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■特集─強迫の診立てと治療 II
●摂食障害の強迫症状
宗 未来
 摂食障害や強迫性障害(OCD)の患者は,それぞれどちらが受診しに来ても,精神科医を中心としたわが国の多くの標準的治療者には「一筋縄ではいかない」と覚悟を迫られるのが一般的な現状認識であろう。ましてや,その併存例などは言わずもがなである。摂食障害は,体型や食行動への強迫性がその病理の主特徴として知られ,また,多くの調査研究でも摂食障害に最多の併存障害はOCDと示されてきている。従来,異なる疾患と言われてきた両者に生物学的基盤の共通性を含めた議論が近年なされだし,臨床面でもそれらの併存が互いの病理を複雑化し治療を困難にすることも報告されてきている。また,神経性過食症,OCDとも治療によって半分以上の寛解が得られるというのが標準的エビデンスとして知られているが,それら両者の薬物選択や認知行動療法を中心とした精神療法の技法面にも多くの共通性が認められる。今回,症例提示を通じてこのような摂食障害の強迫症状やOCD併存について言及し考察を加えてみた。
Key words:OCD, anorexia nervosa, bulimia nervosa, eating disorder, comorbidity

●脳器質性疾患の強迫症状
荻原朋美  天野直二
 強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)または強迫症状は前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD),ハンチントン病,パーキンソン病,シデナム舞踏病,脳血管障害,頭部外傷などさまざまな疾患で認められる。これらの疾患では,多くは前頭葉や大脳基底核に何らかの障害が認められており,OCD病因の仮説とも密接な関わりを持っている。また,OCDと脳器質性疾患の強迫症状との異同は過去にも随分と論じられてきた。OCDにみられる強迫症状には,(1)反復性・持続性,(2)不随意性,(3)不合理性の自覚・自我違和感,(4)自己帰属感の保存の4要件が含まれている。しかし,脳器質性疾患で認められる強迫症状では,その主観的体験である強迫の「自我違和性・不合理性」と体験の「自己帰属感」が欠けている点がOCDとの相違と考えられる。
Key words:brain organic dysfunction, obsessive-compulsive disorder, obsessive-compulsive symptom, stereotypy, lack of ego-dystonia

●強迫性障害の亜型としての“compulsive hoarding”(強迫的ためこみ)
仙波純一
 とうてい役に立たないようなものを捨てられず,家のなかがゴミだらけになってしまい,本人にとっても生活上の苦痛になっている場合,このような行為をcompulsive hoarding(強迫的ためこみ)と呼ぶ。最近の米国を中心とした報告によれば,hoardingは強迫性障害(OCD)に2〜3割という高い頻度で出現しており,しかもこの症状が前景となるOCDは症状全体も重症であり,パーソナリティ障害を併存する率も高いことから,hoardingを伴うOCDは,他からかなり独立した亜型でないかと考えられている。治療についても選択的セロトニン再取り込み阻害薬の有効性は低く,認知行動療法もhoardingのために特別に工夫される必要があるという。わが国ではhoardingの症状について検討された報告は少なく,今後症状論だけでなく,治療的あるいは生物学的視点からも多面的に検討される必要がある。
Key words:obsessive-compulsive disorder, hoarding

●強迫性障害の認知行動療法─暴露反応妨害法における治療者と患者のやりとり─
飯倉康郎
 強迫性障害の治療として,曝露反応妨害法を中心とした認知行動療法は,第一選択の精神療法として確立されている。いろいろな治療プログラムが報告されているが,効果的な治療を行うには,治療者からの一方的な指示ではなく,治療者が患者と有意義なやりとりをして,患者が症状や治療の意味を十分に理解することが不可欠である。治療者が特に留意すべき点としては,(1)患者に自らの強迫症状の特徴を十分に理解させる,(2)患者に治療の対象,治療法について十分に理解させる,(3)患者に十分な曝露をさせてhabituation(馴化)を体験させ,その効果について即座にフィードバックする,(4)患者に,ひとりで行う治療の重要性を理解させて治療への主体性を高める工夫をする,(5)症状が再燃しにくい生活環境を検討する,などが挙げられる。本稿では,これらについて,確認の一症例の治療経過を呈示してそのエピソードを用いながら考察を加えた。
Key words:obsessive-compulsive disorder, cognitive-behavioral therapy, exposure and response prevention, dialogue between a therapist and a patient

