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■特集 リエゾン精神医学の直面している問題と新しい動き (I)

●わが国におけるリエゾン精神医学の現状
平林 直次  堀川 直史
 リエゾン精神医学は啓蒙期,普及期,発展期を経て,現在,定着期に入ったと考えることができ,リエゾン精神医学の対象となる多くの専門領域が発展している。しかし,診療報酬制度においてはその医療経済的裏づけに乏しく,今後,さらにリエゾン精神医学を臨床の場で定着させていくためには経済的裏づけが必要である。そのためには,リエゾン精神科医による効果的介入を行い,心理社会的機能の改善を明らかにし,さらに身体疾患の予後や身体機能が改善されることをエビデンスに基づいて示していくことが必要である。また,費用効果比の改善,在院日数の短縮など医療経済に及ぼす効果を明らかにし,医療経済的基盤を確立していくことが不可欠である。
Key words: consultation-liaison psychiatry, medical economics, reimbursement, present condition

●サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の科学的基盤とその課題
内富 庸介
 本稿では,まず,日本での学会活動を中心に歴史的経緯に触れ,続いて,従来,サイコオンコロジーを支えてきた精神医学,精神疫学,心理学,精神薬理学,精神神経免疫学の知見に加えて,最近の脳画像研究や分子遺伝学にも触れ,サイコオンコロジーの科学的基盤について概説しながら,現在直面している問題点とその課題について私見を交えて述べた。現在,日本のサイコオンコロジーには,エビデンスを踏まえたうえでの,より個別化された対応が求められている。サイコオンコロジーの全国への均てんを図るために,リエゾン精神科医の積極的な研究参加が期待される。
Key words: psycho-oncology, cancer, quality of life, quantity of life

●腎透析,psycho-nephrology
浅野 智之  井家上 譲  河瀬 雅紀  岩重 達也  福居 顯二
 わが国の慢性透析患者数は年々増加し,最近では透析導入年齢の高齢化や透析期間の長期化による患者全体の高齢化,原疾患に占める糖尿病性腎症の割合の増加などから脳の脆弱性を抱える患者が増えてきていることが予想される。そのため一見心因反応と見過ごされがちな症状に対しても身体因性精神障害の可能性を常に念頭に置いておく必要がある。また透析患者においては医療だけではなく,栄養指導を含めた生活指導,社会的生活の援助など包括的に関わる必要があり,このような観点からの精神的な関わりとしてのpsycho-nephrologyという言葉も定着してきている。しかし一般精神科医にはまだまだなじみが薄いため,ここでは透析患者の心理や併発する精神症状を理解し,それらへの対処法について概説した。
Key words: hemodialysis, psycho-nephrology, psychiatric symptom, psychosocial approach, neuroleptic therapy

●救命救急医療における精神医学的問題
鈴木 博子  木村 真人
 日本医科大学付属病院高度救命救急センターに収容された患者で,精神医学的問題のため精神科医が関与した症例の実態を中心に自殺未遂患者,精神科継続治療について述べた。自殺未遂患者の企図手段は毒物・薬物が最も多く,精神疾患分類(ICD-10)ではF4が最も多く,次いでF3,F2であり,諸家の報告とほぼ一致していた。また自殺未遂の5割以上の患者は性格的な偏り,障害を伴っている可能性があった。一方,センター後の精神科継続治療に関しては,センターから転出後の心身ともに治療できる施設が確保しにくいという医療体制側の要因と,精神疾患の認識不足,治療への抵抗・拒否感,などの患者側の要因により,継続した治療が中断してしまうという問題点があった。そこで今後は大学病院を含む総合病院精神科で,センターなどからの身体合併症のある患者を積極的に引き受け,精神科継続治療を視野に入れた対応をすることが必要になると考えられた。
Key words: consultation-riaison psychiatry, emergency room, suicidal patients, psychiatric continuation therapy

●HIV感染症における精神科リエゾン
赤穂 理絵
 Human immunodeficiency virus(HIV)感染症にみられる精神障害は,脳器質的要因,全身状態や薬剤性による症候性要因,特有の心理社会的ストレスからくる心理的要因がオーバーラップしていることが多い。したがって精神科診療には患者の背景を包括的に把握しておく必要がある。  Highly active antiretroviral therapy(HAART)導入によりHIV感染症の経過は大きく変化した。それに伴い精神科リエゾンにおいてもHIV脳症の軽症化,HAARTにまつわる心理精神的問題の出現など新しい動きがみられた。今回は特に抗HIV薬による精神神経系の副作用,アドヒアランスをめぐる問題,向精神薬との相互作用についてまとめた。  特有の心理社会的問題を抱える感染者をサポートするには,様々な職種からなるチーム医療が欠かせず,精神科リエゾンもその一環として機能することが求められている。
Key words: human immunedeficiency virus (HIV), acquired immunodeficiency syndrome (AIDS), highly active antiretroviral therapy (HAART), liaison psychiatry

