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■研究報告
●自殺再企図防止のための認知行動療法を含めた包括的アプローチ─思春期境界性パーソナリティ障害の1例をとおして─
加藤 晃司  三上 克央  松本 英夫
 今回筆者らは,自殺企図で当院救命救急センターに搬送された境界性パーソナリティ障害 (borderline personality disorder:BPD) の患者に対して退院後に外来治療を行い,1年半以上自殺再企図を防止している症例を経験した。この症例を通じて,思春期BPD例の自殺企図の特徴と再企図防止の治療的アプローチについて考察したところ,再企図防止のためには,合併する精神障害の治療,BPDに対する力動的精神療法と認知行動療法,それに加えて家族に対するアプローチを複合的に組み合わせることが有効であることが判明した。特に力動的精神療法と認知行動療法を併用した報告は認められないため考察を行った。また認知行動療法に関して,筆者らはLinehanの弁証法的認知行動療法の中の苦悩耐性スキルを改変し,希死念慮出現時の危機介入方法として利用した。
Key words:adolescent, suicide attempt, borderline personality disorder, suicidal predisposing factors, intervention

■臨床経験
●卵巣奇形腫摘出後に劇的に回復した緊張病
小林 聡幸
 緊張型統合失調症の診断は緊張病症候群の特徴的な症状を把握したうえで,器質性疾患を除外して行われる。背景にある器質性疾患の発見はさほど困難ではないのが通常だが,腫瘍に伴う辺縁系脳炎では,原発巣がはっきりしなかったり,脳炎の所見に乏しかったりする場合があり,診断に苦慮することがある。本稿でわれわれは卵巣奇形腫摘出後に劇的に回復した緊張病の1例を提示する。症例は21歳女性,多忙な時期に引き続いて,興奮と昏迷の交替,語唱などを伴う緊張病症候群を呈した。髄液,脳波,脳MRIなどで所見はなく,緊張型統合失調症と考えた。抗精神病薬の投与,抗不安薬の投与,電気けいれん療法を施行するも不応であったが,経過中に発見された卵巣未熟奇形腫を切除したあと劇的に改善した。抗NMDA受容体脳炎の概念が提示される以前の症例であり,抗NMDA受容体抗体は測定できていないが,同症の可能性が濃厚と思われる。
Key words:catatonia, ovarian teratoma, paraneoplastic limbic encephalitis, NMDA receptor

●過食とアルコール乱用を伴ったうつ病にmilnacipranが有効であった一症例
金田 圭司
 うつ病相に一致して過食傾向とアルコール乱用のみられるうつ病症例にSNRIの milnacipranを投与して著効を経験したので報告する。症例は32歳の男性で,うつ病が先行していたと思われ,意欲低下に続く過食とアルコール乱用により欠勤を繰り返していた。主症状の意欲低下,アルコール乱用による身体状態の悪化を考慮してmilnacipranを投与したところ,1日75mg~100mgの投与ですみやかに改善がみられた。途中服薬の中断により再燃がみられたが,再度の服薬により改善した。副作用は投与初期に動悸,顔の紅潮が発現したが投与継続中に消失した。MilnacipranにはNMDA受容体拮抗作用があり,アルコール乱用に対するすみやかな安定化効果に関係しているかもしれない。その期待は大きいが,今後も継続して経過を診ていくとともに,多くの症例による検討が望まれる。
Key words: milnacipran, alcohol abuse, depression

●統合失調症における飲水行動異常(水中毒)に対するolanzapineの臨床経験─持続的なドーパミンD1受容体阻害作用との関連─
新井 一郎  山崎 潤
 飲水行動異常や水中毒は,統合失調症の薬物治療においてしばしばみられることがあるが,有効な治療法は確立していない。飲水行動異常や水中毒の発生原因は今のところ不明であるが,ドーパミンD1受容体感受性亢進およびD1拮抗作用の日内変動が関与していることが示唆されている。今回筆者らは,多飲をみとめた統合失調症患者21例に対して,olanzapineによる治療を試み,飲水行動異常の改善/正常化を経験した。これらのことから,半減期の長さと強いD1拮抗作用を併せ持つ抗精神病薬を,統合失調症患者の多飲水や飲水行動異常の治療に利用できることが示唆された。
Key words:schizophrenia, water intoxication, abnormal drinking behavior, D1 receptor, olanzapine


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