●強迫性障害の電気けいれん療法(ECT)
塩田勝利  福地貴彦  西嶋康一
 強迫性障害(OCD)に対しては認知行動療法や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)等の薬物療法が治療場面に登場し,かなりの効果を上げるようになった。しかし認知行動療法や薬物療法では改善不十分な症例や無効例も存在している。難治性OCDに対する治療としては定位脳手術が欧米では行われているが,その適応には意見が分かれている。本邦ではその適応についての議論も未だ不十分であり,今のところ実際に行うことはできない。このような難治性OCDに対して十分なエビデンスが存在しているとはいえないが,電気けいれん療法(ECT)が有効であったとの報告が増えつつある。定位脳手術が不可能な本邦ではECTは難治性OCDに対して試みられる価値のある治療法であると考えられる。またECT後に再燃を繰り返すOCDに対してはmaintenance-ECT(m-ECT)も考慮されるべきであろう。
Key words:OCD, ECT (electroconvulsive therapy), maintenance-ECT

●強迫性障害の薬物療法
原田豪人  坂元 薫
 現在,強迫性障害(OCD)に対する第一選択薬となっている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)ならびにclomipramineの有効性を概説し,うつ病に対するよりもさらに高用量と十分な投与期間が必要とされることを指摘した。またSSRIとclomipramineの有効性ならびに忍容性に関する比較,SSRI間の差別化,用量反応関係についても概説した。OCDの重症度,罹病期間の長さ,大うつ病の併発などが治療抵抗性の予測因子となることを指摘した。さらに治療抵抗性のOCDに関しては,SSRIへの非定型抗精神病薬による増強療法の有効性,とりわけrisperidoneの追加投与が複数のランダム化比較試験により有効性が実証されていることを紹介した。またlithiumによる増強療法の有効性は否定的であることを述べ,他の薬剤による難治性のOCD治療に関する研究をエビデンスのレベルごとに分類して提示した。
Key words:obsessive-compulsive disorder, pharmacotherapy, antidepressant, SSRI, treatment-resistant-OCD

●選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は強迫性障害の治療を変えたか
吉田卓史  中前 貴  正木大貴  福居顯二
 従来難治性とされていた強迫性障害(OCD)に対して,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による治療が可能となったことにより,OCDは一般の精神科診療で治療可能な疾患となってきた。しかし,SSRIによる強迫症状の改善率は平均30%程度,反応率は平均60%程度であり,また,高用量,長期間の投与が必要であることなどの問題点もある。SSRI治療抵抗性のOCD患者に対しては,非定型抗精神病薬による増強療法の有効性が確認されてきている。また,SSRIが特異的にOCDに有効であることから,OCDの病態にセロトニン系などの神経伝達物質の関与が推定されるようになり,OCDにおける神経科学,脳神経機能学的研究が進み,OCDの病態における神経ネットワークモデルが提唱されてきている。さらに,EBMに基づいたSSRIを中心とした薬物療法と認知行動療法を組み合わせた治療ガイドラインが作成されるようになってきている。
Key words:SSRI, obsessive-compulsive disorder (OCD), augmentation, cognitive behavior therapy, clinical guideline

●強迫性障害の外来治療
宍倉久里江
 強迫性障害の治療は薬物療法と認知行動療法の併用がもっとも有効であるといわれている。しかし本格的な認知行動療法として治療者が立ち会う曝露反応妨害法を施行するには患者一人に充分な診療時間を確保せねばならないことから,一般外来で実現させることは難しい。一般外来に曝露反応妨害法を導入するためには,薬物療法を主軸とした治療に補足的に行うという位置づけで,心理教育を充分に施行してから宿題形式の曝露反応妨害法を行う等の工夫を要すると思われる。薬物療法単独で治療する場合にも,曝露反応妨害法を行う際と同様の心理教育を行うことが大切である。先行研究によれば,不安や強迫観念を避けるために積極的に強迫行為をしなさいと指示された患者は薬物療法の効果が現れにくいという。強迫性障害の外来治療において,治療者は選択した治療方法に関わらず心理教育等の心理的支援を行うことが望ましい。
Key words:outpatient treatment, obsessive-compulsive disorder (OCD), psychoeducation, Cognitive-Behavioral Therapy (CBT), selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI)

