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■特集 抗てんかん薬と精神科臨床
●新しい抗てんかん薬と伝統的抗てんかん薬
兼本 浩祐
 抗てんかん薬を,phenytoin・phenobarbitalを中心とした第一世代,carbamazepineとvalproateを中心とした第二世代,gabapentin,topiramate,lamotrigine,levetiracetamの4つの新薬が導入された第三世代の3つに分けて概観した。本邦において精神科医がてんかん治療の中心を担ってきた20世紀前半はcarbamazepineとphenytoinの単剤高用量療法に最も特徴があり,これが今世紀になって合理的多剤併用療法へとパラダイム・シフトを起こしたことを論じた。エビデンスなしには治療は指針を失うが,エビデンスは常に資本の投入と不可分の関係にあることを念頭に置くべきであることを強調した。
Key words:antiepileptic drugs, monotherapy, rational combined therapy, phenytoin, phenobarbital

●Lamotrigine
西田 拓司
 Lamotrigine(LTG)はてんかんの部分発作,全般発作に有効性を示す広い治療スペクトラムをもつ抗てんかん薬であり,比較的忍容性の高い薬剤である。認知機能への影響や催奇形性が少なく,妊娠可能年齢の女性を中心に使用される機会が増えている。また,気分安定薬としても双極性障害のうつ病エピソードの治療薬,および躁病エピソード,うつ病エピソードの再発予防薬として使用され,てんかんに伴う気分障害に対しても有効であるとの報告がみられる。一方,稀ではあるが重症薬疹のリスクがあり,特に小児,valproate(VPA)の併用,高用量の初期投与,急速な増量がリスク因子とされている。LTGはVPAの併用時に血中濃度が約2倍,肝代謝酵素を誘導する抗てんかん薬の併用時に血中濃度が2分の1になるなど,特異な薬物相互作用を示す。LTGはてんかん,双極性障害に対して優れた効果をもつ薬物であるが,使用するにあたってその薬物プロフィールを熟知し,注意深く管理する必要がある。
Key words:lamotrigine, antiepileptic drug, mood stabilizer, epilepsy, bipolar disorder

●Levetiracetam
辻富 基美
 Levetiracetamは精神科臨床で診察する機会が多い焦点性てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)への単剤および併用療法に適応がある。薬理作用・薬物動態では,神経終末のシナプス小胞蛋白2Aとの結合による効果など既存の抗てんかん薬にはない薬理作用が想定され,必要があれば急速飽和が可能で,他剤との薬物相互作用がないといった特徴をもつ。臨床効果では既存の抗てんかん薬に劣らない発作抑制効果と健康関連QOLへの改善効果が期待される。副作用では眠気などの軽症の症状が高頻度でみられるものの,重篤な副作用がほぼみられない。ただし,有害事象として易刺激性などの精神症状があり精神障害の病歴がある等リスクがある場合には,少量からの使用を開始するなど注意深い投与が求められる。妊娠可能女性・妊婦への使用には,催奇形性などの有害事象の頻度は高くなく,神経発達にも影響は少ないと報告されている。
Key words:levetiracetam, partial seizures, adverse effects, behavioral effects, fetal safety

●Topiramate
大島 智弘  田所ゆかり  兼本 浩祐
 Topiramateの有効性,使用方法,副作用等について概説した。部分発作に対する抗てんかん薬との併用療法という適応にて使用されているtopiramateであるが,広いスペクトラムを有するため,鑑別診断の困難な症例に対しても使用しやすい薬剤と考えられる。また,本邦において現時点では保険適応外であるが,てんかん以外の精神科疾患および片頭痛における有効性についての報告も紹介した。副作用としては傾眠をはじめとする中枢神経系副作用が最も高頻度であるが,緩徐な漸増により忍容性が高まる可能性があること,その他の副作用としては体重減少,腎結石,発汗減少等が挙げられるが,重症薬疹は稀であることを記載した。
Key words:topiramate, epilepsy, slow titration

