摂食障害を合併している症例にfluvoxamineを投薬し効果があったと考えられる3症例を報告する。症例はいずれも10代で摂食障害を発症し後にアルコール・薬物依存症となったものである。理想主義・完全主義的な認知障害と低い自己評価により自傷行為・自殺企図を繰り返した症例では,拒食・過食―嘔吐はあまり改善しなかったが,断酒継続し行動化も終息した。崩壊家庭の出自で解離性健忘をともなう症例では,過食衝動が減少し自己洞察が飛躍的に深まり,断酒・断薬を継続することができた。父親の死とその後の家族の変容を契機に重篤な肝障害をきたすほどの飲酒と拒食・過食―嘔吐を続けた症例では,断酒継続しその後めざましい回復を遂げた。治療としては支持的精神療法を中心に,アルコール・薬物依存症のプログラムと摂食障害のプログラムを併用したうえで,fluvoxamineを投薬した。
Key words: addiction model, integrated treatment program, self destraction, suicidal attempt, disrupted family

●Fluvoxamineの少量投与によって著効した重度強迫性障害の2症例 ──若年発症した早期及び慢性症例の治療経験から──
仲本晴男 中山勲
若年発症した重度OCDの早期症例と慢性期症例の治療経験から,fluvoxamineによって著効した2症例について考察を加えて報告した。症例1は15歳男子,学校でのいじめから強迫症状が出現し,登校できなくなった。治療は閉鎖病棟において入院治療を行い,薬物療法に行動療法を併用した。症例2は38歳男子,8歳で発症し,fluvoxamine療法を行うまで7回の入院を含めて27年間の治療経過を持つ慢性例であり,治療は外来通院で行った。本報告におけるfluvoxamine療法の特徴をまとめると,両症例とも重度のOCDであったが,従来の報告に比べて効果発現が早く,また少量の投与で有効であった。副作用については中枢神経興奮作用と錐体外路症状に特徴がみられ,前者として不眠や頭痛,後者では急性ジストニアやアカシジアが出現した。
Key words: fluvoxamine, selective reuptake inhibitor(SSRI), obsessive compulsive disorder(OCD), early onset, pharmacological treatment

■総説
●SSRI(Fluvoxamine)はどのようなうつに効くか?―文献的考察―
林美朗 植木啓文
最近,相次いでSSRIやSNRIなどの新しい抗うつ薬が開発・発売されているが,どのような病像のうつにどのような抗うつ薬を用いるかといった点になると,いまだはっきりした指針がないのが実状のようである。本研究では文献的にSSRI(fluvoxamine)が著効したとされるうつ病性障害50例を集め,その臨床的特徴や他剤の反応性等を考察した。Fluvoxamineが有効であった症例は身体合併症を持ち,不安と連繋した形の身体症状が前面に出たものが多かった。また高齢者にも多く有効で,病前性格としては強迫性や徹底性等が顕著な例が目に付いた。さらにそれらは,第一世代の抗うつ薬が無効で第二世代がやや有効の,反復性のいわゆる治療抵抗(難治)性の症例と言えるものであった。本研究は,抗うつ薬の具体的な病像に対する使用の手引きとなるものであると同時に,うつの臨床精神病理学的記述を考える上にも手がかりとなるものと考えられた。
Key words: SSRI(fluvoxamine), depressive episode, treatment―resistant depression, pharmacological treatment

■Milnacipran

■原著論文
●Milnacipranの使用経験
佐々木竜二 佐々木信幸 小澤寛樹 池田官司 中野倫仁 齋藤利和
平成13年に日本発のSNRIとしてmilnacipranが発売されたが,大うつ病以外の報告はほとんどない。今回,北海道立江差病院において精神症状または身体症状を主訴とする患者45例を対象にmilnacipranを投与し,その改善度や副作用などについて検討した。その結果,milnacipranの投与とその効果について以下の特徴を得た。1)精神症状のみを訴える患者は改善を強く期待できる。2)主訴に精神症状が含まれる症例では,身体症状のみを訴える症例よりも有用で,長期治療によって改善しない例にも効果が期待できる。3)頭痛・頭重感の有無が,予後判定因子として重要である。頭痛・頭重感を有する症例は,ない症例に比べて,より高い改善率が期待でき,それを伴わない不定愁訴患者に対しては,ほとんど効果は期待できない。4)初回の服用後から副作用は出現し,副作用に用量依存性は認められなかった。
Key words: milnacipran, SNRI, somatic symptoms, nausea, headache

●脳卒中後うつ病に対するmilnacipranの治療効果
木村真人 金谷幸一 今井理子 鈴木博  諫山和男 遠藤俊吉
脳卒中後うつ病に対してSNRI(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor)であるmilnacipranを用いて,その有効性と安全性を検討した。30歳から89歳までの患者18例(男性4例,女性14例)において6週間のopen studyを行った。患者の診断はDSM―IVを用い,全員が脳卒中後に発症した大うつ病あるいは小うつ病と診断された。うつ病の重症度は21項目のハミルトンうつ病評価尺度(HAM―D)で評価し,認知機能はミニメンタルステート検査(MMSE)で評価した。Milnacipranの1日最大投与量は30mgから75mgであった。3例に副作用(1例が頭痛,しびれ感,1例が軽躁,1例が排尿困難)を認めたが,重篤なものはなかった。また,3例が治療期間中に脱落した。治療寛解率は,治療が継続できた15例では66.7%(10/15),18例全体でも55.6%(10/18)であった。さらに,milnacipran治療によって認知機能も有意な改善を示した。これらの結果からmilnacipranは脳卒中後うつ病に対して安全で有効な薬剤であることが示唆された。
Key words: cerebrovascular disorders, post―stroke depression, cognitive disorders, SNRI, milnacipran

●抗うつ薬milnacipranの使用経験
中山純維
2000年10月に発売された新しい抗うつ薬であるmilnacipran錠(商品名:トレドミン錠)をうつ病・うつ状態の患者139例に投与した。このうち改善度が判定できた症例は合計119例であり,各診断名(ICD―10)別の改善率(改善以上)はうつ病エピソード61.3%(19例/31例),反復性うつ病性障害60.9%(14例/23例),持続性気分障害35.3%(6例/17例),身体表現性障害61.1%(11例/18例)などであり,内因性の要因の強いうつ状態に有効で,身体症状にも有効性が認められた。初診の患者35例ではやや脱落例(11例)が多かったものの,改善率は83.3%と高い改善度を示した。  副作用は37.8%の症例に見られ,その主なものは嘔気,不眠,眠気などであった。また,初期投与量別では,15〜25mgの6例では副作用はみられず,30〜50mgでは副作用の発現率にあまり差は見られなかった。  以上の結果より,milnacipran錠はうつ病・うつ状態の各種病態に幅広い有効性が認められ,且つ副作用による早期の脱落例も少なく,うつ病治療の第一選択薬になりうる薬剤であると考えられた。
Key words: milnacipran, SNRI, depression, depressive state

■症例報告
●コンサルテーション・リエゾン精神医学からみたmilnacipranの有効性
保坂隆 山田健志 佐藤武
外来受診者のうつ病の合併率は5〜10%であり,入院患者になるとその合併率は20〜30%である。そのような身体疾患患者に合併したうつ病への治療では,(1)いわゆるdual actionにより迅速で優れた抗うつ効果を示す,(2)三環系抗うつ薬のような副作用が少ない,(3)肝チトクロームP―450を阻害しないので,他剤との薬物相互作用が少ない,(4)SSRIのような消化器系副作用が少ない,(5)肝機能障害患者にも使用しやすい,などの理由からセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるmilnacipranは,特にコンサルテーション・リエゾン精神医学の領域で有効性が高い。
Key words: consultation―liaison psychiatry, depression, serotonin―noradrenaline reuptake inhibitor (SNRI)