●難治の強迫性障害に対する新治療の試み─特に機能的脳外科治療への浜松医科大学の対応を含めて─
三辺義雄  杉山憲嗣  森 則夫  難波宏樹
 強迫性障害の重症難治例については,脳深部電気刺激(deep brain stimulation:DBS)がすでに欧米での症例の積み重ねがあり,従来の凝固術と同等の治療効果がみられている。すなわちその目的は,薬物療法,認知心理療法などの通常的治療で症状の改善がみられない重症難治性強迫性障害の患者に,脳定位的に内包前脚への電気刺激装置の埋め込み術を行い,持続電気刺激を行うことにより症状の改善,および患者QOLの向上を図ることである。残念なことにわが国ではこの方面の試みはなく,重症難治性強迫性障害の治療は放置されたままである。最近,浜松医科大学の精神神経科と脳神経外科が協力し,重症難治性強迫性障害に対する内包前脚への脳深部電気刺激治療の開始を目指した準備作業が開始された。この詳細を中心に,DBSを含めた精神疾患の機能的脳外科療法の歴史と今後の展望についても,この機会に触れてゆきたい。
Key words:deep brain stimulation, obsessive compulsive disorder, anterior limbs of internal capsules

●強迫性障害の森田療法─入院および外来治療の実際―
中村 敬  舘野 歩
 本稿では強迫性障害(OCD)に対する森田療法の観点と治療の実際を紹介する。OCDの治療を選択するには,発症の時期・状況・経過,症状の内容,神経症的特徴の有無,パーソナリティなどを評価することが大切である。これらの点を考慮に入れて,筆者らはOCD治療のストラテジーを次のように考えている。神経質性格,あるいは強迫パーソナリティのOCDに対しては,森田療法など定型的な精神療法を主とし,薬物を補助的に併用する。治療の目標は症状の改善に留まらず,人格の成長(性格陶冶)をも射程に入れる。一方,重症のパーソナリティ障害の共存するOCDに対しては,薬物による症状の軽減と歩調を合わせて,ゆるやかに森田療法的もしくは行動療法的アプローチを実施する。治療目標は症状の改善と適応レベルの向上に置く。
 森田療法では強迫観念を次のように理解する。「かくあるべき」という心の構えの強い神経質性格の人は,たまたま恐怖を伴うような考えが浮かぶと,そのようなことを考えてはならないとして意識から排除しようと努める結果,かえってその考えにとらわれ強迫観念に発展する。こうした「とらわれ」の心理機制を打ち破ることが森田療法の基本方向であり,それは端的に「あるがまま」という言葉に集約される。治療の実際を紹介するために,入院および外来森田療法を実施したOCD症例を提示し,行動指導のポイントを解説した。OCDの精神療法の必要条件とは,強迫的悪循環と疲憊状態から脱して基本的な行動を立て直すことであり,その十分条件は,制縛的な生活スタイルを修正し,自己を現実によりよく生かしていくことである。強迫症状からの脱焦点化を促し,とらわれなく生きることを援助する森田療法は,上記の課題にひとつの解決方向を示すものだと考えられる。
Key words:obsession, obsessive-compulsive disorder, obsessive personality, Morita therapy

●強迫性障害(OCD)患者の家族への対応
高橋克昌  林 直樹
 本稿において我々は強迫性障害の症例を提示し,患者の対人関係・家族関係の特徴およびそれへの治療的介入について考察を行った。患者および家族の対人関係は強迫的であることが多く,家族介入に抵抗する家族メンバーに遭遇することも少なくない。症例には他者巻き込み型の強迫症状が見られており,父母の間には支配・従属的な対人関係パターンがあった。この対人関係パターンは患者の治療イニシアチブをめぐる争いとなって治療場面に現れた。父母に対する心理教育とサポートによって争いは緩和され,強迫症状に対する支持的な態度が見られるようになった。父母の関係の変化に伴って患者の強迫症状も改善していった。本症例では,強迫性障害患者の家族関係の一つの類型とそれへの治療的介入が示されたと考えられる。今後とも強迫性障害の家族介入について,家族関係の評価,治療導入,心理的サポートといった介入の検討を重ねることが必要である。
Key words:obsessive-compulsive disorder, family, treatment/therapy, case report