●Gabapentinからみえてくる抗てんかん薬の適応拡大・オフラベル使用
谷口 豪
 抗てんかん薬はてんかん以外の様々な精神・神経疾患に対して用いられることが少なくない。その中でも特にgabapentin(GBP)はてんかんに対してよりもむしろ,レストレスレッグス症候群,神経障害性疼痛など非てんかん性疾患で使用されることが多い。GBPの抗てんかん作用は弱いものの,他剤との相互作用がなく安全性が高い,優れた鎮痛作用を有するという特徴のため,多くの非てんかん性疾患へのオフラベル使用に支えられて,売り上げの面では他の抗てんかん薬を圧倒するブロックバスターとなった。GBPの商業的な成功は抗てんかん薬の開発にも影響を与えている。すなわち,非てんかん性疾患,特に双極性障害や神経障害性疼痛にも効果が期待される抗てんかん薬を比較的容易なてんかんの動物モデル・臨床試験によってまずは上市し,その後適応拡大を図るというのが製薬会社の戦略と考えられ,今後も精神科医は抗てんかん薬のオフラベルの使用を検討する場面に遭遇する可能性は高い。
Key words:gabapentin, anticonvulsant, adjuvant analgesic, off-label drug, blockbuster drug

●新規抗てんかん薬pregabalin
西原 真理
 Pregabalinは抗てんかん薬に分類されるものの日本ではてんかんに適応はない。しかし神経障害性疼痛や線維筋痛症に用いられており,精神科以外の色々な場面で処方される機会が爆発的に増えている。Pregabalinは電位依存性カルシウムチャネルのうちα2δ─1サブユニットに結合することによって神経伝達物質の遊離を抑制する。しかし,pregabalinの幅広い薬理作用を説明するには中枢神経におけるα2δ─1サブユニットの分布にも注目する必要がある。本稿ではpregabalinの鎮痛,抗不安効果の薬理作用や体内動態についてまとめ,臨床的に用いられている適応疾患の神経障害性疼痛,線維筋痛症に対する臨床効果を述べた。さらに適応外疾患ではあるが,部分てんかん,全般性不安障害,睡眠障害への作用,またpregabalinの問題となり得る副作用と使用上の注意点についても概説した。
Key words:pregabalin, voltage-gated calcium channels, adjustment analgesics, neuropathic pain, fibromyalgia

●新しい静注製剤(fosphenytoin・phenobarbital)
井林 賢志  川合 謙介
 近年,本邦で2つの静注用抗てんかん薬,phenytoinプロドラッグのfosphenytoin(ホストイン®)ならびにphenobarbital(ノーベルバール®)が承認・販売された。ともにてんかん重積の治療に有用であり,fosphenytoinは従来薬のphenytoinと比べ副作用・有害事象が軽減されているため,今後使用頻度が増加してくると考えられる。てんかん治療における2剤の特徴,また実際の投与法・用量ならびに精神科薬併用時の相互作用,注意すべき有害事象等について述べる。
Key words:antiepileptic drugs, intravenous administration, fosphenytoin, phenobarbital

●Carbamazepine
伊藤ますみ
 Carbamazepine(CBZ)は1960年代より今日まで部分てんかんの第一選択薬として用いられ,部分発作ならびに二次性全般化発作に有効性を持つ。また,抗躁作用があり,気分安定薬として双極性障害に適応がある。向精神作用を有するため精神症状を伴うてんかん患者にも使いやすい。投与開始は少量より始め,副作用や経過をみながら漸増し,血中濃度を参考にしながら用量調整する。特に,投与初期の重症薬疹(Stevens─Johnson症候群など)に留意する。アレルギーや不耐性による副作用がなければ,長期間安全に使用可能であるが,近年,聴覚変化や認知機能低下など高次脳機能に関連する影響が指摘されており,今後の研究が待たれる。CYPを介した他薬剤との相互作用があるため,高齢者など併用薬が多い場合には注意を要する。本剤の気分安定作用のメカニズムの解明が気分障害の病態理解につながることが期待される。
Key words:carbamazepine, epilepsy, partial seizure, bipolar disorder, mood stabilizer