●Milnacipranが有効であった抑うつ状態を伴ったアルツハイマー型痴呆の4例
藤沢嘉勝 横田修 中田謙二 佐々木健
当院痴呆外来において,milnacipranが著効したアルツハイマー型痴呆の4例を報告した。その病像の共通点を探し出すと,経過中に徐々に自発性が低下し,自閉的になったり,また疲れる,体がだるい,頭が重い,食欲が低下したなどの身体的な不定愁訴が出現してきている場合が多い。従来はアルツハイマー型痴呆のうつ状態に対して,やむを得ず,三環系,四環系,sulpirideを使用していたが,効果が発現する前に,副作用が出現し,投与を中止するケースが多かった。Milnacipranは比較的副作用が少なく,高齢者にも安心して使用できることから,標的症状を定めて投与すれば,アルツハイマー型痴呆におけるうつ状態に対して効果が期待できると考えられる。
Key words: Alzheimer's disease, depressive state, milnacipran treatment

●全般性不安障害に対するmilnacipran(トレドミン)の有効性
塚本徹
Milnacipranの全般性不安障害(GAD)に対する有効性を検討する症例を経験したので報告する。milnacipranは,セロトニンおよびノルアドレナリン両者の再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬で,第4世代抗うつ薬といわれる。その特徴として抗コリン性の副作用が少なく,抗うつ効果の発現が速く,中等症から重症のうつ病に対しても有効とされている。症例は,DSM―(IV)でGADと診断された初回病相で未治療の42歳の女性外来患者である。Milnacipranの投与量は,最初の1週目は30mg/日,2週目から60mg/日に増量し,投与終了時まで固定した。評価方法はHAM―AおよびVAS(Visual Analog Scale)を使用した。その結果,投与開始前のHAM―A得点は13点であったが,投与1週目で速やかに4点に低下し,投与3週目には0点となった。VASもほぼ同様の推移を示した。以上の結果よりmilnacipranのGADに対する有効性が示唆された。今後の課題として,多数の症例によるコントロールされた研究が必要である。
Key words: antidepressant, serotonin and noradrenaline reuptake inhibitor(SNRI), milnacipran, generalized anxiety disorder (GAD), clinical trial

●Milnacipranにより著明に改善した重症うつ病エピソードの1例
三浦隆男
当初fluvoxamineを投与されていた40代男性のうつ病で,症状悪化のためmilnacipran 50mgに処方を変更した。その後,100mgまで増量し,ほぼ1週間で軽快を得た。Milnacipranは本邦初のSNRI(セロトニン―ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)で,他の抗うつ薬に比べ速効性のあることが知られ,1週間以内の有効例の報告もされている。本症例では,症状が重度であったにもかかわらず早期の軽快が得られ,副作用も見られず,milnacipranが奏効したものと考えられた。
Key words: milnacipran, SNRI(Serotonin―Noradrenaline Reuptake Inhibitor), depression

●総合病院精神科の日常診療におけるmilnacipranの使用経験
小澤篤嗣 礒崎仁太郎 山田康弘
総合病院精神科の日常的な診療において,SNRIであるmilnacipranが効果的であった4症例を報告した。症例1は,いわゆるdouble depressionのケースで,うつ病相の速やかな寛解をみた。症例2は双極性障害の躁病相の治療で,うつ転は治療者からは目立たなかったが,本人の自覚的な抑うつ症状を改善できた。症例3は胃がんという身体疾患に伴ったうつである。姑息的な縮小手術しか行えず後にバイパス手術はしたものの,抗コリン作用はほとんどない薬物を用いる必要があった。症例4は脳梗塞などの脳器質性変化を基盤とした老人性のうつで,ペースメーカーの植え込みを受けている。副作用や薬物間相互作用は少ないが有効性の高い薬物として選択し,症状の軽快をみた。
Key words: milnacipran, serotonin noradrenaline reuptake inhibitor, dysthymic disorder, bipolar depression, medically ill patient

●高齢者のうつ病,抑うつ状態に対してのmilnacipranの臨床効果について
石塚卓也  新井平伊
セロトニン―ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるmilnacipranの高齢者のうつ病,抑うつ状態に対する効果について,年齢65歳以上の5名の外来患者に対しての検討を行った。この結果より次のことが分かった。 1.5例の初期投与量の平均は33.0±6.7mgであった。 2.4例の維持投与量の平均は36.0±8.2mgであった。 3.投与日から7日までに効果発現が認められたのは2例,14日までに認められたのが1例,28日までに認められたのは1例であった。 4.中等度改善は5例中の2例(40%),著明改善は5例中2例(40%)であった。1例は躁状態となったため,中止とした。 5.副作用の発現は,1例にふらつき,1例に口渇がありいずれも軽度であった。 以上のことから,milnacipranは高齢者に対して安全かつ効果的であり,比較的低用量にて臨床的効果を示すものと思われた。
Key words: depression, elderly, serotonin―norepinephrine re―uptake inhibitor:SNRI, milnacipran hydrochloride

●Milnacipran増量により,症状の改善をみたうつ病の2症例
鎌田裕樹
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin‐Noradrenaline Reuptake Inhibitor;SNRI)であるmilnacipranの投与量を通常使用量より増量することで,うつ症状の改善効果が得られ,かつ安全に使用できた症例2例を経験した。1例はうつ症状の再燃時に,それまで使用していた三環系抗うつ薬を増量したが,副作用が強く出現し,治療の維持が危ぶまれたために,三環系抗うつ薬よりmilnacipranに変更した症例である。当初milnacipran 75mg/日を使用したが十分な改善が得られなかったためにmilanacipranの投与量を150mg/日に増量したところ,速やかに症状が改善した。もうmilnacipran 100mg/日の投与では効果が不十分であったために,同薬剤を150mg/日に増量したところ著明な改善を得ることができ,職場復帰を果たした症例である。Milnacipranは従来の三環系抗うつ薬と比較し,副作用も少なく安全に用いることができることから,通常投与量でうつ症状の改善を認めない症例においても,薬剤の増量投与を積極的に試み,その上で有効性を判定する必要があると思われる。
Key words: major depression, SNRI, milnacipran, therapeutic range, maintenance dose

●Milnacipranとlithium carbonateの併用が効果的であった気分変調性障害の1例
植木啓文 林美朗
Milnacipranとlithium carbonateの組み合わせによるaugmentation therapyが気分変調性障害に対して著明な効果をもたらした1例を報告した。Milnacipranはセロトニンとノルエピネフリンの両方の再取り込み阻害作用を有しているため,これまでの抗うつ薬によって部分的な反応しか示さなかった(残遺)症状に対して有効であったと考えられた。また,副作用が少なく忍容性が高いため,副作用に対して敏感である気分変調性障害患者において良好なコンプライアンスが得られたことも効果の発現に寄与したと考えられた。気分変調性障害など治療に難渋するケースに対してmilnacipranは比較的安心して使用できる薬剤であり,その結果,患者のQOLを高めることのできる可能性を有した薬剤であると考えられる。また,milnacipranとlithium carbonateとのaugmentation therapyを行う場合にはセロトニン症候群の発現に注意する必要があると考えられた。
Key words: SNRI, milnacipran, dysthymic disorder, lithium carbonate, augmentation therapy

