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■特集 知っておきたい身体疾患への対応
●高脂血症への対応
米本 貴行
 動脈硬化の危険因子には高血圧,糖尿病,喫煙とならんで高脂血症がある。2007年に改訂された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では従来用いられてきた高脂血症は脂質異常である低HDL血症を含む表現として適切ではないことや諸外国の『dyslipidemia』の記載にならい『脂質異常症』に変更となった。日本人は肥満の影響を受けやすく,また食後高血糖と高TG血症はsmall dense LDLを増やすためLDLのサイズやTGの中間代謝産物であるレムナントがリスクの評価に重要と考えられるようになってきた。LDLの低下は冠動脈疾患や脳梗塞の予防に最も重要であるがTG低下やHDL上昇も管理目標となっている。脂質異常症の治療はまず生活習慣の是正が基本であるが,統合失調症の患者は引きこもりによる運動不足や向精神薬自体や口渇により清涼飲料水を多飲するなど肥満に陥りやすく,また禁煙や禁酒もできにくいのが特徴である。
Key words:dyslipidemia, small dense LDL, obesty, triglyceride, remnant

●高血圧への対応
前川 正人
 高血圧は日常診療において遭遇することが非常に多い疾患である。現在わが国の高血圧人口は4,000万人に達しているとも言われ,その数は今後さらに増加するものと推察されている。高血圧患者に対する適切な治療や管理については診療科を問わずすべての臨床医が理解しておく必要がある。高血圧治療に関しては次々と新しいエビデンスが報告されており,日本の高血圧治療ガイドラインも2009年1月に改訂され,今まで以上に厳格な降圧治療と総合的なリスク管理の重要性が強調された。本稿では,そのガイドラインに準じた高血圧治療の基本を解説するとともに,精神科領域における高血圧患者の問題点や向精神薬と降圧薬の相互作用についても触れる。特に,ストレス性高血圧や睡眠障害による夜間高血圧などは精神科領域との関わりも深く,それらの患者に対しては降圧薬治療のみならず患者の心理面や精神的背景を把握し,心身医学的にアプローチすることも重要となる。
Key words:hypertension, JSH2009, psychological factor

●感冒─本当に「感冒」でいいのか?─
伊吹 恵里  前川 正人  山口 力  泉  順子  濱野 浩一  山本真紀子
 「感冒」は「かぜ症候群」あるいは「急性上気道炎」とも表され,外来診療で最も頻度の高い疾患である。通常は約1週間以内に自然治癒傾向が認められる疾患であるがゆえに軽視されやすいが,「風邪は万病の元」の諺どおり,一見感冒様症状で始まっても,隠れている別の疾病が後になって判明することも往々にして経験される。また,たしかに当初は感冒で発症したのであっても,高齢者,糖尿病,慢性の循環器・呼吸器・肝・腎・膠原病患者あるいは抗癌剤や免疫抑制剤等で治療中の患者など免疫能が低下している病態や向精神薬投与中で誤嚥しやすい状態の患者においては,続発する肺炎などの合併症によって生命の危機にさらされる場合も少なくない。本稿では,感冒の症状,鑑別診断,合併症,治療上の注意点,予防および気をつけなければならないハイリスクグループの管理について論述する。
Key words:common cold like symptom, viral infection, antibacterial, immunosuppressive state, influenza

●花粉症への対応─薬物療法を中心に─
川内 秀之
 アレルギー性鼻炎や花粉症は,宿主であるヒトにとって,個体の生命維持を脅かす疾患ではないが,頑固な鼻症状の発現は生活の質を低下させる大きな要因となるだけでなく,上気道の感染性炎症性疾患の治癒の遷延化因子となりうる。近年,原因となるアレルゲンの量的質的変化,居住環境の変化,大気汚染などにより,スギ花粉症を含めた通年性アレルギー性鼻炎の発症の低年齢化,有病率の増加が報告されている。花粉症の中で国民病とまで呼ばれるようになったスギ花粉症は,花粉の飛散量の増加に伴い,成人例を中心として国民の10%以上の有病率となっており,その対策が急務となっている。本稿では,スギ花粉症を中心として,花粉症の病態,診断,治療について最近の情報を紹介する。
Key words:pollenosis, allergic rhinitis, second generation of antihistamine, immunotherapy, quality of life

