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■特集 夜,寝ている時に起こる異常行動
●レム睡眠行動障害
金野 倫子  内山 真
 レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)は,現在の睡眠障害国際分類においては睡眠に関連して起きる望ましくない異常現象と定義される睡眠時随伴症(parasomnias)に分類されている。錐体路抑制機構の機能不全により,通常レム睡眠期に抑制されるはずの筋緊張が抑えられないことが原因で夢の行動化が起こり,完全に覚醒しない状態で寝言に始まり殴る,蹴る,走り出すといった暴力的かつ高度に統合された複雑な運動を示すという現象を指す。高齢者に多く,器質性疾患が背景に存在することもある。1986年にSchenckにより疾患概念として提唱され,本稿では現在のRBDの診断や治療について解説し,RBDの病態生理について現在までの仮説を概観する。精神科コンサルテーション・リエゾンの現場においては,高齢者や器質性疾患における夜間せん妄との関連で問題になることが多く,神経変性疾患の症候としても重要視されており,精神科医が是非とも知っておくべき症候群のひとつと考えられる。
Key words:REM sleep behavior disorder, parasomnias, delirium, REM without atonia, α─synucleinopathy

●睡眠時驚愕症
井上 雄一
 睡眠時驚愕症は,覚醒障害の中で最も暴力性の高いもので,受傷リスクは無視できない。そのエピソードは主に夜間前半に好発し,この際には,意識障害下で急速に発現する自律神経症状,強い恐怖感を伴う叫び声,運動亢進が認められる。本疾患は,小児期に好発し多くは思春期以降に消失するが,その頻度は一般人口の2%程度とされている。本症の発現には,深睡眠からの覚醒に際する睡眠慣性,深睡眠の不安定性,運動制御系の異常が関与するが,これ以外に深睡眠量を増やすような身体条件,ストレス要因,精神疾患(気分障害,人格障害,物質ならびにアルコールの乱用など)の関与が推定されている。治療にあたっては,抗うつ薬,ベンゾジアゼピン類が有効だが,これだけでなく心理面に配慮した対応,身体管理が重要である。
Key words:sleep terror, arousal disorder, violence, sleep inertia

●睡眠時遊行症(夢中遊行)
北島 剛司
 睡眠時遊行症(夢中遊行)は睡眠時異常行動の代表的なものであり,NREM睡眠に起因する覚醒障害(arousal disorder)と捉えられる。典型的には小児期に生じて自然消退する,睡眠中の徘徊を中心とした良性の症候であるが,時に成人期にもみられ,呼吸関連睡眠障害や薬剤など種々の要因にて引き起こされる場合がある。NREM睡眠と覚醒状態との間の病的な移行状態から生じると考えられ,背景に徐波睡眠の増強や不安定さが想定されているが,詳しい病態生理は未だ解明の余地を残している。実際の臨床ではてんかん,レム睡眠行動障害,解離性障害などとの鑑別が重要である。本稿ではこれらを含めて本症について現在の知見を概説するとともに,異常行動時に夢体験を伴う場合があるものの検査にて睡眠時遊行症あるいはNREMパラソムニアと診断された2例を呈示した。
Key words:sleep walking, somnambulism, parasomnia, arousal disorder, NREM sleep

●錯乱性覚醒
原 恵子  松浦 雅人
 錯乱性覚醒は,睡眠時遊行症や睡眠時驚愕症とともに,ノンレム睡眠からの覚醒障害である。錯乱性覚醒の特徴として,覚醒を強制されたときに起こりやすい,入眠後2時間以内の深い眠りからの覚醒時に多い,持続時間は短い,健忘を残すといったことが挙げられる。終夜睡眠ポリグラフ (PSG)検査にて深い睡眠からの覚醒と異常行動が見られる時には,この診断が支持される。小児で多く見られるが,ときには成人期まで持続したり,稀には成人期に発症する例もある。成人では偶発的な事故を引き起こすことがあるため,司法精神医学的問題となることがある。錯乱性覚醒と犯罪が結びついた報告は1300年代から殺人のみで20件以上の報告が見られる。当時より判決によって睡眠中の行動は罪に問えないと判断されたことがあった。その際,人格障害,急性精神病,てんかんを含めたほかの精神疾患との鑑別が重要となる。
Key words:confusional arousals, parasomnia, somnambulism, forensic psychiatry