●老年痴呆に見られた大うつ病エピソードにmilnacipranが著効した1例
坂元薫 長谷川大輔
Alzheimer型痴呆に見られた抑うつ状態に対して,milnacipranが著効した75歳女性例を報告した。72歳時に抑うつ状態で発症した後,痴呆症状が顕症化した。抑うつ状態は短期間で軽快したものの,痴呆症状は緩徐に進行した。75歳時に,DSM―IVのメランコリー型の特徴を伴う大うつ病エピソードの診断基準を満たす重症の抑うつ状態を呈し,さらに痴呆症状の増悪も認めた。本例に対し,milnacipranを使用したところ,投与開始2週目に抗うつ効果の発現が見られ,4週目には不全寛解に達した。そのうえ痴呆症状の改善も認めた。このことより,痴呆に見られる抑うつ状態に対して積極的な抗うつ療法を行うことにより,抑うつ症状のみならず抑うつ状態に起因する仮性痴呆症状も含めた全般的精神症状の改善が得られることを指摘した。Milnacipranは抗コリン作用を持たないため,老年期患者の認知機能を低下させず,さらにcytochrome P450阻害活性も認められないため,種々の薬剤を服薬することが多い老年期患者に適している抗うつ薬と考えられた。
Key words: milnacipran, SNRI, senile dementia of Alzheimer type, major depression

●外来通院患者に対するSNRI(milnacipran)の使用経験の検討 ――精神科クリニックにおける治療経過から――
上垣淳 高橋幸男 山根巨州 稲垣卓司 堀口淳
2000年10月から2001年3月に当科(医大外来を含む)に受診したうつ病・抑うつ反応(以下,うつ状態とする)等の患者にmilnacipran hydrochloride(以下,milnacipranとする)を投与した111例(男性51例,女性60例)についてレトロスペクティブに,2001年4月,10月での効果を調査した。実際の評価対象になったのは4月時点で101例,10月時点で90例で,それぞれの10例,11例は来院せず等の不明・中断例のために脱落とした。2001年4月時点で著明改善が19例(18.8%),中等度改善が23例(22.8%),軽度改善が26例(25.7%),無効・不変が32例(31.7%),悪化1例(1.0%)であった。一方2001年10月時点では著明改善(終了を含む)が24例(26.7%),中等度改善が18例(20.0%),軽度改善が7例(7.8%),他剤への変更例が32例(35.6%),入院例が9例(10.0%)であった。副作用発現率は28.7%(29例)で主なものは眠気6例(5.9%),倦怠感4例(4.0%),食欲不振4例(4.0%)であり,特に重篤な副作用はなかった。また本論では若干の症例も提示し,うつ病・うつ状態等に対する薬物治療について症例報告をベースに私見を紹介したいと思う。
Key words: serotonin noradrenaline reuptake inhibitor (SNRI), milnacipran, dose, side effect, drug interaction

●意欲低下を主症状とする遷延性うつ病にmilnacipranが著効した3症例
大下隆司 白川治
三環系抗うつ薬であるimipramine以後,数多くの抗うつ薬が開発されてきたが,薬物に十分な反応を示さないうつ病患者も稀ではない。われわれは,意欲低下を主症状とする遷延性うつ病に対してmilnacipranが著効した症例を3例経験した。症例1は6年1ヶ月の罹病期間,三環系抗うつ薬,ECTで寛解を得ることができなかったが,milnacipran 225mgに反応した。症例2は7年の罹病期間,三環系抗うつ薬による肝障害が出現し四環系を中心に投与するも奏効せず,ECTでも十分な反応を得られなかったが,milnacipran 75mgに反応した。症例3は1年4ヶ月の罹病期間に,抑うつ気分に加え,不安焦燥感が出現していたがmilnacipran 50mgで改善した。副作用として2例に不眠が認められたが,夕食後,就眠時の服用を避けることにより解消した。Milnacipranは安全性が高く,三環系抗うつ薬が投与困難であったり,反応不良な症例にも有効である可能性が示唆された。
Key words: hypobulia, prolonged depression, refractory depression, SNRI, milnacipran

●Milnacipranが著効した帯状疱疹後神経痛の1症例
宇都宮克也 浮田孟 広田茂
SNRIであるmilnacipranが帯状疱疹後神経痛に著効した1例を経験したのでその臨床経過を報告する。症例は69歳,男性,精神神経疾患の遺伝負因はない。帯状疱疹後神経痛が出現し,近医麻酔科で神経ブロック治療を受け,一時軽快するも疼痛が再出現し,神経ブロックの効果はもはや期待できないと判断され,当院を紹介された。Milnacipran 45〜75mg/dayの投与で約7ヶ月後にmilnacipranの中止を試みたが,同時に疼痛も消失した。SNRIの鎮痛作用機序として,セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害による下行性疼痛抑制系の機能増強作用や,NMDA受容体の拮抗作用仮説などが想定されている。本症例より,従来の三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬やSSRIに加えて,SNRIであるmilnacipranの帯状疱疹後神経痛患者への有効性が示唆された。
Key words: SNRI, milnacipran, postherpetic neuralgia, N―methyl―D―asparate glutamate receptor

●帯状疱疹後神経痛に対してmilnacipranが有効であった症例
嶋本恵利子 土井永史 諏訪浩 渋井総朗 石丸如月 福林範和
慢性疼痛に対する抗うつ薬の効果は,抗うつ効果だけではなく,鎮痛効果そのものも有するとされており,セロトニン作動性とノルアドレナリン作動性の下降性痛覚抑制性腺維の賦活の関与が考えられている。代表的な三環系抗うつ薬であるamitriptylineの鎮痛効果は複数報告されているが,SSRIやSNRIでの報告は少ない。今回我々は,慢性疼痛の一つである帯状疱疹後神経痛に対してmilnacipranが有効であった症例を経験した。Milnacipranはセロトニンとノルアドレナリンに対する選択的再取り込み阻害効果を持ち,口渇,便秘といった抗コリン性副作用,起立性低血圧などの抗アドレナリン性副作用などが生じにくい。副作用が少なく使用しやすいSNRIにより,治療困難な症例が多くQOLに大きな影響を及ぼす慢性疼痛の治療の可能性が広がることが期待される。
Key words: postherpetic neuralgia, antidepressants, SNRI

●Milnacipranが著効した口腔内セネストパチーの1例
田村良敦 木村真人 森隆夫 葉田道雄 下田健吾 遠藤俊吉 佐藤田鶴子
セネストパチーは身体の様々な異常感覚を奇異な表現で執拗に訴える一般感覚の障害であるが,一般的に難治例が多い。今回,口腔内の異常感覚を主訴とする口腔内セネストパチーにおいて,imipramineからmilnacipranに置換することで症状の消失をみた症例を経験した。セネストパチー患者は身体感覚に対して敏感であり,imipramineによる口渇などの抗コリン性の副作用が,症状改善を阻害している可能性が示唆された。また,抗うつ薬の視床に対する作用がセネストパチー症状を改善させている可能性も考えられた。Imipramineなどの三環系抗うつ薬と同等の抗うつ作用を有し,口渇などの抗コリン性副作用の少ないmilnacipranは口腔内セネストパチーに対する有力な治療薬になると考えられた。
Key words: cenesthopathy, monosymptomatic hypochondriacal psychosis, antidepressants, SNRI, milnacipran