●バルプロ酸ナトリウム
立澤 賢孝
 バルプロ酸ナトリウム(VPA)は単純な構造で多様な効果を発揮するユニークな薬剤であり,各種てんかん,双極性障害,片頭痛などに幅広く用いられている。VPAは安価で汎用性,即効性,認容性に優れるが,一部の患者には胎児毒性,肝毒性,ミトコンドリア毒性,膵毒性による不可逆的な有害事象をもたらす。VPAはグルクロン酸抱合,ミトコンドリアβ酸化,小胞体ω酸化の3つの肝代謝経路で処理されるが,大量服薬時,長期高用量服用中,カルニチン欠乏下では毒性が高まりやすい。VPAに関する最近の報告では,ニューロペプチドYと定型欠神発作抑制効果の関連性,高アンモニア脳症とカルニチン欠乏の関連性,エピジェネティック修飾と催奇形性の関連性を示唆する所見などが集積されてきている。VPAを安全に使いこなすには,投与前のリスク評価(適応,禁忌,推奨レベル)と投与後のリスク管理(血中濃度モニタリング,有害事象のスクリーニング)を徹底する必要がある。
Key words:valproate, practice guideline, carnitine, NPY, epigenetics

●Clobazam
川崎 淳
 Clobazam(CLB)は部分発作,全般発作の併用療法としての適応を有するベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬である。成人の難治部分てんかんやレンノックス・ガストー症候群に対し高い有効性が報告されている。主な副作用は眠気とふらつきであるが比較的軽い。発疹の頻度は低く,精神病症状はほとんど起こさない。耐性出現は初期に見られるが,投与開始から6ヵ月以降の出現は少ない。効果・副作用ともCLB自体より,活性代謝物のN-desmethylclobazam(NCLB)の役割が重要である。NCLBはCYP2C19により不活化されるが,これには酵素活性のない遺伝子多型があり,CLB少量投与でNCLBの濃度が十分に上昇する。日本人ではこの遺伝子多型を持つ者の割合が比較的高いため,少量から投与を開始しNCLBの濃度を確認する方がよい。CLBは新しい抗てんかん薬と比較して,有効性において遜色なく,安全性はむしろ優れており,経済性は明らかにまさっている。精神科医にとっても重要な抗てんかん薬の1つである。
Key words:clobazam, CYP2C19, refractory epilepsy, N-desmethylclobazam, tolerance

●Phenytoin
加藤 昌明
 Phenytoinは強力な抗てんかん作用を持ち,現在でも重要な役割を持つ抗てんかん薬である。精神科臨床での使用の際に,理解と注意が必要な点をまとめた。1)肝臓の代謝能力に限界があるため用量─血中濃度の関係が非線形で,おおよそ15μg/ml以上では血中濃度が急激に上昇する。2)多種の薬物相互作用を生じうる。3)薬疹の頻度が多い。4)長期使用時に歯肉腫脹などの副作用が生じうる。5)Phenytoin中毒(高血中濃度)の主な症状は,小脳性運動失調・不随意運動・精神症状であり,これらは心因性の症状と誤診される危険がある。このうち運動失調は,ただちに対処しないと永続的な後遺症を生じかねない。これらの症状が出現したら血中濃度をすぐに測定し,高値が判明次第,即時減量する。6)Phenytoin中毒を防ぐために,血中濃度がおおよそ15μg/ml以上の場合,増量は微量ずつ時間をかけ,血中濃度を定期的に測定する。
Key words:phenytoin, intoxication, cerebellar ataxia, skin rash, therapeutic drug monitoring

●Phenobarbital
原 恵子
 Phenobarbitalはもっとも古くからある抗てんかん薬の一つであり,睡眠薬としても適応がある。抗てんかん薬としてはGABA受容体,グルタミン酸受容体,Na+チャネル,Ca2+チャネル等に作用し効果を発揮する。非経口投与・経口投与ともに可能である,用量調節がしやすい,1日1回の投与でよい,比較的安価であるといった利点がある一方で,耐性や依存性,認知機能への影響や,呼吸抑制作用・循環抑制作用,連用中の急激な中止による離脱症状としてのけいれん重積なども知られており,使用には十分な注意が必要である。現在では抗てんかん薬としても睡眠薬としても第一選択薬として選ばれることはほとんどないが,特に2014年に発売された静注製剤はけいれん重積治療の新たな重要な選択肢となっている。薬剤の特徴を十分理解し,適切に治療に役立てることが望まれる。
Key words:first-generation anti-epileptic drug, aromatic AED, withdrawal, status epileptics, tolerance

