●言語機能の神経回路モデル
櫻 井 靖 久
言語機能の神経回路網について概説した。Wernicke-Lichtheimの図式とそれを引き継いだGeschwindの継時処理モデルは、神経学の分野ではよく知られたモデルである。認知心理学的モデルとして、脳損傷例から出発した二重回路モデルとコンピュータ科学から生まれた並列分散処理モデルがある。いずれも一長一短がある。Mesulamは古典的な神経学的モデルに並列分散処理の考えをとりいれた独自のモデルを提唱している。ワーキング・メモリーは言語機能を支える神経基盤として重要である。機能画像研究は言語活動に関与する脳の領域を明らかにしたが、包括的な機能回路モデルはまだない。筆者らは日本語の漢字・仮名の読みのPET研究から、新たな(重みづけられた)二重回路モデルを提唱している。
key words : dual-route model, parallel distributed processing, working memory, kanji, weighted dual-route hypothesis
●運動スキルの計算論的モデル
宇 野 洋 二
ヒトは適切な運動の教示を受け、訓練を繰り返すことによって、様々な運動タスクに習熟し、極めて滑らかで巧妙な動きができる。水泳や自転車乗りなどの例を出すまでもなく、一旦獲得された運動技能(スキル:skill)は容易に消えることがない。多くのスキルは生涯身についている。注目すべきことは、成長とともに身体の動特性が大きく変化するにもかかわらず、子供のときに覚えた運動スキルが大人になっても保存されることである。このことは、ある運動スキルに対して、運動軌道や力のパターンがそのままの形で脳内に記憶されるのではないことを示唆している。本稿では、計算理論の立場からヒト腕の運動をとりあげて、運動タスクを実行するためにはどんな計算が必要なのか、その基本原理は何かを論じる。特に、生体が本来持っている運動の規範(最適化原理)に着目し、運動スキルの神経計算システムが備えるべき機能と表現を考察する。
key words : skill, performance, motor task, computational model, optimal trajectory
●内部モデルに基づく運動の学習と制御
伊 藤 宏 司
私たちは環境との相互作用の中で多様な運動パターンを自ら学習し、生成する機能を持っている。本稿では、このような運動学習と制御を支えるメカニズムを内部モデルの観点から考察している。まずはじめに、身体の冗長自由度と運動・力のマッピングの関係ならびに筋の可変粘弾性を取り上げている。そして、運動目的に応じて適切な関節自由度と身体ダイナミクスを選択することが運動学習と制御の課題であることを指摘している。つぎに、複雑で巧みな運動制御には、環境および身体のダイナミクスの内部表現(モデル)が必須であることを述べ、順モデルと逆モデルに基づく構成例をそれぞれ示している。さらに、上肢のリーチング動作を例として、内部モデルに基づく運動学習の手法を紹介している。両手法とも、目標時間軌道が与えられなくても運動指令パターンを生成できる点に特徴がある。また、いずれも2自由度制御系の枠組みになっている。
key words : motor learning, motor control, body dynamics, internal model, reaching
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