●Milnacipran服用中の男性に出現した性機能障害の3例
高木隆郎 安藤りか 松浦暁子 生田朋子 浜垣誠司
Milnacipranを日常の精神科臨床の中で,64例の患者(男33例,女31例)に使用したところ,3例の男性に性機能障害の訴えが出現した。それぞれ40歳,41歳,44歳の妻帯者である。3例とも過去において軽度のうつ病のエピソードを経過していたが,milnacipran開始時点では,そのcomorbidityから移行した神経症圏の病像,社会恐怖,空間恐怖,パニック障害および書痙等を示しており,発病以来それぞれ6年,4年,18年の長期間を経過していた。Milnacipran服薬開始直後,遅くても4日以内に性器萎縮,勃起の障害,睾丸痛,性欲減退,射精後の精液残遺感等さまざまな性機能障害が出現した。2例ではこれらの症状はmilnacipranを中止すると直ちに消失した。1例は本人の希望で1年6ヵ月後も使用中であるが,性機能障害も持続している。直前に服用していた薬物や併用薬との相互関係について考察を行ったが,それらが関係していると考える根拠は乏しかった。Milnacipranに起因する性機能障害の最初の報告であると考える。
Key words: milnacipran, SNRI, sexual dysfunction, side effects


■Paroxetine

■原著論文
●Paroxetineによるパニック障害の治療 ――ベンゾジアゼピンとの併用を中心に――
竹内龍雄 池田政俊 花澤寿 鶴岡義明 日野俊明 天ヶ瀬淳
パニック障害の外来患者43例にparoxetineとベンゾジアゼピンの併用療法を行い,8週後に評価した。また一部は6カ月後の転帰も調べた。8週後の全般改善度は軽度改善以上69.8%,Sheehanの不安尺度得点は平均51.2点から23.6点へと明らかな改善が見られた。改善はパニック発作に顕著で,広場恐怖はそれほどではなかった。継続投与により9週以後も改善が続き,6カ月後ではパニック発作はほとんど消失し,広場恐怖も全体として重症度が8週後に比べさらに1段階改善した。何らかの副作用は72.1%に見られ,睡眠障害,消化器症状,茫乎,頭痛,不安の増大などが多かった。ただし大部分は投与初期の一過性のもので,治療継続の妨げになることはほとんどなかった。脱落・中止が少なかったのは,ベンゾジアゼピンの併用による効果が大きいと考えられた。  総じて,paroxetineはパニック障害に対し切れ味の良い効果を持ち,急性期・慢性期を問わず,パニック障害に伴う不安症状全般に強力な抑制効果を発揮するとの印象を持つ。投与にあたっては,ベンゾジアゼピン(alprazolamなど)の併用(後に漸減)が,有用と思われる。
Key words: panic disorder, paroxetine, benzodiazepine, combined therapy, efficacy

■症例報告
●Paroxetineへの切り替えが奏効した社会恐怖の1症例
伊賀淳一 吉松誠 前田正人
本症例は14歳から状況依存性(授業中や集会など比較的場面が限定されている)の社会恐怖を発症し,中学時代は何とか適応して生活できていたものの,高校2年時に症状が悪化し,精神科外来受診となった。Fluvoxamineとalprazolamによる治療を行い,十分量を十分期間投与したが,満足な効果が得られなかった。そこでparoxetineとalprazolamによる治療に切り替えたところ,症状が寛解状態まで速やかに改善し,患者のQOLが著明に改善した。SSRIは社会恐怖に対して海外において広く使用されており,本邦で使用可能なparoxetineやfluvoxamineも有効性が証明されている。しかし,社会恐怖の治療において1つのSSRIに反応しない患者が,他のSSRIに反応するのかどうかは臨床的な課題として残されている。今回の症例からは,大うつ病と同様に,社会恐怖の治療においてもSSRI間での切り替えが有効と予想される。
Key words: switching, social phobia, paroxetine, fluvoxamine

●難治性の気分障害に対してparoxetineが奏効した4例
五十嵐潤 杉原克比古 姜昌勲 松下棟冶 岸本年史
近年,従来の抗うつ薬と比べ副作用の少ないSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)といわれる抗うつ薬が治療に使用されている。今回われわれは,難治性の気分障害に対し,paroxetineが奏効した4症例を経験したので報告した。(症例1)47歳,男性,大うつ病性障害:sulpirideとparoxetineの併用にて症状が改善した。(症例2)66歳,女性,心的外傷後ストレス障害:抗不安薬にて改善しなかった症状がparoxetine単剤にて消失した。(症例3)42歳,男性,大うつ病性障害:10年以上にわたり治療が困難で数種類の抗うつ薬を併用していた患者に対し,paroxetineの使用により抗うつ薬の減量と症状改善を得た。(症例4)44歳,男性,双極性障害:各種薬物に反応が悪く気分の変動が激しいため12回の入退院歴があった。paroxetineを使用し気分安定薬の減量を行い症状の安定を得た。
Key words: SSRI, paroxetine, PTSD, affective disorder, bipolar disorder

●Paroxetineが奏効した小児期崩壊性障害の1例
成本迅 清水博 上田英樹 福居顯二
小児期崩壊性障害は広汎性発達障害に含まれ,意志伝達の質的な障害や反復的で常同的な行動様式など自閉性障害と共通の障害を呈する。われわれはparoxetineが著効した小児期崩壊性障害の1例を経験した。症例は16歳男性。興奮,器物破損,ドライブへのこだわりから自宅での介護が困難となり入院を繰り返していた。経過中,抗精神病薬,carbamazepine,tandospironeの投与が行われたが改善しなかった。抗精神病薬については増量すると過鎮静が見られた。Paroxetine加薬後,こだわりが軽減し,言語的コミュニケーションの改善が見られ,情動的にも安定するようになった。これにより,養護学校へ通学可能となった。抗精神病薬,睡眠薬については減量が可能であった。小児期崩壊性障害を含む広汎性発達障害における行動障害に対してparoxetineが有効である可能性が示唆された。
Key words: paroxetine, selective serotonin reuptake inhibitor, childhood disintegrative disorder, autism

●精神科外来診療所におけるparoxetineの適応
竹村隆太
精神科外来におけるうつ状態や不安障害に対するparoxetineの改善効果の評価をおこない,その適応等について考察した。全般的にみて,うつ病および不安障害に見られるうつ気分及び不安に対してparoxetineはしばしば有効であった。しかし,制止型のうつ,親との葛藤因子や不安定で過敏な人格傾向因子を有する症例,認知の歪みが強くみられるような病態への効果は得にくいという印象であった。中止例においては,躁転,強度の頭痛・嘔気・食欲低下等がみられた。著明改善例は,診断的にはうつ病圏から各種の不安障害まで様々であるが,臨床経過におけるparoxetineへの個々の反応からみて,これらの疾患群に共通してみられる“不安の身体化”(あるいは身体化された不安)に対する抑制的効果をparoxetineが有していると考えられた。
Key words: paroxetine, CGI improvement, depression, anxiety disorder, anxiety somatization

●Paroxetine投与と外来でのA―Tスプリットの試みにより軽快を示した社会恐怖(社会不安障害)の1例
山口成良 武山雅志 秋月玲子
最初職場での視線恐怖から発症し,結婚後は夫の同伴なしには一人で買物その他の外出やパーティの参加も不安でできない社会恐怖(社会不安障害)に対して,外来で主治医がparoxetineの投与と身体的管理を行い,臨床心理士が精神療法を行うというA―Tスプリットを試みて,軽快状態を保っている1症例を報告した。
Key words: paroxetine, social phobia, social anxiety disorder, A―T split, outpatient clinic

