詳細目次ページに戻る
■特集 初老期・老年期例の診立て─初診時に診誤らないために─
●遅発性統合失調症
古茶大樹
初老期以降に発症する精神病を診察する上で重要なことは,症候学と病因論をひとまず切り離して考えること,まずは症候学的分類を優先させることである。遅発性統合失調症は症候学的には次のように分類することができる。遅発パラフレニー群は人格や情意の障害が目立たない(幻覚)妄想状態で,しばしば慢性の経過をたどる。現在,国際的にはこの一群が遅発性統合失調症の本体として認められている。これとは別に,主に20世紀前半に報告が相次いだ遅発緊張病群がある。これは抑うつ症状で始まり情意障害を前景に,時に経過中に緊張病症状を呈し,やがて様々な残遺状態へと移行するものである。非定型精神病群は,これら二群に比べるとかなり少なく,せん妄様の意識変容を反復するものである。ICD─10分類との対応についても論じた。この分野の研究発展のためには,大規模な疫学調査が必要である。
Key words:late onset schizophrenia, late paraphrenia, late catatonia, malignant catatonia
●初老期・老年期に特徴的な幻覚・妄想
宮岡 等 井上勝夫 宮地英雄 田中聡美
初老期にみられる幻覚妄想のうち,この時期特有の病態として皮膚寄生虫妄想症,シャルル・ボネ症候群,舌痛症を,また壮年期の疾患が異なる病態として発症するものとしてセネストパチー,神経性無食欲症などを取り上げて概説した。さらに初老期以降の症例では知覚機能,他覚的異常所見の程度,認知症症状の程度,症状内容と現実との関係,自らの意思で症状を述べない可能性などについて慎重な評価が必要であることに触れた。
Key words:delusion of parasitosis, Charles Bonnet syndrome, burning mouth syndrome, cenesthopathy, dementia
●初老期・老年期に特徴的な人物誤認症候群(カプグラ症候群を含む)
稲田隆史 三村 將
老年期は脳の加齢性変化に伴う機能低下により幻覚妄想をきたしやすく,原因となる精神疾患もさまざまであり,人物に対する誤認がみられることは稀ではない。人物誤認症候群とは,カプグラ症候群を代表とする人物誤認を総括した症候群である。カプグラ症候群は,従来は機能性精神疾患に多くみられるとされていたが,その後,器質因の関与が大きく取り上げられるようになり,老年期や脳器質疾患における報告も多くみられるようになった。人物誤認は認知症性疾患における随伴症状のひとつとして,介護上の問題となることもある。初老期・老年期において特徴的にみられる人物誤認症候群として,カプグラ症候群,幻の同居人,鏡現象,重複記憶錯誤などがあげられる。
Key words:Capgras' syndrome, misidentification syndrome, BPSD, dementia
●初老期・老年期うつ病の一般的な特徴─退行期うつ病の特徴を含む─
青木公義 原田大輔 永田智行 笠原洋勇
初老期・老年期うつ病の概念,疫学,発症要因,臨床症状,診断,分類の一般的な特徴について概説した。現時点では単極性うつ病が初老期・老年期の精神特性に影響を受け,うつ症状が修飾されて顕在化すると推察されている。疫学的には大うつ病は後期老年期から減少傾向を示す一方,うつ状態は加齢とともに増加するという報告が多い。発症要因も多彩で,生物的,身体的,心理的,社会的要因が相互に作用するといわれる。臨床症状は若年者のうつ病と比べ定型的でないものが多く,身体愁訴,不安,焦燥,心気,無気力,妄想などが優位となり,結果として主観的な記憶障害や認知障害が生じる傾向にある。このため,初老期・老年期うつ病の診断にあたっては,患者背景の聴取,初老期・老年期の心理特性の理解,生物的身体的要因の評価を行い,包括的に検討していくことが重要と考えられる。
Key words:depression, autumn, old age, involutional period, characteristic
●うつ病性仮性認知症
馬場 元 新井平伊
うつ病性仮性認知症は特に高齢者のうつ病にしばしば認められる一過性の認知機能障害であるが,近年うつ病と認知症の関連性やうつ病における認知機能障害に対する関心は高く,徐々に知見が集まりつつある。本稿では仮性認知症の概念の変遷,うつ病と認知症の合併や移行に関する疫学的知見,うつ病における認知機能障害に関する神経心理学的,生物学的知見を紹介し,最後にうつ病性仮性認知症と認知症の鑑別について自験例を示しつつ解説した。現在ではうつ病性仮性認知症と認知症とを一連のスペクトラムとして縦断的にとらえる考え方に移行しつつあるようだが,それでもうつ病性仮性認知症は治療により改善され得るものであるため,臨床上は両者を鑑別することは重要であり,その上でこの症状が長期的には認知症へ移行する可能性が高いことを考慮しながら臨床にあたることが大切であろう。
Key words:pseudodementia, depression, cognition, dementia
●器質性うつ病
天野直二 小林美雪