●便秘への対応
野田 愛司
 便秘とは便塊が長く大腸内にとどまり,水分が吸収されて固くなり排便困難となる状態である。便秘は病態によって機能性,器質性および症候性(全身性疾患に伴う),起こり方によって急性と慢性に分けられる。慢性機能性便秘が多く,うち弛緩性便秘は高齢者や経産婦などのほかに種々の薬物の副作用によっても起こる。痙攣性便秘は過敏性腸症候群に,直腸性便秘は女性,排便抑制を強いられる職業従事者,下剤連用者などにみられる。機能性便秘では生活習慣の是正が基本になるが,薬物療法は便秘のタイプに即して行うことが肝要である。器質性便秘は主として腸管狭窄による便秘であるが,血便を伴ったり,腹痛・腹部膨満感・悪心・嘔吐などの消化器症状が強く,短期間に増悪する場合は大腸がん,腸管外腫瘍や炎症の波及を疑って専門医を受診させる。漫然と下剤を内服することは原疾患の発見を遅らせることになるので注意すべきである。
Key words:functional constipation, organic constipation, symptomatic constipation, laxative, life style modification

●軽度の薬物性肝障害
泉 順子  山本真紀子  濱野 浩一  山口 力  伊吹 恵里  前川 正人
 薬物性肝障害はその発生機序から中毒性と体質特異性とに大別される。前者は少なく,肝障害の多くは後者である。後者はさらにアレルギー機序によるものと異常薬物代謝によるものとに大別される。その診断にはDDW─J 2004薬物性肝障害ワークショップ診断基準を用いられることが多い。向精神薬や抗てんかん薬による肝機能障害は,投与量と発現率に正の相関がみられるといわれている。向精神薬による肝障害の中で最も多い薬剤は,chlorpromazineでアレルギー機序による胆汁うっ滞型と考えられている。Sodium valproateは致死性肝障害を連発したこともあった。薬物性肝障害を起こしたときは薬物中止が原則だが,原因薬物が治療に不可欠で代替薬がない場合はいつ中止するか判断に困窮することがある。しかしエビデンスのある薬物中止基準は国内外とも存在しない。そこで若干の文献を加えて述べる。
Key words:drug─induced liver injury, psychotropic agents, anticonvulsant agents

●抗精神病薬による心電図異常(QT延長を含む)
高柳 寛
 抗精神病薬は,多彩な心電図異常とそれに伴う症状をきたしうる。各種の徐脈性不整脈の誘発に加えて,心室筋の再分極の延長をきたすとQTc間隔が延長し,致死率の高い心室性不整脈torsades de pointesを発現し心臓突然死に至りうる。それゆえQT延長は,抗精神病薬による急死の最大の原因とされている。QT延長症候群は,遺伝子異常による先天性QT延長症候群と,抗精神病薬を含む薬剤による二次性QT延長症候群に分類される。先天性QT延長症候群は心室筋のイオンチャンネルの異常により,その遺伝子解析が急速に進んでいる。両者とも,徐脈時にQTcが延長すると心室性期外収縮が頻発し,さらに不応期の不均一性からリエントリーによるtorsades de pointesを起こし心室細動に至り急死することがある。抗精神病薬が実際にどの程度の心臓突然死の危険性があるかは,欧米でも論争が続いている。具体的な結果と,数値を最新のデータを引用して呈示する。基礎心疾患や肝障害のある例,低カリウム血症,高齢,女性等は,QT延長から心室細動への危険因子である。
Key words:antipsychotic agent, long QT syndrome, torsades de pointes, ion channel, sudden cardiac death

●排尿障害への対応
北村 唯一
 排尿障害には実に多様な原因疾患が考えられる。代表的なものは前立腺肥大症と前立腺がんであるが,神経因性膀胱,過活動膀胱,急性膀胱炎,間質性膀胱炎,薬剤による排尿困難など多岐にわたる。症状も排尿困難,尿閉,頻尿,尿失禁,膀胱痛などの諸症状が挙げられる。特に神経科に関連するものとして,向精神薬による排尿困難,尿閉があり,精神科医としてはこれを念頭において投薬し,投薬量が過量にならないようにご配慮願いたい。
Key words:dysuria, urinary retention, pollakisuria, urinary incontinence, micturitional pain