■Risperidone

■原著論文
●慢性期分裂病の入院患者におけるrisperidoneへの切り替えの有効性とその意義  ――PANSSによる精神症状の評価と対費用効果――
松本良平 土田英人 福居顯二
わが国でも非定型抗精神病薬の有効性が報告される中で,その対費用効果の実地的検証を行なった報告はわれわれの知る限りなされていない。現在,日本での非定型抗精神病薬の処方率は先進諸国の中でも著しく低い。その要因の1つに,依然として慢性期の分裂病患者に抗精神病薬の多剤大量併用投与がなされている状況がある。今回筆者は16名の慢性期の分裂病患者にrisperidoneへの切り換えを行ない,その精神症状への効果と対費用効果を検討し報告する。結果として,PANSSスコアは有意の改善を示しただけでなく,薬剤費用は一人当たり平均年54,485円も削減された。今回の結果から,慢性期分裂病患者に対してもrisperidoneへの置換を行なうことは有意義であることが示唆された。
Key words: chronic schizophrenia, cost―effectiveness, risperidone, atypical antipsychotics, switching

■症例報告
●初発未治療精神分裂病治療におけるrisperidoneの位置づけ
小原喜美夫 竹内正信 藤内栄太 清田ひとみ 小城左明 土生川光成 矢野淳 三松香織 中澤武志 三浦智史 二宮英彰
当院に入院した初回エピソードにある未治療の精神分裂病患者のうち著者等が担当した17例に対して,risperidoneによる急性期治療を行った。調査終了時の総合判断では著効が14例,かなり有効が1例,中止が2例であった。著効とかなり有効を合わせると17例中15例(88%)がrisperidoneによく反応し,退院まで投与を継続できた。Risperidoneの著効例では少量で効果発現が早く,陽性症状全般に対してよい効果を示したが,特に緊張病性精神運動興奮に対しては劇的と思える良い効果を示した。Risperidoneは,幅広い精神病症状に効果を示し,急性期分裂病治療の第一選択薬剤として,haloperidolなどの従来型の抗精神病薬と同等か,より優るという印象を得た。これらの経験も含めて,急性期精神分裂病に対する当院の治療戦略や方針を述べた。
Key words: risperidone, first―episode schizophrenia, drug―naive, broad―spectrum

●定型抗精神病薬の長期投与で生じた遅発性ジスキネジアが疑われる不随意運動がrisperidone投与により改善した2症例
澤田和之
長年にわたる定型抗精神病薬の服薬により生じた遅発性ジスキネジアが疑われる不随意運動を2例経験した。いずれのケースにおいても原因薬剤を中止してrisperidone単剤に切り替えることで,遅発性ジスキネジアと思われる不随意運動は短期間で改善して,そのうち1例では完全に消失した。Risperidoneが遅発性ジスキネジアと思われる不随意運動に有効であった理由を考察するとともに,より多くの症例を重ねて今後もその有効性を検討していきたい。
Key words: tardive dyskinesia, risperidone, switching, serotonin

●陰性症状,認知機能障害を伴った難治性摂食障害症例にrisperidoneが奏効した1例
松本出 井上祐紀 丹羽真一
陰性症状,認知機能障害を伴った難治性摂食障害症例にrisperidoneが著効した症例を経験したので報告する。本症例は22歳女性で,16歳時社会的不適応,拒食にて発症,その後社会からのひきこもり,アンヘドニア,高度の過食・自己誘発性嘔吐を合併するようになり,三度の入退院歴を有していた。従来型抗精神病薬を中心とした薬物療法,認知ならびに行動療法にも反応は不良であった。今回の入院期間中に認知・行動療法を併用しながらbromperidolをrisperidoneで全置換したところ,過食・嘔吐,それに伴う高度の抑うつ・自責感,希死念慮,陰性症状全般に著明な改善を認め,退院後5年を経た現在でも良好な経過が得られている。セロトニン・ドパミン拮抗薬の作用機序を踏まえて若干の考察を試みた。
Key words: risperidone, eating disorder, cognitive dysfunction, negative symptoms

●急性期の活発な幻覚妄想状態にrisperidoneが著効した3例
矢萩英一 中江重孝
症例1(36歳男性)は破瓜型の経過中に幻覚妄想が活発化したケース,症例2(53歳女性)は50代に入り幻覚妄想で発症した分裂病で,quetiapineからセロトニン・ドーパミン・アンタゴニストであるrisperidoneに変更するとともにlevomepromazineを短期間併用したところ,急性期の幻覚妄想が速やかに改善し以後の適応も良好であった。症例3(55歳女性)は50代に入って幻覚妄想を発症した分裂病が疑われるケースで,急性期の幻覚妄想に対しrisperidoneが速やかな病状改善効果を示した。3例ともrisperidoneの投与によって患者のコンプライアンスが改善し,外来での継続治療が可能となった。いずれの症例においても副作用の発現はみられなかった。Risperidoneの速やかな効果を自覚的に体験したことおよび副作用の少なさがコンプライアンスの改善,それに伴う症状の改善,ひいては患者―治療者関係をも良好なものとし,治療継続を可能にしたと考えた。
Key words: risperidone, compliance, pharmacotherapy, active hallucinatory―paranoid

●治療抵抗性うつ病に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬へのrisperidoneによるaugmentation療法
福永貴子  坂元 薫
三環系抗うつ薬,四環系抗うつ薬による年余にわたる治療が奏効せず,fluvoxamineの単剤投与の効果もなく制止症状を前景とするうつ状態が遷延した治療抵抗性うつ病患者において,fluvoxamineへの少量のrisperidoneの追加が2週間以内に著効を示した2例を報告した。その奏効機序として,大脳皮質前頭前野におけるrisperidoneのdopamine,norepinephrine放出増大作用がfluvoxamineとの併用により増強され,気分の改善,活力の増大がもたらされることが示唆された。さらにrisperidoneの有する5―HT2A/2C受容体拮抗作用が,不安・抑うつ症状の軽減や睡眠障害の改善に寄与することが推測された。Fluvoxamineへ少量のrisperidoneを追加するaugmentation療法は,錐体外路症状出現の危険性も低く,薬物相互作用の観点からも安全性が高く,治療抵抗性うつ病に対する新たな治療手段となることが示唆された。
Key words: treatment―resistant depression, atypical antipsychotics, risperidone, fluvoxamine, augmentation therapy

●定型抗精神病薬からrisperidoneへの緩徐なスイッチングが有効であった慢性精神分裂病の3症例
田伏英晶 内藤宏 古川壽亮 尾崎紀夫
定型抗精神病薬の多剤併用・高用量投与を繰り返されてきた,慢性精神分裂病の3症例に対して,非定型抗精神病薬であるrisperidoneへの緩徐な変薬(スイッチング)を試みた結果,quality of life(QOL)の著しい回復を得たので報告する。スイッチングの主たる目標をQOLの改善に置き,定型抗精神病薬の減量と向精神薬の整理を併せて行った。病棟スタッフには,スイッチング導入に際して,症状が一時的に動揺する可能性について伝え,症状動揺の背景や対応方法について検討した。さらに,スイッチングの期間を数ヶ月から1年と長期間設けた。精神症状の大きな動揺は認めず,幻覚妄想は持続するも,水中毒の改善や衝動行為が消失し,生き甲斐のある生活を取り戻すなど,QOLの点でも改善を認めた。このことは非定型抗精神病薬の臨床的利点として期待されている,陰性症状や認知機能障害の改善によるものではないかと考えた。また,前薬より低い力価のrisperidone6mgへのスイッチングに成功した背景には,長期間にわたる過剰なドーパミン遮断薬が投与されていた可能性が疑われた。
Key words: atypical antipsychotics, risperidone, switching, schizophrenia, QOL