●高齢者医療―痴呆性疾患の合併症治療の現場から―
木村 通宏  江渡 江  新井 平伊
 急激な老齢人口の増加とともに入院患者も高齢化する傾向にある。高齢者は老化という共通の身体的基盤により複数の疾患に罹患していることが多く,精神症状を呈する可能性も高くなり,リエゾン精神医学の重要性は増している。本稿ではわれわれが高齢者におけるリエゾン精神医学の現場において直面している現状と問題点を論じた。
Key words: aged patients, consultation-liaison service, dementia, delirium

●女性特有の疾患とリエゾン精神医学
保坂 隆
 乳がん患者と不妊症患者という女性特有の患者に対するリエゾン精神医学的な関わり(主として臨床研究の結果)を述べた。乳がんも不妊症も女性にとっては強いストレス源になり,不安や抑うつが高頻度でみられる。筆者は,週1回90分・計5回で終了する「構造化された介入」プログラムを考案してそれぞれの患者に対して施行したところ,情緒的に有意な改善が得られた。身体疾患患者に対して集団で介入を行うことは,同じ病気をもった患者同士で支援し合うことが可能になったり,孤立感を軽減するのに役立ったり,具体的な問題を解決するのにすぐに役立つ情報交換が可能になったり,さらに,医療者の人的・時間的な効率の良さにつながる方法であると思われた。このような臨床各科との密接な連携がリエゾン精神医学であり,今後もすべての臨床科との連携が考えられる。
Key words: liaison psychiatry, breast cancer, infertility, structured intervention, group intervention

●小児医療におけるリエゾン精神医学
稲垣 卓司  安川 玲  岡崎 四方  清水麻衣子  笘篠 佳美  安田 英彰  亀田 敦子  堀口 淳
 近年の医学・医療の進歩に伴い,小児医療の分野でも専門化,複雑化する中,新たな精神・心理学的な問題が増加している。また,不登校を伴う神経症や心身症を合併する子どもが増加し,精神科的な対応が求められている。本稿では小児医療におけるコンサルテーション・リエゾン精神医学の特徴と重要性,現状の問題点について,さらに近年の文献を概観し,今後の課題や展望について述べた。また,われわれの経験の一端を紹介し,小児科との連携をうまく取れば,実際の小児医療の現場においてリエゾンは大いに貢献できる可能性を述べた。
Key words: consultation-liaison psychiatry, liaison conference, pediatric medicine, psychosocial factor


■研究報告

●精神科救急でみられたコンパートメント症候群の6例
西村 隆夫  村上 忠  佐野威和雄  尾内 秀雅  椿 雅志  坂口 正道
 われわれは2年間でコンパートメント症候群の6例を経験した。これらの治療経験を通して本症候群の診断,治療,リハビリテーションなどについて考察した。大量服薬による自殺企図の4例はいずれも臀部コンパートメント症候群を発症し,歩行障害が残遺した。また6例中3例が高ミオグロビン血症から急性腎不全を合併した。したがって本症候群の診断・治療には整形外科と内科との連携が不可欠である。近年,総合病院では,救命救急と精神科救急との連携が深まる一方である。一方,単科精神病院を中心にして精神科救急が全国的に展開されてきている。そうした中で,精神科領域でも受診当初から本症候群に対応することが多くなるものと思われるのでここに報告した。
Key words: compartment syndrome, mental disorder, coma, rhabdomyolysis, renal failure

●患者・患者さん・患者様
北村 隆人
 本論では医師・患者に用いられる日本語の呼称を素材として,医師-患者関係に関する理論的考察を行った。まず新しい医師-患者関係モデルとして,お医者様-患者関係,お医者さん-患者さん関係,医者-患者様関係の三つの類型を提唱し,各類型が発生する社会状況および各類型における医師・患者双方の心理について考察を行った。次に近年急速に広がりつつある患者様という呼称は患者を幼児化している面があることを指摘し,患者様呼称が無批判に臨床現場に導入されることによって反治療的な問題が発生する可能性が高いことを述べた。さらに精神科における治療についても本類型を用いた考察を行い,望ましい治療関係はお医者さん-患者さん関係であり,その関係を維持しようとすることが治療同盟を確立することにもつながることを述べた。最後に患者様という呼称を臨床現場に導入する場合の導入範囲に関する具体的提言を行った。
Key words: excitement, differential diagnosis, signs