●緑内障ってどんな病気?
雑喉 正泰
 緑内障は,自覚症状なしに視覚が障害される疾患で,時に心因性反応による視野異常などと鑑別を要する。視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患と定義される。視野検査では,マリオット盲点につながる弓状暗点を示す。網膜の神経線維走行に沿うこの暗点は,視神経乳頭部での神経線維の束状の障害と解釈される。発症と進行に関わる重要な因子は眼圧である。開放隅角,閉塞隅角という形状などが,線維柱帯での房水流出機能と眼圧を左右する。病期の把握には,定期的な眼圧と視野測定が大切である。障害された視機能は回復せず,早期発見が肝要である。治療目的は視機能維持で,手段は眼圧下降に尽きる。点眼・内服などの薬物,レーザー,手術のいずれか,あるいは適切な組み合わせを選択する。40歳以上の日本人の約5%程度という頻度から,視野異常をきたす疾患の鑑別の一つとしてご記憶いただきたい。
Key words:glaucoma, optic disc cupping, visual field, bjerrum’s scotoma, anterior chamber angle

●骨粗鬆症への対応
岡本 剛明  福本 誠二
 骨粗鬆症は,骨密度の低下と骨構造の劣化により,骨の脆弱性が増大し,骨折を起こしやすくなる全身性の骨疾患である。わが国における骨粗鬆症患者は,2006年時点の推計で約780〜1,100万人であるとされている。すでに本邦では,骨粗鬆症による骨折の予防に有効な複数の薬剤が使用可能となっている。さらに異なる作用機序を持つ薬剤が開発されつつある。今後高齢化に伴い,骨粗鬆症に対する薬剤を服用する患者は増加するものと考えられる。これらの薬剤には,向精神薬との併用が特に問題となるものは存在しない。一方,服薬時間に注意する必要があるもの,併用禁止薬が存在するものがある。また,特有の副作用が報告されている薬剤もある。したがって骨粗鬆症治療薬が処方されている患者に対しては,服薬コンプライアンスの確認とともに,副作用の発現にも注意する必要がある。
Key words:bisphosphonate, estrogen, bone resorption, bone formation

●精神症状をもきたす全身性疾患としてのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)
森下 宗彦
 COPDはタバコの販売量の増加に20年遅れて追随し,増加している。わが国ではほとんどがタバコが原因であり,他の有毒ガスや粉塵の吸入によるものは少ない。したがって,肺癌,狭心症,心筋梗塞,脳血管障害,認知症,消化性潰瘍などのCOPD以外のタバコ関連疾患を合併する。さらに,COPDは全身性炎症性疾患として理解することが重要であるとの認識が高まり,体重減少,骨粗鬆症,糖尿病,貧血,睡眠障害なども高率に合併することが注目されている。精神神経障害に関しては,呼吸不全に伴う低酸素血症や高二酸化炭素血症により引き起こされる脳機能の障害と,COPDの症状による不安,抑うつなどの精神心理障害が問題となる。最近,日本呼吸器学会は「慢性閉塞性肺疾患」を「COPD」と言い換えて啓発キャンペーンを開始した。患者は530万人と推定され,90%が診断されていないとわかったからである。ここでは全身性疾患としてのCOPDを解説する。
Key words:air─flow limitation, forced expiratory volume in 1 second (FEV1.0), forced vital capacity, smoking, quality of life (QOL)

●慢性腎臓病への対応
富野康日己
 最近,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の概念と病期分類が発表された。これは,一つの腎疾患を示しているのではなく,慢性に腎機能低下が進行するすべての腎疾患を包含する疾患概念である。CKDは,末期腎不全へ進行するばかりでなく,心血管イベントの危険因子ともなっている。精神・神経疾患治療薬を不安や抑うつ状態にある腎不全(CKDステージ5・5D)患者に用いることがあると思われるが,腎不全患者では,薬剤の体内への蓄積により過剰な沈静が起こりやすい。したがって,腎不全患者では,腎機能に応じた薬剤の選択と投与量・投与期間の調節が必要なことがあり,腎機能と薬物の血中濃度を経時的にモニターすべきである。
Key words:chronic kidney disease(CKD), symptom, renal failure, medication