●Risperidoneにより認知障害を伴った高度の陰性症状が著明に改善した統合失調症の1症例
佐々木俊徳 板井貴宏
症例は37歳,男性,統合失調症。高度の陰性症状を主病像とし,未治療状態で保護されたが,非定型抗精神病薬risperidone2mg/dayの投与を外来にて行い,認知障害および陰性症状の速やかな改善をみた。現在,関心を向けなかった身体症状も自覚するようになり,精神科的治療のみならず身体的治療にも自ら積極的に取り組み,単独での生活が可能となった。Risperidoneは,これまで治療の主流であった定型抗精神病薬では治療が困難であった認知障害を有する陰性症状主体の統合失調症に対し,非常に有効であると考えられた。
Key words: risperidone, schizophrenia, atypical antipsychotics, negative symptoms, cognitive impairment

■総説
●急性期精神病患者へのアプローチ――Risperidoneによる急性期薬物療法――
大下隆司
急性期精神病患者への治療方針と薬物療法について述べる。急性期治療は安全性に配慮し,適切に急性症状のマネージメントを行い,長期継続治療の橋渡しとなることを考慮しながら行う。急性期に認められる症状を行動症状,陽性症状,陰性症状の3つに分けて考える。行動症状は興奮,敵意,激越と幻覚などによる行動異常の2つのグループに分けられる。入院早期,病院生活に適応できる程度まで症状コントロールするために興奮,敵意,激越と不眠を2〜3日以内で抑えることを目指す。陽性症状は1〜2週間を考える。患者,医療者関係を友好的に保ち長期継続治療への橋渡しとなるため,急性期初期よりコンプライアンスの良い非定型抗精神病薬を用いた治療が推奨される。急性期初期の薬物療法として,lorazepam2mgとrisperidone2mgを投与し,効果を評価しながら,2mgずつ段階的にlorazepamは最高6mg,risperidoneは8mgまで追加投与していく。Risperidoneの初期用量として維持量の1.5倍を目安にする。速やかに増量し症状コントロールした後,維持量まで緩やかに減量していくという投与法は効果発現が早く安全性も高い方法だと考える。
Key words: acute psychosis, agitation, sedation, risperidone, lorazepam

■Quetiapine

■原著論文
●Quetiapineでせん妄を治す
佐々木幸哉 松山哲晃 井上誠士郎 角南智子 井上猛 傳田健三 小山司
近年,わが国でも,risperidoneやperospirone,olanzapine,quetiapineといった非定型抗神病薬の有効性と安全性が正当な評価を受けるに至り,欧米と同様に,精神分裂病に対しては,第一選択薬として積極的に用いられるようになりつつある。しかしこれらの薬物の精神分裂病以外の疾患,病態に対する使用はまだ一般的ではなく,個々の施設,臨床家が試行錯誤を繰り返している段階であろうと思われる。筆者らは,これまでせん妄治療におけるquetiapineの使用経験を報告してきた。せん妄という病態の性質に由来する方法論的な限界のために,せん妄の薬物療法については信頼性の高いエビデンスとなりうる研究が少なく,現在でも,haloperidolに代表される高力価抗精神病薬が第一選択薬として用いられている施設が少なくないと推測される。しかし薬理学的なプロフィールからは,quetiapineを含む非定型抗精神病薬のいくつかがせん妄治療において従来薬よりも有効かつ安全であることが予想され,実際,筆者らはコンサルテーション・リエゾン精神医学に携わる中で,せん妄に対してquetiapineを用い,満足すべき成果を得ている。本稿では,著者らの経験に照らし,主に実践的な側面から,quetiapineを用いたせん妄の治療を概説する。
Key words: quetiapine, delirium

■症例報告
●従来型あるいは非定型抗精神病薬からquetiapineへの切り替え症例の検討
久住一郎 高橋義人 本田稔 三浦淳 井上猛 小山司
ICD―10で精神分裂病圏(F2)に分類される46症例を対象に,既に使用されていた従来型あるいは非定型抗精神病薬からquetiapineへの切り替えを試みた。最終的に30例でquetiapineは中止され,継続16例中quetiapine単剤に置換されたのは4例であった。最終全般改善度評価は,有効以上13例(28.3%),やや有効7例(15.2%),無効または悪化15例(32.6%),判定不能11例(23.9%)であった。有効群は,前薬の用量が少なく,PANSS評価による精神症状も無効群に比べてより軽度であった。有効群では,陽性尺度,陰性尺度,全般精神病理尺度とも経時的に得点が低下していたが,無効群では,開始8週後に改善傾向にありながら,その後悪化しており,前薬の減量が早すぎた可能性やquetiapineの用量が不十分であった可能性も考えられた。本研究の結果を基にして,quetiapineへの切り替えの適応と安全な切り替え方法について考察を加えた。
Key words: schizophrenia, conventional, atypical, antipsychotic drug, quetiapine, switching

●多飲に対しquetiapineが有効であった1例
梶山浩明 藤川徳美 斎藤浩 高橋輝道 日山亨 岩崎学 大森信忠
症例は46歳,男性。中等度精神遅滞が存在し,22歳時に幻覚妄想にて精神分裂病を発症し,以後,抗精神病薬の治療を受けていた。42歳頃より多飲が認められた。多飲に対して,demetylchlortetracycline,lithium等を使用するも,多飲による日内体重変動が4―5kgを超える度にふらつきが強まり,保護室,個室施錠による飲水制限を要していた。Zotepine,levomepromazine,haloperidolの3剤併用からquetiapineへ置換し増量したところ,日内体重変動が小さくなり明らかな改善が認められた。幻覚妄想に対し,さらにolanzapine 10mg,risperidone4mgを追加したところ,多飲が認められ中止した。抗精神病薬の大量投与を必要としない多飲のある精神分裂病患者には,抗精神病薬をquetiapineへ単剤化することは有効であると考えられた。
Key words: polydipsia, quetiapine, schizophrenia

●Haloperidolからquetiapineへの置き換えが有効であった遅発性ジストニアの1例
仙波純一 山本紀子
抗精神病薬の長期投与によって生じる遅発性ジストニアは,頻度はまれであるが患者の身体的また社会的機能を大きく障害する。対症的な治療法はいくつか報告されているものの,確実な治療法はいまだ確立していない。今回,われわれは抗精神病薬の長期投与によって生じた遅発性ジストニアを伴う精神分裂病患者において,haloperidolをquetiapineに置換することによって,その症状を消失し得た1例を提示する.また,置換当初のジストニアの一過性の悪化や,精神症状悪化の可能性など,quetiapine置換に伴ういくつかの問題点についても言及した。
Key words: tardive dystonia, quetiapine, case report

●Quetiapine単剤投与への切り替え――著効した精神分裂病の5症例とその臨床的特徴――
辻敬一郎
Risperidoneやhaloperidolなどの単剤あるいは多剤併用投与からquetiapine単剤投与への切り替えが著効した精神分裂病の5症例を報告し,quetiapineが有効と思われる精神分裂病患者の臨床的特徴についてPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)やDAI―10(Drug Attitude Inventory―10)による評価を交えて検討した。5症例ともPANSSの全スコアにおいて改善がみられたが,quetiapine投与前の構成尺度スコアが全例においてマイナスポイントであったことから,陰性症状が前景となっている患者に対する有効性が示唆された。またquetiapineの単剤投与により,他の向精神薬や副作用に対する薬剤の併用が大幅に削減され,薬剤性の弊害から開放されたことから,患者のコンプライアンスの向上と肯定的服薬観がDAI―10の結果に反映されていた。
Key words: quetiapine, atypical antipsychotics, switching, PANSS (Positive and Negative Syndrome Scale), DAI―10 (Drug Attitude Inventory―10)