●Ethosuximide
小国 弘量
 Ethosuximide(ESM)はsuccinimide誘導体であり,主な代謝過程は肝臓での水酸化と代謝産物のグルクロン酸抱合である。薬剤の吸収は100%近くと良好で血漿蛋白と結合することがない。他剤との相互作用は稀である。半減期(T1/2)は小児で30〜40時間,成人で40〜60時間であり,定常状態に達する時間は小児で6〜7日,成人で12日とされている。現在でも欠神発作の第一選択薬であるが,抗てんかん薬としての有効スペクトラムは狭く全般性強直間代発作や焦点性発作には無効である。最近,てんかん性陰性ミオクローヌスにも特異的に有効とされる。作用機序として視床神経細胞に存在する低閾値T型Ca2+チャネルを抑制することが重要と考えられている。有効血漿中濃度は40〜100(〜最大150)μg/mlとされている。副作用としては胃腸障害が最も多く,次いで眠気や不眠,頭痛,めまいなどであるが,その多くは減量により消失する。
Key words:ethosuximide, absence seizures, pharmacokinetics, low-threshhold T-type Ca2+channel

●Zonisamide
櫻井高太郎
 Zonisamideは日本で開発された抗てんかん薬であるが,精神症状の副作用が生じやすいという理由から敬遠されることも多かった。しかし,欧米では新規抗てんかん薬に分類され,その発作抑制効果を高く評価されている。近年の精神症状および認知機能障害の副作用に関する大規模研究を検証すると,たしかにzonisamideは精神症状や認知機能障害を起こしやすい傾向があるが,精神症状,なかでも精神病症状の出現率は従来日本で報告,もしくは考えられていたほど高くはない。Zonisamideは確実な発作抑制効果を持つため,主剤で発作コントロール困難,かつ精神症状の既往がない患者に対して,一度は試す価値がある抗てんかん薬である。
Key words:zonisamide, antiepileptic drug, psychiatric side effects, cognitive side effects, epilepsy

●Clonazepam,diazepam,nitrazepam
原 広一郎
 Clonazepam,diazepam,nitrazepamは,1960年代に合成,開発された一連のベンゾジアゼピン系誘導体である。Clonazepamは,抗てんかん薬として主にミオクロニー発作などの全般発作,あるいは部分発作で第一選択薬に反応しない場合に使用される。睡眠時随伴症やアカシジアなど様々な精神・神経疾患への有効性も報告されている。Diazepamは注射剤,坐剤がてんかん重積状態の治療や繰り返す発作の予防投与に繁用されるが,経口薬がてんかん治療に用いられることは多くない。Nitrazepamは抗てんかん薬として薬剤抵抗性のWest症候群などに使用されることがある。傾眠,流涎,嚥下機能低下などの副作用や,長い半減期に注意が必要である。いずれの薬剤も長期連用による耐性や依存の形成リスクがあるため,継続投与だけでなく,発作に対する頓用に関しても有効性の吟味が不可欠となる。
Key words:antiepileptic drug, benzodiazepine, efficacy, side effect