●心理劇の導入が有効であった不安神経症の1例
井上 清子  相川 博  山内 俊雄
 筆者らは,大学病院精神科外来において,不安神経症患者を対象に心理劇を行った。5名の患者が参加し,それぞれが,不安発作や予期不安,不安心気的傾向や外出恐怖などの症状の軽減,あるいは薬物の減量など,何らかの形で改善を示した。本稿では心理劇グループの概要について呈示したのち,参加した1患者について心理劇での経過を中心に報告し,その治療的展開に有効であったと思われる心理劇の要因について考察した。不安神経症の遷延例に対しては,“同質的な患者集団における患者同士の共感や支持”が,不安や抑うつの軽減に有効であり,ミラーや役割交換などの心理劇の技法により,“自分を離れ,客観的にながめること”が,患者自身が持っている遷延化させやすい性格傾向や認知のゆがみを修正し適応性の改善に有効である可能性が考えられた。
Key words: group psychotherapy, psychodrama, anxiety neurosis, panic disorder, alexithymia

■臨床経験

●ブタンガス吸引による自殺企図に至った乱用の1例
小林 聡幸  大澤 卓郎  加藤 敏  阿部 隆明
 専門学校在学中の20歳の男性が,自動車事故,就職試験の失敗,ガールフレンドとの別れ話を機に,不安が強まり,いわゆる「ガスパン遊び」による事故の報道番組を見て,ブタンガス乱用を始めた。ブタンガスを吸うと現実が忘れられ,音楽を聴きながらガスを吸うと,その歌詞が自分を励ましているように聞こえた。引き続く恩師の病死後,焦燥の強い抑うつ状態に発展し,ブタンガス吸引による自殺企図を繰り返すため,入院となった。入院により抑うつ状態は速やかに改善し,病棟ではブタンガス吸引はしなかったが,外泊中や退院後,些細なきっかけでブタンガス吸引がみられた。が,専門学校の卒業と就職が決まると,乱用からは脱却した。一般にはひきこもって耽溺するという側面の強いブタンガス乱用だが,本例の場合,乱用はある種のコミュニケーションとしての要素の強いものであった。
Key words: depression, butane gas abuse, suicide attempt, maladjustment

●抗精神病薬(SDAを含む)に全く反応せず,ステロイドパルス療法で劇的に改善したCNS lupusの1例
三澤 仁  伊藤 耕一  加藤 温
 Systemic lupus erythematosus(SLE)に伴う精神症状は,CNS lupusといわれる。しかしその診断は難しい。いろいろな検査を行って総合的に判断するしかない。そのとき精神科医と内科医の意見が相違することもある。ただし一度診断がついたら速やかに治療に入る。治療はSLEそのもののコントロールが基本であるが,対症療法としてさまざまな向精神薬が使われる。今回われわれは,CNS lupusの診断を巡って内科医と意見の相違を経験した。そして内科医との討論の過程で,改めてCNS lupusの診断やリエゾンの難しさを痛感した。内科医と共通の土俵で議論するためにはますますわれわれの身体的な知識が試される時代になったと考えた。
Key words: serotonin dopamine antagonist(SDA), steroid pulse therapy, CNS lupus

●Sulpirideにlithium carbonateを付加投与して改善された産後うつ病の1例
川上さやか  清水 宗夫  田上 和  宮坂 佳幸  山口 直明  川口 才市  飯森眞喜雄
 分娩約2ヵ月後に発症したうつ病患者(32歳,体重40kg)にlithium carbonate(Li2CO3)を投与し,4日目頃からうつ状態が急速に改善された。投与方法は,すでに投与されていたsulpirideを減量してLi2CO3 400g/日を追加投与した。投与量が少ないこと,効果発現が通常より早いことなどからLi2CO3以外に改善に関与した可能性のある因子についても検討した。すなわち,入院による家事,育児からの解放,sulpiride減量によるアカシジアの消失,自然回復との時期的一致などを考慮して検討した。その結果,Li2CO3がうつ状態改善の主要因であろうと結論した。血清Li濃度は0.34〜0.65mEq/lであった。
Key words: postpartum depression, maternity blues, lithium carbonate, sulpiride