●むずむず脚症候群および周期性四肢運動障害
篠邉龍二郎  野村 敦彦  塩見 利明
 むずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS)と周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder:PLMD)は一般にも知られつつあり,日常臨床で遭遇する機会がふえてきた。しかし,まだ的確な診断をし得る医療者側は少なく,患者本人にとってはQOLが悪く,苦慮していることが多く,何処にかかって良いのか長年悩んでいる患者もおられる。実地医家の方には,夜間睡眠中に起こり得る疾患で,RLSによる入眠障害やPLMDによる熟眠感の低下や昼間の眠気などの症状を呈する患者がいることを理解していただき診療に役立てていただきたい。
Key words: sleep related movement disorders, restless legs syndrome, periodic limb movement disorder, dopamine agonist

●前頭葉てんかん
大島 智弘  田所ゆかり  加藤 裕子  兼本 浩祐
 前頭葉てんかんの発作症状を発作起始域により補足運動野発作,帯状回発作,前頭極発作,眼窩前頭発作,背外側発作,弁蓋発作,運動皮質発作に分類し概説した。また,発作症状により前頭葉てんかんを最も単純に分類したSalanovaらの分類も示した。脳波所見は診断上重要であり,発作間欠期,発作時の所見を示した。治療はcarbamazepin, phenytoin, zonisamideなどによる薬物療法が基本であり,単剤治療が望ましいが多剤療法を必要とするケースも少なくないことを示した。鑑別すべき疾患として(1)他の大脳領野より生ずるてんかん,(2)REM睡眠行動障害,(3)睡眠時遊行症,夜驚,(4)心因性発作を挙げ概説した。特殊な前頭葉てんかんとして常染色体優性夜間前頭葉てんかん(autosomal dominant nocturnal frontal lobe epilepsy:ADNFLE)を挙げその特徴を示した。ADNFLEはきわめて稀な病態ではあるが,散発例は相当数あり,睡眠時に出現する行動異常の鑑別診断としては必須の病態である。
Key words:frontal lobe epilepsy, asymmetric tonic seizure, focal clonic motor seizure, frontal lobe complex partial seizure, autosomal dominant nocturnal frontal lobe epilepsy (ADNFLE)

●睡眠関連てんかん
千葉 茂  田村 義之  阪本 一剛  阿部 泰之  高崎 英気  山口 一豪  吉澤 門土  松田 美夏
 睡眠中の異常言動の背景には,さまざまな疾患・病態がある。その中でも,てんかんは見逃してはならない重要な疾患である。てんかん発作の出現様式を睡眠・覚醒サイクルの観点から分類すると,睡眠関連てんかん(睡眠てんかん)(発作は睡眠中,とくに入眠直後と起床直前の2時間以内に起こりやすい),覚醒てんかん(発作は朝方の起床直後と夕方に起こりやすい),および汎発性てんかん(発作は睡眠中と覚醒中のいずれでも起こる)に分類される。睡眠てんかんは,どの年齢でも発症し,側頭葉てんかんと前頭葉てんかんで認められやすく,とくにNREM睡眠のstage 2から起こりやすい。睡眠中の異常行動をてんかんと確定診断するためには,本症を念頭に置いた医療面接,脳画像検査,通常の脳波検査に加えて,長時間Video─Polysomnography を積極的に行うことが重要である。
Key words:epilepsy, sleep, seizures, parasomnia, polysomnography

●睡眠薬の副作用(健忘・過食など)
辻 誠一
 現在,睡眠障害に対して副作用が少なく使用しやすいといった観点から心療内科や精神科だけでなく他科においても様々な睡眠薬が用いられている。しかし近年,睡眠薬によって誘発されたと考えられる睡眠中の異常行動が数多く指摘されるようになってきている。睡眠中の異常行動は睡眠薬による意識レベルの低下に基づくものであり,入眠できなかった時や入眠後に中途覚醒した時に呈している。これらの異常行動は意識レベルが低下しているため,健忘や認知機能の障害を認め,行動に危険を伴う可能性がある。睡眠薬によって誘発された異常行動で食行動障害を伴う睡眠関連摂食障害を中心に症例を通して概説した。睡眠薬によって誘発される睡眠関連摂食障害は稀な副作用であり,解明されていない点が多い疾患ではあるが,今後使用に際して留意する必要がある。
Key words:hypnotic, adverse effect, disturbance of consciousness, parasomnia, sleep related eating disorder