■研究報告
●持続性複雑死別障害(DSM-5での提案カテゴリー)とはなにか─事例提示と,本カテゴリーの検討─
清水加奈子  菊地千一郎  加藤 敏
 DSM-5において,今後検討すべき死別関連の臨床単位として持続性複雑死別障害が提案された。これは,故人への思慕を中核とする症状が12ヵ月以上にわたり持続する独自の疾患で,うつ病や心的外傷後ストレス障害に似て非なるものである。親しい人との死別は誰もが体験し,この出来事に特有の様々な精神的影響を及ぼすだけに,この新たな疾患概念は,臨床的に有用性が高いと考える。病態の根底に死別の悲嘆が認められ,今後この疾患概念を検討する上で示唆的な症例を2例提示する。いずれも配偶者を亡くした高齢女性で,長期にわたり悲嘆が遷延し,入院に至った症例である。それらから,この概念は,抑うつ中心の症状が持続する神経症水準のみならず,精神病水準に至るものも含有しうると考えた。持続性複雑死別障害について,その病態や診断,治療のあり方について紹介を加えながら,われわれの経験した症例と照らし合わせ,日本の置かれた社会環境も踏まえ検討した。
Key words:bereavement, persistent complex bereavement disorder, depression, grief

■臨床経験
●Lamotrigineにより薬剤性過敏症症候群を呈した統合失調感情障害の1例
安達 融  切目 栄司  廣瀬 智之  佐藤 雅子  大磯 直毅  川田 暁  辻井 農亜  白川 治
 薬剤性過敏症症候群(DIHS)は抗てんかん薬など特定の薬剤により発症する,全身症状と臓器障害を伴う重症薬疹の一型である。今回我々は統合失調感情障害の治療中,lamotrigineによりDIHSを呈した1例を経験したので報告する。患者は遅発性の発症と原因薬剤中止後の遷延化,免疫グロブリン減少などのDIHSとして特徴的な所見を認め,ウイルス学的検査ではヒトヘルペスウイルス6型の再活性化も確認された。Lamotrigineによる重症薬疹としては,Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症がよく知られているが,DIHSも主要な病型の1つとして精神科領域でのより幅広い認知が必要と考えられた。
Key words:drug-induced hypersensitivity syndrome, lamotrigine, Stevens-Johnson syndrome, toxic epidermal necrolysis, human herpesvirus 6

●統合失調症患者のフラッシュバックに桂枝加芍薬湯と四物湯が有効であった一例
棟近 孝之  鈴木 太
 最近筆者は統合失調症患者のフラッシュバックに対して桂枝加芍薬湯と四物湯が著効した症例を経験した。これまでに,統合失調症患者におけるフラッシュバックに対して抗精神病薬は反応性が乏しいことが報告されている。フラッシュバックに対して抗精神病薬,抗不安薬が無効であった症例において薬理学的作用の異なる漢方薬を使用し,その結果,フラッシュバックは軽減し,陰性症状も改善するなど,本人・家族から高い満足度が得られた。本症例の検討から,桂枝加芍薬湯と四物湯は統合失調症患者のフラッシュバックに対して考慮すべき治療選択肢と考えられた。
Key words:schizophrenia, flashback, kampo, Keishikashakuyakuto and Shimotsuto

●幻視を伴った統合失調症と脳梁欠損の併発症例
石川 勇仁  石川 博康  筒井 幸  阿部 文恵  大森 祐貴  神林 崇  穂積 慧  清水 徹男
 Lewisらが1988年に統合失調症を伴った脳梁欠損症(agenesis of the corpus callosum : ACC)の症例を報告して以降,精神病症状を伴うACCの症状が蓄積されてきた。これらの報告は幻聴と妄想が精神病症状の中心で,幻視を伴うものはきわめて稀である。今回,我々は幻視と幻聴の双方を伴った統合失調症の症例において,器質的な病因を検討する中でACCを見出した事例を経験した。症例は26歳の女性。統合失調症の診断を受けた約1年後,視野の右上方に人の顔が見えるとの幻視が加わり,当院へ精査加療目的に紹介された。頭部MRIは脳梁の体部の後半から膨大部にかけての欠損と,残存部分の形成不全を示し,ACCの診断に至った。本例の幻視は,鮮明な顔の幻視で病識が十分にある点から視覚性エイドリーに類似し,統合失調症の典型的な幻視と異なっていた。ACCという脳全体に及ぶ神経ネットワークの脆弱さが,統合失調症としては非典型的な幻視を生じる神経学的基盤となったものと推察した。
Key words:agenesis of the corpus callosum, mental retardation, schizophrenia, visual hallucinations


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