詳細目次ページに戻る
■特集 頸椎症性神経障害

●頸椎,頸髄の微小外科解剖
久保和親 水野正喜 上甲眞宏
 頸椎症,頸椎椎間板ヘルニアの診断,治療に必要な微小外科解剖について記載した。実際にはヒト屍体78体を用いて,脊髄を切り出すことなく周囲の脊椎骨を残したままで,実際の手術野と同等の視野から手術用顕微鏡下に観察したものである。硬膜外構造物としては後縦靭帯の微細構造,前内椎骨静脈叢の位置関係,硬膜内構造物ではAnterior Root Exit Zone(AREZ),神経根の走行,AREZと椎体,椎間板との関係,前脊髄動脈幹と前根髄動脈について解説した。その結果,たとえ正中部の病変であっても,頸髄前面ではAREZが正中部から約2mmしか離れていないため,7〜10mmの範囲内では頸髄と共にAREZから分岐した直後の前根糸が圧迫を受け,椎間孔と関連しない部位でも根症状を生ずる可能性があるものと考えられた。さらに頸髄から分岐した神経根糸が脊柱管内を下降してから椎間孔へと進入するまでの間にも圧迫を受ける可能性があり,下位頸髄では脊柱管内で頭尾側方向に5〜24mmの間で同じ根症状が出現し得るという結果であった。
key words: anterior root exit zone, cervical spinal cord, cervical spine, microsurgical anatomy

●変形性頸椎症の神経症候
安藤哲朗 安井敬三
 頸椎症は無症候であることも多いが,神経障害が起こった場合には多彩な症候を呈する。症候は解剖学的に,神経根症,髄節症候,索路症候の3つに分類できる。神経根症は神経根痛が特徴的で,頸椎の後屈などによってしびれや痛みが誘発されることが多い。脊髄障害においては,中心部が最初に障害されることが多いので,髄節症候として上肢の運動感覚障害が最初に出現することが多い。障害が進行すると,体幹下肢に索路症候が出現する。また頸椎の障害高位別の上肢症候を理解することが,診断上重要である。
key words: cervical spondylosis, spinal cord, myelopathy, symptomatology, diagnosis

●頸椎症の電気生理学的診断
園生雅弘
 頸椎症の診断において,MRIなどの画像診断が広く用いられているが,これらは健常者でも異常を呈することがあり,機能診断を与える電気生理学的検査法は大きな意義を有する。その目的の第一は他疾患との鑑別診断にある。封入体筋炎,絞扼圧迫性ニューロパチー・多巣性運動感覚性脱髄性ニューロパチーなどのニューロパチー,胸郭出口症候群などの腕神経叢障害,筋萎縮性側索硬化症,脳梗塞などの中枢性疾患が主な鑑別対象となる。神経伝導検査,特に感覚神経活動電位の異常の有無,体性感覚誘発電位,針筋電図(動員パターンを含む)などが,これらの鑑別に役立つ。頸椎症はradiculopathyとmyelopathyに分けられるが,欧米での電気診断学はほとんどradiculopathyについて構築されており,日本に多いmyelopathyの電気診断学は十分確立されていない。また,頸椎症性筋萎縮症の責任病巣が前根か前角か,さらには神経痛性筋萎縮症との鑑別診断にも検討の余地が残る。
key words: cervical spondylosis, radiculopathy, myelopathy, cervical spondylotic amyotrophy, electrodiagnosis

●頸椎症の画像診断
宮坂和男
 CT・MRIで観察される頸椎症の所見は,脊柱整列の異常,骨棘,椎間腔狭小化,椎間板突出,椎間関節肥厚,黄色靭帯のたわみ込み・肥厚,神経根の圧迫,脊髄の変形である。頸椎症に関連する所見として,developmental narrow canal,OPLL,頸椎動態変化,硬膜外静脈の鬱滞・拡張,髄内変性変化がある。診断のピットフォールは非症候性椎間板病変の頻度が高いことである。責任病巣の特定に注意を払う必要がある。また,造影MRIにおいて,変性椎間板付近の終板,線維輪亀裂,脱出髄核の辺縁,鬱滞・拡張した硬膜外静脈,髄内変性等が増強される。
key words: cervical spine, cervical spondylosis, magnetic resonance imaging, computed tomography