●細菌性髄膜炎に伴うせん妄に対してquetiapineが有効であった2例
廣西昌也 近藤智善
2例の細菌性髄膜炎に伴う興奮状態(せん妄)に対してquetiapineを使用し,良好な反応を得た。第1例は64歳男性。感冒様症状に引き続いて左下肢の痛み,後頭部痛が生じ当科受診,項部硬直,Kernig徴候が認められたが明らかな運動麻痺,感覚障害はなし。髄液所見から最終的に細菌性髄膜と診断され,ceftriaxone,cefotaximeなどを使用したところ,髄膜刺激症状,髄液所見は改善した。入院時,不穏・興奮が強く,髄膜脳炎と全身状態の悪化に伴うせん妄状態と診断し,tiapride 50mgを頓用で処方するも,尿道カテーテルを挿入したまま無断外出するなど改善がみられなかったため,quetiapine75mgを分3で投与したところ興奮状態は終息し,以後も再発をみなかった。第2例は28歳女性。頭痛,発熱に引き続いて意識レベルの低下が生じ,髄膜脳炎と診断され当院に入院。Ceftriaxone,cefotaxime,vancomycinなどを使用して軽快した。入院後より不明な発語,興奮状態がみられ,せん妄状態と診断。Quetiapine 75mgを分3で投与したところ興奮状態は早急に消退をみた。Quetiapineは,非定型抗精神病薬の一つとして,精神分裂病治療に用いられているが,髄膜脳炎など二次性のせん妄状態にも有効である。
Key words: quetiapine, bacterial meningitis, delirium, multi―acting receptor targeted antipsychotic, neuroleptic malignant syndrome

■Perospirone

■原著論文
●Risperidoneをperospironeに変更した33例の分裂病患者における経験 ――慢性期分裂病におけるSDAからSDAへの切り替えの可能性――
藤田和幸 兼本浩祐
近年,いくつかの非定型抗精神病薬が相次いで本邦でも上市され,その有用性は盛んに論じられているが,本邦で開発された唯一の非定型抗精神病薬であるperospirone(PER)に関する報告はそれに比べて少ない。今回我々はICD―10で精神分裂病と診断された33症例でrisperidone(RSD)(2―9mg/day)をPER(8―24mg/day)に変更し,BPRSを用いてその経過を観察した。その結果,33例中症状不変例が24例,好転例が3例,悪化例が2例であったが,変更前・変更後を比較してBPRS平均スコアに有意差は認められなかった(変更前30.6[S.D.=7.8],変更後31.2[S.D.=10.7])。好転例に関しては,不安・抑うつが改善し意欲や活動性の適度な亢進が見られ,悪化例については幻聴や妄想など陽性症状の悪化が目立った。以上の結果から,PERは慢性分裂病においてはRSDと同等の有効性を示す可能性があり,また同じSDAといってもRSDとは異なった効果プロフィールを示す可能性も示唆された。
Key words: perospirone, risperidone, switching, schizophrenia, atypical antipsychotic drugs

■症例報告
●Perospironeが著効した5例
五十嵐雅文 田口理英 原隆 菅原道哉
Perospironeが著効した5例を報告する。うち4例はchlorpromazine換算にて600mg以上使用し,1年〜5年経過しても症状が改善しない治療抵抗性精神分裂病の症例に対し,主剤としてperospironeを用いて切りかえを行い,その問題点,変化などについて検討した。一連の切りかえの過程にて起こることが懸念された好ましくない現象,即ち抗コリン性の離脱症状や精神症状の悪化等は起こらなかった。切りかえにより顕著であったのが,chlorpromazine換算にて総投与量の大幅な減少が得られた点である。これらの結果からperospironeへの切りかえがスムーズに行えたのは,その強力な5―HT2A受容体遮断作用に加え,5―HT1A受容体への親和性により,一層の錐体外路症状の軽減とコンプライアンスが良好であった点があげられる。
Key words: perospirone, switch, resistant schizophrenia, 5―HT1A receptor

●難治性陽性症状にperospironeが奏効した1例
上田均
45歳男性の統合失調症患者で,約10年間にわたり被害的内容の幻聴・自我意識障害などの陽性症状,従来型抗精神病薬の大量・多剤併用による慢性便秘・頻発する麻痺性イレウスが持続しrisperidone,quetiapine,olanzapineのそれぞれ単剤治療が無効であったがperospironeへの切り替えを行ったところ,難治性陽性症状・抗コリン性副作用が短期間で劇的に改善した症例を経験した。Perospironeに特有の何らかの作用機序(セロトニン1A受容体刺激作用,セロトニン2/ドパミン受容体親和性のバランス)が精神症状改善に寄与した可能性が高いと考えられた。新規抗精神病薬は構造式が類似していても,さまざまな神経受容体に対する作用やドパミン受容体と他の受容体に対する占有バランスが異なっているため,本症例のような難治症例に対して新規抗精神病薬を順次単剤で試みる価値は大いにあると考えられた。
Key words: schizophrenia, treatment―resistant positive symptoms, first―generation antipsychotics, second―generation antipsychotics, perospirone

■Olanzapine

■原著論文
●外来精神分裂病患者に対するolanzapineの効果 ―― 一般診療における使用経験――
高木隆郎 浜垣誠司
精神科診療所における一般診療の中で,53例の精神分裂病通院患者を対象として,olanzapineの有効性および安全性を検討した。24週を目安にolanzapineを投与して経過を観察したところ,最終全般改善度による改善率(中等度改善以上)は,45.3%であった。Brief Psychiatric Rating Scale (BPRS)による評価では,その総得点,陰性症状成分,陽性症状成分,認知症状成分,抑うつ成分に有意な改善があり,破瓜型,陰性症状主体例や前薬の無効例においても,効果が認められた。副作用としては,経過中1例に2型糖尿病が発見され,血糖値モニターの重要性が実感された。また,投与中には有意な体重増加が見られたが,投与前の肥満度と体重増加量との間には,相関は認められなかった。これら以外の副作用は,おおむね軽度であった。Olanzapineは,精神分裂病の幅広い症例や症候に対して有効性があり,血糖や体重に注意しつつ使用するならば,臨床的に非常に有意義な薬剤であると考えられた。
Key words: olanzapine, schizophrenia, efficacy, BPRS, diabetes mellitus

●精神分裂病患者におけるrisperidoneからolanzapineへの切り替え ――Quality of lifeの向上を目指して――
伊藤雅之 丹羽真一 松本出
Risperidoneが主剤として用いられている精神分裂病患者で,@精神症状の安定化が不十分なためrisperidone以外の抗精神病薬を併用している,A錐体外路症状が出現するため抗パーキンソン剤を併用している,Brisperidone単剤投与にて陽性症状の改善が見られたが,感情的引きこもり・自閉などの陰性症状には効果が不十分な患者13症例に対し,risperidoneからolanzapineへの切り替えを試みた。精神症状の評価ついては,BPRS,SANSを用い,錐体外路症状の評価についてDIEPSSを用いて,olanzapine使用前と切り替え終了2週後および3ヵ月後について比較した。その結果,olanzapine使用後にBPRS,SANSの有意な改善を認め,DIEPSS得点の悪化は認めなかった。また,向精神薬,抗パーキンソン剤および睡眠剤の薬剤数の有意な低下を認めた。BMIおよび体重については,olanzapine使用前後で有意差は認められなかった。精神症状と副作用の評価を今後も続けていく必要があるが,risperidoneでコントロールが十分でない精神分裂病患者において,olanzapineへの切り替えによって改善が期待できる症例があると考えられる。
Key words: olanzapine, risperidone, switching, monotherapy, weight gain