■研究報告
●性同一性障害を背景として大うつ病性障害および神経性無食欲症を発症した既婚女性例
田村昌士  根本清貴  川西洋一  小倉宏三  水上勝義  朝田 隆
 症例は49歳女性。25歳時より低体重となり,44歳時,息子の不登校を機に,抑うつ状態を呈するようになった。49歳時に当院に入院したが,外泊を機に抑うつ状態が増悪した。そこで,olanzapineの投与開始とともに面談を繰り返したところ,性同一性障害(GID)の存在が明らかとなった。本例は神経性無食欲症(AN)の診断基準を満たしたものの,低体重に関わる精神病理は通常のANとは異なっていた。また抑うつ状態の背景には,サバイバルスキルの喪失,それに伴う「自分らしさ」と期待される性的役割との間に生じた葛藤の増大があった。さらに孤立した状況も深く関与していた。本例は性同一性に関する葛藤を抱えながらも,独自のサバイバルスキルを駆使して微妙なバランスをとりながら社会生活を送ってきたと考えられた。このようなGID例は少なからず存在すると思われる。こうした人たちが二次的に精神症状を呈し精神科受診となる可能性があり,日常臨床においてもジェンダーを意識することが重要と考えられた。
Key words:gender identity disorder (GID), anorexia nervosa, major depressive disorder, married female, olanzapine

●統合失調症患者に対する共同コラージュ療法導入の試み(第2報)─対人スキル訓練としての視点から─
川端康雄  寺嶋繁典
 統合失調症患者の陰性症状の軽減を図るために,前回,共同コラージュ療法(CCT)を実施し,陰性症状評価尺度(SANS)を用いて評価したところ,陰性症状の軽減に効果が認められた。そこで,今回は統制群を用いた比較研究を行い,実施前,6ヵ月後,12ヵ月後の症状の改善度について評価した。その結果,「情動の平板化・情動純麻」「意欲・発動性欠如」「快感消失・非社交性」において改善がみられた。改善がみられた症状については,生物学的な障害の基盤がありながらも,心理社会的な要因に影響されるところもあり,CCTが奏効したものと考えられる。現実の対人場面に近い状況が生じるCCTの利用によって,生活技能訓練(SST)で習得した対人技能を定着させ,日常に般化されやすくなることが期待される。
Key words:schizophrenia, negative symptoms, collage therapy, cognitive deficits, social skills training

●慢性期統合失調症患者に対する歌唱活動と合奏活動の効果
浅野雅子  青山 宏  池田 望  竹田里江  杉原式穂
 慢性期統合失調症患者27名を対象に,年齢・入院回数・入院日数・薬物量・教育年数をできるだけ同等となるような2群に設定し,1群には歌唱を,2群には合奏の音楽活動を実施した。評価項目は,精神症状にはPANSSを,社会生活能力にはLASMIを,音楽活動には作業遂行チェックを,気分評価にはMOODを用いた。その結果,歌唱ではL-ASMIの「労働または課題の遂行」,作業遂行チェックの「認知・遂行的側面」,MOODの「緊張と興奮」「疲労感」で有意に改善したが,LASMIの「自己認識」は悪化した。合奏ではPANSSの「陽性尺度」,作業遂行チェックの「認知・遂行的側面」「心理的側面」「音楽活動に対する参加」で改善を認めた。歌唱は発散が促されて気分を中心とした改善が得られ,合奏は他者との協調性を要する特徴から精神症状や作業遂行が向上したと考えられた。統合失調症患者に対する音楽活動は,活動内容の違いによって効果が異なる可能性が示唆された。
Key words:chronic schizophrenia, therapeutic effects, music activities

●長期入院中の統合失調症患者における改訂長谷川式簡易知能評価スケールの経時的変化
片桐秀晃  岡田 剛  澤 雅世  中原光史  水野創一  村岡満太郎
 当院では,2002年から2年ごとに当院入院中の統合失調症圏患者に対して改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS─R)の調査を実施している。そこで今回,入院中統合失調症患者の認知機能の経時的な変化についてHDS─Rを用いて検討したので報告する。119名の患者が対象となり,2006年時の平均年齢は58.0歳,平均罹病期間は32.3年,平均入院期間は12.6年であった。HDS─Rの平均合計点は,2002年19.1点,2004年18.1点,2006年17.7点と徐々に減少しており,HDS─Rの下位項目の検討では,年齢,5物品記憶,野菜想起の項目が徐々に減少していた。したがって,今後,患者の高齢化に伴い認知機能の低下がさらに進行することが予想されることから,認知機能障害に目を向けた治療を策定する必要があると考えられた。
Key words:schizophrenia, revised Hasegawa Dementia Scale, cognitive function


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