■研究報告
●遅発性ジストニアがaripiprazoleへの切り替えにより改善した1症例
加藤 晃司  安藤 英祐  小綿 一平  堤 康彦  松本 英夫
 今回我々は,統合失調症において抗精神病薬の長期投与後に生じた遅発性ジストニア(tardive dystonia:以下TD)に対しaripiprazole(以下APZ)への切り替えが奏効した1症例を経験した。TDは長期間の抗精神病薬の服薬に伴う錐体外路症状(extrapyramidal symptom:以下EPS)のひとつであり,頻度は少ないがきわめて難治性の不随意運動である。TDの病態には,ドパミン系,アセチルコリン系,ノルアドレナリン系,GABA系の異常など多様な神経伝達物質が関与すると推定されているが,現在もなお不明な点が多い。治療としては抗コリン薬,筋弛緩薬,clonazepamなどの有効性が報告されているが,一般的には予後不良で治療に難渋する場合が多い。本症例ではTDに対してquetiapine(以下QTP)への切り替えを行ったが改善せず,APZへ切り替えをしたところ症状は著明に改善した。TDの病態や,難治性のTDに対するAPZ投与がどのような薬理作用を介し奏効するのかはまだ解明すべき点が多い。本邦でも海外でもTDに対するAPZ投与の報告はなく,今後はさらなる症例の蓄積と検討が必要である。
Key words:tardive dystonia(TD), chronic schizophrenia, antipsychotics, aripiprazole(APZ), extrapyramidal symptom(EPS)

■臨床経験
●Paroxetineによる寝汗の臨床的特徴について
挾間 玄以  岩田 正明  中込 和幸
 Paroxetineは現在うつ病治療の第一選択薬として用いられ,使用頻度の高い薬剤である。このたびparoxetineにより寝汗を呈した11症例に対し,その臨床的特徴について検討した。性別は女性10例,男性1例であり,年齢分布は20歳台3名,30歳台2名,40歳台3名,50歳台1名,60歳台1名,70歳台1名で,女性の7割は閉経前であった。寝汗を生じたparoxetine1日投与量は,10mgが1名,20mgが8名,30mgが2名であり,低用量で生じていることが多かった。全例とも睡眠中のみの発汗亢進(純粋盗汗)であった。精神科原疾患,使用併用薬,月経周期や夢体験との間に一定の関係は認められなかった。また服薬時間は眠前ないし夕食後投与であったが,服薬時間を早めることで寝汗が緩和される可能性が考えられた。Paroxetineによる寝汗は,積極的に訴えられることは少なく見過ごされがちであるが,服薬アドヒアランス低下の要因となりうる可能性に留意しておく必要があると思われる。
Key words:night sweats, diaphoresis, paroxetine, selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI), side effect

●当初摂食不良を主訴とした不安障害患者への催眠について
宮城 徹朗  高田 照男
 現在,不安障害における心理的な治療としては認知行動療法が一般的である。今回,我々は,当初摂食障害として紹介された症例において催眠を利用した見立てで不安障害・PTSDを中心とした見立てに変更し,加療を行った。当初,患者は心理療法を希望し薬物療法を拒否した。そのため限界の設定を行った上で不安の軽減を目標として,ソルーション・フォーカスト・アプローチを基本とし催眠を用いた面接を続けることで日常生活が可能となった症例を経験した。そこで,当症例の経過およびソルーション・フォーカスト・アプローチや催眠の効果や特性等について若干の考察とともに報告することとした。
Key words:hypnosis, eating disorder, anxiety diorder, solution─focused aproach

●「心の問題」として見逃されたナルコレプシーの1例
松本 健二  平井 伸英  高山 剛  加藤 敏
 ナルコレプシーは日中の過度の眠気や情動性脱力発作といった特徴を持つ疾患であるが,その症状はしばしば見逃され,特に若年発症の場合,診断が困難であることが知られている。我々は長期にわたって診断が見逃されてきたナルコレプシー患者を経験した。すでに12歳頃には睡眠発作や情動性脱力発作がみられていたが,小児科,脳外科では診断がつかず,精神科受診の際にも「心の問題」とされた。カウンセリングを施行されるも効果を感じられず医療から離れることとなったが,18歳時に学校で受けた睡眠障害の授業をきっかけに当院を受診した。情動性脱力発作がみられたことから睡眠障害国際分類第2版(ICSD─2)よりナルコレプシーと診断したが,さらなる精査のため終夜睡眠ポリソムノグラフィ(PSG),反復睡眠潜時検査(MSLT)を施行した。その結果,PSGでは6時間以上の総睡眠時間が確認され,MSLTにおける平均入眠潜時は18秒,入眠時REM睡眠期(SOREMP)も認められた。情動性脱力発作は,小児期の患者ではその言語能力から把握が難しいことが少なくないが,その場合でもMSLTにより診断できる可能性が示唆された。日中の眠気を主訴に来院した患者をみた場合には,ナルコレプシーを鑑別に入れMSLTによる客観的評価を行うことが早期診断に有用であると考えられる。
Key words:narcolepsy, multiple sleep latency test, polysomnography, diagnosis


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