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■特集 パーキンソン病と遺伝

●パーキンソン病の遺伝学 <オーバービュー>
後 藤  順
 パーキンソン病は一般に遺伝性でない孤発性疾患である。その病因には従来より外的環境因子と内的遺伝的因子の関与が想定されている。近年,遺伝的因子の関与についての関心が高まっているが,具体的な遺伝子の同定がポストゲノム時代に入り,可能になりつつある。一方,一部の患者(10%内外)は家族性で,複数世代に亘り,明らかなメンデル遺伝を認める家系が存在する。それらの家系の原因遺伝子として,α-synuclein,ubiquitin carboxyl-terminal esterase 1,parkinが最近同定され,それぞれの疾患の病態解明とともに,一般的なパーキンソン病の病態解明にも重要な示唆を与えている。
key words: Parkinson's disease, genetics

●孤発性パーキンソン病の遺伝性素因と疾患感受性遺伝子の解析
戸 田 達 史、百 瀬 義 雄
 孤発性パーキンソン病は環境因子と遺伝因子により発症する複合疾患であるが,症候や経過に多様性があり,治療薬も多種類に渡る。このことは従来本症として一括して行われていた遺伝解析に階層化を可能にし,多型によって患者個人個人に必要な薬剤を必要な量投与するオーダーメイド医療が可能であることを意味する。我々は詳細な臨床データを有するパーキンソン病患者DNA検体から,一塩基多型(SNP)のタイピングによって疾患感受性遺伝子の発見を目指す一方,薬剤の副作用の有無などにより細分化を行い,パーキンソン病のオーダーメイド医療の確立を目標としている。2001年になって初めて,ノンパラメトリック連鎖解析が発表され,いよいよゲノム上に疾患感受性遺伝子存在部位の的をしぼって,パーキンソン病とSNPの関係を探索できる状況になってきた。さらに多因子遺伝性疾患の遺伝子解析法や疾患感受性遺伝子同定の戦略についても述べた。
key words: Parkinson's disease, multi-factorial disease, susceptibility gene, association study, single-nucleotide polymorphism

●遺伝性パーキンソン病1型(park1,α-synuclein)
村 田 美 穂
 遺伝性パーキンソン病1型(park1)は最初に原因遺伝子が判明した家族性パーキンソニズムである。Lewy小体の構成成分であるα-synuclein遺伝子の異常で,これまでにG209A (Ala53Thr)とC88G (Ala30Pro)の2つの変異が報告されている。臨床的には常染色体優性遺伝形式をとり,運動症状は孤発性パーキンソン病ときわめて良く似ている。発症年齢が若い傾向にあること,振戦が比較的少ないことが特徴とされたが,その後の検討で家系によっては70歳代までの発症があり,振戦も60%程度に認めるとされている。Park1は頻度はきわめて低いが孤発性パーキンソン病の発症機構を考える上でもきわめて重要な疾患である。
key words: park1, α-synuclein, central hypoventilation

●α-synucleinの生物学
小山彰比古、岩 坪  威
 α-synucleinはパーキンソン病の原因遺伝子として同定され,2種類の家族性変異が報告されている。また,家族性のみならず孤発性パーキンソン病において出現するLewy小体の主要構成成分であることから,α-synucleinが神経細胞内に蓄積することが神経細胞死を引き起こすと考えられている。最近,細胞内のα-synucleinが受ける翻訳後修飾として,リン酸化,ニトロ化,糖付加などが報告され,α-synucleinの機能解明への手がかりが増えつつある。また,マウスやハエを用いたトランスジェニック動物において,α-synucleinの過剰発現により,神経細胞内における封入体様構造物の出現,ドパミン神経細胞の脱落,運動能力の低下などが観察され,パーキンソン病モデル動物としての有用性が期待される。
key words: α-synuclein, Parkinson's disease, aggregation, neurodegeneration, Lewy body

●常染色体劣性遺伝性若年性パーキンソニズム(park2,parkin)
服 部 信 孝、水 野 美 邦
 パーキンソン病(PD)の原因については遺伝的素因や環境因子の相互作用が考えられている。アルツハイマー病(AD)では遺伝性ADの原因究明から飛躍的に進歩しており,この単一遺伝子異常で起こるfamilial formはcommon formの病態解明に重要なヒントを与えてくれる。PDにおいても単一遺伝子異常による病態の解明からLewy小体の主要成分であるα-synuclelinが稀な原因遺伝子に留まらずcommon formの病態にも大きなヒントを与えてくれた。家族性PDの病態解明はcommon form PDの病態解明の近道であることは間違いない。本稿ではユビキチン・プロテアソーム系に直接的に関わっていることが判明したparkin蛋白の機能低下が発症の本質であることがわかった常染色体劣性遺伝性若年性パーキンソニズム(AR-JP)について我々の研究成果を中心に解説したい。
key words: parkin, AR-JP, Pael receptor, o-glycosilate, α-synuclein, CDCrel-1

●parkinの生物学
田 中 啓 二
 parkinは常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR-JP)の原因遺伝子PARK2がコードする蛋白質である。parkinはN端側にユビキチンに相同性を示す領域そしてC端側にRING-finger領域をもつ分子量約5万の分子である。最近,parkinが分解目印として作用するユビキチンを標的蛋白質に連結させる酵素ユビキチンリガーゼ(E3)であることが判明した。この結果,AR-JPはparkinが基質を処理できないこと,即ちparkinの標的となる蛋白質が異常に蓄積することによって発症すると考えられる。しかし,parkinの機能喪失がどのようにして中脳黒質の神経変性を引き起こすかは不明である。本稿では,parkinの作用機構について2つのモデルを提案しAR-JPおよびパーキンソン病の発症機構を考察してみたい。
key words: AR-JP, Parkinson's disease, parkin, ubiquitin, Lewy body, proteasome,E3

●その他の遺伝性パーキンソニズム
長谷川一子
 家族性パーキンソニズムの病因遺伝子の探索が近年,精力的に行われてきている。前稿で述べられているparkin,α-synucleinの異常による家族性パーキンソニズム以外にも多くの家族性パーキンソニズムが報告されている。家族性パーキンソニズムの原因遺伝子が明らかとなることは,parkinやα-synucleinでタンパク質の機能解析がなされている如く,パーキンソン病の病因を解明し,原因療法を開発する上でのブレークスルーとなる可能性が挙げられる。ここでは近年,遺伝子座が報告されてきている家族性パーキンソニズムを中心に,それぞれの家系の特徴について述べた。また,遺伝子の解明がなされていない家系については,同様の症候を呈する家系群として述べた。これらの群については,将来それぞれが別個の病因遺伝子による独立した疾患群になる可能性もあり,さらに研究が進展することを期待したい。
key words: autosomal dominant parkinsonism, autosomal recessive parkinsonism, X-linked parkinsonism, FTDP-17

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