●睡眠時パニック発作
貝谷 久宣  正木美奈子  宇佐美英里  小松 智賀  野口 恭子  山中 学
 パニック障害の4割前後の患者が睡眠時パニック発作を経験している。多くはnon─REM期に生じており,夢を見ていないことが多い。睡眠時パニック発作のある患者群とない患者群では大きな臨床症状の違いは認められないし,睡眠時パニック発作に特化した治療法は見当たらない。睡眠時パニック発作の発症は軽症であれ広場恐怖の発展がみられる。また,睡眠時パニック発作がある群ではない群に比べ明らかに睡眠障害の頻度が高い。
Key words:sleep panic, non─REM, agoraphobia, sleep disturbance, no specialized treatment

●群発頭痛
木元 一仁  平田 幸一
 群発頭痛は一次性頭痛の一つであり,特徴としては自律神経症状を伴う一側性の眼窩部の激しい疼痛を短時間(15〜180分)認めることと,1〜2ヵ月発作が続く群発期とより長い発作のない寛解期があり,発作は連日夜間から明け方の同じ時間に出現することである。20歳台から40歳台の男性に多く,頻度は10万人あたり56〜401人という報告がある。誘発因子ではアルコールとニトログリセリン,ヒスタミン,気圧の変化が挙げられるが,いまだに正確なメカニズムは解明されていない。発作時の頓挫治療ではsumatriptan皮下注射,100%酸素の吸入が確立されている。頭痛発作予防ではverapamilが広く使用されるが,炭酸リチウム,副腎皮質ステロイド,抗てんかん薬,抗うつ薬が使用されることもある。難治例では神経節ブロック,視床下部深部脳刺激法が施行されることもあるが,頓挫療法,発作予防療法ともに十分なものとは言い難く,今後の進展が望まれる。
Key words: headache, cluster headache, trigeminal autonomic cephalalgias, triptan

●入(出)眠時幻覚と睡眠麻痺(金縛り)
稲見 康司  堀口 淳
 入眠時幻覚と睡眠麻痺は,過眠症であるnarcolepsyのREM関連症状として出現することがよく知られている。しかしそれらはnarcolepsyに特異的な症状ではなく,健常人にもある程度出現することが知られている症状であり,また高齢者や,睡眠相が短期間で移動する交代制勤務者にも時に出現する。また入(出)眠時幻覚は,Parkinson病やAlzheimer病などの中枢神経系変性疾患に罹患した患者に見られたり,薬物の服用と関連して出現することもある。これらの状態に共通しているのは,幻覚や運動麻痺が睡眠覚醒移行期という特殊な時間帯に出現することであり,広い意味での意識減損下における幻覚症などであると考えることができる。
Key words:narcolepsy, hypnagogic hallucination, sleep paralysis

■研究報告
●日本語版不眠重症度質問票の開発
宗澤 岳史  Morin, C.M.  井上 雄一  根建 金男

日本語版不眠重症度質問票をご使用の際は、星和書店「精神科治療学」編集部にご連絡ください。

 本研究は,不眠症の訴えを簡易に測定するツールとして不眠重症度質問票の日本語版(ISI─J)を開発し,不眠症者と健常者を対象として,その信頼性,併存的妥当性,弁別的妥当性とカットオフ得点,および治療反応評価性の確認を行ったものである。その結果,ISI─Jは高い信頼性と妥当性を有する質問票であることが確認された。また,病的水準を示すカットオフ得点として,10点が適していると判断された。ISI─Jは本邦における不眠症の症状評価に貢献することが期待される。
Key words:insomnia, measure, severity, assessment, PSQI