器質性うつ病は,脳に明らかな器質的所見がみられる時に発症するうつ病を指している。その器質的な背景には,加齢に伴う萎縮性の老化,脳血管障害,神経変性疾患,炎症,頭部外傷,脳腫瘍などが挙げられる。老化や変性過程,さらに循環障害などが加わり器質因が高度になると,個々の例においてもその時間軸の縦断的経過の中で,うつ状態の病態に変化がみられる。うつ病の本来の要の症状である強い抑うつ気分,悲哀感,そしてうつ状態に対する自覚が徐々に薄れてきて,うつ状態に対する「構え」がだんだんとなくなり,抑うつ感の実感のなさ,病態認識の希薄さがみられるようになる。この意欲低下は,当初は制止の時期にあったが,いずれアパシーの時期に入り,最終的には器質性疾患を確信する状態像に変わる。大うつ病,退行期うつ病,器質性うつ病(パーキンソン病や脳血管障害に伴ううつ病),前頭葉症候群などの脳器質性症状群という連続したスペクトラムで捉える必要性を強調した。
Key words:organic depression, senile depression, vascular depression, neurodegenerative diseases
●コタール症候群など妄想を呈するうつ病
深津 亮 松木麻妃 松木秀幸 岸 泰宏
うつ病ないしうつ状態にみられる精神病像に関して概観した。うつ病にみられる妄想は14%前後にみられ必ずしも稀ではない。妄想としてはうつ病の三大妄想のほかにコタール症候群(否定妄想),オセロ症候群(嫉妬妄想),関係被害妄想などが知られている。これらの妄想状態は原発性の病的体験や人格変化を前提とせずに抑うつ気分から発生したと了解される妄想的観念であり,真正妄想とは区別される。近年用いられる操作的診断基準では,気分に一致した精神病像に該当すると考えられる。気分に一致しない精神病像は統合失調感情障害ないし統合失調症圏に属し,病理性が異なる可能性が高いと思われる。いずれにしても加齢とともに増加する傾向があるために高齢化が進むわが国では特に重要な病態と考えられる。
Key words:delusional depression, psychotic features, Cotard syndrome, Othello syndrome (pathological jealousy)
●初老期・老年期のパニック障害と鑑別不能型身体表現性障害
阿部隆明
高齢化社会を迎えて,初老期・老年期の身体症状を主訴とする精神障害の鑑別は今後ますます重要になる。この場合,器質的疾患や統合失調症を除外した後で最初に疑うべき疾患はうつ病であり,次いで発作性の症状であればパニック障害,持続性の症状であれば身体表現性障害の可能性を考えて診断のプロセスを進めていく。この時期に初めて,身体症状が目立つ非内因性の精神障害が出現したとすれば,いくつかの要因が考えられる。その1つは老化に伴い自らが重篤な身体疾患に罹患することで身体へ過剰な注意が向かうことである。また,パートナーの重病のため近く一人取り残されるという不安も,身体症状の出現を促進することがある。いずれも死のテーマと関連するが,うつ病とは異なり,まだ到来しない未来を先取りしている点が共通する。こうした病態では,薬物の副作用が目立つ例も稀ではなく,環境調整や支持的な精神療法に重きを置いた対応が望まれる。
Key words:panic disorder, somatoform disorder, depression, hypochondria
●初老期・老年期の睡眠障害
清水徹男
睡眠は脳によってもたらされるものであるから加齢に伴う睡眠の変化も脳機能の変化を反映するものである。しかし,高齢者に特有と思われているある種の睡眠障害(REM睡眠行動障害)は単なる加齢変化を反映するものではなく,パーキンソン病やレビー小体を伴う認知症の前駆症状である可能性が示されるようになった。そればかりではなく,REM睡眠行動障害は上記疾患患者にしばしばみられる幻覚(幻視)の発現機序にも密接に関連している。加えて,近年,注目を浴びているパーキンソン病患者にみられる睡眠発作についても解説する。
Key words:Parkinson's disease, dementia with Lewy─body, sleep attack, REM sleep behavior disorder
●老年期のてんかん
兼本浩祐 田所ゆかり 清水寿子 大島智弘
てんかんはその多くが思春期までには発症し,50歳以降に背景疾患なしに初発することは稀であるが,他方でそのもともとの母数の多さから,てんかん全体の中での割合は低くとも,実数としては相当の数がある。高齢発症のてんかんとして精神科的に問題となるのは,主にはアルツハイマー病に伴うてんかんと,睡眠時大発作を伴う側頭葉てんかんであり,特に後者はてんかん性異常波が検出できないことが多く,老年期における浮動性の行動障害の鑑別診断として重要である。老年期のてんかんの治療に関しては,代謝の変化や脳の予備能力の減少から選択に苦慮することも多いが,今後本邦で発売予定のtopiramateとlamotrigineは,その効能の相対的な高さと中枢神経系への影響が少ないことから,老齢期のてんかんに対する治療薬として期待される。ただ,lamotrigineについては薬疹に関して徹底したインフォ─ムド・コンセントを得ておくこと,topiramateに関しては用量を少なめに投与することが必要である。
Key words:epilepsy, aging, sleep grandmal, topiramate, lamotrigine
●初老期・老年期の変性性認知症にみられる幻覚・妄想
村山憲男 井関栄三