■症例報告
●入院直後からolanzapine単剤治療により急速に好転した1症例
増山浩一 丸香奈恵 植村富彦 新井久稔
Yクリニックに通院中であったがアクシデントにより当院外来を受診し,精神分裂病と診断され入院後,従来型定型薬を全く使わずolanzapineをfirst choiceに投薬され急速に(約2ヶ月半)好転し,更に2ヶ月後に寛解期前期にあると考えられデイケアに移行させ順調に経過し,7ヶ月後に退院しデイケア通所を続けている1症例を呈示した。
Key words: schizophrenia, olanzapine, first choice

●向精神薬多剤投与からolanzapine単剤投与に切り替えて軽快した精神分裂病の1例
山口成良  桃井文夫
約9年前に,引きこもり,妄想気分,被害妄想などで発病した男性分裂病患者で,東京で外来通院医療を受けたことがあるが中断し,関係・被害妄想が顕著となって5年前に入院した。1年後の退院時には8種類の向精神薬を服用していたが,2001年6月olanzapineを追加して從来の向精神薬を漸減し,現在olanzapineと2種類の睡眠薬を投与するのみとなり,精神症状は改善し,精神科デイ・ナイト・ケアの通院と服薬を規則正しく行っている。多剤低量の向精神薬を服用している外来患者で,olanzapine単剤療法に切り替えることは,患者のQOLを高める上からいっても,試みるべき方法と思われる。
Key words: olanzapine, schizophrenia, polypharmacy, monotherapy, switching

●激しい幻覚妄想および精神運動興奮状態を呈した精神分裂病患者にolanzapineへのスイッチングが奏効した1症例
尾内隆志 熊倉徹雄 中込和幸
激しい幻覚妄想および精神運動興奮状態を示した精神分裂病患者1症例の薬物治療の経過を提示した。当初は定型抗精神病薬を使用し,精神症状の改善を図っていた。薬物療法の開始に伴い,精神症状の改善を認めてはいたが,副作用として次第に錐体外路症状が顕著となってきたためにolanzapineへのスイッチングを試みた。症状の再燃や副作用の発現に細心の注意を払いつつ他剤を漸減し,現在olanzapine 15mgの単剤で1日1回夕食後の投与となっている。漸減の経過中を含め,現在に至るまで精神症状の再燃を認めず,また錐体外路症状も著明に改善している。
Key words: atypical antipsychotic drugs, olanzapine, switching, side effects, extrapyramidal symptoms

●Olanzapine投与により急激に退院要求が強まった精神分裂病の1例
紺野雅人 佐々木信幸 佐々木竜二 七戸真 池田官司 齋藤利和
最近,risperidone投与中に,「いそぎ(症状改善後に急激に社会復帰要求が強まる状態)」が生じることが報告された。現在のところrisperidone以外の非定型抗精神病薬による「いそぎ」の報告はないが,今回olanzapine投与中に「いそぎ」症状を呈した症例を経験したので報告する。症例は66歳女性の妄想型分裂病。27歳ごろ幻覚妄想で発症したが,以来40年近く未治療であった。66歳で精神科初回入院し,risperidone,quetiapineで効果がなかったが,主剤をolanzapine 20mgに変更したところ急速に陰性症状が改善すると同時に退院要求が強まった。これに対しhaloperidolの追加投与,およびolanzapineの減量で対応したところ症状は速やかに消失し,olanzapineを中止することなく治療継続できた。「いそぎ」は,risperidone以外の非定型抗精神病薬でも出現する可能性があり,その投与には注意を要する。
Key words: olanzapine, haloperidol, schizophrenia,“hurry”symptoms, awakening

●定型抗精神病薬からolanzapineへの切り替えにより,精神分裂病患者の認知機能ならびに社会生活適応度は改善するか?
柴田勲 丹羽真一
精神分裂病の薬物療法が定型から非定型抗精神病薬に変わりつつある近年では,脱施設化の流れとあいまって,患者の社会適応度の改善効果への関心が深まりつつあり,その認知機能改善効果との関連性が注目されている。そこで今回,19名の分裂病患者に対し定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬であるolanzapineに切り替える前と,切り替えた3ヵ月後のWCST,LASMIのスコアを比較したところolanzapineでの有意な改善度が見られた。これまでの研究報告を考慮すると,今回の結果は定型抗精神病薬からolanzapineへの切り替えによりもたらされたWCSTに見られる認知機能の改善がLASMIでの社会生活適応度を改善したものと考えられた。さらに,薬物切り替えによるPANSSの成績の有意な改善もみられたが,BMIと血糖値には有意な変化は見られなかった。
Key words: typical antipsychotic drugs, olanzapine, WCST, LASMI, PANSS

●強迫性障害に対するolanzapineの使用経験
佐々木幸哉 井上猛 傳田健三 小山司
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による治療で十分な反応が得られなかった強迫性障害(OCD)の5症例(男女比:3:2,平均年齢:24.4歳,平均罹病期間:5.4年)に対して,新規の抗精神病薬であるolanzapineによる増強療法を試みた。  Paroxetine 60mg/dayによる維持療法が行われていた5症例に対して,olanzapine 2.5〜10mg/dayの併用を1〜14週間行いolanzapine併用前後の強迫症状を自己記入式Yale―Brown Obsessive―Compulsive Scaleを用いて評価した。4週間以上のolanzapine服用が可能であった3症例中2症例でolanzapine開始前に比べて強迫症状の改善が認められた。薬原性の錐体外路症状の出現は皆無または軽微であったが,過鎮静,食欲亢進,体重増加といった有害事象のために全例でolanzapineの服用は中止された。SSRIによる治療に抵抗性のOCD症例に対してolanzapineを用いた増強療法は有効はあるかもしれないが,有害事象,特に体重増加への対策の確立が急務であると思われた。
Key words: fluvoxamine, paroxetine, olanzapine, obsessive―compulsive disorder, augmentation therapy

●神経性食欲不振症へのolanzapine治療経験
森孝宏
抗精神病薬olanzapineには体重増加作用や糖尿病発症の副作用が見られる点で極めて興味深い薬物である。神経性食欲不振症への薬物療法として期待される薬物でもある。体重増加作用は5HT2c受容体またはH1受容体を介した作用とされている。そこで過去に認知行動療法による入院治療歴のある病歴3年以上の慢性制限型神経性食欲不振症2症例に対して,精神分析的心理療法継続中の外来治療に併行してolanzapineを投与した。体重平均値でBMI1.5程度の増加がみられたが,体重増加後は服薬遵守が困難な傾向があった。体重増加作用だけではなく興奮性や治療抵抗性を改善する印象も得ている。長期入院治療が保険制度の変化の中で困難になっており,外来治療を中心としなければならない医療変革の中で,olanzapine治療は医療経済的にも外来治療において意味があると思われる。治療抵抗性神経性食欲不振症では試みてよい薬物療法であろう。
Key words: olanzapine, anorexia nervosa, restrictor, outpatient

●神経性無食欲症治療におけるolanzapine――5症例の検討――
高宮静男 山本欣哉 佐藤倫明 奥野昌宏 針谷秀和 高林千尋
5名の長期の罹病期間(5〜14年)を有する神経性無食欲症患者にolanzapineを2.5〜15mg投与した。体重,食行動,認知・情緒面に対する影響,副作用について調べた。服薬2ヵ月後の結果では,認知・情動面が改善し,体重増加に結びついた著効例は1例であった。2例は認知・情動面が若干改善し,体重増加を示し有効であった。副作用は1例に生じた。オープンスタディーによるものでありデータの解釈は慎重に行わなければならないが,長期にわたって苦しむ神経性無食欲症患者においては,olanzapineは試みる価値がある薬剤と思われる。
Key words: olanzapine, anorexia nervosa, side effect, eating behavior