●Sertralineにより治療されていた小児の強迫性障害がaripiprazoleのaugmentationにより改善した1症例
加藤 晃司  安藤 英祐  松本 英夫
 今回我々は10歳の強迫性障害(obsessive─compulsive disorder:OCD)の患児に対し投与していたsertralineにaripiprazoleのaugmentation(増強療法)を行い症状の改善を認めた1症例を経験した。これまで小児のOCDの治療としては成人同様に精神療法,認知行動療法,薬物療法が提唱されている。これらのうち認知行動療法と薬物療法の併用が最も効果的であると考えられている。特に薬物療法ではserotonin reuptake inhibitors(SRI)が第一選択薬と考えられている。本症例はselective serotonin reuptake inhibitors(SSRI)および認知行動療法併用療法に抵抗性のOCDであり,sertralineにaripiprazoleを追加しaugmentationを行ったところ精神症状は著明に改善した。OCDの病態や,治療抵抗性のOCDに対する非定型抗精神病薬によるaugmentationがどのような薬理作用を介し奏効するのかはまだ解明すべき点が多い。特に小児OCDでのaripiprazole投与の報告は少なく,今後はさらなる症例の蓄積と検討が必要である。
Key words:obsessive─compulsive disorder (OCD), sertraline, aripiprazole, augmentation, Children’s Yale─Brown Obsessive Compusive Scale

●神経心理検査で認知機能や注意力の障害が示唆された強迫性障害の1例
紺野千津恵  宍倉久里江  生地 新  宮岡 等  金生由紀子
 ウェクスラー成人知能検査第3版(WAIS─V)やIntegrated Visual and Auditory Continuous Performance Test(IVACPT)により,認知機能のアンバランスや注意力の障害,および衝動性が認められた強迫性障害(OCD)の症例を経験した。薬物療法と行動療法を組み合わせた治療により強迫症状が改善した後に,患者の認知機能と注意力の障害や衝動性は改善した。この症例における,認知機能や注意力の障害は,患者が発達障害などの生来の特性を反映している可能性もあるし,OCDの病態と関連している可能性もある。ただし,知能検査やIVACPTの所見は,脳の様々な機能を反映している可能性があり,その所見だけで,OCDにおける脳機能の障害を特定することはできない。しかし,病歴や症状に加えて認知機能の障害や注意力の障害を把握することで,個々のOCD患者の臨床像や発達障害などの生来の素質についての理解が深まり,より的確な治療計画を立てることが可能になると考えられる。
Key words:obsessive─compulsive disorder, attention, WAIS─III, Continuous Performance Test

■臨床経験
●認知症介護者に対する集団精神療法の試み
杉山 秀樹  山縣真由美  杉山 典子  榛沢 亮  一宮 洋介
 認知症患者の増加に伴う認知症介護者のケアの必要性が指摘されているが,そのサポート体制は十分とは言えない。そこで当院では,認知症介護者のケアの一環として認知症介護者を対象に集団精神療法(グループ療法)を新たに開始し,その効果と課題を検討した。集団精神療法の開始前と終了時に心理検査(POMS,SDS,J─ZBI)を実施,比較したところ,POMSの「緊張─不安」,「混乱」の得点に有意傾向(p<0.10)が見られた。構造化され,治療的に認知症介護者に関わる集団精神療法は新たな試みであったが,心理検査の結果および参加者の感想から一定の治療効果が得られたと考えられる。今後さらに症例数を増やし,プログラムの検討を重ね,治療効果を高める必要があるだろう。
Key words:dementia, caregiver, group psychotherapy

●思春期に不潔恐怖と衝動行為がみられた4q症候群の1女児例
中山 浩
 稀な先天奇形症候群である4q−症候群について,最近の多数例の調査報告と自験例1例を比較し,精神行動面の問題について報告した。自験例では,軽度域の精神遅滞が持続し,思春期になって不潔恐怖,情緒不安定,自傷などの衝動行為がみられるようになった。調査報告によると,4q−症候群においては,自閉症やADHDなどの発達障害,衝動行為や強迫行為などの精神行動面の問題の発生頻度は高く,今後染色体の欠失部位と衝動性の関連などの病態や薬物への反応性など治療法に関する知見が集積する必要があると考えられた。また4q−症候群を含めた稀な先天奇形症候群に対する,インターネット環境を用いた新たな手法による調査についても紹介し,日本においても何らかの方法を模索する必要性があることについても指摘した。
Key words:4q− syndrome, behavioral problems, family support, mysophobia, impulsive act


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