幻覚や妄想は,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)やアルツハイマー型認知症(Alzheimer─type dementia:ATD)など初老期・老年期の変性性認知症患者にしばしば出現する精神症状であり,他の年代の精神疾患にはみられない特徴を有している。幻視はDLB患者に特徴的な精神症状で,具体的で生々しい内容が多い。DLBでは幻視以外の視覚認知障害も多くみられ,後頭葉の機能低下や視覚路のLewy病変などが関係していると考えられている。妄想や妄想性誤認症候群は,ATD患者とDLB患者でともに多くみられる精神症状であり,具体的で被害的な内容が多い。これらには脳の器質性要因や認知障害のほかに,高齢者特有のパーソナリティ傾向や生活環境などの心理・社会的要因も関係していると考えられる。
Key words: dementia with Lewy bodies, Alzheimer─type dementia, hallucination, delusion, delusional mis-identification syndrome
■研究報告
●長期抗精神病薬「非告知」投薬解決における精神科救急情報センターによる行政型精神科アウトリーチ活動の可能性─医療機関受診につながった統合失調症の2例─
赤田卓志朗 芦名孝一 勅使川原洋子 毛呂佐代子 太田知幸 岡野美子 大舘太郎 山本昌子 小林貴代 船越正枝 武政礼子 宮永和夫
「非告知」投薬は治療的意義が考慮される一方,ヘルシンキ宣言における治療行為の原則に反するなどの問題点も非常に多く,早急な解決が望ましい。しかし,家族の強い反対など種々の困難のため,実際の解決につながらない事例が多い。今回我々は,「非告知」投薬を長期に行い現状打開に難渋していた統合失調症例に対し,保健福祉事務所,病院主治医と連携を取りながら,精神科救急情報センターによる訪問・処遇検討会などの精神科アウトリーチ活動にて,「非告知」投薬の告知・説明,精神科受診の必要性の説明,および受診勧奨などを行い,本人の受診につながることが可能となった2例を経験した。いずれも病院とは異なる第三者的立場の行政医療チームが本人・家族の所に直接出向き対応することで,「非告知」投薬を是正する方向に流れが変えられたと思われた。「非告知」投薬の解決法の1つとして行政型アウトリーチ活動も有用であると考えられた。
Key words:"uninformed" medication, psychiatric outreach activities, the Psychiatric Emergency Infor-ma-tion Center, schizophrenia, emergency system for psychiatry
■臨床経験
●Risperidoneからolanzapineへの置換が精神病後抑うつに有効であった統合失調症の1例
田中英三郎 加藤 温
統合失調症の活発な急性期症状が治まるにつれ,少なからぬ症例で精彩を欠いた元気のない表情を示し,無気力で集中力がない広義の抑うつ状態を呈することは,精神病後抑うつとして広く知られている。今回我々は,幻聴,被害妄想,考想伝播,注察念慮,多弁,空笑などの症状を呈した急性発症の妄想型統合失調症の症例を経験した。活発な陽性症状はrisperidoneにて速やかに軽快したが,その後数ヵ月間,重度の抑うつ状態を呈し,社会復帰のみならず,日常生活にも困難を生じた。休養及びrisperidoneによる薬物療法を継続したが,抑うつ状態のコントロールは不良であり,極期には希死念慮を伴った。Risperidoneをolanzapineに置換することにより陽性症状を悪化させることなく抑うつ状態の改善を認めることができたため,精神病後抑うつに対してolanzapineが有効である可能性が示唆された。
Key words:schizophrenia, post psychotic depression, atypical antipsychotic agent
●多剤併用からperospirone単剤投与への試み
高橋正明 平田雄三 稲冨 仁
抗精神病薬多剤併用による治療中の統合失調症患者5例について,系統的に減薬し,続いて非定型抗精神病薬perospirone単剤に切り替える試みを行い,前後でPANSS,DIEPSSにより精神症状・錐体外路症状の評価を,さらに,一般血液検査,血清プロラクチン値,心電図を測定し安全性について評価した。この結果,5例中4例がperospirone単剤に切り替えることができた。PANSSの総得点では10%減少,DIEPSSの得点については8.3%減少するとともに,いずれの症例においても,抗パーキンソン薬の減量,中止が実現したが,一方,睡眠薬の使用量は増加した。安全性の面では,一般的臨床検査値はもとより,血糖値の上昇はなく,血清プロラクチンは正常化し,QTcは短縮した。以上よりperospironeは,多剤併用投与から非定型抗精神病薬単剤化へのスイッチングにおいて有用な薬剤の一つであると考えられる。
Key words:perospirone, atypical antipsychotics, switching, monotherapy
本ホームページのすべてのコンテンツの引用・転載は、お断りいたします
Copyright(C)2008 Seiwa Shoten Co., Ltd. All rights reserved.