●頸椎症の臨床病理
亀山隆 橋詰良夫
 頸椎症性脊髄症の病態発現には,脊髄の静的機械的圧迫や頸椎運動に伴う動的圧迫因子と,これらに伴う脊髄内の微小循環障害因子が関与するとされるが,詳細は解明されていない。この結果生じる脊髄の病理変化の分布は特徴的で,まず灰白質の前角および中間質の扁平化と細胞脱落に始まり,ついで病変は後角や後索の腹外側部や側索におよぶ。病変が高度で横断性壊死を呈する例でも,前索は比較的保たれる。脊髄内の両側の中間質から後角および後索の腹外側部にはcystic cavityがしばしば形成される。脊髄病変内には肥厚硝子化した血管(特に静脈)が目立ち,脊髄外血管にも静脈うっ血が認められる。MRI画像上の髄内病変の病理学的背景や,脊髄の横断面形態や横断面積と病理変化との密接な関係を理解することにより,画像所見からの病態把握や予後の推測が可能になり,臨床上きわめて有用である。
key words: cervical spondylosis, myelopathy, pathology, spinal cord

●頸椎症の保存的治療
高橋宏
 頸椎症における保存的治療法について文献に基づき概説した。薬物,頸椎装具,牽引などが保存的治療の中心となる。神経症状の面からみると,局所症状のみの例や神経根症例では保存的治療がまず第一選択となる。脊髄症状が出現している際には,保存的治療による長期成績は必ずしも満足すべきものではない。保存的治療を選択した際にも,常に手術的治療が必要でないか配慮する必要がある。
key words: cervical spondylosis, conservative treatment, medication, cervical traction, cervical orthoses

●頸椎症の外科治療 前方到達法
前島貞裕 片山容一
 頸椎症・頸椎椎間板ヘルニア等の変性疾患に対する外科治療には前方ならびに後方からの2種類の到達法が存在する。現在,前方到達法は(1)脊髄の前方に主たる圧迫性病変が存在する症例,(2)椎体の不安定性が存在する症例,(3)強く動的因子が関与する症例に対して有効であると考えられている。一方,(1)多椎間病変を有する症例,(2)developmental canal stenosisを有する症例,(3)前後両方向からの圧迫性病変を有し,しかも後方からの圧迫が主病変である症例では,後方到達法が有利と考えられる。多椎間病変に前方到達法を施行すると,数年の経過で隣接椎間の変性が進行性に悪化してくることが知られてきており,手術法の選択に際しては,個々の症例に最も適した低侵襲なtailored surgeryをこころがけるべきである。
key words: cervical disc disese, cervical spondylosis, anterior approaches

●頸髄症に対するミニプレートを使用した片開き式椎弓拡大術
谷島健生
 片開き式椎弓拡大術は,頸髄症に対する後方除圧術として日本で開発され,広く普及している。しかし,ときに拡大した椎弓が元に戻り,脊髄の除圧が十分に達成されないことがある。われわれはこの欠点を解決するために,拡大した椎弓をミニプレートとスクリューで固定する方法を開発し,臨床応用を重ねてきた。頸髄症に対しミニプレートを使用した片開き式椎弓拡大術は,極めて安定した確実な術式であることが判明した。経過の長い進行した頸髄症は,手術による治療効果が得られないことが多いので,画像検査で脊髄の圧迫が強い場合は,症状が軽くても積極的に手術療法を考慮すべきである。頸髄症の治療でもっとも重要なことは,脊髄に不可逆的な変化が生じる前に,タイミングよく除圧術を実施することである。
key words: cervical spondylotic myelopathy, open-door laminoplasty, miniplate


本ホームページのすべてのコンテンツの引用・転載は、お断りいたします
Copyright(C)2008 Seiwa Shoten Co., Ltd. All rights reserved.